【石井聡の目】(08) 日朝交渉、国交正常化への理解は進むか
4月の岸田文雄首相の訪米に先立ち、北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさん(59、拉致当時13歳)の弟で被害者家族会代表の拓也さん(55)が東京都内の『日本外国特派員協会』で記者会見した。首相がジョー・バイデン大統領に拉致事件を強く訴え、協力と支援を得るよう求める趣旨だ。
印象に残ったのは、拓也さんが「狼狽えることなく静観している」と述べた点だ。北朝鮮の金正恩総書記の妹、金与正党副部長が2月に岸田首相訪朝の可能性に言及したかと思えば、3月には拉致問題は解決済みとして日朝交渉を拒否する等、一貫性のない談話をあれこれと出していることを念頭に置いたものだ。政府やメディア側にとっても重く受け止めるべき発言だと感じた。
2004年の小泉純一郎首相(※当時)と金正日国防委員長(※同)による二度目の日朝首脳会談から20年が経過するが、これらを通じて一部の拉致被害者の帰国が実現してからは、大きな進展はみられない。拉致問題を重視した安倍晋三元首相の時代にも首脳会談は実現しなかった。
10年前の日朝政府間協議で『ストックホルム合意』が結ばれ、北朝鮮側は拉致被害者を含む“全ての日本人に関する包括的且つ全面的な調査の実施”を約束しながら、誠実な対応は見せず、その後、一方的に調査の中止や特別調査委員会の解体を宣言した。北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を受け、日本が独自制裁を発表したことへの対抗措置だろうが、日本の対応に非はない。
世界でも有数の独裁体制でありながら、対外的には無軌道、不安定な行動を取る相手だ。その都度、狼狽えていては交渉にならない。一方、日本側としては時間との競争という課題があり、早期の進展を望まないわけにもいかない。
先の日米首脳会談で、バイデン大統領は拉致問題に取り組む日本への理解を示し、日朝首脳会談を模索していることについても「そうした機会を歓迎する」と支持を表明した。併せて、アメリカとしても「対話は望ましく前向きなことだ」との姿勢を示した。
したがって、日本が首脳会談を目指すことについて気兼ねは必要ないといえるが、日本として拉致問題の完全決着に加え、核放棄を北朝鮮に求める点はアメリカとの関係でも譲れないところだ。
ただ、北朝鮮は拉致問題は解決済みと牽制している他、核放棄について聞く耳は持たないだろう。そうした制約がある中で、首脳会談の開催にどう繋げるかが問われ続けている。