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【人が集まる街・逃げる街】(93) 静岡県浜松市…豊かな自然資源を生かせるか?

浜松市は静岡県西部、遠州エリアにある人口79万2000人の政令指定都市である。面積は約1558.06㎢もあり、日本の市の中で岐阜県高山市に次いで2番目に広い面積を持つ。市の北部は赤石山脈、南部は遠州灘に接し、東部は天竜川、西部には浜名湖があり、自然環境が豊かな街である。浜松は東京と大阪のほぼ中間に位置し、東海道が東西に走ることから、交通の要衝として栄えてきた。東海道本線、東海道新幹線、東名高速道路が街を横切り、多くの鉄道や車両がこの街を駆け抜けていく。浜松は多くの企業の創業の地としても有名だ。遠州弁で“やらまいか”とは“やってみよう”・“やってやろうじゃないか”という意味だが、このやらまいか精神が多くの企業を起こす精神に繋がったとも言われる。自動車や2輪車の世界的メーカーである『ホンダ』も、この街が創業の地だ。同じく自動車・2輪車メーカーの『スズキ』は、現在も本社を浜松に置く。この街は楽器製造の街でもある。世界有数の総合楽器メーカーである『ヤマハ』、ピアノ等の製造で有名な『河合楽器製作所』や『ローランド』も、浜松が本拠地だ。この他、光電子デバイスの製造・開発の『浜松ホトニクス』等の大手企業が本社を構える。多くの企業が集積している浜松だが、これらの殆どが製造業である為、各社の工場が市内に分散し、浜松の街の中心としての顔がぼやけることになってしまった。

一部エリアに『遠州鉄道』やバス等の交通機関はあるものの、市民の生活の足はその殆どが車だ。その為、工場等への通勤客を目当てにした商業店舗の多くがJR浜松駅周辺等に集積せず、市内の街道沿いに発達しているのが特徴だ。以前は浜松駅周辺には百貨店等の大型商業施設が展開していたが、『丸井』や『西武百貨店』は既に撤退、地元百貨店だった『松菱』は2001年11月に経営破綻し、現在浜松駅前にある百貨店は『遠鉄百貨店』のみとなっている。鉄道の主体が東海道本線や東海道新幹線であることも、街の発展を妨げる要素になっている。交通利便性が高いが故に、若い世代を中心に、浜松を離れて東京、名古屋、大阪に転出し易い環境になっている為だ。政令指定都市の中では浜松や静岡が人口減少都市となっていることをみても、地政学的に不利な状況にあるのがこの街だ。観光の面でいえば、浜名湖や遠州灘の砂丘、舘山寺温泉や浜松城等、それなりに見どころはある。しかし、そのどれもが中途半端である印象は拭えない。最近では市内に宿泊する訪日外国人の数が急増し、2017年には外国人観光客の延べ宿泊者数が30万を超えた。しかし、その殆どが東京や大阪に向かうルート上での宿泊になっている。謂わば、浜松は旅の途中で寝る為だけの通過ポイントになっているのだ。これでは市内の観光消費額は引き続き伸び悩むことになるだろう。人々が通過する街から、滞在して楽しむ街に。山、海、湖、川、あらゆる自然の要素を備えた浜松の都市戦略が問われている。


牧野知弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。


キャプチャ  2019年9月28日号掲載

テーマ : 住宅・不動産
ジャンル : ライフ

【劇場漫才師の流儀】(101) ytv漫才新人賞③

『ytv漫才新人賞』(読売テレビ)のROUND1の感想の3回目です。15組中、13番目の登場は『マユリカ』でした。人気も実力もあって、9年目ですので、関西では若手というより中堅のイメージ。外国人の女の子が迷子になるというネタだったんですけど、設定からして面白いですよね。僕は90点と、『蛙亭』と並んで最高得点をつけました。ただ、持ち時間は4分あるのに3分半ぐらいで終わってしまったのが残念でした。合計点が4位に終わりましたが、上手くお客を掴んでいたし、あと30秒演じていたら1位やったね。14番手は『コウテイ』。ワインレッドのマオカラースーツと呼ばれる学生服のような衣装を着て、「ズィーヤ!」という独特の決めゼリフを吐くコンビです。ここは意見が割れるんよね。インパクトやオリジナリティーという面では他を圧倒していて、今回、僕も89点とかなり高い評価をしましたし、結果も3位でした。ただ、彼らは今の若い“お笑い通”と呼ばれる人たちにはウケるでしょうけど、一般の人にはどうなんでしょうね。ネタというより、ギャグの応酬みたいな印象がある。僕は「漫才は大衆芸能のど真ん中にあるものだから、原則べタであるべきだ」と思っているんです。コウテイは新しい型ですが、そこからは少し遠いような…。

いつの時代も、先輩らは若手に「新しい笑いを作らんかい!」って言います。僕らも散々言われて、「そんなもんあるかい!」と思っていましたが、未だあるんです。それは、ベタな笑いであるという漫才の原則は継承しつつ、外見と新しい言葉を装備すること。例えば、近年だと『フットボールアワー』・『銀シャリ』・『ブラックマヨネーズ』らは新しい漫才を生み出したような印象があるけど、彼らもネタの構成はベタやもんね。ただ、言葉が斬新なので新しく感じるんです。そこへいくと、今、大ブレイク中の『EXIT』は装いや言動は新しい装備品でしょうが、ネタはしっかり作り込まれている。寧ろ、漫才の教科書通り。だからウケるんだと思います。でも、彼らがM-1で優勝できるかいうたら、簡単ではないでしょうね。キャラクターが前に出過ぎているので、1本目はインパクトがあっていいのですが、2本目は「また同じやな」と思われる危険性がある。強いネタを2本揃えて大爆笑させられれば別ですが、それは本当に難しいんです。15組目、最終組は『ネイビーズアフロ』でした。ここはネタとテンポが武器で、頭もいいし、練習もようしているんでしょうな。ただ、それだけに急ぎ過ぎてしまうから、お客さんがついていけない。速いテンポの中にも間はいるんです! 僕らも若い頃は「速過ぎる。お客さんの笑い待ちをしなさい」ってずっと言われていましたから、彼らの気持ちはよくわかるんです。ピッチャーでも、緩いボールを投げるのは勇気が必要やっていうでしょう。彼らには勇気を持って待てるネタを作ってほしいですね。


オール巨人(おーる・きょじん) 漫才コンビ『オール阪神・巨人』のボケ担当。1951年、大阪府生まれ。大阪商業高校卒業後、1974年7月に『吉本新喜劇』の岡八朗に弟子入り。翌1975年4月に素人演芸番組の常連だったオール阪神とコンビを結成。正統派漫才師として不動の地位を保つ。著書に『師弟 吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年』・『さいなら!C型肝炎 漫才師として舞台に立ちながら、治療に挑んだ500日の記録』(共にワニブックス)。


キャプチャ  2019年10月7日号掲載

テーマ : お笑い芸人
ジャンル : お笑い

【山根明のノックアウト人生相談】(41) 夫婦協力して威厳のある父を見せろ

Q. 遂に中学1年生の娘に反抗期が訪れました。自分は「この薄毛」「ハゲ」「キモイ」等と罵倒され、朝、洗面所で一緒になると「オヤジ臭いから近寄らないで」と言われます。「父親にそんなこと言うもんじゃない!」と叱りますが、完全無視です。正直、落ち込みます。そのうち、「お父さんのパンツと一緒に洗濯しないで」とか言い出すんでしょうか。不安です。何か対策はありますか? (広島県・48歳・公務員)

A. 女の子の場合は非常にやり難いね。男の子の場合は、そりゃあ暴力はダメですけど、親の権限で横ビンタでも張るとかできるんですけどね。このお父さんは、もうちょっと親としてね、自信を持つべきね! 12~13歳の子に対して48の親父が、ああや、こうや余計なこと考えるいうのは、親としては頼りないな。親父やったら親父らしく! それとね、娘が親父のニオイが臭いとか言った場合はね、娘に嫌われても叱りつける! 暴力はダメやけど、表現いうのは色々あるんですから。僕に言わせたら、この親父は反抗期じゃなくても、普段から娘にナメられとる。子供いうのは、常に親の背中を見ていますからね。だけど、親はそこをわからんわけですよ。子供や子供や思っとるけど、そんなもんじゃない。特に女の子の場合は成長が早いですからね。男の子と5~6歳は違いがあります。だから、これねぇ…。「お父さんのパンツと一緒に洗濯しないでとか言い出すんじゃないか」と、そんなしょうもないこと考えんでもいいの! うん。母親と息子の間いうのは、結構上手いこといくんですけど。娘と親父いうのはね、中々上手いこといかないんですよ。女性がどうしても男性よりマセていますから。男の子が15~16歳なら、同い年の女の子はもう20歳過ぎたようなもの。子供さんがどんな気性かわからないんですけど、場合によってはね、子供を突き放して無視をしとくとか。そうじゃなかったらね、バッと厳しく言ったり…。どっちかですね。どの家庭でも、子供が反抗期いうのはありますから。 この方だけではありません。もう、パンツを一緒に洗うとか、どうのこうの言っていること自体がおかしい! 所詮、子は子! もっと自信を持って、親としての自覚をして、子供の教育をやる。たとえ憎まれても、バッと言う! 子供ってね、親の力次第で親をナメたりすることもありますからね。ナメられん親になるには、どうするかっちゅうね。普段の家庭内での行ないが大事です。あと実は、奥さんも一番の問題なんやね。奥さんが強い、恐妻家の場合はね、そりゃ嫁さんに抑えられてペコペコしとったら、息子や娘まで親父をナメますから。奥さんが気のキツい方でね、子供の前でご主人に対して偉そうに言ったりしとったら、子供もね、親父に対してナメた物の言い方もしますから。この相談者の家庭は、僕の推測では亭主関白じゃなくて、かかあ天下なんじゃないかなぁと。だから、そういう振る舞いを子供の前で見せないように、旦那だけじゃなく夫婦で、奥さんも協力すべきですね!


山根明(やまね・あきら) 『日本ボクシング連盟』前会長・在日コリアン2世。1939年、大阪府生まれ。大阪商業大学ボクシング部ヘッドコーチ、大阪経済大学ボクシング部監督、シドニー五輪日本選手団ボクシング競技監督を歴任。2011年2月に日本ボクシング連盟会長に就任、2012年10月に理事会全員一致で終身会長となったが、助成金の不正流用等を理由に2018年8月8日を以て同会長・理事を辞任。近著に『男・山根 “無冠の帝王”半生記』(双葉社)。


キャプチャ  2019年10月7日号掲載

テーマ : 人生を豊かに生きる
ジャンル : 心と身体

【必ず伝わる最強の話術】(35) プレゼンの段取り④

プレゼンテーション前に“話す練習”はしていますか? 一度、通しで喋って、時間を計るくらいでしょうか。残念ながら、それでは不十分。伝わるプレゼンにする為には、2段階の練習をすることをお勧めします。先ずは個人練習。次に、人に見てもらうリハーサルです。「時間が無い」なんて言わないで下さいね。ここをちゃんとやらないと、どんなに資料がよくても上手くいきません。先ず、個人練習のポイント。必ず録画をしましょう。話している姿とスライドが同時に見えれば、画質は問いません。でも、録音だけではダメ。音だけなら問題がなくても、例えば貴方がずっと手元の原稿を読み上げていたとしたら、聞き手を惹きつけることは難しいですよね。録画を見れば一目瞭然です。話す内容とスライドの切り替えのタイミングが合っているか等も、録画でなければわからないチェックポイントです。次は時間配分をチェックします。トータルの時間を計るのは当然ですが、話す内容のパート毎にラップタイムを計るのも大切。時間が長過ぎた場合、削らなければいけない部分を客観的に判断する際の参考になります。個人練習では、メモを見なくても、ある程度内容を話せる段階にまで仕上げておきましょう。でないと、次のリハーサルで「言葉に詰まっていた」「熱意が伝わってこない」等の基本的なことしか言ってもらえないことになります。

人に聞いてもらえる段階になったら、職場の同僚等を集めてリハーサルをします。その目的は、聞いているクライアントが理解できるのか、心を動かされるメッセージになっているのか等の、最も重要なことを議論すること。その為に大切なのは、具体的なフィードバックを貰えるよう、事前に頼んでおくことです。何も言わないと、「全体的には良かった」「もう少し抑揚を付けたほうがいい」等、どう改善していいかわかり難い、当たり障りのないフィードバックになりがちです。リハーサルに参加する人には、前提として“聞こうという意識が低い相手”を想定してもらった上で、以下のことを伝えて下さい。①「話すスピードや理展開等、必死で聞かなくても理解できるものになっていたか」「長い、ややこしい、退屈等、聞き手が離れるような場面はなかったか」という2つのポイントを意識して聞いてほしいこと②其々、具体的にどこがどうだったか、話し方とスライドの両面で、忌憚なく明確に指摘してほしいこと――。放送の世界には“試写”というものがあります。自分が編集したVTRが、あらゆる立場の人から忖度無しのダメ出しを受けるのです。ぼろくそに言われるのは本当に気が滅入りますが、これによって、気付かなかった大きな穴を見つけてもらう経験を何度もしました。プレゼンは聞き手の為にあるもの。その為には、どんなに耳の痛い指摘も聞く。そんな姿勢でリハーサルができれば、素晴らしいプレゼンになる筈ですよ。


松本和也(まつもと・かずや) ナレーター・音声表現コンサルタント。1967年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業後、1991年にアナウンサーとして『NHK』に入局。奈良放送局・福井放送局等を経て、2012年に『NHK放送文化研究所』専任研究員。2016年にNHKを退職し、『マツモトメソッド』代表取締役、ナレーターとして『青二プロダクション』に所属。


キャプチャ  2019年9月28日号掲載

テーマ : 自己啓発
ジャンル : ビジネス

【コラム】 与野党よ、デフレが蝕む人の心を知れ

本原稿が活字になって読者に届く頃は参院選の結果も出ている筈だが、与党・野党のどちらが勝利しようとしまいと、選挙後、与野党がきちんと議論すべき重大な国家課題がある。国会で論議されなかった慢性デフレである。デフレという経済の病は人の心をじわじわと締めつけ、家族や家族の集合体である国家を滅ぼす。「経済とは人間の心である」と喝破したのは、誰でもない昭和天皇である。国際的な経済学の泰斗である宇沢弘文さん(※故人)は、その遺著とも言うべき『人間の経済』(新潮新書)の冒頭で、「経済学においては、人間の心というものは考えてはいけない、とされてきました」と厳しく経済学の限界を衝いている。1983年当時、昭和天皇を前に懸命になって経済理論の限界を喋りたてたところ、陛下は話を遮って、「君! 君は経済、経済というが、つまり人間の心が大事だと、そう言いたいのだね」とのお言葉だった。本稿執筆時は選挙戦酣で、消費税増税を巡る与野党の連呼が嫌でも耳に入る。与党候補は「増税によって子育て・教育無償化の財源を確保し、社会保障を充実できる」、野党は「増税凍結」「家計第一」を叫ぶのだが、双方とも“人間の心”を踏まえた上でものを言っているのだろうか、と気になった。宇沢さんに啓発された持論では、人間の心というものは経済によって左右される。そして、デフレは人の心を真綿のようなものでじわじわと締めつける。二十数年にも及ぶ慢性デフレ経済の日本では、或いは国家という巨大な共同体の最小構成単位である家族そのものが崩壊していく。端的な表れが引きこもりだ。英語に“引きこもり”の類語はあっても、ぴったりと合わない。インターネット上では“hikikomori”が流布している。実際に、若者の失業率が2桁にも上るスペインでは引きこもり問題が存在しないと、グラナダに住みながら日本の伝統保存に心を砕くピアニストの西澤安澄さんは言う。スペインでは、『Amazon.com』に注文しても実際に無事に届くかどうかが心配になり、直接店に出かけて購入する不自由さがあるが、日本のように商店街が消えることなく、町中は明るさに満ちているという。

アダム・スミスとジェームス・ワットという古典派経済学、産業革命の祖を生んだスコットランドの古い工業都市であるグラスゴーも高失業率に苦しんでいるが、そこに4年間住んで帰国したばかりの知人によると、「街は酔っ払い同士の喧嘩が絶えないが、見知らぬ者同士が街角で優しく声をかけ合う温もりがある。引きこもりに該当する言葉も社会問題も聞いたことがない」という。考えてみれば、斯くも長き低成長と慢性デフレはまさにギネスブックものであり、日本はその記録を毎年更新し続けている。これほど異常なことがあろうか? 1930年から1940年までの所謂大恐慌期のアメリカでは、年率平均のインフレ率がマイナス1%以下だったが、実質所得の伸び率を意味する実質経済成長率は2.1%だった。日本の場合、1997年から2018年までのデータをとると、其々マイナス0.6%以下、0.78%である。現代日本の物価下落率は緩やかだが、所得は殆ど伸びないのだ。そんなマクロのデータではデフレの深刻さはぴんとこないだろうが、厚生労働省が纏めている雇用者の年齢層別平均月給を見ればよい。この統計は1999年から始まったが、全体の月給のピーク時である2001年と2018年を比べてみる。なるほど、2012年末にスタートしたアベノミクスのおかげで若者の就職氷河期は過ぎ去り、20代後半の月給は1万2000円程上がり、27万4400円。しかし、30代後半、40代前半は其々2万4600円、2万2700円も下がり、34万8800円、36万1700円。30代後半の働き盛りでも年収換算で406万円、17年前に比べて30万円、7%も減っている。2014年度には消費税率が3%も上乗せされ、今秋には更に2%も上がり、税率は10%となる。筆者のデフレの定義は、物価下落以上の幅で賃金や所得が減ることだが、その“心”への皺寄せは、まさに国家の将来を担う子育て世代に集中している。これらの家族こそは、最も収入に占める消費の割合が高い。デフレ下の消費税増税は日本の未来を殺すのだ。与党には少なくとも、デフレで細る家計から所得を奪っておいて、ほんの一部の限られた家族に還元するだけで、どうやってデフレから脱却できるか、そして国全体の経済抜きで家計を論じ、増税凍結を言いながら経済成長には無頓着で、緊縮財政を放置する野党は脱デフレの道筋を明示する国政上の責任がある。


田村秀男(たむら・ひでお) 『産経新聞』特別記者・編集委員兼論説委員。1946年、高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、『日本経済新聞社』に入社。経済部やワシントン特派員等を歴任。2006年12月に産経新聞社に移籍。著書に『財務省“オオカミ少年”論』(産経新聞出版)・『アベノミクスを殺す消費増税』(飛鳥新社)等。


キャプチャ  2019年9月号掲載

テーマ : 消費税
ジャンル : 政治・経済

【Global Economy】(158) GAFAは“不当な支配者”なのか…アメリカの規制当局が相次ぎ捜査

“GAFA”と呼ばれる『グーグル』・『Apple』・『フェイスブック』・『Amazon.com』等巨大IT企業に対し、アメリカの規制当局や議会が今夏から相次いで調査を開始した。当局は、GAFAのどんな行為を問題視しているのか? 調査の行方を占う。 (ニューヨーク支局 小林泰明)



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アメリカでは6月以降、司法省、連邦取引委員会(FTC)、州・地域の司法当局やアメリカ議会が、相次いで反トラスト法(※日本の独占禁止法に相当)に基づく巨大IT企業の調査に乗り出している(※表①)。焦点になるのは、巨大IT企業が市場支配力を使って競合他社を排除するといった問題行為を行なっているかどうかだ。4社はビジネスモデルが異なり、当局が標的にする分野も其々異なる。4社の内、検索やデジタル広告で高いシェアを誇るグーグルが、当局から最も厳しい調査を受ける見通しになっている(※グラフ②)。「インターネット上で表示されるデジタル広告、検索、動画等のあらゆる側面を支配する会社だ」。州・地域の調査を率いるテキサス州のケン・パクストン司法長官は、今月9日の記者会見で、グーグルの市場支配に強い懸念を表明した。グーグルのデジタル広告収入は世界トップ(※グラフ③)。他の事業者を市場から締め出すような行為がないかが懸念されている。消費者のプライバシーが十分に保護されているか、情報収集の在り方についても調査対象だ。グーグルは、自社サービスを利用する人のインターネット上の検索履歴や閲覧履歴等を基に、その人の好みを分析し、特定の人たちに向けて広告を出したい企業から広告料を集めている。Amazonが提供する有料の会員サービス『アマゾンプライム』も調査対象に浮上している模様だ。アメリカでは、年会費119ドルで無料配送、音楽配信、動画配信等多様なサービスを受けられる。消費者には魅力的なサービスだが、競争相手を市場から排除する為、「利益を度外視して提供する不当廉売にあたるのではないか」との指摘も出ている。規制当局等は、GAFAが将来ライバルになりそうな新興企業を早い段階で買収し、競争の芽を摘んでいないかどうかも調査対象として重視している。

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グーグルが2007年、ウェブ広告大手の『ダブルクリック』を31億ドルで買収し(※表④)、画像広告を強化したことが、グーグルのデジタル広告における支配力を決定付けたとの見方は多い。フェイスブックは、2012年に写真共有アプリの『インスタグラム』を、2014年には対話アプリの『ワッツアップ』を買収(※表④)し、SNSで盤石の地位を築いた。『S&Pグローバルマーケットインテリジェンス』によると、フェイスブックは2007年以降、約70社の企業を買収し、成長を遂げてきた。今年6月、州の司法長官ら約40人がFTCに巨大IT企業への反トラスト法執行強化を求めた要望書に、当局の問題意識が垣間見える。要望書で、司法長官らは「支配的な立場にある企業はデータを活用し、競争力のある相手を素早く特定し、重要な存在になる前に買収することができる」と指摘した。フェイスブックが2013年に買収したデータ管理会社のデータを通じ、ワッツアップが潜在的なライバルになることを把握し、買収に踏み切ったとの見方も示した。取引先企業等への不当行為という問題も浮上する。アメリカのインターネット通販で47%のシェアを占めるAmazon(※グラフ②)が、通販サイトに出品する中小企業に不当な取引を強いているといった問題で、『ワシントンポスト』は今月、FTCが調査に着手したと報じた。Amazonの通販サイトは、自社で直接販売する商品と、外部の出品者による商品とを取り扱う。双方が競合する際に、外部の出品者がライバル会社のサイトで商品を安い価格で販売した等として、検索順位を下げているとの報道もある。外部の出品者の販売データを不当に利用しているとの見方もあり、当局は通販サイトを運営する優位な立場を不当に使っていないか等を調べるとみられている。

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【儲かる農業2019】(20) 最新技術活用で住友商事とタッグ――吉川君男氏(『JA北つくば』代表理事組合長)

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私は2年前に『JA北つくば』の代表理事組合長に就きましたが、常勤職になる前は露地野菜を中心とした農家をしていました。当時は農家としての考え方や要望を農協に提案していましたが、今はそれを実現できる立場にあります。農家の目線で単位農協を運営すれば、必ず組合員はついてくると思っています。農協が何をすれば農家は喜ぶか? まさに儲かる農業です。茨城県一のコメの生産高を誇るJA北つくばでは、約10年前にコメの全量買い取りを始めました。全農がコメ代金の支払い方法を見直し、農家から不満の声が上がったことがきっかけです。我々がコメの全量を買い取り、卸等に直接販売する。当然リスクを負うことになりますが、1円でも高く売って、その分を農家に還元する体制ができました。今年は輸出用のコメも募集し、第1陣として1月に約20トンを香港に送りました。自ら販路を開拓することで、企業とのつき合いも生まれます。その中で、『住友商事』からドローン等を使ったスマート農業の提案を戴いた。農業は本当に厳しい時代を迎えますが、農家が生き残れるように支援したい。その為に最新技術を活用し、コメの生産コストを国際水準まで下げて、競争力をつけなければならない。農協改革で『JA全中』の指導力が弱まるのであれば、我々独自で地域の農家を守る必要があると思っています。


キャプチャ  2019年3月9日号掲載

テーマ : 農政
ジャンル : 政治・経済

【虐待から子供を守れ!】(01) 命を担う人材が足りない…続発する悲劇の真相

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子供の虐待死が相次いでいる。今年1月には千葉県野田市の栗原心愛さん(10、右画像)、6月には札幌市の池田詩梨ちゃん(2)が虐待によって命を落とした。更に先月末には、鹿児島県出水市で母親の交際相手から虐待を受けたとみられる4歳の女の子が亡くなっていたことがわかった。相次ぐ悲惨な虐待は決して他人事ではない。一見して普通の家庭でも、育児ノイローゼ・家族の孤立・DV等により、深刻な虐待が起こり得る。受験期に過度に子供を追い詰める教育虐待も社会問題化している。虐待死が起こると、矢面に立たされるのが児童相談所だ。だが、児童福祉司の人手不足で現場はパンク状態。如何に“児相頼み”から脱却し、虐待を防止するか。その仕組み作りが問われている。虐待以外にも、子供の命には危険が忍び寄る。例えば、幼児を安全に預かる場である保育園も、実は危険と隣り合わせだ。保育園で起こった重大事故の件数は、2018年に約1200件と近年急増している。保育園を巡っては、10月から幼児教育・保育の無償化が始まる。それにより予測されるのが、現場を担う保育士の更なる不足。既に低賃金・過重労働で離職が相次いでおり、保育の質を如何に保つかが喫緊の課題となっている。身近な生活環境にも危険は潜む。子供の死因の上位には病気に加え、不慮の事故が挙がる。低年齢児であれば、誤飲・転倒・溺水といった事故が命を奪う。小学校低学年を中心に、通学路上の痛ましい交通事故も後を絶たない。更に今年5月、神奈川県川崎市で起こったような凶悪な通り魔殺傷事件――。大人社会の矛盾は、罪なき子供にも刃を向ける。また10代になると、学校での人間関係等に悩み、自殺する子供が急増する傾向も変わらない。こうした命のリスクから、子を如何に守るか。虐待について、専門家は背景の一つに、日本における子供の権利への意識の低さを挙げる。児童福祉法に“子どもの権利”が明文化されたのは2016年。今後、その具体的な議論が求められる。更に、保育園事故や不慮の事故を防ぐには、親がそのリスクを十分に把握することが不可欠だ。本連載では子供の命のリスクと、解消策を網羅的に検証した。子の命を守るのは大人の責任だ。


キャプチャ  2019年9月21日号掲載

テーマ : 社会問題
ジャンル : ニュース

【クスリの大罪】(13) 気付いたら“薬漬け”に…精神医療の深過ぎる闇



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「あの時、しっかり休暇を取っていれば、こんなことには」――。悔やんでも、もう遅い。失った時間や被った経済損失は取り戻せない。医療機関での不適切な向精神薬処方によって、患者たちが人生を棒に振る悲劇が長年繰り返されてきた。被害者には共通点がある。仕事等の無理が祟って心身が悲鳴を上げた時、精神科や心療内科に救いを求め、無責任な医師が安易に処方する過剰な薬を長期間飲み続けてしまったのだ。被害者の不調の原因は、元はといえば心労や睡眠不足だった。有給休暇を消化して、心身を休めればよかったのだ。仕事がきつ過ぎるのなら、上司や会社に申し出ればいい。それでも駄目なら転職という選択肢もある。だが、被害者たちは“休む”という当たり前の行動を取れなかった。このような人たちが精神科や心療内科を受診すると、直ぐに鬱病・睡眠障害・不安障害等と診断されて、複数の薬を処方されるケースが極めて多い。薬物治療が全て悪いわけではないが、働き過ぎという根本原因を改めないまま薬を飲んでも、問題は解決しない。そればかりか、漫然処方は患者を副作用で苦しめ、自然回復力を奪い、単に疲れているだけの人を“慢性疾患患者”に変えていく。睡眠薬や抗不安薬の服用が長期化すると、患者は処方薬依存に陥る。薬を減らすと体調不良が起こるので、薬を益々止められなくなる。その先には、薬の影響により作業能力が低下、失業し生活保護の受給を余儀なくされる等、負の連鎖が待ち受けている。処方薬依存の被害者は、日本では少なくとも数十万人規模で存在するとみられる。だが、国も医療界も実態調査をしようとしない。そればかりか、「断薬後の体調不良は薬のせいではない」等と主張し、被害を矮小化しようとしている。

被害者が声を上げても無視され、裁判を起こしても現状では先ず勝てない。その為、深刻な医療被害に歯止めがかからず、社会的損失が拡大し続けている。被害者探しに苦労は要らない。私たちの周りにいくらでもいるからだ。東京都内に住む福島宏さん(※仮名、56)は、心療内科クリニックの漫然処方で10年間を棒に振り、仕事を続けていれば得られた筈の収入約2億円をふいにした。優秀な商社マンだった福島さんが長期間働けなかったことによる社会的損失は、無駄に費やされた医療費まで含めると、その数倍、数十倍にも上るだろう。福島さんは東京大学法学部を卒業し、大手総合商社に入社した。仕事は順調で、やり甲斐を感じていた。海外赴任を何度も経験して、結果を出していった。若い頃はそれほど眠らなくても仕事に打ち込めた。だが、40代になると体が悲鳴を上げた。新規事業の立ち上げと不採算部門の切り捨てに同時に関わる等、精神的にも過酷な場面が増えて、心までも悲鳴を上げ始めた。45歳の時、疲れているのに目が冴えて眠れなくなった。朝の満員電車内で激しい動悸に見舞われるようになり、出社後も集中できずに仕事を停滞させた。次第に「自分は社内の笑いものになっている」との思いに駆られるようになり、同僚の視線に恐怖を感じ始めた。会社には内緒で近所の心療内科を受診した。医師は10分程話を聞いただけで、鬱病・パニック障害と2つの病名をつけた。治療の見通しや服薬期間等は示さず、抗鬱薬・抗不安薬・睡眠薬を計4種類処方した。福島さんはこう振り返る。「『薬を飲めば直ぐに回復して、また仕事に打ち込める』と思い込んでいました。苦しくて何かに縋りたかったとはいえ、縋るものが間違っていたのです。愚かでした」。そして、こう指摘する。「精神科や心療内科が出す向精神薬は、効いたとしても症状の一部を一時的に改善するだけで、不調の根本原因を治すことはできません。そればかりか、飲み続けると深刻な副作用に見舞われる可能性が高い。私の症状の原因は過労だったのです。周囲の目など気にせず、長期休暇を取ってゆっくりしたり、仕事内容を変えてもらったりしていれば、間違いなく治っていました。でも、罪悪感からそのような行動に出られず、医者と薬に頼り切ってしまった」。睡眠薬の効果で少し眠れるようになった。だが、4種類の薬を飲み続けて1ヵ月程すると異変が起こった。万能感に満ち満ちた躁状態に陥ったのだ。「弁護士になる」と妻に宣言して、司法試験の勉強を始めた。同時に「プロゴルファーになる」とも宣言して、ゴルフの打ちっ放し練習場に通った。性格は著しく攻撃的になり、貯金の殆どを株式投機に費やしてしまった。長年勤務した大手総合商社に対しては、言い知れぬ怒りがこみ上げてきた。いきなり退職願を出して、畑違いの会社に転職した。服薬開始から半年後のことだった。転職した会社の採用面接では、「自信満々な態度で、できもしないことを平気で語っていました。でも、当時は本当にできると思い込んでいた」という。

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【ファクトフルネス・常識を疑え】(14) 「GDPで見た日本は一面的なものだ」――デヴィッド・ピリング氏(『フィナンシャルタイムズ』アフリカ編集長)インタビュー

先進国経済が成熟化する中、GDPだけで経済パフォーマンスや人々の満足度を計ろうとする従来の手法は限界に近付いている。3月20日に邦訳版が出版された『幻想の経済成長』(早川書房)でGDP神話にメスを入れたデヴィッド・ピリング氏に話を聞いた。 (聞き手/本誌 野村明弘)



20190930 02
――日本に初来日した時、驚いたそうですね。
「2002年、私はフィナンシャルタイムズの東京支局長として来日した。当時、世界の日本に対するイメージは酷いものだった。一時は経済超大国に上り詰めながらも、その状況は崩壊し、悲惨な経済の低成長がずっと続くと言われていた。だが、来日した時の印象は全く違った。勿論、完璧ではないが、問題は全然なさそうで、人々は満足そうだった」
――その当時、日本の名目GDP(※円ベース)は減少していました。
「我々は経済や社会の状況を全てGDPで表現しがちだが、それは間違っている。例えば、日本は犯罪の少ない国だが、GDPの計測では犯罪が多いほど経済はよくなる。防犯用品が売れたり、警察や警備会社の人員が拡充されたりするからだ。GDPは生産に関する指標であり、それがネガティブな防犯目的であっても、生産が多いほどよいことになる」
――GDPで計測できないものに注意が必要ですね。
「GDPは1940年代にアメリカで発明されたが、製造業が主流の時代であり、モノの産出は計測するが、サービスの質の面は一切捕捉していない。日本経済の強みは、この質の部分だ。例えば、新幹線が時刻表通りに運行されたり、百貨店やコンビニの顧客応対が優れていたりと、日本は非常に高い水準を維持しているが、こうした部分はGDPには反映されない」
――デジタル経済で消費者の満足が拡大していることにも対応できていないと指摘しています。
「例えば、航空券の手配を考えてみよう。嘗てなら東京発パリ行きの航空券を買う時、消費者が旅行代理店に出かけ、そこの営業担当者が電話で航空券の手配を行なって、それが紙の封筒に入って送られてくる。諸々のものが目に見える経済活動としてあった。現在は消費者がオンラインで直接予約をするから、中間にいた人員や費用は全てカットされる。結果的にGDPは縮小してしまうが、消費者の満足(※消費者余剰)が増えていることは反映されない。GDPは、イノベーションを捕捉することにも長けていない。例えば100年前なら、大金持ちでも命を救う為に、資産全部を売って抗生剤を手に入れる必要があった。しかし今は、全く同じ抗生剤がほぼゼロに近い価格だ。モノの価格という意味では、高級料理やスポーツカーのような贅沢品のほうが、抗生剤よりGDPへの貢献が大きい。人の命を救う価値のあるものでも、価格が高くないとGDPには反映され難い。それがイノベーションを捕捉することに長けていない理由だ」
――他に注意すべき点は?
「国家間の経済パフォーマンスを比較する時にもGDPは使われることが多い。だが、デフレ型の国とデフレが発生していない国、人口減少国と人口増加国、質の高いサービス産業中心の国と製造業中心の国等について、名目GDPで比較することはミスリーディングだ。名目GDP一本槍でなく、実質GDPや一人当たりGDPを使って考えたほうがよい」

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