貧困や親子の孤立を防ぐお寺の『こども食堂』の実践――「手伝わせてほしい」との声が続々、全ては高齢者の居場所作りから始まった
「学校帰りに、皆でご飯を食べない?」――そんな呼びかけが少しずつ広がっている。『こども食堂』だ。最近では、お寺でも始めるところが登場している。実践する寺院に、その目的と方法を取材した。
今年7月の夕暮れ。東京都板橋区にある真言宗智山派南蔵院のホールでは、子供たちが駆け回っていた。「鬼ごっこ!」「ワーッ」。広いホールを走り回る子供たち。その楽しげな顔が一層輝くのが、厨房から漂う美味しそうな匂いだ。今日の夕食の献立は、麻婆ご飯・サラダ・味噌汁、デザートはメロン。それに、住職夫人の花木千恵子さん(66)手作りのじゃがいもとコーンの煮物まである。19時過ぎ、花木義明住職(66)の食前の挨拶と共にテーブルを囲み、「いただきます!」の大合唱。大人・子供合わせて、総勢約60名。毎月2回、南蔵院で開かれる『こども食堂』こと『南蔵院こども会』の光景だ。こども食堂――最近、新聞やテレビ等で目にした読者も多いだろう。貧困で食事を十分に取れなかったり、親が忙しくて、家に帰っても1人ぼっちでご飯を食べる子供の為に、無料或いは数百円で食事を提供する地域活動のことだ。背景に、子供の6人に1人が貧困という現代日本の現実があり、地縁が薄れた社会から孤立する親子の問題がある。ここに、「“食”を通じて地域で子育てを支えよう」という民間発の取り組みがこども食堂だ。食事の提供というシンプルな支援、世代を超えて地域を繋ぐ効果もあり、ここ数年で公民館・児童館・民家等を会場に、全国に続々と開設されている。住民の動きに押され、支援を行う行政も出てきた。それで今、その運営会場として大きな期待を寄せられているのが、地域に根差したお寺なのだ。既に首都圏では、この1年間だけでも数ヵ所の“お寺のこども食堂”が生まれた。どのようにしたら可能なのか。その実際を取材した。
①NPOや有志と共に支え合う 東京都・真言宗智山派南蔵院
冒頭の『南蔵院こども会』がスタートしたのは昨年6月。現在は月2回、16時から20時までの開催だ。参加対象は、子供と保護者。内容は、食事と居場所の提供。タ飯は揃って食べるが、それ以外の時間は宿題をしたり、遊んだり、本を読んだりと自由時間。参加費は、子供は無料で大人は300円だ。運営を支えているのは、お寺や地元のNPO法人『健やかネットワーク』、それに子供たちの母親。食材の調達は、参加費とお寺からの援助で賄われる。参加希望者は基本、事前にNPO法人を通じて連絡。その人数に合わせて毎回、献立と食材を準備。有志の母親たちがローテーションを組んで調理する。約60人分のお米を炊くのは、千恵子夫人だ。会場は、多目的ホールとして平成11(1999)年に境内に建築された『福聚殿』。最高500名を収容できるこのホールは、普段は葬祭場やお寺の文化活動にも使われているが、この日は雰囲気がガラリと変わる。廊下を走り回る子もいれば、ホール内の1室でボランティアの絵本の読み聞かせにじっと耳を傾ける子供もいる。「皆、遊びたいんだよ。ここなら、どれだけ騒いだっていいんだもの。この活動を始めてから、お寺がうんと賑やかになりました」と花木住職は微笑む。境内に見事な桜の木が植わる南蔵院は“櫻寺”として昔から地域に親しまれてきた。毎年、釈尊の誕生日に合わせて、3月下旬から4月上旬まで開かれる『花まつり』は大賑わいだ。平成11(1999)年に前述のホールを建ててからは、茶道・音楽教室・体操教室等の文化活動も積極的に行ってきた。そんな花本住職には、ある思いがあった。「うちには子供会が無かった。『何か子供を対象にした活動ができないかな』と考えていたんです」。丁度その時、ニュースで子供の貧困率が高まっているということを知り、気になった。そんな中で縁ができたのが、前出のNPO法人『健やかネットワーク』だ。行政等と連携しながら様々な地域支援を行っている同団体が、南蔵院に「お年寄りの会食サロンを開きませんか?」と持ち掛けたのだ。同法人の佐々木令三理事はこう話す。「1人暮らしの高齢者は、ご飯を1人で食べていても美味しくない。『週に1回、皆でご飯が食べられる場所があれば』と思いました。それで、南蔵院さんに相談したのです」。謂わば、高齢者の居場所作り。花木住職は快諾した。
今年7月の夕暮れ。東京都板橋区にある真言宗智山派南蔵院のホールでは、子供たちが駆け回っていた。「鬼ごっこ!」「ワーッ」。広いホールを走り回る子供たち。その楽しげな顔が一層輝くのが、厨房から漂う美味しそうな匂いだ。今日の夕食の献立は、麻婆ご飯・サラダ・味噌汁、デザートはメロン。それに、住職夫人の花木千恵子さん(66)手作りのじゃがいもとコーンの煮物まである。19時過ぎ、花木義明住職(66)の食前の挨拶と共にテーブルを囲み、「いただきます!」の大合唱。大人・子供合わせて、総勢約60名。毎月2回、南蔵院で開かれる『こども食堂』こと『南蔵院こども会』の光景だ。こども食堂――最近、新聞やテレビ等で目にした読者も多いだろう。貧困で食事を十分に取れなかったり、親が忙しくて、家に帰っても1人ぼっちでご飯を食べる子供の為に、無料或いは数百円で食事を提供する地域活動のことだ。背景に、子供の6人に1人が貧困という現代日本の現実があり、地縁が薄れた社会から孤立する親子の問題がある。ここに、「“食”を通じて地域で子育てを支えよう」という民間発の取り組みがこども食堂だ。食事の提供というシンプルな支援、世代を超えて地域を繋ぐ効果もあり、ここ数年で公民館・児童館・民家等を会場に、全国に続々と開設されている。住民の動きに押され、支援を行う行政も出てきた。それで今、その運営会場として大きな期待を寄せられているのが、地域に根差したお寺なのだ。既に首都圏では、この1年間だけでも数ヵ所の“お寺のこども食堂”が生まれた。どのようにしたら可能なのか。その実際を取材した。
①NPOや有志と共に支え合う 東京都・真言宗智山派南蔵院
冒頭の『南蔵院こども会』がスタートしたのは昨年6月。現在は月2回、16時から20時までの開催だ。参加対象は、子供と保護者。内容は、食事と居場所の提供。タ飯は揃って食べるが、それ以外の時間は宿題をしたり、遊んだり、本を読んだりと自由時間。参加費は、子供は無料で大人は300円だ。運営を支えているのは、お寺や地元のNPO法人『健やかネットワーク』、それに子供たちの母親。食材の調達は、参加費とお寺からの援助で賄われる。参加希望者は基本、事前にNPO法人を通じて連絡。その人数に合わせて毎回、献立と食材を準備。有志の母親たちがローテーションを組んで調理する。約60人分のお米を炊くのは、千恵子夫人だ。会場は、多目的ホールとして平成11(1999)年に境内に建築された『福聚殿』。最高500名を収容できるこのホールは、普段は葬祭場やお寺の文化活動にも使われているが、この日は雰囲気がガラリと変わる。廊下を走り回る子もいれば、ホール内の1室でボランティアの絵本の読み聞かせにじっと耳を傾ける子供もいる。「皆、遊びたいんだよ。ここなら、どれだけ騒いだっていいんだもの。この活動を始めてから、お寺がうんと賑やかになりました」と花木住職は微笑む。境内に見事な桜の木が植わる南蔵院は“櫻寺”として昔から地域に親しまれてきた。毎年、釈尊の誕生日に合わせて、3月下旬から4月上旬まで開かれる『花まつり』は大賑わいだ。平成11(1999)年に前述のホールを建ててからは、茶道・音楽教室・体操教室等の文化活動も積極的に行ってきた。そんな花本住職には、ある思いがあった。「うちには子供会が無かった。『何か子供を対象にした活動ができないかな』と考えていたんです」。丁度その時、ニュースで子供の貧困率が高まっているということを知り、気になった。そんな中で縁ができたのが、前出のNPO法人『健やかネットワーク』だ。行政等と連携しながら様々な地域支援を行っている同団体が、南蔵院に「お年寄りの会食サロンを開きませんか?」と持ち掛けたのだ。同法人の佐々木令三理事はこう話す。「1人暮らしの高齢者は、ご飯を1人で食べていても美味しくない。『週に1回、皆でご飯が食べられる場所があれば』と思いました。それで、南蔵院さんに相談したのです」。謂わば、高齢者の居場所作り。花木住職は快諾した。