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【WEEKEND PLUS】(561) 甲子園が全てじゃない…高校野球の“革新者”阪長友仁さん、勝利以外の価値を求める



20241122 09
選手達の溌溂としたプレーに、スタンドから万雷の拍手が起こる。真夏の甲子園。高校球児達の憧れ、晴れ舞台だ。だが、丁度同じ頃、1000㎞以上離れた北海道で、甲子園とは別のある大会が開かれていた。8月9日、北海道栗山町の町営球場。広大な沃野と山々の緑が視界に入る。観客は数えるほどだが、球児達の元気のいい掛け声が響き渡る。

初開催となった『リーガサマーキャンプ』という大会の試合初日。その名の通り、リーグ戦(※総当たり戦)だ。参加したのは、夏の甲子園出場を果たせずに部活動を引退したり、元々『日本高校野球連盟(高野連)』に選手登録したりしていない選手で、全国から計52人が集まった。4チームに分かれ、各6試合とプレーオフに臨む。日程は12日間だ。

「今の高校野球はトーナメント戦(※勝ち抜き戦)が主流。甲子園出場、全国制覇を目指す為の一発勝負であり、負けたら終わり。その為、試合に出場できる選手が限られてしまうし、多くの選手の成長の機会を失っている面がある。甲子園を否定するつもりはないのですが、違う道があってもいいと思うんです」。

そう語るのは大会の仕掛け人である阪長友仁さん(43、右上画像、撮影/貝塚太一)だ。「甲子園だけが高校野球の全てだろうか」。サマーキャンプの開催には、そんな疑問が根底にある。

阪長さんの球歴は華麗だ。甲子園に春夏通算8回出場した新潟明訓高校出身。夏の甲子園で本塁打を放ち、卒業後は立教大学に進み、主将を務めた。小中学生の野球チーム『堺ビッグボーイズ』(※大阪府)で総監督を務める。因みに同チームのOBには、筒香嘉智(※横浜DeNAベイスターズ)、森友哉(※オリックスバファローズ)両選手らがいる。

サマーキャンプへの参加費は交通費を除いて約27万円と高額だ。というのは、野球の商業利用を禁じる日本学生野球憲章との兼ね合いから、企業・団体から直接協賛金を受け付けられない等の事情がある。それでも「出場機会がないまま終われない」と続々と選手が集まってきた。

現在のトーナメント制では、公式戦に敗れればそれで大会から退く為、試合数は限定的だ。春、夏、秋の地方大会全てで初戦敗退した場合、3年間の公式戦は10試合に満たない場合もある。強豪校ならば勝ち進んで試合数は増えるが、多数の部員を抱える高校もある。公式戦でベンチ入りできるのは20人と決まっており、その中でもスターティングメンバーは固定されがち。更には、スタンドでの応援で3年間を終える選手もいる。

阪長さんは、「最も成長するのは試合に出て負けや失敗を経験した時。リーグ戦ならば一度負けても試合が続くので、得た学びを次戦に生かすことができる。だから、高校生にはリーグ戦が必要なのです」と説明する。その考えが裏付けされるような場面が、サマーキャンプでは幾つも見られた。

高校で出場機会がほぼなかったというある投手は、初戦で大量失点を喫したが、リーグ戦を経た最終日は見違えるような直球を投げ込んで抑えた。別のチームは、約2ヵ月後のプロ野球ドラフト会議で指名される投手から4点も奪った。阪長さんは、「選手は誰もが可能性を秘めているし、成長し続けられるんです」と目を細める。

阪長さんがリーグ戦を提供するのは初めてではない。2015年から高校野球のリーグ戦『リーガアグレシーバ』を開催。当初は大阪府の6校で始まったが、口コミで徐々に広がり、現在は新チーム移行後の秋を中心に全国各地で行なわれている。

今年は慶応(※神奈川県)や、この夏の甲子園に出場した札幌日大や掛川西(※静岡県)等34都道府県の約180校が参加する。リーグ戦に加え、スポーツマンシップを学んだり、各校の取り組みを共有したりしている。選手だけでなく指導者にとっても刺激となり、学びの場にもなっている。

阪長さんは、「スポーツは勝利を目指すものですが、共に試合を作る仲間でもある相手チームをリスペクトし、野球を通じて成長することに意味があります」と語る。更に、トーナメントは絶対に負けられないという重圧が大きくなる為、勝利至上主義が芽生え易い。そこからサイン盗みといった不正や野次、指導者による罵倒や体罰に繋がりかねない。

新たな取り組みには当然、風当たりも強い。今夏のサマーキャンプの開催は高野連にも報告したが、夏の地方大会前に参加申し込みが締め切られること等を理由に「賛同しかねる」という反応だったという。それでも阪長さんが開催に突き進んだのは、野球の将来を憂えるから。「野球というスポーツ自体は変わらないのに、競技人口は減り続けている。だから変えなきゃいけないし、変わらねばならない」。

今年のサマーキャンプに、慶応の森林貴彦監督(51)が顔を見せていた。昨年夏に全国制覇して旋風を吹かせた。阪長さんをこう表現した。「イノベーター(※革新者)。漠然としたアイデアがあっても行動を起こせない人が殆ど。阪長さんは自ら行動を起こし、更にそれを形にできる人」。高校野球の現状に問題提起をする阪長さん。“異端児”と言ってもいいかもしれない。その原点は、海の向こうで出合った“野球”にあった。

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テーマ : 高校野球
ジャンル : スポーツ

【私の相撲論】(07) 学生力士が角界を席巻…初場所、幕内に17人

角界の中で一大勢力となった学生相撲出身力士達。今月14日初日の初場所で幕下10枚目格付け出し初土俵から所要4場所で新入幕となった大の里等、アマチュアで大きな実績を残した選手は、“飛び級特例”とも言える幕下や三段目からの付け出しでプロの世界に挑んでいる。注目を集めた学生出身力士の系譜を辿る。 (編集委員 上村邦之)



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初場所の番付を眺めると、学生出身力士達が席巻している様子がよくわかる。幕内42人のうち、日本国内の大学相撲部出身(※中退を含む)は17人。大の里の他にも、遠藤、御嶽海、朝乃山らは幕下又は三段目付け出しでデビューした。

昭和以降では、早大出身で“インテリ力士”と呼ばれた元関脇の笠置山が1932年春場所に幕下最下位付け出しで初土俵を踏んだのが、幕下付け出しの最初とされる。初めて学生横綱(※全国学生選手権個人戦優勝)からプロ入りした東京農業大学出身の元大関・豊山は、幕下10枚目格付け出しの厚遇を受けたが、1966年に“付出は幕下最下位に限り”と規定され、日本大学出身の元横綱・輪島以降は幕下60枚目格付け出しで初土俵を踏む例が続いた。

転機となったのは2001年。対象が厳格化され、アマ横綱(※全日本選手権優勝)や学生横綱等主要大会優勝者に限り、幕下10枚目格又は15枚目格からの入門を認める一方、優勝を逃した場合は前相撲からの出発を余儀なくされる等、“エリート優遇”の色合いが濃くなった。

しかし、力士志望者の減少を受け、再び『日本相撲協会』は門戸開放に舵を切る。2015年に条件を緩和して三段目最下位格付け出し制度を創設。昨年秋場所後には高校生の大会にも対象を広げる等した一方、1場所で幕下通過可能性のあった10枚目格、15枚目格の優遇を廃止して、幕下付け出しは全員が最下位の60枚目格となる以前の形に戻した。

これで、初土俵だった昨年初場所に15枚目格で優勝して翌場所、十両に昇進した落合(※現在は伯桜鵬)のようなケースは不可能となった。「下積み経験を殆どせず関取になるのは、角界の伝統継承の面からも問題だ」との声を受けての改正だった。過去の学生出身力士の中には、“怪物級”と騒がれた多くの注目株がいた。

昨年11月に死去した近畿大学出身の元大関・朝潮(※本名は長岡末弘)。2年連続で学生横綱とアマ横綱のタイトルを獲得し、1978年春場所に高砂部屋から初土俵。幕下、十両を各2場所で通過するスピード出世だった。“大ちゃん”のニックネームがつく等注目を集め、一挙手一投足が報じられた。十両当時の1978年9月9日付の本紙夕刊一面では、髷が結えず、本名を四股名としていた“長岡”の大きな顔写真が破格の扱いで掲載され、「幕内に手の届くところまできた」と紹介された。

その5年後に初土俵を踏んだ元幕内・藤ノ川(※本名は服部祐兒)も騒がれた。同志社大学で活躍して“史上最強の学生横綱”と呼ばれ、伊勢ノ海部屋に入門。しかし、プロ入り後は腰痛に苦しんで伸び悩み、三役にも手が届かないまま、26歳の若さで角界を去った。

同じくフィーバーが凄まじかったのが、1988年初場所初土俵の元幕内・久島海(※本名は久嶋啓太)。和歌山県立新宮高校3年で出場した全日本選手権で社会人、大学生らを破って高校生初のアマ横綱に。日大進学後も多くのタイトルを獲得する無双ぶりを発揮し、出羽海部屋に入門。当時の紙面には“怪物”や“超大物”の活字が躍り、“クッシー”の愛称もついた。しかし、藤ノ川同様、腰高や脇の甘さが祟って最高位は前頭筆頭止まりだった。2012年に46歳で早世した。

「プロでも横綱」との期待を受けて多くの有望株が入門したが、幕下付け出しデビューで横綱に昇進したのは輪島1人だけ。豊山、朝潮、武双山、出島、雅山、琴光喜らは大関まで上がったが、頂点に届かなかった。多くの親方衆は、プロとアマの違いを「立ち合いの厳しさ」と指摘する。プロの壁が確かに厚い。だからこそ、乗り越える価値は高い。

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テーマ : 大相撲
ジャンル : スポーツ

【私の相撲論】(06) 普及の礎、巡業復活…津々浦々に魅力を広める

本場所と並ぶ大相撲の事業の柱となるのが、全国各地を回る地方巡業。九州場所後の12月に行なわれる冬巡業を含め、今年1年の開催日数は計69日間に上り、新型コロナウイルス感染拡大前の水準にほぼ戻った。巡業の持つ意義や魅力について考える。 (編集委員 上村邦之)



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コロナ禍の影響でファンサービス等接触を伴う機会の多い巡業は暫く中止を余儀なくされていたが、昨年の夏巡業から段階的に再開。限定的だったファンとの接触の規制も緩和され、今年の夏頃からは以前と同様の賑わいが復活した。巡業の最大の目的は相撲の普及に尽きる。本場所が開催されるのは東京、大阪、名古屋、福岡の4ヵ所だけ。全国津々浦々を回り、本場所を観戦できない地方のファンに日本の伝統文化でもある大相撲の魅力を広めることは、公益法人として重要な責務でもある。

先月22日に香川県高松市で行なわれた秋巡業は日曜日開催ということもあり、大盛況だった。前夜、和歌山市からバスで6時間かけて移動してきた力士らには疲れの表情も見えたが、気さくに写真撮影や握手に応じる姿が目立った。

秋場所の優勝争いでブレイクし、この日も引っ張りだこだった幕内の熱海富士は、小学生で相撲を始めた自身の経験も踏まえ、「子供が来たら必ず対応するようにしている」と話す。目を輝かせてサインを貰う少年の姿を見ると、相撲人気が地方のファンに支えられていることを強く実感する。体の大きな子が巡業先でスカウトされ、角界の門を叩いたケースもかなりある。

巡業の運営の多くは現在、開催地の企業や自治体で構成される実行委員会等が勧進元として『日本相撲協会』に契約金を払って実施する“売り興行”の方式がとられている。高松巡業の勧進元を務めた『穴吹エンタープライズ』(※高松市)の三村和馬社長は、「最も大きいのが開催による地域の賑わい。ホテルや飲食店を含めて効果は非常に大きい」と説明する。相撲協会、勧進元の双方が共にメリットを享受できるのが、巡業の最大の特長でもある。

巡業にはもう一つ、大事な狙いがある。稽古の充実だ。取組や土俵入りの他、初っ切り、相撲甚句等様々な出し物が用意される巡業の1日で、午前中の大半が充てられているのが朝稽古。所属部屋では手合わせする相手も限られるが、巡業の稽古では様々なタイプの相手の胸を借りることができる。上の番付を目指す若手が上位相手にどこまで通用するのかを試し、親方衆や観客に成長をアピールする重要な場にもなる。

横綱や大関は自分のペースで番数や相手を決めることが多いが、関脇以下は勝った力士が次の相手を指名して進める“申し合い”が主流だ。やる気があれば何番でも土俵を独占できる一方、一度も相撲を取らないまま終えることも可能。つまり、自らの努力の有無が厳しく問われる稽古方法だ。

先月23日の徳島巡業で稽古を視察した佐渡ヶ嶽審判部長(※元関脇の琴ノ若)は、「現役の時、よく師匠(※先代佐渡ヶ嶽親方=元横綱の琴桜)に『巡業だからこそ陰ひなたなく稽古しろ』と言われたのを思い出した。少しでもサボると直ぐ師匠の耳に届いたから」と苦笑する。

現役では、幕内の錦木の熱心さが有名だ。申し合いでは率先して最初に土俵に上がる33歳のベテランは、「夜、美味しくお酒を飲む為」と笑いながらも、「毎日稽古をするのは自分にとって当たり前」と話す。名古屋場所で優勝争いに顔を出した時には、八角理事長(※元横綱の北勝海)が「真面目に稽古をする力士が結果を残すのは嬉しい」と褒めたこともあった。本場所のない偶数月は巡業先で過ごす期間も長く、「巡業でどこまで稽古できたかで、ライバルとの差がつく」と親方衆は口を揃える。

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テーマ : 大相撲
ジャンル : スポーツ

【学校の外で】(下) 「突きが決まった時はスカッとする」

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森村玲音那さん(12)はシンガポールでフェンシングを始めた帰国子女だ。「学校には部がないので、ここでできてよかった」と元実業団選手の指導を熱心に聞く。子供達の入部理由は様々だ。岡本夕弦さん(13)は、映画の登場人物の華麗な剣捌きに憧れた。ここでは道具が割安でレンタルでき、初心者も気軽に始められる。岡本さんは「突きが決まった時はスカッとする」と競技にのめり込む。環境が整えば子供達の上達は早い。部活を支援する地域の取り組みが実を結べば、一流選手が生まれるかもしれない。


キャプチャ  2023年5月16日付掲載

テーマ : Fencing (フェンシング)
ジャンル : スポーツ

【学校の外で】(上) 掴んだコツは“防御で攻める”

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休日の体育館でフェンシングに打ち込む子供達。公立中の部活動を地域が支援する渋谷区の取り組みで、異なる小中学校に通う児童・生徒が集まる。元実業団選手が指導し、装備も本格的だ。競技を皆で楽しむ練習メニューも多く、幅広い交流に繋がっている。「近所に友達が少なかった」と昨年秋から通う渡辺綜太さん(10、左画像の右から2人目)。小柄で負けることが多かったが、先輩に教えてもらい、徐々に勝てるようになった。掴んだコツは“防御で攻める”。優しい仲間に囲まれ、照れくさそうな笑みを見せた。


キャプチャ  2023年5月9日付掲載

テーマ : Fencing (フェンシング)
ジャンル : スポーツ

【プロの手解き】(下) 「相手の動きをよく読んで」

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「相手の動きをよく読んで、攻守の切り替えをもっと早く」。実戦的なアドバイスが体育館に響く。練習中の動きは動画で記録し、細かくチェックする。部員は9人と少ないが、一人ひとりに丁寧な指導が行き届く。「自分に合った練習法で、ワンハンドシュートが遠くからでも入るようになった」と山下和奏さん(14)。元々はダンスの地域クラブに興味があったが、内申点が落ちる心配から後ろ向きな気持ちで入部した。今では学年やクラスを超えた仲間とのプレーを楽しみ、率先してコートを駆ける。


キャプチャ  2023年4月11日付掲載

テーマ : バスケットボール(日本)
ジャンル : スポーツ

【プロの手解き】(上) 「5! あっ、間違えた」

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「5! あっ、間違えた」。仲間が指で示す数を暗算しながらドリブルする菁莪中学校(※埼玉県白岡市)のバスケットボール部員。指導をするのは教員ではなく、元プロ選手だ。公立中の休日の部活動が今年度から民間事業者や地域等に段階的に移行する。同校は2021年度から先行して外部の指導員を招いてきた。頭と体を同時に使う高度な練習に、部員達は時に失敗しながらも大粒の汗を流して励んだ。


キャプチャ  2023年4月4日付掲載

テーマ : バスケットボール(日本)
ジャンル : スポーツ

【遊びをせんとや仕事をせんとや】(01) 「新しいことに挑戦しよう」――為末大さん(元陸上選手)

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平安末期に編まれた歌謡集『梁塵秘抄』には、「遊びをせんとや生まれけむ」とある。忙しい現代、遊びに徹したこの境地には至れなくても、もう少し上手に遊び、働きたいと願う人は多いだろう。新年の文化面は、思いっきり“遊び”と“仕事”について考えることにした。初回は特別編として、元陸上選手の為末大さん(45)に会いに出かけた。

蒲鉾形の屋根の下に、60mのトラックが6本真っ直ぐに延びる。豊洲市場に近い東京都江東区の『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』は、為末さんが館長を務める全天候型の陸上施設だ。「スタジアムは現在閉館し、今年秋に有明(※江東区)で移設再オープンします。スポーツをする人を増やすのが、僕の今の仕事です」。トラックを軽やかに走り、頬を緩めた。

2001年の世界陸上男子400m障害で47秒89の日本新記録を出し、トラック種目の世界大会で日本人初の銅メダルを獲得した。日本陸上界の元スターは、2012年の引退後、スポーツ振興等を行なう会社『Deportare Partners』の代表等を務めている。ビジネスパーソンとなり、感じたことがある。「働く時間とそうじゃない時間って、中々分けられないと思うんです」。

人間は遊ぶ存在である。為末さんが大切にするオランダの歴史家、ヨハン・ホイジンガの思想だ。「遊びが持つ大きな要素は、既存の秩序からはみ出ること。仕事は秩序の中で決められたことをやっていくのが重要だけど、既存の秩序の中からイノベーション(※技術革新)が生まれることは殆どない。“何となくそんなことをついやっちゃった”というのがイノベーションで、遊び的なものが重要だからです」。

“仕事”か“遊び”か――。為末さんは嘗て、選手としてその選択に迫られた。小学3年から陸上を始め、中学で頭角を現し、強豪の広島県立広島皆実高校から法政大学に進んだ。「当時は未だアマチュア精神が尊ばれた時代。僕の競技人生の前半は遊び的、アマチュア的だったんです」。

だが、商業五輪の原点となる1984年ロサンゼルス五輪を経て、陸上界は徐々にプロの時代に突入する。為末さんも2003年に『大阪ガス』を退社し、プロの道を選んだ。「本来好きでやっていたのに、『やらなければならない』と義務感が出てきた。休みたい時に休めなくなるし、結果も出さなきゃいけない。陸上が“労働”になった途端、自分のやりたいことだったのかと悩むようになりました」。

苦悩とは裏腹に、2005年の世界陸上でも男子400m障害で銅メダルを獲得。競技人生の中で技術的に最も安定する一方で、真面目に階段を上がるような練習に行き詰まりを感じ始めた。「そこで、今までは全然やってこなかったような刺激を体に入れ、新たな展開を生もうとした」。義務感から練習するのでなく、好奇心に基づき、あれこれ試すことにしたのだ。その結果、モチベーションは向上した。

「トップに行こうと思うより、目の前のことを面白がってやるほうが、結果として新しい展開が生まれて、より発展し易い」。人生の指針となる発見だった。日本社会は秩序が強固になり過ぎ、変革の機運を失っているのではないか――。為末さんの抱く問題意識だ。

「秩序と遊びの比率が崩れると、社会の発展は止まると思う。日本は秩序ががちっとしていて、『未来は静かに萎んでいく』と思いながらも、社会を変えられない閉塞感が漂っている」と分析する。「秩序による安全は素晴らしい。社会の何割かが混沌を取り戻し、色んな遊びが行なわれるようにする。それでイノベーションが生まれれば、日本はきっと元気になります」。社会や企業は人々が挑戦し易いように制度の一部を緩め、個人は興味本位で新たなことに挑むのが理想だと語る。

「例えば、ここ20~30年でマラソンに出るランナーは増えました。市民マラソンによって、“トレーニングしてから試合に出る”のでなく、“先ず試合に出てからトレーニングする”流れが生まれたからです。何事もハードルを下げて、誰でも気軽にやってみる機会を設けることが大切です。そうすれば、世の中はもっと活性化するのではないでしょうか」。にかっと、笑った。 (取材・文/東京本社文化部 武田裕芸) (撮影/安川純)


キャプチャ  2024年1月1日付掲載

テーマ : 陸上競技
ジャンル : スポーツ

【パリ五輪2024・勝利の秘策】(05) サーフィン女子・松田詩野の“チューブライディング”…世界有数の危険な波を攻略へ

https://www.sankei.com/article/20240421-G7H7OQCWKJKPHGSVBJKO25CLBE/


キャプチャ  2024年4月22日付掲載

テーマ : サーフィン
ジャンル : スポーツ

【パリ五輪2024・勝利の秘策】(04) バレーボール男子代表の“フェイクセット”…芸術プレーで観客を味方に

https://www.sankei.com/article/20240420-VUB7MNI62NP7BFLEBJA55LF66E/


キャプチャ  2024年4月21日付掲載

テーマ : バレーボール日本代表
ジャンル : スポーツ

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George Clooney

Author:George Clooney

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