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【The CONFIDENTIAL】(43) 起死回生を狙うヤフー(中)…43歳新社長への“遺言”

来月、『ヤフー』社長に就任する副社長兼COOの川辺健太郎(43)には、胸の中にしまっていた後悔がある。学生時代に自分を見い出しくれた恩師との再会。そして、些細な行き違いで起きた“裏切り”。いよいよ表舞台に立つ、その前に伝えたいことがあった。





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1999年4月、川辺は早稲田大学で開かれたカンファレンスに、学生ベンチャーの『電脳隊』社長として招かれた。この時24歳。最前列でメモを取っていた男が、講演の後に話しかけてきた。「君の話をもう少し聞かせてくれないかな?」。男の名は佐藤完。『ソフトバンク』の経営戦略室の者と名乗った。川辺が率いる電脳隊は、当時としては珍しいモバイル関連のウェブサービスを手掛けていた。その年の1月に『NTTドコモ』が『iモード』を発表し、モバイルインターネットに先鞭を付けていた。佐藤は、モバイルで巻き返す為の種を探していたのだ。佐藤は早速、恵比寿にある電脳隊のオフィスを訪れた。モニター画面と複雑に伸びた回線。そして、コンピューターが好きでたまらないといった風情の学生たち。「なるほど、人が集まっている。この男は間違いない」と確信したと言う。その4年程前の1995年11月23日午前0時。『マイクロソフト』の『ウィンドウズ95』を求める若者たちが、夜の秋葉原を埋め尽くした。その場にいた川辺は予感した。「これからインターネットの時代が始まる」。青山学院大学3年生だった川辺は、友人の伝手で慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに田中祐介を訪ねた。「映画を作ってインターネットで流したいんだ」「面白いね、それ」。2人が作ったのが電脳隊だ。初代社長となった田中は、「インターネットで面白いコンテンツを流せないかと。ベンチャーと言ってもサークル活動みたいな感じでした」と振り返る。この4月に川辺からヤフーの動画配信子会社『Gyao』の社長を託され、2人で語った夢は現実となる。

実は、佐藤より少し前に異能集団の実力を見抜いた人物がいる。先月、『KDDI』社長に就任した高橋誠だ。当時は旧『DDI』の課長。ホームページの作成代行で日銭を稼いでいた電脳隊の腕を見込み、初めてモバイル関連の契約を交わした。「あの当時は、モバイルと言えば得体の知れない連中ばかりで、川辺君たちもそう(笑)。でも、何故かシンパシーを感じた」と言う。どうしても電脳隊を手元に引き入れたいと思った佐藤は、ソフトバンク子会社のヤフーによる買収を提案する。会計畑出身の佐藤が弾き出した金額は54億800万円。株式交換方式だが、当時のITベンチャーへの買収としては最大規模だった。2000年のことだ。同年9月に電脳隊はヤフーに買収され、佐藤もソフトバンクからヤフーに合流し、経営戦略部長となった。ヤフーでどう腕を振るうか? 川辺がモバイル担当プロデューサーの肩書を与えられた直後に誤算が生じた。ソフトバンク社長の孫正義が、ADSL方式を使ったブロードバンド回線に新規参入したのだ。孫は、高止まりするインターネット回線に価格破壊を仕掛けたが、ブランドに使ったのが『ヤフーBB』だった。ライバルは巨艦NTTだ。「我々にとって桶狭間の戦い。グループから集められるだけ人を集めろ。人間なら誰でもかまわん」。ヤフーからも多くの人材が割かれた。川辺ら新参の“モバイル屋”も例外ではなく、存在感は次第に薄れていった。ヤフーがモバイル事業に力を入れる気配はない。宙に浮いた川辺の興味は拡散し始める。若いIT経営者たちと共にのめり込んだのが、プロ野球再編だった。2004年6月13日、『大阪近鉄バファローズ』と『オリックスブルーウェーブ』の合併交渉が報道で明らかになる。丁度、この年の初め頃から、『楽天』に在籍していた小沢隆生(※現在はヤフー常務執行役員)や川辺らが“日本のプロスポーツを面白くするには”という勉強会を頻繁に開いていた。楽天もヤフーも、当時は共に『六本木ヒルズ』に入居していた。プロ野球界で議論されていたのは1リーグ制等、球団数の削減やリストラばかり。川辺や小沢の考えは違った。インターネットを通じて球団経営を活性化し、軈てアジアや世界に打って出る――。如何にも拡大志向のIT起業家らしい発想だった。『東京ヤクルトスワローズ』の主力選手だった古田敦也が選手会を代表し、球団数削減に真っ向から反対し始める。そこで川辺と小沢は、勉強会を通じて知り合った選手会の担当弁護士と連携を取り合い始める。6月25日夜、佐藤の携帯電話が鳴った。川辺からだった。「このままいくと、次のオーナー会議でオリックスによる近鉄の買収が決まって、球団数が減ります。それを遅らせる為に、『ヤフーがバファローズを買収する』と宣言できませんか?」。ヤフーによる球団買収は社長の井上雅博まで上がった模様だが、結果はNOだった。「その代わり…」と言って、佐藤は川辺に伝えた。「三木谷さんと堀江さんに相談してみたらどうだ?」。楽天社長の三木谷浩史からは返事が無かったが、やはり六本木ヒルズに入居する『ライブドア』率いる堀江貴文からは翌朝、僅か4文字のメールが返ってきた。「買います」。

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【The CONFIDENTIAL】(42) 起死回生を狙うヤフー(上)…新3トップは全員起業家

『ヤフー』は先月1日の新体制で、川辺健太郎(43)が副社長のままCEOに就任。来月の株主総会後の取締役会の決議を経て社長に就任する。新たな経営ボードに副社長職は無い。両脇を固めるのは、常務執行役員メディアカンパニー長の宮沢弦(36)と同コマースカンパニー長の小沢隆生(46)だ。





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撤退か、起死回生の挽回策か? 2013年、ヤフーが運営するインターネット通販サイト『ヤフーショッピング』は、ギリギリの所まで追い込まれていた。出店者数は約2万店。『楽天』の半分以下で、『Amazon.com』の背中は遥かに遠い。同年8月13日、港区汐留にある『ソフトバンクグループ』本社26階の大会議室は、異様な緊張感に包まれた。ブン、ブン…。黙って話を聞いていた孫正義が徐に席を立つと、木製バットを無言で振り回し始めた。大スクリーンの前では小沢がプレゼン中。孫のバットは、その直ぐ隣でうなりを上げる。「俺、どうなるの?」。小沢は呆気に取られたが、気を取り直して話を続けた。すると、今度は孫が竹刀に持ち替えて迫ってきた。怯む小沢。孫はお構いなしに、その場で上段の構えから素振りを始めた。この日の議題はヤフーショッピングの挽回策。実動部隊に指名された小沢が孫たち経営陣に説明したのが、出店無料化だ。Eコマースの巨人である中国の『アリババ集団』が手掛ける『淘宝(タオバオ)』をモデルにしたものだ。1999年に20代でベンチャー企業を作った小沢は、百戦錬磨のつもりでいたが、初めて孫を目の前にしたこの時は違った。実は、大きな決断を迫られ、熟慮する際にバットや竹刀を振るのは、孫の若い頃からの習慣なのだが、当然、小沢は知らない。「本当に殺されるんじゃないかというくらいの殺気を感じました」と振り返る。

出店無料化はサイトの規模拡大効果があるが、その代償は大きい。瞬時に100億円の利益が飛ぶ計算になる。小沢の結論は、「それでも押し通すべき」だった。プレゼンが終わると、孫は竹刀を置いて短く告げた。「100%アグリーだ。今直ぐやれ」。2013年10月に公表すると、僅か1日でそれまでの店舗数を上回る2万6000件の出店要請が届いた。2017年末までに出店数は30倍以上の65万店になり、購入者数も2倍超に。勢いに乗ったヤフーは2017年12月、「2020年代初頭に楽天とAmazonを越える」と宣言した。しかし、急激な方針変更であちこちに軋みが生じた。システム変更が原因で送料や商品代金が正しく表示されないトラブルが続発。利用者からは、「サイトをクリックしたら購入サイトではなく宣伝ページに飛んでしまう」等の苦情が相次いだ。更に誤算だったのが、無料化以前からの既存の出店者からの批判だ。ヤフーは、広告料を多く支払えば“おすすめ順”のランキングが上がる。出店者が急増した結果、価格や品質より広告費が重視され、古参の出店者のランキングが下がり、結果、ユーザーの満足度も落ちた。「早期解決のヒントはあった」と小沢が振り返る。その頃、孫の計らいで、小沢がアリババ会長のジャック・マーにヤフーの取り組みを紹介することになった。小沢の話を聞き終わったマーは、「Eコマースで一番大事な指標は何だと思う?」と質問してきた。「GMV(※サイト上での総取引額)です」と答えると、マーは首を横に振った。「違うな。出店者の幸福指数だよ」。アリババを参考にしながら、出来上がったものが異なっていることをマーは見抜いていたのだ。それでも、撤退直前だったEコマースを立て直した手腕は、6月に新社長に就任する川辺健太郎によるヤフー新体制のキーマンとして期待されている。小沢と川辺との出会いは1999年、渋谷にITベンチャーが集まった“ビットバレー”の時代に遡る。インターネットで中古品を販売する『ビズシーク』を創業したばかりの小沢は、青山学院大学の仲間を中心に学生ベンチャーの『電脳隊』を結成した川辺の書籍を読んでいたのだ。川辺より4学年上だが、互いにアントニオ猪木の大ファン。川辺は「モバイルインターネットの時代になる」と言い、小沢は「俺はEコマースが来ると思う」と返した。2人が予言した21世紀の新たな世界は、どちらも的中した。2人の人生は13年後に再び交差する。ビズシークを楽天に売却し、新球団『東北楽天ゴールデンイーグルス』の設立に関わった小沢は、楽天社長の三木谷浩史に「ライオンキングに出たい」と言って同社を後にする。役者は、小沢のもう1つの夢だった。不合格となったが、実際に『劇団四季』のオーディションに参加した。その後に設立したベンチャーをヤフーに売却して同社に移ったのが、2012年のことだ。小沢は、楽天への義理から「Eコマースはやらない」と言い張ったが、その年にCOOとなっていた川辺はEコマースの再建を懇願した。仕方なく投資部門と掛け持つことにしたが、今度は孫から「片手間でジャック・マーやジェフ・ベゾスに勝てるのか?」と一喝されて、腹を固めたと言う。

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【教科書に載らない経済と犯罪の危ない話】(90) 麻原彰晃らの死刑執行にみる“極刑”の社会的意義

首から下を地中に埋められた男が、こちらを見ている。その周囲には拳くらいの石が集められていた。男は間もなく石打ちの刑を執行されるのだ。中世の物語ではない。今から10年程前の話である。アフガニスタンの首都・カブールから南へ約300㎞、パキスタンとの国境近くにある街でのことだった。男の年齢は40くらいだろうか、落ち着きなく周囲を見回している。どうやら男は姦通罪に問われ、石打ちによる死刑が宣告されたらしい。日本人、いや非イスラム教徒には理解し難いかもしれないが、これはイスラム法による当然の刑罰なのだ。処刑される男は決められたルールを破ったのだ。その行為に及べば石打ちによる死刑になると知りながら、法を犯した。それが残酷であろうが不条理であろうが、その法を規定する共同体外の者が異議を挟む余地はない。人間が秩序ある社会を構築するには、高度な文明と法の支配が必要である。だが、様々な地域と文化を同質の価値観で標準化するのは不可能である。だからこそ、その国と地域に根差したルールがあり、法があるのだ。刑罰についても同じである。他国の刑罰権に干渉するのは異文化の否定であり、明らかな内政干渉だ。今月6日、『オウム真理教』による一連の事件で死刑が確定していた13人の内、麻原彰晃ら7人の刑が執行された。死者27人、負傷者6000人以上という未曽有の凶悪犯罪である。死刑判決は当然であり、執行は遅過ぎたくらいだ。この死刑執行を受け、日本国内はもとより、海外からも非難の声が上がった。「死刑は残酷な刑罰であり、人権侵害だ」というものである。

死刑は果たして残酷な刑罰だろうか? 人が命を奪われるのだから残酷である。だが、残酷でなければ極刑の意味はない。何より、刑を執行される死刑囚は、それ以上に残酷な犯行に及んでいることを忘れてはならない。これが応報論である。死刑制度に反対する人は、「死刑に凶悪犯罪の抑止力はない」と言う。しかし、「凶悪な犯罪を行なえば死刑になるかもしれない」という認識は誰でも持っている。この意識こそ道徳の基礎となる応報の考えであり、最も重要なのだ。「死刑は人権侵害である」という意見もおかしい。刑罰とは人権を侵害する行為なのだ。そのルールを認識しながら法を犯し、他人の人権を踏み躙る者の人権など、尊重する必要はない。「冤罪による執行は、その死が取り返しのつかないものであるから反対である」という意見はどうだろう? 尤もらしい考え方ではあるが、本質を見落としている。人の死には自然死以外、取り返しのつく死など無いからだ。交通事故死であっても然りである。冤罪も絶対に起こらないとは言えない。だが、現在の科学捜査と裁判制度から、冤罪の生まれる確率は無いに等しいだろう。「死刑は国家による殺人である」という形容も異常だ。このロジックなら交通事故死は自動車による殺人だし、飛行機事故死は航空会社による殺人になる。そのような思考は、社会を委縮させるだけの愚かなものだ。「死刑廃止は世界の趨勢である」という意見もある。だが、趨勢が普遍的に正しいものとは限らない。世論調査によると、8割以上の国民が死刑制度を支持している。この事実が相対的な正義なのだ。死刑囚は執行されることで、その苦から解放される。だが、残された被害者の遺族はどうか? 死ぬまでその心が癒やされることはないだろう。ただ、犯人が死刑となることで、1つの区切りとなるのは間違いない。この応報感情こそ、死刑制度存続の意義である。 (http://twitter.com/nekokumicho


キャプチャ  2018年7月31日号掲載

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【言論StrongStyle】(13) 現在の言論界を支配する絶対に不正解の両極端な二者択一とは?





詐欺師の手口を1つ教えよう。正解を含まない二者択一を迫ることだ。例えば、「インフレか、デフレか?」のように。このような脅迫的な質問をされたら、経済学など真面に勉強していない普通の人は騙されるだろう。そして詐欺師は、「アベノミクスを続ければインフレになる!」のような煽り方もするだろう。斯くして、圧倒的多数の普通の人はミスリードされる。では、質問を変えよう。「熱病と凍死、どちらがよいか?」と聞かれたらどうか。どちらもダメに決まっている。「インフレか、デフレか?」という強迫的な質問は、「熱病と凍死、どちらがよいか?」の二者択一と同じなのである。人体にも常温があるように、経済にも適正状態がある。マイルドインフレが常温で、悪性インフレが熱病、デフレが凍死なのである。戦前・戦中も、このような二者択一は存在した。「親英米か、反英米か?」である。この場合の“親英米”とは、「アングロサクソンの靴の裏を舐めれば日本人は永遠に幸せである」と「鬼畜米英!」の2つの極論だった。大正デモクラシー期は前者の風潮が支配的だったので、その反発として戦時中は後者が主流となった。結果、日本と英米が潰し合いをしてくれたおかげで、三国の共通の敵だったソビエト連邦は大喜びとなった。「親英米か、反英米か?」という議論では、決して“ソ連”という単語は聞こえてこなかった。寧ろ、ソ連の脅威を隠す為に「親英米か、反英米か?」の二択を煽り続けていた勢力があったとしか説明がつかないのだ。そして、現在の言論界も2つの極端な議論に支配されている。「安倍政権支持か、安倍政権不支持か?」である。「安倍晋三は100点か、0点か?」と言い換えてもよい。抑々、人間の評価に100点も0点もある筈がない。1~99点の膨大な中間地帯の中に正解があるものであって、両極端な二択だけは絶対に不正解の筈だ。また、いくら長期政権と化している総理大臣であっても、1人の人間の是非のみが言論の基軸となるなど、異常である。

だが、残念ながら“全肯定と全否定”でしか考えられない人々が多数で、個別具体的に是々非々で考えられる言論人や言論機関が極めて少数なのが現実である。ある時、私はある場所で自民党改憲案を徹底的に批判する講演を行なったことがある。すると、何を聞きつけたか、護憲派の新聞が取材に来た。どうやら自分の味方だと勘違いしたらしい。私は「護憲派など論外である」との前提で、今の改憲派の間違いを正しただけである。これとて、安倍自民党改憲案を全面支持するか全否定の不支持であるかの二択の発想である。自民党改憲案にも100の内、2つくらいは真面な部分もあるし、護憲派だって三分の理くらいはあるだろうに。読者諸氏は最早覚えていないかもしれないが、悲惨だったのが集団的自衛権の議論だ。“安倍0点派”は「これまで内閣法制局が一貫して守ってきた憲法解釈を変えるな!」と叫び、“安倍100点派”は「○○を変えるぞ!」と応酬する。あの時、「お前(※倉山)はどちらの味方なのだ?」と保守を自称する連中から散々迫られたが、馬鹿馬鹿しくて発言する気にならなかった。何故ならば、両者の“これまで内閣法制局が一貫して守ってきた憲法解釈”という前提自体が間違いだからだ。抑々、日米安保条約が集団的自衛権を行使する為の条約であり、基地提供や資金援助は集団的自衛権の行使そのものである。在日アメリカ軍基地が日本国に存在する以上、日本はとっくにアメリカの戦争に参加しているのだ。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争において、日本は中立国でも何でもなく、交戦国である。つまり、安倍支持派も不支持派も、“憲法解釈を一貫して守ってきた”等という内閣法制局の大嘘に騙されている時点で、同じ穴の貉なのである。“頭が悪い”という意味において。最近、ネットスラングで“左”や“リベラル”を“パヨク”、“右”や“保守”を“ネトウヨ”と呼ぶことがある。前者は“日本国が嫌いで日本政府にも批判的な勢力”であり、後者は“日本国が好きだから日本政府の過ちも批判しない立場”である。私は前者を“左下”、後者を“右下”と呼び、両者共に蔑んでいる。内閣法制局などは、“日本国が嫌いなくせに日本政府の権力をこよなく愛する勢力”の筆頭である。こうした“左上”の詐術にまんまと騙されている時点で、“左下”も“右下”も“下”なのである。

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【不養生のススメ】(16) 運動もやり過ぎては毒





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「認知症の予防に運動しよう」――。よく聞く話だが、具体的にどのくらいどんな運動をすればよいのだろう? 今年5月、ハーバード大学の研究者らはアメリカ神経学会誌に、認知機能障害の有無に拘わらず、毎回1時間、6ヵ月間に少なくとも52時間の運動で、高齢者の認知能力が向上することを発表した。また、サイクリングやランニング等の有酸素運動、ウォーキングから筋力トレーニング、太極拳やヨガ等の心身の運動に至るまで、ほぼ全てのタイプの運動で認知能力が改善した。つまり、認知能力の向上には「1週間にたった2時間の好きな運動でよい」という結果だ。この研究の方法は、メタ解析と言われる、過去に行なわれた複数の研究結果を収集・統合し、より信頼性の高い結果を求める統計解析だ。前出の研究者らが、運動が認知機能に及ぼす影響について過去の報告を検索したところ、約4600件もの臨床試験が見つかった。その内、対象60歳以上、研究のデザインがランダム化比較試験、少なくとも1つの認知症を評価する為に神経心理学的検査をしている等の基準を満たした、最終的に98件の研究が解析の対象となった。対象者は約1万1000人(※平均年齢73歳、68%が女性)で、59%が健康な高齢者、26%が軽度の認知障害、15%が認知症に分類された。因みに、ランダム化比較試験のメタ解析は、根拠に基づく医療において、最も信頼性の高い結果を得ることができる。

実は最近、運動のやり過ぎは却って体に悪いことが懸念されている。イリノイ大学のディープイカ・ラドゥー博士らによる、2017年のメイヨークリニック会報の報告では、運動のやり過ぎは心臓血管疾患のリスクを高めることが示された。この研究の対象者は、『若年成人の冠動脈リスク発症(CARDIA)研究』に参加した、若年成人から中年までの約3200名。1985年から2011年の25年間にも及ぶ追跡調査だ。研究者らは、参加者の運動パターンや、心臓疾患の予測因子である冠動脈の石灰化をCTスキャンで評価し、『アメリカ疾病予防管理センター』のガイドラインが推奨する適度な運動(※1週間に150分)を実践しているグループ、それ以下のグループ、それ以上のやり過ぎのグループ(※1週間に450分、又は推奨量の3倍)に分けた。結果、やり過ぎのグループは、ガイドライン以下のグループに比べて、冠動脈石灰化が発症する可能性が27%も高くなった。中でも、白人男性の危険度が最も高く、運動をやり過ぎる男性は、ガイドライン以下の男性よりも、冠動脈石灰化の発症が86%高くなった。ラドゥー博士は、「運動のやり過ぎが、時間の経過と共に動脈にストレスを引き起こし、冠動脈石灰化のリスクが高まる」と考えている。更に2015年、アメリカ心臓病学会誌のオックスフォード大学の研究者らによる報告は、健康なイギリス人女性約110万人の対象者(※平均年齢56歳)を平均9年間調査した。結果、1週間に2~3回、発汗したり、心拍が速まるような運動をした人は、運動しない人と比較して、心臓病、脳卒中、静脈血栓塞栓症のリスクが約20%低くなった。但し、毎日運動する参加者は、却ってそれらの疾患のリスクが高まった。つまり、リスクはU字型カーブを描く。また、ガーデニングや家事を含むあらゆるタイプの身体活動は、激しい活動とほぼ同じ効果を示した(※右上表)。全米スポーツ医学会のキャンペーン『運動は薬』のエイドリアン・ハッバー副会長は『CNN』で、「一部の患者は、運動はジムに通うことと思っている。ジムが好きな人もいれば嫌な人もいる。犬の散歩、園芸やダンスのクラスを取ることも身体活動だ。やりたいことは続けられる。体はジムに行くか、犬の散歩をするかは気にしないし、違いを知らない」と言っている。扨て、U字型のリスクカーブは、2015年のアメリカ心臓病学会誌のデンマークからの研究でも証明されている。研究者らは、ジョギングの量(※ペース、回数、時間)と死亡率について調査した。研究の対象は、コペンハーゲン市心臓研究の参加者で、1098人の健康なジョギング愛好家と、3950人の健康だがジョギングをする習慣はなく、座りがちな生活を送る人たちだ。2001年から12年間の経過観察中、ジョギング愛好家の内の28人、座りがちな参加者の128人が死亡した。

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中国が実体伴わぬ“マルクス礼賛”…若者の思想統制を狙うも効果は不明





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中国共産党が、ここにきて“マルクス主義”の思想強化に努めている。今春、党幹部養成機関の『中央党校』と公務員を育てる『国家行政学院』の統合を打ち出し、政府機関への思想統制を強化した。5月には人民大会堂で『マルクス生誕200周年記念大会』が開催され、習近平国家主席の演説を生中継で放送する熱の入れようだった。鄧小平が1978年から進めた改革開放政策により、現代中国は“日本以上の資本主義社会”と揶揄されることは周知の通りだ。40歳以下の世代では“豊かさの追求は正しい”と教わってきた。入党ですら「ステータス」「就職に有利」と、1つの資格のように扱う若者が多い。ある党幹部は「マルクス主義や社会主義を理解せぬまま幹部候補になる若者が多過ぎる」と嘆き、思想統制の方針を強調した。再教育を指揮する王滬寧(※政治局常務委員)は、腹心を党機関紙の『人民日報』に送り込む等、メディア対策を強化する構えだ。とはいえ、現実から乖離した19世紀の思想を、21世紀の若者がすんなり受容するとも思えない。

               ◇

6月12日の米朝首脳会談について、イスラエルが表向きの称賛とは裏腹に、内部では厳しい見方を示していたことがわかった。イスラエル外務省が会談直後に作成し、世界各地の大使館に送った内部文書の内容が同国の民放に漏れ、ニュース番組で紹介された。米朝会談直後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「歴史的会談だった」と称賛したが、漏洩した文書では「会談前にアメリカが説明していたことと、共同声明の間にかなり落差がある」と率直に認めている。特に、“完全且つ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)”の文言が盛り込まれていないことについて、強く疑問を呈している。この文書の真偽についてだが、イスラエル政府はあっさりと本物と認めており、意図的にリークした可能性さえある。米朝会談への厳しい評価も、「ドナルド・トランプ政権なら非難ではなく“叱咤”として許容されるのではないか」という、強固な信頼関係を窺わせる。

               ◇

キルギスのソーロンバイ・ジェーンベコフ大統領が、「中国国境付近にロシアの軍事基地設置を認める」と発表した。「アフガニスタンからのテロ組織、過激派、麻薬密売組織の侵入阻止が目的」(同)とされるが、ロシアが中央アジア進出を強化する中国を牽制する狙いとみられている。新基地はキルギス南部のバトケン地区に設置され、新疆ウイグル自治区に近い。キルギスでは2つ目のロシア軍基地となる。同じく中国に隣接するタジキスタンにも、ロシア軍は2ヵ所に軍事基地を設置しており、うち1つは大気圏外の衛星や飛行体の監視施設を備えている。ロシアが“裏庭”と見做す中央アジアに、中国は『一帯一路』を掲げて経済的、人的進出を強化している。経済力では中国に太刀打ちできないロシアは、軍事圧力によって中国の進出に対抗し、中央アジアへの影響力温存を図っているようだ。

               ◇

通信傍受システム『エシュロン』を運用する、アングロサクソン系国家5ヵ国による高度な情報共有枠組み『ファイブアイズ』から、ニュージーランドを除外しようという動きが進んでいる。理由は“中国の影響力増大”。カナダの諜報当局が公表した報告書によると、中国がニュージーランドの政財界上層部に浸透してファイブアイズの情報を入手しているという。今春にアメリカ議会で開かれた公聴会でも、出席したCIAの元中国分析担当官が、「ニュージーランドがファイブアイズの最も弱い部分になっている」と証言し、暗に同国の排除を求めた。ニュージーランド政府は、こうした指摘に対して「根拠がない」と突き放しているが、逆風は収まらない。

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全ては内田正人“新理事長”誕生の為…殺人タックル強要の背後で繰り広げられる『日本大学』の権力闘争

練習試合で選手に“殺人タックル”を命じた『日本大学』の内田正人前監督に、日本中から批判が集まっている。しかし、内田前監督と井上奨コーチが行なった緊急会見では、大学広報は彼らを必死に庇う様子すら見せた。一体、日大に何が起こっているのか? (取材・文/フリーライター 西本頑司)





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どこまで腐っているのか――。殺人タックルで注目を集めた日大アメフト問題は、2018年5月22日、同部選手の宮川泰介が記者会見を行ない、「監督とコーチに強要された」ことを明言した。報道されてきた内容が全て事実であったのだ。立派な体格を縮こませて何度も頭を下げ、目に涙を浮かべながら被害者へ謝罪する姿に、こんな真面目な青年を“ヒットマン”に仕立てた日大アメフト部首脳陣に、日本中が怒りを感じたほどであった。インターネット等で公開された映像は、アメフトを知らなくても、どれほど危険なプレーだったのか一目瞭然でわかる。ピッチ上でチンピラよろしく暴れ回り、普通なら「永久追放しろ」「傷害で逮捕しろ」と徹底的に選手が叩かれるところだろう。しかし、怪我をした『関西学院大学』アメフト部選手の奥野耕世を筆頭に、相手チームから批判の声は出なかった。長期に亘って活動停止になりそうな日大アメフト部(※日大フェニックス)の選手たちも、こぞって彼を擁護した。事態を重く見た『関東学生アメリカンフットボール連盟』は、「(選手を)トカゲの尻尾にさせてはならない」と異例の声明。大阪市議(※維新)でもある被害者の実父も彼を擁護していることからして、関係者たちは事件の構図を最初からわかっていたわけだ。実際、同6日の練習試合の騒動が表沙汰になったのは、専門誌『HUDDLE magazine(ハドルマガジン)』が動いたからだった。去年優勝した日大と優勝候補筆頭の関学の定期戦は、シーズンを占う重要な試合。同誌は総力を挙げて取材をしていたという。

「あまりの酷いプレーに驚いたハドルマガジンは、直ぐに調査に動いた。それで日大内部で何があったのか、正確に判明したわけです。これが大手スポーツ紙だけなら騒動にもなっていなかった筈。実際、ハドルマガジンを通じて関学サイドや関東連盟にも事情が直ぐに伝わり、怪我をした関学の選手も『あんなことをするヤツじゃないんで責めないでほしい』と、逆に宮川君を気遣っていたといいます」(週刊誌記者)。記者会見で選手自らが語った日大アメフト部首脳陣のやり口は、今時、少年漫画の悪役でもしないような酷さだった。抑々、宮川は高校時代からクレバー且つクリーンなディフェンスで知られ、19歳以下日本代表に選ばれる逸材。日大に入学した2016年、丁度、内田が監督を勇退していたこともあり、1年生からフェニックスの守備の要となっていた。2017年、内田が監督に復帰した年も大学日本一の原動力だった。にも拘わらず、3年生となった2018年、突如としてレギュラーから外され、コーチの井上を通じて、彼の持ち味であるクレバーでクリーンなプレーを、「『やる気を感じない』と監督は不満に思っている」「チームのスタイルに合っていないと、監督は戦力外と判断している」「代表も日大の恥となるから辞退しろ」と全否定されたのだ。当然、選手はパニックになる。精神的に追い詰めたところで、日大と優勝を争うであろう関学のエースであるQBを「潰せ」と“殺人指令”。このQBと宮川は、日本代表を通じて仲が良かった。それを知った上で、「シーズン後半、優勝争いに出場できないレベルの怪我をさせろ」と強要したのだ。記者会見で「1回目のタックルで負傷退場したのに気付かず、交代選手にも危険な行為をしてしまった」と語った通り、心神耗弱の状態まで追い詰められていたことが窺えよう。幸いにも、関学の選手は後遺症も無い軽傷で済んだ。脊髄損傷といった大怪我になっていれば、罪に苛まれて自殺にまで発展していた可能性もあった。内田は、日本アメフト界の宝と言っていい2人の有望な選手を“殺そう”していたのだ。とはいえ、である。アメリカと違い、日本のアメフトはプロリーグも無いマイナー競技であり、大学日本一を決める『甲子園ボウル』といっても、大半の人はそこまでの関心はない。その程度の名誉の為に何故、殺人タックルをさせてまで相手エースを潰そうしたのか、疑問になろう。そこで浮かんできたのが、日本最大級の学校法人グループである日本大学の利権である。理事長職と勲章欲しさに、選手に殺人タックルを命じた疑惑が囁かれているのだ。

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【US Affairs】(35) “富の街”サンフランシスコ、ホームレスが経済に打撃

去る7月初め、シカゴに本拠を構える大きな医療関連組織が、サンフランシスコ市で半年に1回開催してきた会議を今後中止すると決めた。この医療関連組織の名前は明らかにされていないが、会議が中止された事実が、同市の会議ビジネスを統括する『S・F・トラベル』によって発表された。この医療関連組織は、1980年代からサンフランシスコ市で会議を開催してきた。5日間の会議には1万5000人が参加し、4000万ドルの経済効果を与えてきた。同市での会議を中止したのは、路上に溢れるホームレスの問題が一向に解決しない為だ。医師等の医療関係者や医療関連企業関係者らを含む参加者のアンケートでは、「サンフランシスコ市の路上では麻薬が堂々と利用されており、恐喝行為や精神に異常を来した人々に晒される為、身の危険を感じる」という意見が多かった。その為、次回以降は他の地で会議を実施するという。サンフランシスコ市はここ数年、運営のコストや物価が高い為に、会議の開催地として敬遠されることはあったものの、ホームレス問題が決定的な原因となって敬遠されたのは、これが初めてだ。会議はサンフランシスコ市の一大ビジネスだ。2017年は、会議による直接の売り上げだけでも6億8740万ドルに上った。ダウンタウンにある『サンフランシスココンベンションセンター』では毎年、地元シリコンバレーのテクノロジー企業が大きな会議を開催している。サンフランシスコ市も協力を惜しまず、会議の為に主要道路がブロックされて歩行者天国やカフェになる。同市は、年間の観光客数が2550万人(※2017年)にも上る一大観光地である為、街にはレベルの高いレストランやショップが揃う。このことも、同市が長らく開催地としての魅力を保ってきた理由だった。コンベンションセンターは、会議ビジネスを更に拡張しようと、まさに今、4棟目を増設しているところだ。

ところが、ここ数年、サンフランシスコ市を悩ませてきたホームレス問題には、一向に解決の兆しが見られない。コンベンションセンターからほんの数ブロック先の中心地、ユニオンスクエアやマーケット通りを歩けば、ホームレスの姿が次々と目に入る。路上で寝ていたり、衣類を詰め込んだカートを押して歩いたり、何人かで屯していたりする。場所によっては悪臭がしたり、注射器の針が散らばっていたりする。地下鉄駅付近はホームレスのシェルターと化している。シリコンバレーやサンフランシスコ市のテクノロジー企業が齎す富が溢れる街で、こうした風景を見るのは不条理としか言い様がない。だが、この富こそホームレス問題の元凶とされている。家賃の高騰で住まいを追い出される人々が後を絶たず、また空き地という空き地でビルやアパートの建設が相次いでいる為、ホームレスは路上に出てくる他ない。テクノロジー企業が齎したイノベーションに取り残された社会の一面が、はっきり見て取れる。2年毎に調査されるホームレス統計によると、面積凡そ122㎢のサンフランシスコ市のホームレス人口は7499人だ(※2017年)。全体の内、55%は10年以上ホームレス状態にあり、また全体の69%は、以前は同市内の住まいで生活していた人たちである。2017年は2015年よりホームレス人口が0.5%減少したが、これは家族用シェルターが増設され、身寄りがいるホームレスが収容された為であり、独り者のホームレス人口は依然として増加している。6月5日に行なわれたサンフランシスコ市長選挙で当選したロンドン・ブリード氏は、「ホームレス問題にアグレッシブに取り組む」と公約しており、「毎年5000戸の住宅を建設して、1年以内にホームレス問題を解決する」と宣言している。ブリード氏は同市初の黒人女性市長で、妹を麻薬中毒で亡くしており、麻薬中毒だった兄は窃盗等の罪で服役中だ。公約に対しては、数多くのシェルターを建設するコストや、1年以内というスケジュールの短さを懸念する声もある。とはいえ、街の印象だけでなく、市経済への負の影響が明らかになった今、公約の実現には大きな期待が集まっている。ホームレス問題の解決に、漸く火急の意識が齎された。


瀧口範子(たきぐち・のりこ) フリージャーナリスト兼編集者。大阪府生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒。フルブライト奨学金(ジャーナリストプログラム)を得て、1996年から2年間、スタンフォード大学コンピュータサイエンス学部にて客員研究員。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?』(プレジデント社)・『行動主義 レム・コールハース ドキュメント』(TOTO出版)等。


キャプチャ  2018年7月28日号掲載

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【人が集まる街・逃げる街】(36) 兵庫県伊丹市…関西の玄関口が迎える新時代

兵庫県伊丹市は、兵庫県の南東部に位置する、面積約25㎢、人口約19.7万人、大阪都心部に通うサラリーマンが多数住むベッドタウンである。市内にはJR福知山線と『阪急電鉄』伊丹線が南北を縦断。JR伊丹駅から大阪駅へは13分、始発の阪急伊丹駅から梅田駅までは20分と、大阪中心部へのアクセスは良好だ。伊丹の名は、全国的には“空港の街”として知られる。『大阪国際空港』(※別称は伊丹空港)の滑走路の大半がこの伊丹市に属し、1960~1970年代には空港を離着陸する航空機による“騒音公害の街”として、度々メディアに登場してきた歴史を持つ。1973年、伊丹市は“大阪国際空港撤去宣言都市”を標榜。被害が増すばかりの市民を騒音から守る為に、空港撤去を要求する事態にまで発展した。こうした“騒音公害の街”の伊丹市に変化が訪れたのは1994年。大阪湾泉州沖5㎞の人工島での『関西国際空港』の開港がきっかけだった。同空港は日本初の会社管理空港。空港建設と開港後の運営管理業務を、官民で設立された政府指定の特殊会社『関西国際空港』が担った。同社は2012年、政府全額出資の特殊会社『新関西国際空港』に改組された。同空港の誕生によって、伊丹市の大阪国際空港は“国際空港”の名を有するものの、国際線の定期就航がチャーター便を除いて無くなり、国内専用空港にその位置付けが変容した。国内専用となることで、地元経済への影響が懸念され、空港そのものの廃止を検討する動きまで表面化した。

そうした中、航空機の騒音が減る為、空港機能の縮小・廃止を歓迎する声が出た一方、逆の意見もあった。既に航空機の騒音は、廃止宣言が出た1970年代に比べて大幅に改善されていた。国土交通省の調べによれば、1960年代後半~1970年代の小型飛行機『ボーイング727-200』型機の騒音は90㏈という高水準だったが、現代の主力機『A320』では70㏈程度に改善されたという。こうした技術革新や空港周辺の経済活動を維持・発展させようという考えから、伊丹市は2007年4月に“大阪国際空港と共生する都市宣言”を議会で採択。1970年代の撤去方針と真逆の施策を打ち出した。空港を経済活性化のツールとして活用する方向へ舵を切ったのだ。新関西国際空港は、2012年から大阪国際空港の運営も行なうことになった。更に、2017年には施設の所有権を残したまま空港運営権のみ売却。現在は民間出資の『関西エアポート』が、『神戸空港』を含む関西3つの拠点空港を一体運営している。大阪国際空港は今、“伊丹の街の顔”として50年ぶりに再整備が行なわれている。2020年の完成に向け、大規模リニューアル工事を実施中だ。今年4月には第1弾として空港内商業施設外店舗が新装オープンして、話題を呼んだ。だが、空港の整備だけでは、訪れる人は空港内に留まるだけ。課題は、伊丹の街にどう人を呼び込むかだ。伊丹は、“丹醸の美酒”と呼ばれる清酒の産地。『白雪』で有名な『小西酒造』、『老松』ブランドの『伊丹老松酒造』等、名だたる酒蔵に観光客が足を運んでいる。空港の国際線復活を望む声もある。インバウンドが激増する関西のどんな玄関口となるか? 伊丹は今、新たな時代を迎えようとしている。


牧野和弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。


キャプチャ  2018年7月28日号掲載

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【オトナの形を語ろう】(81) “故郷を捨てる”という発想は若者にあって当然のことだ





こう暑くては何かをしようとする気持ちが起こらない。集中豪雨の被害にあった中国地方では、昼前に既に温度が40℃を超えたと聞き、行方不明者の捜索もままならないだろうと、自然が時折、私たちに与える残酷な面を思わざるを得ない。それにしても、年を追う毎に夏の暑さは異様になっている。この暑さのせいか、連載の担当をしてくれていたS君が職場を異動になり、新人のN君がやって来た。先夜、その2人と銀座で飲んでいる折、連載の先行きの話になり、私としては大人の男について、もうそんなに話すこともないのだが、折角N君が担当になったので、「今年中は頑張ろう」と約束した。すると新担当のN君が、「僕は東京生まれで東京育ちなので、故郷というものが無いんです。時々、故郷のある人が羨ましいことがあります。伊集院さん、故郷とは何なのかを教えてほしいのですが…」と訊いて来た。「貴男の故郷は東京。それでいいんじゃないの」「でも、故郷が東京とはあまり言いませんよね。友人たちが話してくれる故郷のニュアンスは少し違うような気がします」「田舎ってこと?」「いや、そんな失礼なことは」「ハッハハ、冗談だよ。けど、其々の人の故郷というのは、その人が生まれ育った場所・土地を言っているのは本当のところだと思うから、その話をしましょう」。

実は、この生まれ育った場所というのが、故郷は何なのかを考える一番肝心な点なのだろう。1人の人間の性格・行動の仕方を他人が見て、××気質とか、××出身らしい、と言うことがあるが、全ての人にあてはまっていなくとも、大半の人に、その人が生まれ育った土地の気風が出ているというのは強ち違っていないと、私も“この頃”思うようになって来た。“この頃”と言ったのは、私のことで言えば、私の生まれた本州の西南端にある山口県。昔で言えば長州である。「長州人は保守的である」とか、「明治維新以来、多くの政治家・軍人・政商を輩出し、主流の体制派」とか言われる。私が若い時には、そんな人も実際に多くいた。2人の縁戚宰相が出た。岸信介や佐藤栄作等も、その典型かもしれない。実際、東京に出てきた同級生等で佐藤邸に挨拶に行くと、帰りに電車賃というか、本代を貰えると出かける同級生もいた。「何故、そんなことが?」と思われようが、いざ選挙になると長州人は、「オラが国の総理大臣をトップ当選させるからで、息子が東京でも世話になって…」という関係が成立するわけである。私は、この郷土閥が嫌いだった。嫌いなのは郷土閥だけではなく、同じ出身校というだけで何かしらの関係ができる学校閥も大嫌いである。兎も角、私は故郷の、独特な気質が嫌いだった。「たかが明治維新で始まっただけのものだろう」と嫌悪していた。更に言えば、故郷に必要以上に拘る考えをおかしいと思っていた。

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