【水曜スペシャル】(693) 日本の地方デジタル通信を蝕む中国企業…「名前を変えただけで中身はほぼファーウェイ」、先進諸国からの信頼も喪失
2020年から日本政府が加速させてきたデジタル改革。政府は国民の利便性を向上させることを前提に、“アクセシビリティ”や、デジタル化における“安心・安全”を確保して、“人に優しいデジタル化”を目標に掲げている。この流れは、2021年に岸田文雄首相が提唱したデジタル田園都市国家構想にも繋がっている。この構想では、デジタル技術の実装を通じて、地方でもデジタル化のメリットを誰一人取り残されず享受できる暮らしを実現する、と提唱している。現政権の看板事業のひとつだ。世界的には現在、デジタル通信等への平等なアクセスは基本的人権であるとの認識が主流になっている。インターネットの普及率が比較的高い日本であっても、未だに地方等ではインターネット等デジタル通信に自由にアクセスできない人が少なくない。そうなると、最近増えつつある自治体等の提供するオンラインサービス等を利用できなくなる。そんな状況を解消すべく、政府によるデジタル化の一環として総務省が力を入れて推し進めてきたのが、地域BWAと呼ばれる事業だ。この取り組みは、地方自治体で元々インターネットやデジタル通信を利用できない人達の為に、地方にBWA(※無線方式を用いたデータ通信システム)の導入を支援するというもの。公共施設での無料Wi-Fiサービスや、災害連絡や交通情報等の配信、気象・河川の監視、子供や高齢者の見守りサービス等のシステムにも使われている。地域によっては、自治体のイベントを中継するのに利用している例もある。
この事業自体は今後、更に普及させるべき価値のある取り組みだ。ところが、この事業には利用者すら知らされていない重大な問題が潜んでいる。各地の地域BWAに使われている通信機器の多くで、中国の大手電気機器メーカーである『華為技術(ファーウェイ)』の製品が導入されている事実だ。ファーウェイと言えば、中国政府にデータが不正利用されるといったセキュリティーの懸念が指摘されて久しい。アメリカを始め、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア等の先進国が国内の通信事業から排除を進めている企業だ。最近でも今年6月、EUが加盟国に向けて5Gから同社の通信機器を排除するよう、改めて促している。そんないわくつきであるファーウェイの通信機器が、“公共の福祉”や“平等な通信環境”を標榜し、基本的に無料で市民に提供される国の通信事業に組み込まれているのである。しかも、地域BWAは総務省が審査した上で免許を出す公共事業だ。政府が経済安全保障対策を声高に訴えているご時世に、総務省がファーウェイ機器の使用許可を出しているのだから、開いた口が塞がらない。地域BWAの導入地域は、日本全国に広がっている。現在、北海道から沖縄まで少なくとも117地域で地域BWAが実施されている。日本各地のBWA通信機器の設置支援事業では、その80%を兵庫県の『阪神ケーブルエンジニアリング』が受注している。同社は『阪急阪神ホールディングス』のグループ企業で、『阪神電気鉄道』の子会社として情報通信事業を手掛けている。その阪神ケーブルエンジニアリングが、殆どの地域BWAにファーウェイの通信機器を設置し、運用している。ある総務省職員は、「現在、携帯の5G電波ではファーウェイ等中国企業は参入できないが、地域BWA等ローカルの通信では日本企業を介して中国企業が入り込めるのが実情だ。阪神電気鉄道はファーウェイ日本法人と親しい関係にある」と認める。それでも、昨今のファーウェイへの風当たりに配慮してか、地域BWAにはファーウェイとは別の企業の通信機器も導入され始めているという。「バイセルズという中国企業だ。バイセルズはファーウェイ出身の中国人らが設立した企業で、名前を変えただけで中身はほぼファーウェイと同じだと見られている。既に地域BWAの50エリア以上に入っている」(同)。更に問題なのは、この地域BWA事業には、日本のDX化の旗振り役であるデジタル庁の幹部も無関係ではないことだ。2021年にファーウェイが日本で開催した展示会イベントでは、デジタル庁で行政システムの設計等を担当してきた東京大学大学院の江崎浩教授がスピーカーとして登壇している。江崎教授はこれまで、地域BWAでファーウェイ製品が導入されている東京都杉並区のデジタル戦略アドバイザーも務め、ファーウェイとの良好な関係性を指摘する声も聞こえてくる。江崎教授は“インターネット研究の第一人者”等と持て囃されて、セキュリティーイベント等に頻繁に登場する人物だが、経済安全保障に絡んでセキュリティー懸念で先進国から排除されているメーカーのイベントに登壇し、デジタル分野のセキュリティーを語るとは、一体何事であろうか。