【池上彰の「そこが知りたい」】(36) 「研究というより探検。好奇心を刺激する為に情報収集」――川上和人さん(鳥類学者)
東京から遥か南、小笠原諸島にある西之島。火山の噴火により生態系が大きく変化し、現在、環境省等による総合調査が進んでいる。鳥類学者の川上和人さん(※右下画像、撮影/手塚耕一郎)は海鳥の観察等を通じ、この島の生態系の研究を続けている。ジャーナリストの池上彰さんと対談し、鳥類研究の面白さ等について語り合った。
池上「西之島の調査を続けておられます。どんな島なのでしょうか?」
川上「西之島は本州の約840㎞南で、絶海の孤島として知られていました。2013年11月に海底火山が噴火し、その後、溶岩が元々あった旧島をのみ込んで一つの大きな島になっています。以降、何度も噴火を繰り返し、巨大化し続けています。環境省が2016年から調査を続けています。僕もこの9月に行ってきました」
池上「上陸は難しいんですよね」
川上「噴火により近寄れない区域があるので、本格的な上陸はできないんです。随分落ち着いてきたのですが、無人航空機(※ドローン)等で調査をしてきました。更に技術者の方々にもご協力を頂いて、遠隔操縦のローバー等も使って火山灰のサンプルの採取をしています」
池上「“総合調査”なので、鳥だけが対象ではないのですね」
川上「鳥だけではなく地質、昆虫、海洋の生物も調べています。海中も噴火の影響を受けているので、これからどうやって生物が入ってくるのかを調査しています」
池上「元々、海鳥で有名な島でした。沢山戻ってきているのですか?」
川上「去年は噴火が酷くて地表の割れ目から噴気が出ていたので、海鳥の繁殖に影響し、減少していました。今年の噴火は去年ほどではなかったので、海鳥はやや増えつつあるという印象ですね。カツオドリやクロアジサシ等がいて、幼鳥も確認できたので、繁殖に成功しているとみられます。特にカツオドリは、これまでに記録のなかった南部でも営巣が確認できました。西之島は一連の噴火により生態系がリセットされ、生物のいない陸地ができました。島の生態系がどう変わっていくかをリアルタイムで観察できる、世界で唯一の場所です」
池上「疑問なのですが、噴火で溶岩だらけなのに、海鳥が戻ってくるのは何故でしょう。文字通り“帰巣本能”ですか?」
川上「それもあるでしょうね。他の島に移ってもいいのに、彼らは場所に対する執着性が強い。西之島は噴火の溶岩で全部埋まってしまい、地形等が跡形もなく変わったのに、海鳥は元の島があった場所で繁殖を始めたんです。火山灰が5mぐらい積もる等、元の島の形は一切なくなっているのに。不思議でしようがないです」
池上「伝書鳩ならわかりますが…」
川上「伝書鳩は、においや地形の目印を覚えるんです。でも西之島では、目印がなくなっています。海鳥がどうやって認知しているのかわかりませんが、凄い記憶力です」
池上「物忘れが激しい例えで“鳥頭”なんて言いますね。“鶏は三歩で忘れる”とかも」
川上「鳥に失礼ですよね。些細なことは忘れるのでしょうが、例えば巣を作る場所や食べ物の場所の記憶は死活問題です。そういうものはかなり記憶が持続している筈です。海鳥は海で食べ物を取って陸で繁殖するので、陸に食物がなくても、そこに棲むことができる。そういう点で凄く特殊なんです」
池上「よく質問されると思いますが、何故鳥の研究を始めたのでしょうか?」
川上「『子供の頃から鳥が好きだったんですか?』とよく聞かれるんですけど、実は全然興味がなかった。大学で初めてバードウォッチングのサークルに入って、そこからです。大学4年の時、先生に『小笠原諸島に行ってメグロの研究をしないか?』と誘われたんです。小笠原諸島の位置も、メグロという鳥も知らなかった。でも、面白そうだから『わかりました』と答え、小笠原でメグロを調査して卒業論文に書きました」
池上「メジロなら知っていますが、メグロという鳥がいるのですね」
川上「ええ。メジロの仲間で、目の周りが白く、その外側が更に黒い。小笠原にしかいないのであまり有名ではないんですが。調査の時は『自分も調査があるから』と、一緒に船で無人島に連れて行ってくれた人達がいて、助かりました。行ってみると、この島にはこの鳥がいるのに隣の島にはいない等がわかって、それが楽しかった。無人島は未発見のものばかりで、ロマンを感じました」
池上「無人島ってわくわくしますよね。研究材料の宝庫ですし」
川上「無人島に行くと、未だ誰も調査をしていないので、そこの第一人者になれるんです。どんなものが生息しているかを記録するだけでも新発見になってしまいます。事象を深く掘り下げる等の能力を“研究力”と呼ぶならば、僕は正直言って、研究力はそんなに高くはないと思っています。でも、人の行けない場所に分け入る能力は結構あるので、行った先でサンプルを取ってきたり、発見したりするのは得意です」
池上「鳥類学者というより、無人島探検者みたい」
川上「そうかもしれませんね(笑)」
池上「西之島の調査を続けておられます。どんな島なのでしょうか?」
川上「西之島は本州の約840㎞南で、絶海の孤島として知られていました。2013年11月に海底火山が噴火し、その後、溶岩が元々あった旧島をのみ込んで一つの大きな島になっています。以降、何度も噴火を繰り返し、巨大化し続けています。環境省が2016年から調査を続けています。僕もこの9月に行ってきました」
池上「上陸は難しいんですよね」
川上「噴火により近寄れない区域があるので、本格的な上陸はできないんです。随分落ち着いてきたのですが、無人航空機(※ドローン)等で調査をしてきました。更に技術者の方々にもご協力を頂いて、遠隔操縦のローバー等も使って火山灰のサンプルの採取をしています」
池上「“総合調査”なので、鳥だけが対象ではないのですね」
川上「鳥だけではなく地質、昆虫、海洋の生物も調べています。海中も噴火の影響を受けているので、これからどうやって生物が入ってくるのかを調査しています」
池上「元々、海鳥で有名な島でした。沢山戻ってきているのですか?」
川上「去年は噴火が酷くて地表の割れ目から噴気が出ていたので、海鳥の繁殖に影響し、減少していました。今年の噴火は去年ほどではなかったので、海鳥はやや増えつつあるという印象ですね。カツオドリやクロアジサシ等がいて、幼鳥も確認できたので、繁殖に成功しているとみられます。特にカツオドリは、これまでに記録のなかった南部でも営巣が確認できました。西之島は一連の噴火により生態系がリセットされ、生物のいない陸地ができました。島の生態系がどう変わっていくかをリアルタイムで観察できる、世界で唯一の場所です」
池上「疑問なのですが、噴火で溶岩だらけなのに、海鳥が戻ってくるのは何故でしょう。文字通り“帰巣本能”ですか?」
川上「それもあるでしょうね。他の島に移ってもいいのに、彼らは場所に対する執着性が強い。西之島は噴火の溶岩で全部埋まってしまい、地形等が跡形もなく変わったのに、海鳥は元の島があった場所で繁殖を始めたんです。火山灰が5mぐらい積もる等、元の島の形は一切なくなっているのに。不思議でしようがないです」
池上「伝書鳩ならわかりますが…」
川上「伝書鳩は、においや地形の目印を覚えるんです。でも西之島では、目印がなくなっています。海鳥がどうやって認知しているのかわかりませんが、凄い記憶力です」
池上「物忘れが激しい例えで“鳥頭”なんて言いますね。“鶏は三歩で忘れる”とかも」
川上「鳥に失礼ですよね。些細なことは忘れるのでしょうが、例えば巣を作る場所や食べ物の場所の記憶は死活問題です。そういうものはかなり記憶が持続している筈です。海鳥は海で食べ物を取って陸で繁殖するので、陸に食物がなくても、そこに棲むことができる。そういう点で凄く特殊なんです」
池上「よく質問されると思いますが、何故鳥の研究を始めたのでしょうか?」
川上「『子供の頃から鳥が好きだったんですか?』とよく聞かれるんですけど、実は全然興味がなかった。大学で初めてバードウォッチングのサークルに入って、そこからです。大学4年の時、先生に『小笠原諸島に行ってメグロの研究をしないか?』と誘われたんです。小笠原諸島の位置も、メグロという鳥も知らなかった。でも、面白そうだから『わかりました』と答え、小笠原でメグロを調査して卒業論文に書きました」
池上「メジロなら知っていますが、メグロという鳥がいるのですね」
川上「ええ。メジロの仲間で、目の周りが白く、その外側が更に黒い。小笠原にしかいないのであまり有名ではないんですが。調査の時は『自分も調査があるから』と、一緒に船で無人島に連れて行ってくれた人達がいて、助かりました。行ってみると、この島にはこの鳥がいるのに隣の島にはいない等がわかって、それが楽しかった。無人島は未発見のものばかりで、ロマンを感じました」
池上「無人島ってわくわくしますよね。研究材料の宝庫ですし」
川上「無人島に行くと、未だ誰も調査をしていないので、そこの第一人者になれるんです。どんなものが生息しているかを記録するだけでも新発見になってしまいます。事象を深く掘り下げる等の能力を“研究力”と呼ぶならば、僕は正直言って、研究力はそんなに高くはないと思っています。でも、人の行けない場所に分け入る能力は結構あるので、行った先でサンプルを取ってきたり、発見したりするのは得意です」
池上「鳥類学者というより、無人島探検者みたい」
川上「そうかもしれませんね(笑)」
テーマ : 博物学・自然・生き物
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