【火曜特集】(180) スマホゲームが飽きられたからスポーツ事業へ…ミクシィ、競輪リゾート開発の“銭失い”
IR(※カジノを含む統合型リゾート)の実現を前にして、異色の“ギャンブルリゾート”が、岡山県南部の人口6万人弱という瀬戸内の町、玉野市に誕生しようとしている。同市が運営する『玉野競輪場』の建て替えに合わせて、ホテルを併設する事業の開発を請け負ったのが、『ミクシィ』の子会社『チャリロト』であると報じられたのだ。玉野競輪場は1950年開設。今年が70年目の節目ということもあり、DBO(※公設民営)方式で老朽化した施設の建て替え基本計画が練られたのが昨年3月。その後、チャリロトとの間でホテル併設の計画案が浮上した。計画によれば、ホテルは8階建て100室余りを予定し、目前には瀬戸内海、眼下にはレース場が一望できるという。レース場の再整備費20億円は玉野市が支出し、ホテル建設20億円は事業者側の負担。収益については、毎年3億円を事業者側が市に保証し、不足分は補填する。3億円超の場合は、超過分の30%以内で事業者側が得る形で、2022年3月の開業を目指す。ここで出てくるのが、「何故ミクシィが競輪に?」という疑問だ。SNSの『mixi』が凋落する中、同社の収益の柱はスマートフォンゲーム『モンスターストライク(モンスト)』になっている。「2020年3月期第3四半期は純利益97.5%減と惨憺たるものだったが、偏にモンストの売上減によるもの。同社のゲーム収益は、5%に満たないヘビーユーザーがその殆どを稼ぎ出すという歪な構図」(証券アナリスト)。そこでミクシィでは、次の事業の柱としてスポーツ事業に傾注。2018年6月にモンストを立ち上げた木村弘毅氏が社長に就任すると、ほぼ同時にスポーツ事業の執行役員に就任している。
2017年には、男子プロバスケットボールのBリーグ『千葉ジェッツふなばし』とスポンサー契約を結んだ後に実質的なオーナーになり、サッカーJ1の『FC東京』ともスポンサー契約を結んでいる。更に昨年8月には、5ヵ年計画でプロ野球の『東京ヤクルトスワローズ』買収計画が同社内で進行していることも報じられた。今回の競輪リゾートも、その延長線上にある。ところで、実際の開発を行なうチャリロトは、昨年3月にミクシィが買収した。元々、競輪とオートレースの重勝式投票券(※複数レースの先着を纏めて予想する)を販売する為に、2006年に設立された。親会社の粉飾決算で切り離され、2016年に投資会社の『ジャフコ』に買われていたものだ。同年に65年の歴史を閉じた『船橋オート』に代表されるように、公営競技は自治体の運営では限界があり、民間に委託する傾向にある。更に、2005年にオンライン銀行の利用が導入されると、『ソフトバンク』・『サイバーエージェント』・『DMM』といったIT企業の参入が相次いだ。そして、今回のミクシィの参入。前出のアナリストが語る。「ミクシィは本業が不安定とはいえ、1200億円超の余剰金を持つキャッシュリッチ企業。ヤクルト買収を含め、スポーツ事業に多額の投資を行なう余力は未だある」。しかし、玉野市関係者はこう疑問を抱く。「玉野は、盛況の瀬戸内国際芸術祭の玄関口に近い為、観光客を取り込めるとの触れ込みだったが、素通りされているのが現実。玉野競輪も、ここ3年間は年6億円近い利益が出ているが、インターネット経由の無観客で行なわれるミッドナイト競輪の調子が良いからで、レース場の集客と無関係」。玉野市は民間委託を数年前から検討していたというが、当初の計画案にホテル建設はなかった。となれば、玉野市がミクシィを手玉に取ったとも言える。モンストで積み上げた資産は、競輪に費消されてしまうことになりそうだ。 (取材・文/フリージャーナリスト 横関寿寛)
2020年6月号掲載