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【池上彰の「そこが知りたい」】(36) 「研究というより探検。好奇心を刺激する為に情報収集」――川上和人さん(鳥類学者)

東京から遥か南、小笠原諸島にある西之島。火山の噴火により生態系が大きく変化し、現在、環境省等による総合調査が進んでいる。鳥類学者の川上和人さん(※右下画像、撮影/手塚耕一郎)は海鳥の観察等を通じ、この島の生態系の研究を続けている。ジャーナリストの池上彰さんと対談し、鳥類研究の面白さ等について語り合った。



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池上「西之島の調査を続けておられます。どんな島なのでしょうか?」
川上「西之島は本州の約840㎞南で、絶海の孤島として知られていました。2013年11月に海底火山が噴火し、その後、溶岩が元々あった旧島をのみ込んで一つの大きな島になっています。以降、何度も噴火を繰り返し、巨大化し続けています。環境省が2016年から調査を続けています。僕もこの9月に行ってきました」
池上「上陸は難しいんですよね」
川上「噴火により近寄れない区域があるので、本格的な上陸はできないんです。随分落ち着いてきたのですが、無人航空機(※ドローン)等で調査をしてきました。更に技術者の方々にもご協力を頂いて、遠隔操縦のローバー等も使って火山灰のサンプルの採取をしています」
池上「“総合調査”なので、鳥だけが対象ではないのですね」
川上「鳥だけではなく地質、昆虫、海洋の生物も調べています。海中も噴火の影響を受けているので、これからどうやって生物が入ってくるのかを調査しています」
池上「元々、海鳥で有名な島でした。沢山戻ってきているのですか?」
川上「去年は噴火が酷くて地表の割れ目から噴気が出ていたので、海鳥の繁殖に影響し、減少していました。今年の噴火は去年ほどではなかったので、海鳥はやや増えつつあるという印象ですね。カツオドリやクロアジサシ等がいて、幼鳥も確認できたので、繁殖に成功しているとみられます。特にカツオドリは、これまでに記録のなかった南部でも営巣が確認できました。西之島は一連の噴火により生態系がリセットされ、生物のいない陸地ができました。島の生態系がどう変わっていくかをリアルタイムで観察できる、世界で唯一の場所です」
池上「疑問なのですが、噴火で溶岩だらけなのに、海鳥が戻ってくるのは何故でしょう。文字通り“帰巣本能”ですか?」
川上「それもあるでしょうね。他の島に移ってもいいのに、彼らは場所に対する執着性が強い。西之島は噴火の溶岩で全部埋まってしまい、地形等が跡形もなく変わったのに、海鳥は元の島があった場所で繁殖を始めたんです。火山灰が5mぐらい積もる等、元の島の形は一切なくなっているのに。不思議でしようがないです」
池上「伝書鳩ならわかりますが…」
川上「伝書鳩は、においや地形の目印を覚えるんです。でも西之島では、目印がなくなっています。海鳥がどうやって認知しているのかわかりませんが、凄い記憶力です」
池上「物忘れが激しい例えで“鳥頭”なんて言いますね。“鶏は三歩で忘れる”とかも」
川上「鳥に失礼ですよね。些細なことは忘れるのでしょうが、例えば巣を作る場所や食べ物の場所の記憶は死活問題です。そういうものはかなり記憶が持続している筈です。海鳥は海で食べ物を取って陸で繁殖するので、陸に食物がなくても、そこに棲むことができる。そういう点で凄く特殊なんです」
池上「よく質問されると思いますが、何故鳥の研究を始めたのでしょうか?」
川上「『子供の頃から鳥が好きだったんですか?』とよく聞かれるんですけど、実は全然興味がなかった。大学で初めてバードウォッチングのサークルに入って、そこからです。大学4年の時、先生に『小笠原諸島に行ってメグロの研究をしないか?』と誘われたんです。小笠原諸島の位置も、メグロという鳥も知らなかった。でも、面白そうだから『わかりました』と答え、小笠原でメグロを調査して卒業論文に書きました」
池上「メジロなら知っていますが、メグロという鳥がいるのですね」
川上「ええ。メジロの仲間で、目の周りが白く、その外側が更に黒い。小笠原にしかいないのであまり有名ではないんですが。調査の時は『自分も調査があるから』と、一緒に船で無人島に連れて行ってくれた人達がいて、助かりました。行ってみると、この島にはこの鳥がいるのに隣の島にはいない等がわかって、それが楽しかった。無人島は未発見のものばかりで、ロマンを感じました」
池上「無人島ってわくわくしますよね。研究材料の宝庫ですし」
川上「無人島に行くと、未だ誰も調査をしていないので、そこの第一人者になれるんです。どんなものが生息しているかを記録するだけでも新発見になってしまいます。事象を深く掘り下げる等の能力を“研究力”と呼ぶならば、僕は正直言って、研究力はそんなに高くはないと思っています。でも、人の行けない場所に分け入る能力は結構あるので、行った先でサンプルを取ってきたり、発見したりするのは得意です」
池上「鳥類学者というより、無人島探検者みたい」
川上「そうかもしれませんね(笑)」

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【熱いぞ!核融合】(02) イギリス、核融合立国へ新拠点



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イギリス南部、オックスフォード近郊カラム。欧州各国から集まった科学者達がモニターを覗き込む。画面に映し出されるのは、隣接する核融合実験装置『欧州トーラス共同研究施設(JET)』(※左画像はJETの制御室、撮影/宮川裕章)から送られてくるデータだ。「将来の核融合発電に必要な重水素と三重水素を使った実験を行なっています」。JET科学プログラムリーダーのジョエル・マイユーさんが語る。

欧州の核融合研究所等で構成する『ユーロフュージョン』は昨年2月、JETで核融合反応を5秒間維持し、過去の2倍以上の59メガジュール(※1メガジュール=0.2778㎾時)のエネルギーを発生させることに成功した。マイユーさんは「核融合の世界では、5秒間は長い時間で、そこまで反応を維持できたことは画期的」と言う。記録はイギリスが欧州各国と共に研究を続けてきた成果であると共に、核融合反応を常時維持しなければならない将来の核融合発電炉に向けた道程の長さも示す。

イギリス政府はこのカラムの地を、核融合研究と産業化の世界的な拠点にする目標を掲げている。広さ約80㏊の『カラム科学センター』を中心に、核融合関連施設の建設やインフラ整備の為に1億8400万ポンド(※約340億円)を投入した。核融合は安全で無尽蔵なエネルギー源となり、現在のエネルギー情勢を一変させる潜在力を持つ。一方で実現性が疑問視されてきた。

だが、近年の研究の進展で風向きが変わりつつある。核融合の開発に国を挙げて乗り出しているのがイギリスだ。イギリス政府が2021年10月に策定した『イギリス政府・核融合戦略』は、核融合を将来、ビジネスにどう結び付け、イギリス経済の振興に繋げるかという視点で貫かれている。

地球温暖化対策の切り札として核融合を活用すると共に、核融合産業を育成し、今後数十年の間に、核融合技術を国外に輸出することを重要目標としている。核融合産業育成には、サプライチェーンと人材の確保が欠かせない。イギリス国内外から企業と人材を集めて供給網を整え、人と物の流れの相互作用により、新たな技術革新を生み出すのがカラムを拠点化する狙いだ。

イギリスは戦後、原子力発電で世界をリードした。だが、電力供給を市場競争に委ねた結果、ガス火力や石炭火力への依存が進み、原子力産業は衰退した。核融合を管轄する原子力庁(※UKAEA)のイアン・チャップマンCEOは、「原子力での反省が今、生かされている」と語る。イギリスの取り組みは奏功するのだろうか。

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【熱いぞ!核融合】(01) “ガレージに収まる”核融合炉…地上の太陽へ民間投資急増

核融合(※ニュークリアフュージョン)エネルギーの実用化に向けた技術開発と投資が過熱している。“夢のエネルギー”の実現は近づいているのか。世界各地の現場を取材した。



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ワシントン州シアトル郊外。航空大手『ボーイング』から食品関連まで様々な事業所が集まる産業団地の一角に、核融合に関する技術を研究するスタートアップ『ZAPエナジー』の実験施設はある。

「これが真空容器です」。同社のプラズマ物理研究部門を率いるコリン・アダムスさんが指差した(※左画像、撮影/八田浩輔)。全長2mほどの円筒形の装置は、同社が想定する商用炉の炉心とほぼ同じ大きさだという。将来、真空状態を作り出す容器内で、安定して核融合反応を起こしてエネルギーを取り出すことができれば、1基あたり50MWの発電が可能になると見込む。少なくみても数千世帯の電力需要を賄える規模だ。

ZAPエナジーは2017年、地元のワシントン大学と『ローレンス・リバモア国立研究所』による共同研究の蓄積を基に創業された。“ガレージに収まる”ほどの小ささを売りにした核融合炉の開発を進める。「小型炉を造ることができれば、立地的にも、経済的にも設置し易くなる。他のあらゆるエネルギーと比べて、核融合を競争力ある技術にする上で大きな利点になる筈です」とアダムスさんは言う。

核融合は太陽の内部と似た反応で、水素のような軽い原子核同士が衝突・融合して重い原子核に変わること。その際に生じる膨大なエネルギーを得ることを目指している。1940年代から研究が続けられてきたが、実用化の目処が立ったプロジェクトは未だない。だが、世界の人口増に伴うエネルギー需要の高まりへの対応と脱炭素の両立が地球規模の課題として広く認識される中、核融合産業に対する民間投資がこの数年、世界で急増している。

アメリカに本部を置く『全米核融合産業協会(FIA)』が7月に発表した報告書によると、世界で核融合のスタートアップ等に投じられた資金額は前年から14億ドル増加し、累計で62億ドルを超えた。このうち95%が民間投資だ。FIAが把握する関連企業43社のうち25社がアメリカに拠点を置く。

ZAPエナジーは、これまでにアメリカの石油大手『シェブロン』等から2億ドル(※約284億円)超を調達した。ジョー・バイデン政権は10年以内に実証炉で核融合発電への道筋をつけることを目指しており、今年5月、ZAPエナジーを含む先導的なスタートアップ8社に計4600万ドルの資金提供を発表した。

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【迷走するプルトニウム政策】第2部(下) “再・再利用”には懐疑的な声

使用済み核燃料を“再・再処理”してプルトニウムを分離し、原発で“再・再利用”する核燃料サイクルの2周目の問題を更に考えていきたい。前回、“再・再処理”には技術的な問題が多いことを示した。今回は“再・再利用”を取り上げるが、ある核燃料の専門家は「仮に“再・再処理”できたとしても、得られたプルトニウムは使いものにならない」と懐疑的だ。何故なのか。

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商用原発の軽水炉でウラン燃料を使うと、プルトニウムを含む使用済みウラン燃料になる。再処理してプルトニウムを分離し、ウランと混ぜたMOX燃料を作製して、再び軽水炉で使用するプルサーマル発電をすると、使用済みMOX燃料が残る。日本では現在、『関西電力』高浜原発3・4号機(※福井県高浜町)等3原発4基でプルサーマル発電が実施されており、約46トンの使用済みMOX燃料が保管されている。

しかし、使用済みMOX燃料の再処理、つまり使用済み核燃料の再・再処理は、プルトニウムの含有量が多いこと等が原因で、未だ世界的に技術は確立していない。更に、仮に今後の研究開発に成功して“再・再処理”ができるようになったとしても、軽水炉で“再・再利用”するには、別の大きな問題が待ち構えている。

「使用済みMOX燃料を再処理して取り出したプルトニウムは、そのままでは燃料にならない」。『日本原子力研究開発機構』で嘗てプルトニウム燃料の研究に取り組んできた岩井孝さん(※現在は『日本科学者会議原子力問題研究委員会』委員長)は、そう指摘する。その理由を、本紙の取材に原子力機構が示した数字等を基に考えていく。

プルトニウムには、同じ元素だが重さが異なる同位体が複数存在する。軽水炉で核分裂反応し易いのは質量数が239のプルトニウム239だが、原子炉内で中性子を吸収して、核分裂し難いプルトニウム240やプルトニウム242等に変化していく。これを“高次化”と言う。原子力機構によると、使用済みウラン燃料に含まれるプルトニウム全体のうち、239の割合は56.3%。しかし、使用済みMOX燃料では45.6%にまで減ってしまい、逆に高次化した核分裂し難い240や242の割合は増える。

つまり、使用済みMOX燃料ではプルトニウムの成分が劣化し、燃料として使い難くなっている、ということだ。日本で核燃サイクルの“本命”は高速炉サイクルだった。軽水炉とは別の高速炉というタイプの原発で、MOX燃料を使う方式だ。軽水炉と高速炉では、プルトニウムの核分裂のし易さが大きく異なる。原子力機構の計算結果によると、高速炉内ではプルトニウム239だけでなく、高次化した240や242も核分裂し易い。

しかし、日本では高速増殖原型炉『もんじゅ』(※福井県敦賀市)が廃炉になる等、高速炉サイクルは頓挫している。その為、既存の軽水炉でプルサーマル発電をしてプルトニウムを利用する軽水炉サイクルを進めようとしている。軽水炉で、プルトニウム239は高速炉と同程度、核分裂する。一方で、高次化した240や242はほぼ核分裂せず、発電には利用できない。

原子力機構は取材に対し、「(使用済みMOX燃料を再処理しても)プルトニウムの高次化が進んで、そのままでは軽水炉で燃焼させ難くなる。その為、プルトニウムの含有率を高めるか、使用済みウラン燃料から回収したプルトニウムと混ぜて利用することが必要になる」と説明している。つまり、“再・再処理”して分離できたプルトニウムは、軽水炉での“再・再利用”に向いていないのだ。

関電は使用済みMOX燃料の再処理の試験の為に、使用済みMOX燃料10トンと一緒に、使用済みウラン燃料190トンをフランスに搬出する計画だ。関電によると、使用済みMOX燃料を使用済みウラン燃料で薄めるのは、プルトニウムの含有量が多い使用済みMOX燃料の臨界等を防止する為という。

岩井さんは、「(使用済みMOX燃料に含まれる)質の悪いプルトニウムを、(使用済みウラン燃料に含まれる)質の良いプルトニウムで薄める意図もあるのではないか」と話す。使用済みMOX燃料の再処理は、安全上の特別の配慮が必要になり、手間とコストがかかる。それなのに、分離されるプルトニウムは質に問題があり、態々別のところ(※使用済みウラン燃料)から質の良いプルトニウムを持ってきて、薄めないと軽水炉では使えない。

岩井さんは、「使用済みMOX燃料を再処理して、再利用する意味は殆どない。『使用済みMOX燃料は核のごみではありませんよ』と言い訳をする為の利用政策ではないか」と指摘する。資源の有効活用を掲げる核燃サイクルは、1周だけでなく、何周も回り続ける必要がある。しかし、日本で核燃サイクルの構想が持ち上がってから半世紀以上経った今も、殆どの使用済み核燃料は1周すらできていない。その上、2周目には1周目を遥かに上回る難題が待ち受けているのだ。

          ◇

(専門編集委員)大島秀利/(大阪本社科学環境部)柳楽未来が担当しました。


キャプチャ  2024年2月1日付掲載

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【迷走するプルトニウム政策】第2部(中) 使用済みMOX、再処理の壁高く

原発の運転で生じた核物質のプルトニウムを使ったMOX燃料を核分裂反応させる発電方式をプルサーマル発電という。その後に残る使用済みMOX燃料を再び使う為に再処理するには、安全上、技術上の大きな障壁がある。

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資源エネルギー庁は2021年度、使用済みMOX燃料の再処理に向けた研究事業を立ち上げており、「技術基盤の整備は喫緊の課題」と位置づけている。この認識に沿うように『関西電力』が打ち出したのが、福井県高浜町の高浜原発3・4号機のプルサーマル発電で発生した使用済みMOX燃料を、フランスで試験的に再処理してもらう計画だ。

使用済みMOX燃料の再処理は何故難しいのか。先ずは、関電がフランスに搬出する使用済み核燃料の“1対19の割合”から紐解いていきたい。関電がフランスに搬出する200トンのうち、研究対象である使用済みMOX燃料は10トンのみ。残りの190トンは使用済みウラン燃料だ。関電によると、この1対19の割合は、再処理を請け負うフランスのオラノ社が指定したものだ。

『日本原子力研究開発機構』によると、使用済みウラン燃料に含まれるプルトニウムは一般に1%程度。これに対して、プルトニウムを約9%含むMOX燃料を使うプルサーマル発電で出てきた使用済みMOX燃料には、プルトニウムが約6~7%含まれる。プルトニウムは一定量が集まると、核反応が連鎖的に持続する臨界を起こす。使用済みMOX燃料だけで再処理すると、プルトニウムの濃度が高過ぎて臨界事故の危険性が高まってしまう。

更に、発熱量も使用済みウラン燃料と比べて2.2~2.9倍高い。その為、使用済みMOX燃料を使用済みウラン燃料で薄める必要があるのだ。そして、プルトニウムは再処理の工程の一つひとつを難しくする。工程ごとに区切って、主な影響を見ていきたい。再処理では、使用済み核燃料の燃料集合体を細かく切断した後、硝酸で溶かし、別の化学薬品を使ってプルトニウムを分離・抽出する。

原子力機構によると、使用済みMOX燃料はプルトニウムの含有量が多い為、硝酸に溶け難くなる。この点は「最も大きな技術課題の一つ」という。また抽出の過程では、プルトニウムによる放射線によって、抽出に使う化学薬品が劣化し易くなってしまう。更に、使用済みMOX燃料には、使用済みウラン燃料と比較して、放射線が強くて扱いが厄介な元素のアメリシウムが8.6~11.5倍、キュリウムが12.1~20.8倍多く含まれている。

これらの元素が発するアルファ線や中性子線等の放射線が飛び交う為、遮蔽を強化する必要がある。その上、キュリウムが核分裂してできる放射性ヨウ素を取り除く為に、施設内の排気作業の負担が増える。このように、使用済みウラン燃料に比べて、使用済みMOX燃料の再処理の難度は格段に高い。

日本国内には、来年度に完成予定の再処理工場が青森県六ヶ所村にある。しかし、使用済みウラン燃料の再処理を目的としており、現在の設備では使用済みMOX燃料の再処理はできない。そこで、原発大国フランスで実施される実証研究に頼ることになったのだ。一方、フランスも苦しい原子力政策の運営を強いられている。

元々は、日本と同じくプルトニウム利用の“本命”として、高速炉サイクルに期待をかけていた。プルトニウムを既存の商用原発の軽水炉ではなく、高速炉という別のタイプの原発で利用するというものだ。フランスでは高速炉『アストリッド』の開発計画があったが、フランス政府は2019年、高コストで必要性が低くなった等として、アストリッドの計画停止を決定。

その代わりに、2020年に改定した多年度エネルギー計画で、使用済みMOX燃料を再処理して、軽水炉で利用するマルチサイクルと呼ばれる政策を打ち出した。2025~2028年頃に試験を開始し、2040年頃の実用化を目指すという。日本もトラブル続きの高速増殖原型炉『もんじゅ』(※福井県敦賀市)の廃炉を2016年に決めて、プルサーマル発電に注力して同じ方向を歩んでいる。

「破綻している核燃サイクルを続ける為に、技術的な見込みがなく、経済的にも意味のないマルチサイクルが持ち出された」。フランス核政策研究家の真下俊樹さんは、そう強調する。真下さんによると、技術的な困難さを伴う為、フランスはこれまで使用済みMOX燃料の再利用を控えてきた。しかし、フランスでプルサーマルが盛んに行なわれて、使用済みMOX燃料がたまり続け、保管場所に困るほどになっている為、マルチサイクルが打ち出されたという。

再利用に向けては安全管理や研究開発で多額の資金が必要になるが、フランス国内では資金不足も指摘されているという。真下さんは、「大きな資金を出してくれる日本との試験研究は、再処理を担うフランスを手助けする側面がある。実現性の薄いマルチサイクルに、同じ問題を抱えている日本が便乗している構図だ」と指摘する。技術的な課題が山積する使用済みMOX燃料の再処理。しかし、取材を進めると、仮に再処理に成功したとしても、軽水炉で再利用するには別の問題が待ち受けていることがわかってきた。


キャプチャ  2024年1月25日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
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【迷走するプルトニウム政策】第2部(上) 関西電力“フランスで研究”の背景

原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを分離し、原発で再利用することを繰り返す核燃料サイクル。日本が確立を目指すこの政策は、技術的な課題が解決できずに長く停滞しているが、ごく一部の使用済み核燃料は既にサイクルを1周し、次の問題に直面している。取材を進めると、2周目のサイクルでは、1周目を遥かに超える難問が待ち構えていることがわかってきた。



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使用済み核燃料の取り扱いを巡り、この秋に大きな動きがあった。『関西電力』は昨年10月、福井県内にある原発で保管している使用済み核燃料(※同9月末時点で3710トン)を県外に搬出するロードマップを福井県に提示し、杉本達治知事は了承した。

1990年代後半から福井県は「電力消費地と負担を分け合う」という観点から、県外搬出を関電に求めていた。使用済み核燃料が“負担”なのは、非常に強い放射線を出す上に、核燃サイクルの停滞によって、長期間に亘って原発内に置きっ放しになるのでは、という懸念があるからだ。しかし、新たに負担を背負うことになる搬出先の候補地探しは難航した。

関電によると搬出先は、①来年度に完成予定の青森県六ヶ所村の再処理工場②2030年頃に操業を始める県外の中間貯蔵施設③使用済み核燃料を使った研究が実施されるフランス――の3本柱。だが、①の再処理工場はトラブル続きで、これまで稼働延期を26回繰り返していて、未だ国内で本格的な再処理の実績はない。②の中間貯蔵施設は山口県上関町の名前が浮上しているものの、関電の“電力消費地”ではない上に、地元の同意が最終的に得られるかは不透明だ。

1・2番目の搬出先には課題が山積しているが、③の柱にも未だ表面化していない難問が存在する。それは、核燃サイクルの2周目と密接に関係している問題だ。先ずは、核燃サイクルを構成する2つのサイクルの仕組みと経緯を簡単に振り返る。

日本の商用原発は、軽水炉と呼ばれる、水を冷却材に使うタイプの原子炉だ。天然ウランには、核分裂するウランが僅かに含まれる。これを濃縮して作ったウラン燃料を軽水炉で核分裂反応させると、プルトニウムを含んだ使用済みウラン燃料が残る。更に、これを再処理して発電に使えるプルトニウムを分離し、新たにウランと混ぜて焼き固めるとMOX燃料ができる。

元々計画されていた“本命”の核燃サイクルは、このMOX燃料を高速炉と呼ばれる別のタイプの炉で核分裂反応させる高速炉サイクルだった。プルトニウムを繰り返し利用し易いからだ。しかし、技術的に難しく、研究段階だった高速増殖原型炉『もんじゅ』(※福井県敦賀市)は1兆円以上の国費を投じながら、2016年に廃炉が決まった。日本で高速炉サイクルは未だ1周もできていない。

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【迷走するプルトニウム政策】(番外編)  プルサーマル燃料確保できず

プルトニウムを原発で利用するプルサーマル発電で、フランス南東部の燃料加工工場『メロックス工場』で不良品が相次いでいる影響が、日本国内で尾をひいている。今年2月に電力各社が公表した計画によると、2024年度はプルサーマルに使う新燃料を全く確保できなかった。来年度以降には利用計画があるものの、製造の具体的な開始時期が不透明なままだ。 (専門編集委員 大島秀利)

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プルサーマル発電は、核燃料の有効利用が目的とされる。具体的には、使用済み核燃料を再処理(※化学処理)し、核物質のプルトニウムを分離する。これにウランを混ぜたものを固めて粒状(※ペレット)にし、ペレットを幾つも入れた金属製の筒を束ね、燃料集合体を作る。こうしてできたウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(※MOX燃料)を、原発で燃やす。

MOX燃料加工施設は国内では稼働しておらず、製造はメロックス工場に委託している。しかし、プルトニウムとウランを均一に混ぜるのは難しい。同工場では、プルトニウムの塊ができる不良品が続出した。不均質な燃料を燃やすと、部分的に高温になって燃料が壊れ易くなる危険性がある。同工場のMOX燃料集合体の2021年生産量は、2015年の36%の106体にまで落ち込んだ。

こうした状況が、今年2月公表の電力各社のプルトニウム利用計画に反映された。それによると、今年度0.7トン、来年度0トン、再来年度1.4トンで、何れも『関西電力』の利用分になっている。今年度分は高浜原発3号機(※福井県高浜町)で使う予定のもの。来年度は、1年前発表の計画では0.7トンだったが、なくなった格好だ。

関電は「最新の運転計画やMOX燃料の製造状況を踏まえた」と説明し、来年度に充てる在庫がないとしている。再来年度分は、3年前の2020年1月に製造契約をしていた分を見込むが、製造開始の時期は未だ決まっていない。関電は同工場での製造について、「できるだけ早期に開始したい」としている。

現状で、関電以外にプルサーマルを実施しているのは『九州電力』と『四国電力』だが、何れもMOX燃料の在庫がない。両電力とも、他社がフランスに有しているプルトニウムを名義交換で取得して、同工場でMOX燃料を製造するという。利用開始時期は、九電は玄海原発3号機(※佐賀県玄海町)で「早くて2026年度から」としている。伊方原発3号機(※愛媛県伊方町)で計画する四電は、1年前に「早くても5~6年後(※2027~2028年)」としていたのを「2028年度以降」と説明している。

しかし、両者ともプルトニウムの調達先、同工場での製造開始時期とも決まっておらず、見通しは不透明だ。では、同工場での不良品多発問題はどうなっているのだろうか。フランスの『放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)』の報告書によると、不良品の原因は、プルトニウムとウランを混ぜる際、ウラン側(※ウラン酸化物)の粉末があまりにも細かくなり、均質に混合するのが難しくなった為という。

従来、ウラン粉末は湿式の製法で行なわれていたが、施設が老朽化して、新しく乾式の製法を採用したところ、粒子が細かくなる問題が生じた。この為、メロックス工場を運営するオラノ社は、同工場とは別の場所に、新たに湿式によるウラン粉末の製造ラインを建設しているという。

嘗て日本がMOX燃料の製造を委託していたイギリスでは、製造の難しさから検査データの捏造が発覚した末、工場が閉鎖された。フランスではMOX燃料工法が二転三転している。国内では青森県六ヶ所村にMOX燃料加工工場(※事業費約2.4兆円)を建設中だが、原子力の先輩格の英仏で難航する製造が簡単にいくとは考え難い。


キャプチャ  2023年5月4日付掲載

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【気候変動のリアル】(50) 生態系が浮かぶ“環境DNA”



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真夏の青空には雲一つなく、水面に反射した太陽の光が眩しい。神奈川県中央部を流れる相模川。この河原で昨年7月末、県立厚木高校の生徒5人がバケツで川の水を汲んでいた(※右画像)。「自分のDNAが汲んだ水に混入しないように、ビニール手袋を使いましょう」。生物科の杉原孝治教諭が呼びかけた。

生徒達が集めていたのは“環境DNA”だ。生物から出た皮膚や糞は大気や土の他、川や海にも漂っている。これら細胞の断片に含まれる遺伝子を環境DNAという。多くは10μm足らず(※μは100万分の1)と微小だが、近年は分析技術が向上。採取した水から環境DNAを分析することによって、生息する生物の種類や数を把握できるようになった。

5月22日は国連が定めた『国際生物多様性の日』。気候変動によって多くの野生動物が絶滅の危機に陥り、生態系の多様さが損なわれようとしている中、生き物達の生態を“見える化”する環境DNAが注目を集めている。生態系の保護や生物多様性維持に役立つという環境DNAを巡る取り組みを紹介したい。

環境DNAが注目を集めるようになったのは10年程前のことだった。2015年に神戸大学の研究チームが、絶滅の恐れがある日本の固有種、オオサンショウウオの生息域を川の環境DNAから調べることに成功し、イギリスの生物学誌で発表。北海道では2015年以降、“幻の魚”と呼ばれる大型淡水魚、イトウの保護活動に役立てる為、環境DNAを使った生態の調査が実施されている。

2018年には生物学者や生態学者らによる『環境DNA学会』が発足した。イギリスでは2019年、環境DNAを使った調査の結果、ネス湖に棲むと伝えられる怪獣『ネッシー』の正体が「巨大ウナギだった可能性が高い」という研究結果が発表され、話題になった。この環境DNAを活用する取り組みが一般の市民に広がっている。

神奈川県は、河川の整備が川の生物の生態系に与える影響を調べる為、2022年度から東北大学と協力して、市民が参加する環境DNAの調査を始めた。昨年度には環境問題への関心を高めようと高校生の参加を呼びかけ、厚木高校等17校の生徒と一般のボランティアが県内各地の河川で環境DNAを採取した。

方法は簡単だ。先ず、バケツで川の水を汲む。それを注射器型の濾過器で50㎖吸い取っては押し出すという作業を2回行なう。この手順を繰り返すことで、環境DNAを含んだ細胞等の組織が濾過器のフィルターに集まる。あとは濾過器に保存液を入れ、調査日や採取地点の情報と共に検査機関へ送るだけ。専門的な技術や経験はいらない。

厚木高の杉原孝治教諭に誘われて参加した同高3年の井手渚さん(17)は、「こんなに簡単とは知らなかった」と驚いていた。しかし、その成果に研究者も目を見張った。神奈川県が高校生等のボランティアに協力を呼びかけて、県内9河川、33地点の環境DNAを採取した生態系調査。分析の結果、興味深い事実が次々と明らかになった。

例えば、2017年に和名が提案されたばかりの新種、キタドジョウが県内の複数の河川で生息していることが初めて判明した。日本各地の川に分布する原始的な脊椎動物ヤツメウナギの一種で、絶滅の恐れが高いスナヤツメ北方種が、県内の川では少なくとも1ヵ所に生息している可能性が高いことも判明した。

調査を主導した県環境科学センターの長谷部勇太主任研究員は、「河口付近は捕獲調査が非常に困難で、環境DNA調査が適している。市民による調査で専門的な調査と同等の結果を得られ、とても素晴らしい」と語る。凡そ15年前、日仏の研究チームが其々発表した論文で、水中には生物の種類を特定するのに十分な量の環境DNAが漂っていることが示された。

新型コロナウイルス検査で広く知られるようになったPCR法が1990年代から普及し、僅かな量のDNAを酵素の働きで増幅して検出できるようになったことも背景にある。環境DNAによる生態系調査を、気候変動による海洋資源環境の変化に悩む漁業に活用するアイデアも生まれている。

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【WEEKEND PLUS】(494) デンソー出資の半導体ベンチャー、計画だけで製品化の目処が立たず

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『デンソー』が出資している次世代パワー半導体ベンチャー『FLOSFIA(フロスフィア)』にキナ臭い噂が流れている。製品の量産計画をアナウンスしてから5年余り経っても、一向に製品が世に出ていないという。フロスフィアは京都大学発のベンチャーで、酸化ガリウムを使ったパワー半導体の製品化を目指している。自動車のEVシフト加速による需要拡大で次世代パワー半導体が期待される中、独自技術で競合より簡易且つ安価にデバイスを製造できるというのが謳い文句だった。しかし、「量産準備の過程で新たな課題が見つかった」という理由で量産計画を延々と引き延ばしている。逸早く製品化をアナウンスしながら、実物が世に出ていない。「定期的に研究成果を発表しているが論文化されておらず、詳細を検証できない」との声も上がる。デンソーは2018年に提携して共同開発を開始した。「デンソーが出資しているという事実がフロスフィアの信用を高めた。その技術に根本的な欠陥があったのであれば、デンソーの見る目も疑われるのでは」と囁かれている。


キャプチャ  2024年5月号掲載

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【気候変動のリアル】(43) COP28、霧中の開幕へ

今年7月、世界は“観測史上最も暑い月”を経験し、世界各地で熱波や洪水、山火事の被害が拡大した。背景にある地球温暖化への対応は喫緊の課題だが、パレスチナ情勢等国際社会は混迷を極める。世界は気候危機の解決に向けて前進することができるのか。注目の『国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)』が今月30日、アラブ首長国連邦(※UAE)のドバイで開幕する。 (取材・文/ニューヨーク支局 八田浩輔/くらし科学環境部 岡田英)



20240520 01
「気候危機の毒の根である化石燃料を断つ必要がある」――。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、今月20日の記者会見で言葉を強めた。国連がこの日発表した報告書は、各国が現在掲げる温室効果ガス削減目標を達成しても、今世紀末の世界の平均気温は産業革命前から3℃近く上回る可能性があると指摘した。

国際社会は、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える共通目標を掲げる。実現が極めて難しくなっている今、COP28の最大の焦点は化石燃料の将来だ。閉幕時に纏める合意文書に全化石燃料の段階的な廃止・削減を盛り込むことを目指す国々と、「経済成長やエネルギー安全保障に石油・天然ガスは引き続き重要だ」と主張し、この表現に反対する国の間の溝は深い。

化石燃料のうち、二酸化炭素(※CO2)排出量の多い石炭火力発電については、2021年のCOP26で“段階的削減”に合意。翌2022年のCOP27では、対象を全化石燃料に広げた上で、“段階的削減”という文言を合意文書に盛り込むことに数十ヵ国以上の支持が集まったが、サウジアラビアやロシア等の抵抗で見送られた経緯がある。

EUは先月、COP28で化石燃料の“段階的廃止”の合意を働きかける方針を確認した。将来的には“使用ゼロ”を前提とした強い表現で、グテーレス氏や気候危機の最前線に立つ島嶼国等も同様の立場を取る。

G7も、5月の首脳会議(※広島サミット)で“段階的廃止”に既に合意している。日本は石炭火力の全廃時期を決めておらず、廃止に前向きではないが、G7議長国として反対することはないとみられる。

化石燃料に関する合意のカギを握るのは、石油・ガス資源が豊富な湾岸諸国だ。

これらの地域は、今世紀末には暑過ぎて“居住不能”になるとの予測もあり、温暖化への危機感は強い。豊富な資金を背景に再生可能エネルギーへの大規模投資も進むが、UAEとオマーンは“2050年までに排出実質ゼロ”を掲げるのに対し、サウジアラビアとクウェート、バーレーンは“2060年”と、10年の開きがある。

COP28議長でUAEの産業・先端技術担当大臣であるスルタン・アハメド・アル・ジャーベル氏は、『アブダビ国営石油会社(ADNOC)』のCEOも務め、対策強化にどこまで踏み込めるか、懐疑的な見方も根強い。ジャーベル氏は「化石燃料の使用削減は避けられない」と繰り返すが、化石燃料を巡る合意に向けた舵取りは容易ではない。

CO2排出量で其々世界首位と2位を占める中国とアメリカの動向も、合意の行方を左右する。

米中両政府は今月14日に発表した共同声明で、ナンシー・ペロシ元下院議長の台湾訪問を受けて中断していた気候変動分野での協力を正常化すると表明。2030年までに世界の再生可能エネルギーを3倍にする目標を支持する方針でも一致した。この目標は、ジャーベル氏がCOP28での合意を目指すと表明している項目の一つだ。

但し、今回の合意がCOP28の交渉に与え得る影響について、専門家は慎重な見方をしている。イギリスのエネルギーシンクタンク『E3G』シニア政策アドバイザーのバイフォード・ツァン氏は、米中が示した共通の立場は「COP28での議論の熱を少しだけ冷ますことができた」と述べつつ、「合意には石炭や化石燃料の段階的削減という重要な問題で新たな誓約がない」と指摘する。

気候変動の国際交渉に詳しい東京大学の亀山康子教授も、「気候変動に関する米中協力は、過去のCOPではプラスに働いてきたが、今年は見通せない」と語る。パレスチナ情勢の悪化で、イスラエルを支持する米欧への反発がアラブ諸国を中心に強まっている為だ。

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