【人が集まる街・逃げる街】(93) 静岡県浜松市…豊かな自然資源を生かせるか?
浜松市は静岡県西部、遠州エリアにある人口79万2000人の政令指定都市である。面積は約1558.06㎢もあり、日本の市の中で岐阜県高山市に次いで2番目に広い面積を持つ。市の北部は赤石山脈、南部は遠州灘に接し、東部は天竜川、西部には浜名湖があり、自然環境が豊かな街である。浜松は東京と大阪のほぼ中間に位置し、東海道が東西に走ることから、交通の要衝として栄えてきた。東海道本線、東海道新幹線、東名高速道路が街を横切り、多くの鉄道や車両がこの街を駆け抜けていく。浜松は多くの企業の創業の地としても有名だ。遠州弁で“やらまいか”とは“やってみよう”・“やってやろうじゃないか”という意味だが、このやらまいか精神が多くの企業を起こす精神に繋がったとも言われる。自動車や2輪車の世界的メーカーである『ホンダ』も、この街が創業の地だ。同じく自動車・2輪車メーカーの『スズキ』は、現在も本社を浜松に置く。この街は楽器製造の街でもある。世界有数の総合楽器メーカーである『ヤマハ』、ピアノ等の製造で有名な『河合楽器製作所』や『ローランド』も、浜松が本拠地だ。この他、光電子デバイスの製造・開発の『浜松ホトニクス』等の大手企業が本社を構える。多くの企業が集積している浜松だが、これらの殆どが製造業である為、各社の工場が市内に分散し、浜松の街の中心としての顔がぼやけることになってしまった。
一部エリアに『遠州鉄道』やバス等の交通機関はあるものの、市民の生活の足はその殆どが車だ。その為、工場等への通勤客を目当てにした商業店舗の多くがJR浜松駅周辺等に集積せず、市内の街道沿いに発達しているのが特徴だ。以前は浜松駅周辺には百貨店等の大型商業施設が展開していたが、『丸井』や『西武百貨店』は既に撤退、地元百貨店だった『松菱』は2001年11月に経営破綻し、現在浜松駅前にある百貨店は『遠鉄百貨店』のみとなっている。鉄道の主体が東海道本線や東海道新幹線であることも、街の発展を妨げる要素になっている。交通利便性が高いが故に、若い世代を中心に、浜松を離れて東京、名古屋、大阪に転出し易い環境になっている為だ。政令指定都市の中では浜松や静岡が人口減少都市となっていることをみても、地政学的に不利な状況にあるのがこの街だ。観光の面でいえば、浜名湖や遠州灘の砂丘、舘山寺温泉や浜松城等、それなりに見どころはある。しかし、そのどれもが中途半端である印象は拭えない。最近では市内に宿泊する訪日外国人の数が急増し、2017年には外国人観光客の延べ宿泊者数が30万を超えた。しかし、その殆どが東京や大阪に向かうルート上での宿泊になっている。謂わば、浜松は旅の途中で寝る為だけの通過ポイントになっているのだ。これでは市内の観光消費額は引き続き伸び悩むことになるだろう。人々が通過する街から、滞在して楽しむ街に。山、海、湖、川、あらゆる自然の要素を備えた浜松の都市戦略が問われている。
牧野知弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。
2019年9月28日号掲載
一部エリアに『遠州鉄道』やバス等の交通機関はあるものの、市民の生活の足はその殆どが車だ。その為、工場等への通勤客を目当てにした商業店舗の多くがJR浜松駅周辺等に集積せず、市内の街道沿いに発達しているのが特徴だ。以前は浜松駅周辺には百貨店等の大型商業施設が展開していたが、『丸井』や『西武百貨店』は既に撤退、地元百貨店だった『松菱』は2001年11月に経営破綻し、現在浜松駅前にある百貨店は『遠鉄百貨店』のみとなっている。鉄道の主体が東海道本線や東海道新幹線であることも、街の発展を妨げる要素になっている。交通利便性が高いが故に、若い世代を中心に、浜松を離れて東京、名古屋、大阪に転出し易い環境になっている為だ。政令指定都市の中では浜松や静岡が人口減少都市となっていることをみても、地政学的に不利な状況にあるのがこの街だ。観光の面でいえば、浜名湖や遠州灘の砂丘、舘山寺温泉や浜松城等、それなりに見どころはある。しかし、そのどれもが中途半端である印象は拭えない。最近では市内に宿泊する訪日外国人の数が急増し、2017年には外国人観光客の延べ宿泊者数が30万を超えた。しかし、その殆どが東京や大阪に向かうルート上での宿泊になっている。謂わば、浜松は旅の途中で寝る為だけの通過ポイントになっているのだ。これでは市内の観光消費額は引き続き伸び悩むことになるだろう。人々が通過する街から、滞在して楽しむ街に。山、海、湖、川、あらゆる自然の要素を備えた浜松の都市戦略が問われている。
牧野知弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。
