【明日への考】(64) ロビー活動、IT分野で影響力…政策に“私益”を反映することの功罪、GAFAM“巨費”各国警戒
個人や集団が特定の政策の実現を目指して政策決定者に働きかけるロビイング。デジタル分野の政策形成過程でその存在感が増している。だが、やり方によっては強者の求める私益ばかりが通り、市民の声が届かない社会になりかねない。世界では巨大IT企業の影響力を危惧し、ロビイングへの監視を強めているが、日本では規制もなく、実態すら掴めていないのが現状だ。 (編集委員 若江雅子)
解熱剤等の一般用医薬品をコンビニ等で受け取れるようにする――。そんな制度改正が厚生労働省の部会で議論されている。スマートフォンのアプリ等を使って薬剤師から遠隔で服薬指導を受け、最寄りの店舗で受け取るという発想で、来年の通常国会で必要な法改正を目指すという。
「夜中に急に発熱した人や近所に薬局がない人には喜んでもらえる筈」と話すのは、ロビー支援会社『ポリフレクト』の宮田洋輔代表だ。4年前にコンビニ運営会社の依頼を受け、以来、規制改革推進会議や厚労省、議員等を回り、調整を続けてきた。宮田さんは元経産官僚で、『ヤフー』の政策渉外担当を経て2018年に独立した。官僚の政策手法に精通し、霞が関や永田町に人脈もある。
「政策形成は霞が関だけに任せておけばいいものではない筈。色々な人の声を国に届ける手助けをしたい」と話す。宮田さんのような官僚からロビイストへの転身は増えているようだ。「知人だけでも69人いる」と宮田さん。ある人材紹介会社社長も、「転職を仲介した官僚の1~2割はロビイスト採用」という。中には海外プラットフォーム(※PF)の政策渉外担当になる人もいる。
デジタル化で社会が急激に変化し、ルールも大きく変わり始めた。それに伴い、これまで政府が担ってきた政策形成に外側から影響を与えようとする動きが活発化している。特にビジネスや技術の変化が激しいIT領域では官より民の情報量が多く、官側も民の知見に頼らざるを得ないのが実情だ。
ルール形成の成功例としてよく挙げられるのが、消費税の内外格差の解消だ。日本では2015年まで、海外から配信される電子書籍等のデジタルコンテンツには消費税がかからず、海外事業者が有利な状態にあったが、ヤフー等の働きかけで法改正が実現。市販薬のオンライン販売問題でも、これを禁じる厚労省の省令に通販大手のロビイスト達が反発し、最後は最高裁まで争って解禁に繋げた。
ただ、私益の追求が常に公共の利益に昇華するとは限らない。私益が私益のまま、ダイレクトに政策に反映されることも少なくないだろう。法学者の池田政章は、これを「特殊利益がパブリックを僭称している」と批判した。典型は、利用者保護の為の規制阻止の為のロビーだろう。
例えば、本人が気づかないままオンライン上の行動履歴を大量収集されている問題。個人情報保護法の個人情報の定義が狭いことが解決の妨げとなっているが、これを解消する為の2015年の法改正では、与党の事前審査の段階でIT企業のロビイングによって該当部分が法案から抜け落ちた。
PF規制でもロビイングは活発だ。一例が、2022年施行のデジタルPF消費者保護法。消費者をオンラインショッピングのトラブルから守ることが期待されていたが、蓋を開ければPF事業者に課されるのは“努力義務”だけで、行政処分も罰則もなかった。「PF事業者のロビーで骨抜きにされた」と担当者は悔しそうに振り返る。
2014年の内閣人事局設置以降、政治に人事権を奪われた官僚の“下僕化”が指摘されるが、政治に働きかければ要請が容易に実現する現状も、僭称型ロビーを生む土壌となっていると言えそうだ。
解熱剤等の一般用医薬品をコンビニ等で受け取れるようにする――。そんな制度改正が厚生労働省の部会で議論されている。スマートフォンのアプリ等を使って薬剤師から遠隔で服薬指導を受け、最寄りの店舗で受け取るという発想で、来年の通常国会で必要な法改正を目指すという。
「夜中に急に発熱した人や近所に薬局がない人には喜んでもらえる筈」と話すのは、ロビー支援会社『ポリフレクト』の宮田洋輔代表だ。4年前にコンビニ運営会社の依頼を受け、以来、規制改革推進会議や厚労省、議員等を回り、調整を続けてきた。宮田さんは元経産官僚で、『ヤフー』の政策渉外担当を経て2018年に独立した。官僚の政策手法に精通し、霞が関や永田町に人脈もある。
「政策形成は霞が関だけに任せておけばいいものではない筈。色々な人の声を国に届ける手助けをしたい」と話す。宮田さんのような官僚からロビイストへの転身は増えているようだ。「知人だけでも69人いる」と宮田さん。ある人材紹介会社社長も、「転職を仲介した官僚の1~2割はロビイスト採用」という。中には海外プラットフォーム(※PF)の政策渉外担当になる人もいる。
デジタル化で社会が急激に変化し、ルールも大きく変わり始めた。それに伴い、これまで政府が担ってきた政策形成に外側から影響を与えようとする動きが活発化している。特にビジネスや技術の変化が激しいIT領域では官より民の情報量が多く、官側も民の知見に頼らざるを得ないのが実情だ。
ルール形成の成功例としてよく挙げられるのが、消費税の内外格差の解消だ。日本では2015年まで、海外から配信される電子書籍等のデジタルコンテンツには消費税がかからず、海外事業者が有利な状態にあったが、ヤフー等の働きかけで法改正が実現。市販薬のオンライン販売問題でも、これを禁じる厚労省の省令に通販大手のロビイスト達が反発し、最後は最高裁まで争って解禁に繋げた。
ただ、私益の追求が常に公共の利益に昇華するとは限らない。私益が私益のまま、ダイレクトに政策に反映されることも少なくないだろう。法学者の池田政章は、これを「特殊利益がパブリックを僭称している」と批判した。典型は、利用者保護の為の規制阻止の為のロビーだろう。
例えば、本人が気づかないままオンライン上の行動履歴を大量収集されている問題。個人情報保護法の個人情報の定義が狭いことが解決の妨げとなっているが、これを解消する為の2015年の法改正では、与党の事前審査の段階でIT企業のロビイングによって該当部分が法案から抜け落ちた。
PF規制でもロビイングは活発だ。一例が、2022年施行のデジタルPF消費者保護法。消費者をオンラインショッピングのトラブルから守ることが期待されていたが、蓋を開ければPF事業者に課されるのは“努力義務”だけで、行政処分も罰則もなかった。「PF事業者のロビーで骨抜きにされた」と担当者は悔しそうに振り返る。
2014年の内閣人事局設置以降、政治に人事権を奪われた官僚の“下僕化”が指摘されるが、政治に働きかければ要請が容易に実現する現状も、僭称型ロビーを生む土壌となっていると言えそうだ。
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