fc2ブログ

【石井聡の目】(08) 日朝交渉、国交正常化への理解は進むか



4月の岸田文雄首相の訪米に先立ち、北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさん(59、拉致当時13歳)の弟で被害者家族会代表の拓也さん(55)が東京都内の『日本外国特派員協会』で記者会見した。首相がジョー・バイデン大統領に拉致事件を強く訴え、協力と支援を得るよう求める趣旨だ。

印象に残ったのは、拓也さんが「狼狽えることなく静観している」と述べた点だ。北朝鮮の金正恩総書記の妹、金与正党副部長が2月に岸田首相訪朝の可能性に言及したかと思えば、3月には拉致問題は解決済みとして日朝交渉を拒否する等、一貫性のない談話をあれこれと出していることを念頭に置いたものだ。政府やメディア側にとっても重く受け止めるべき発言だと感じた。

2004年の小泉純一郎首相(※当時)と金正日国防委員長(※同)による二度目の日朝首脳会談から20年が経過するが、これらを通じて一部の拉致被害者の帰国が実現してからは、大きな進展はみられない。拉致問題を重視した安倍晋三元首相の時代にも首脳会談は実現しなかった。

10年前の日朝政府間協議で『ストックホルム合意』が結ばれ、北朝鮮側は拉致被害者を含む“全ての日本人に関する包括的且つ全面的な調査の実施”を約束しながら、誠実な対応は見せず、その後、一方的に調査の中止や特別調査委員会の解体を宣言した。北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を受け、日本が独自制裁を発表したことへの対抗措置だろうが、日本の対応に非はない。

世界でも有数の独裁体制でありながら、対外的には無軌道、不安定な行動を取る相手だ。その都度、狼狽えていては交渉にならない。一方、日本側としては時間との競争という課題があり、早期の進展を望まないわけにもいかない。

先の日米首脳会談で、バイデン大統領は拉致問題に取り組む日本への理解を示し、日朝首脳会談を模索していることについても「そうした機会を歓迎する」と支持を表明した。併せて、アメリカとしても「対話は望ましく前向きなことだ」との姿勢を示した。

したがって、日本が首脳会談を目指すことについて気兼ねは必要ないといえるが、日本として拉致問題の完全決着に加え、核放棄を北朝鮮に求める点はアメリカとの関係でも譲れないところだ。

ただ、北朝鮮は拉致問題は解決済みと牽制している他、核放棄について聞く耳は持たないだろう。そうした制約がある中で、首脳会談の開催にどう繋げるかが問われ続けている。

続きを読む

テーマ : 北朝鮮問題
ジャンル : 政治・経済

【LEADERS・経営者に聞く】(188) 日本の美味いコメを守りたい――藤尾益雄氏(『神明ホールディングス』社長)

コメ卸売業界最大手の『神明ホールディングス』(※兵庫県神戸市)が、企業買収等で事業を急拡大している。生産地から食卓までを、食の事業で繋ぐ“バリューチェーン”構築を目指す藤尾益雄社長に聞いた。 (聞き手/編集委員 高橋健太郎)



20250307 07
〈コメ卸売会社の創業家四代目として、幼い頃から帝王学を叩き込まれた〉
小学校時代から、祖父に「お前は跡取りやから」と言われて育ちました。高校も「行く必要がない。精米工場で働け」と言われたほどです。特に大学に行く時は猛烈に反対され、休みの日に精米工場で働く条件付きで進学を認めてもらいました。入社は1989年3月、大学の卒業前です。卒業式については「有休届を出せば休ませる」とのことでした。入社して2~3ヵ月は倉庫管理等が仕事でした。最初に営業を担当したのは『ダイエー』等のスーパーマーケットで、後に米屋さんの担当になりました。

〈1993年の“平成の米騒動”の時は、大混乱したコメの流通現場にいた〉
あれは28歳の時です。7月でも肌寒く、ポロシャツの上にジャンパーを着て米屋さんを回っていました。ずっと曇りで気温の低い日が続き、コメが大不作になりました。自社のブレンド米『あかふじ』に緊急輸入された外米を交ぜて卸すと、米屋さんから「こんなもん食えるか!」と怒られました。プラカード持参で会社にやって来て、「もっとコメをよこせ!」と訴える人もいました。

消費者も必死です。ある米屋さんでは、店の前に人がブワーッと並んでいました。シャッターを開けると、一部の人が店に入り、「コメあるやないか。何隠しとるんや」と言ってきたそうです。我々の営業車にも、原付きバイク等がついて来ました。米屋さんに入ると、バイク運転手が公衆電話で「神明の営業の人が来た。もうすぐコメが来るで」と連絡していました。

〈1995年にコメの流通を厳しく規制してきた食糧管理制度(※食管制度)が廃止された〉
食管制度でコメ卸は、免許を持つ都道府県内でしか商売ができません。我々でいえば兵庫県です。1995年に新たに食糧法が施行され、登録さえすれば、どこの都道府県でも売れるようになりました。我々は食管制度廃止に向け、前年の段階で「大阪エリアから攻めよう」と考えていました。

大阪には当時、日本最大のコメ卸業者がありました。神明の年商は、私が入社した年に400億円に達したのですが、彼らは1500億円。両社の競争は業界で“桶狭間の戦い”と呼ばれました。大きくて強い相手業者が今川軍、神明が織田軍でした。水面下でダイエーや『ジャスコ』(※現在の『イオン』)といった大手スーパー全部と商談を進めました。それで食管制度が廃止されると、大阪のスーパーの店頭のコメが一気に神明に置き換わりました。

1996年には東京へ進出しました。コメの販売が進んでいないのに2000年に埼玉県に月間5000トン精米できる関東工場が完成し、稼働率を上げないといけないとプレッシャーを感じました。当時、一番勢いがあったのがジャスコでした。2年ぐらい通い詰めて取引にこぎ着けました。低価格で売れ筋のコメということで関東エリア全店に並べるという話です。初回納品が10㎏入り1万袋と、結構なボリュームでした。

ところが最初から、店で商品のバーコードを読み取れないトラブルが起きました。関東工場に他社向けのコメの袋が誤って納入され、ミスにうちも気付かず、その袋にコメを詰めて出荷してしまったのです。ジャスコの担当部長は「取引停止や」と激怒です。私は翌朝9時頃には、飛行機とバスでジャスコのある千葉県へ行きました。

続きを読む

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【ドイツ総選挙2025】(下) 住宅無償提供、募る反感



20250307 06
今月23日に投開票されるドイツ連邦議会(※下院)総選挙は、難民・移民政策が主要な争点になっている。難民・移民に対する反感がドイツ社会で強まっている為だが、背景には難民による凶悪事件が相次いでいることに加え、住宅不足の問題もある。

「この辺にはスーパーマーケットもカフェも無い。80人もの外国人が暇を持て余して不満を溜めたら、何が起きるかわからない」。西部ゾーリンゲンの実業家、ダニエル・イワノビチさんは取材に不安を訴えた。近所で計画される難民用宿舎新設に反対する住民運動の中心メンバーで、昨年初めに建設中止を求めて市を提訴した。この宿舎は市中心部から約5㎞の山間に建てられる予定で、80人を収容できる。

ドイツには、受け入れた難民を各自治体に割り当てる制度がある。ゾーリンゲン市の昨年1月の発表によると、それまでホテルや旧税務署、別荘等の計1000室超を難民用に確保してきたが、空きはほぼ無かった。そこへ昨年は新たに難民約700人の割り当てが見込まれ、宿舎の建設が必要になったという。

こうした難民の“飽和”はドイツ各地で起きている。背景にあるのが住宅不足だ。ドイツは移民や難民の流入で人口が増え続ける一方で、資材の高騰や、高齢化に伴う労働者不足で住宅の建設が追いついていない。そんな中で難民には無償で住まいが提供されることに、国民の間では反発もある。

また、難民の為にアパートやホテルを借り上げたり、宿舎を新設したりする費用が自治体の財政を圧迫する。ヒルデスハイム大学が昨年5月に発表した約800自治体を対象にした調査結果によると、22%が「緊急事態だ」と回答した。高齢化が進むドイツでは、移民については労働力として肯定的に捉える人が今でも多いとされる。

だが、住居に加えて生活費やドイツ語習得等の支援も必要な難民を巡っては、特に景気低迷が続く近年、反感が高まり易くなっている。ドイツは2015年以降、内戦下のシリア等から押し寄せた難民を当時のアンゲラ・メルケル首相が積極的に受け入れた。現在、ドイツで暮らす難民は300万人超に上り、人口の4%を占める。

続きを読む

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

【ドイツ総選挙2025】(上) 相次ぐ凶行、不安拡大

20250307 05
石畳の小さな広場は人通りが少なく、ひっそりとしていた。嘗て献花台があったという場所には、その名残のように、小さな鉢植えの花が置かれていた(※右画像、撮影/五十嵐朋子)。ドイツ西部、ゾーリンゲン。刃物の街として知られ、老舗キッチンブランド『ツヴィリング』の発祥地でもある。

ここで昨年8月、難民申請が却下され国外退去することになっていたシリア人の男性が、イベントの来場者を刃物で襲った。3人が死亡し、8人が怪我をした。ドイツは2015年の欧州難民危機以降、当時のアンゲラ・メルケル政権が欧州で最も多くの難民を受け入れてきただけに、事件の衝撃は大きかった。

現場の近くで鬘店を営むノインツィヒさん(57)は事件後、中東風の外国人を見ると警戒するようになったという。「保護が必要な難民がいるのはわかっているけれど、自分は以前より寛大ではなくなってしまいました」。難民に“寛容”だった筈のドイツで今、こうした反難民感情が広がる。大きな原因は、難民による凶行が相次いでいることだ。

同年5月にも西部マンハイムでの反イスラムの集会で刃物による襲撃事件が起き、警察官1人が死亡。12月には東部マクデブルクのクリスマスマーケットに車が突っ込み、6人が犠牲になった。先月には南部アシャッフェンブルクで幼稚園児らが刃物で襲われ、2人が命を落とした。3事件の容疑者は其々、アフガニスタンとサウジアラビアの出身だ。

オラフ・ショルツ政権は、重大犯罪を犯した難民の国外退去処分の迅速化等対策を打ち出したが、国民の治安悪化の不安は解消されていない。そんな中、昨年11月に与党内の対立で連立政権が崩壊し、今月23日に連邦議会(※下院)の前倒し総選挙が実施される。野党は、メルケル路線を踏襲する現政権にとって難民問題は弱点と見て、「不十分な対策が治安を悪化させた」と批判を強める。

急先鋒は、“国境の閉鎖”を公約する『ドイツのための選択肢(AfD)』だ。難民や移民の送還等排外主義的な主張を掲げ、ナチスのスローガンを演説で使った幹部が有罪判決も受けている。“極右”とも言われるが、世論調査機関『インザ』が今月10日に発表した支持率で22%で2位につける。

支持率30%とトップの野党統一会派『キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)』もAfDに引きずられるかのように、厳格な国境管理を主張する。中道右派のCDUはメルケル前首相が率いた政党だが、フリードリッヒ・メルツ党首は難民に厳しい路線に転換。ポピュリズム色を濃くしている。両勢力は“接近”も取り沙汰される。CDU・CSUは先月、持続的な国境管理等を政府に求める決議案を下院に提出し、AfDも賛成したことで可決された。

ドイツではナチスを生んだ反省から、排外主義を厳しく戒めてきた。戦後、二大政党の一つとして何度も政権を担ってきたCDU・CSUが“極右”政党との協力ともとれる動きに出たことは衝撃を与えた。決議に法的拘束力はないが、ベルリンでは今月2日、CDU・CSUに抗議する大規模なデモが起き、参加者は16万人(※警察発表)に上った。政界を引退したメルケル氏も、協力は「間違っている」と批判する異例の声明を出した。

CDU・CSUは、現在の情勢では選挙後に次期政権を主導する可能性が高い。AfDとの連立や政策協力は否定するが、AfDのアリス・ワイデル共同党首は今月10日、公共放送『ZDF』に「私達は手を差し伸べている」と述べ、連立協議の打診があれば受け入れる姿勢を示した。与党・社会民主党のショルツ首相は「メルツ氏は信用できない」として、両者の連立はあり得ると警告する。

難民・移民問題が主要な争点になっている今回の総選挙。勢いに乗るAfDが大きく議席を伸ばせば、連立政権には入らなくとも政策面で影響力を強める可能性があり、欧州一の大国にとって大きな岐路になる。

難民支援に長年携わる『ゾーリンゲン移民・難民統合協議会』代表のナッサー・フィロウツカさんは、「10年前は人々は友好的でしたが、今は多くの人が沈黙して外国人を嫌っています」と溜め息を吐く。「最近の(難民政策を巡る)議論のせいで、難民や移民は不安でいっぱいです」。ただ、難民が“嫌われる”理由には、実は体感治安の悪化以外の問題もある。


キャプチャ  2025年2月18日付掲載

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

【池袋暴走事故から5年】(下) 高齢運転者対策、道半ば

20250307 04
昨年10月、北海道釧路市の病院駐車場で、77歳の男性が運転する乗用車が外来用出入り口付近を歩いていた4歳の女児と母親をはね、女児が死亡する事故が起きた。原因はアクセルとブレーキの踏み間違いだった。男性は車庫入れで車をぶつける等し、運転免許の自主返納も考えていたという。

「また起きてしまった」――。池袋で2019年4月、高齢ドライバーがペダルを踏み間違えて車が暴走した事故で妻子を亡くした松永拓也さん(37)は、やりきれない思いになった。

警察庁によると、2019年の運転免許の自主返納は過去最多の60万件に上ったが、その後は4年連続で減り、昨年は38万件だった。一方、75歳以上の運転者による死亡事故は昨年384件で3年連続で増加した。免許人口10万人当たりの件数としては75歳未満の2倍で、原因で最も多いのがハンドル操作ミスやアクセルとブレーキの踏み間違い等だった。

池袋の事故後、国は高齢運転者対策を進めた。2022年5月には、一定の交通違反歴がある75歳以上の運転者に、免許更新時の運転技能検査を義務付けた。昨年は延べ約16万4000人が受検。1割弱の約1万4000人が不合格になった。だが、対策の効果が十分発揮されたとは言い難い。現在の技能検査は一時停止や右左折等基本的な運転動作の確認で、急な飛び出し等不測の事態を想定していないと指摘されている。

75歳以上の運転免許保有者は昨年末時点で約728万人で、この5年間で約164万人増えている。NPO法人『高齢者安全運転支援研究会』の岩越和紀理事長(77)は、「生き甲斐や生活に欠かせない等、高齢者が車を手放せない事情は様々。運転の入り口となる技能検査はより厳しくし、違反歴のない高齢者にも広げるべきだ」と語る。

池袋の事故を受け、2021年11月以降、国内で生産される新型車に自動ブレーキの搭載が義務付けられた。警察庁の調査によると、ペダルを踏み間違えた時の加速抑制装置や自動ブレーキを搭載した安全運転サポート車(※サポカー)の最も充実した車種の事故発生率は、未搭載車より4割低かった。先端技術の活用は事故抑止のカギの一つだ。

警察庁科学警察研究所元研究員の伊藤安海氏(※山梨大学教授、安全医工学)は、「AIで高齢者の運転診断を行なう等、事故の予兆を掴む対策の強化は有効だ。欧州のように地域や時間帯の限定免許を導入する他、ガードレールの設置といった交通インフラの整備等、総合的な対策が必要になる」と話す。

被害者家族らも思いは同じだ。2016年10月、87歳の男性が運転する軽トラックが小学生の列に突っ込み、長男の優君(※当時6)を失った横浜市の自営業・田代充さん(41)は言う。「移動の足となる巡回バスを増やす。家族らが『危ないよ』と声をかける。高齢者の事故を減らすには、地域社会のサポートが大切ではないでしょうか」。

池袋で車を暴走させた飯塚幸三受刑者(92)は、事故前から体力の衰えを自覚して通院し、歩行中に転倒した記録を付けていた。長男は今年2月、初めて面会した松永さんに「転倒を繰り返していたことは事故後に知った」と明かし、「運転を積極的に止めていれば」と悔やんだという。

「誰もが突然、加害者にも被害者にもなるのが交通事故。大切な人と『おかえり』『ただいま』が言い合える日常を守る為、一人ひとりが自分の問題として考えてほしい」。高齢化は進む。松永さんの言葉に改めて向き合う時が来ている。

          ◇

(東京本社社会部)中薗あずさ・村上喬亮が担当しました。


キャプチャ  2024年4月23日付掲載

テーマ : 社会ニュース
ジャンル : ニュース

【池袋暴走事故から5年】(中) 謝罪、もう彼を責めない

20250307 03
今年2月10日。2019年4月に池袋で起きた乗用車暴走事故で妻・真菜さん(※当時31)と長女・莉子ちゃん(※当時3)を失った松永拓也さん(37)は、車を暴走させ禁錮5年の実刑判決を受けた飯塚幸三受刑者(92)の長男と初めて面会し、便箋2枚が入った白い封筒を受け取った。

手足の震え等が出る持病を患う飯塚受刑者が、自身の衰えを自覚し、「いずれ手紙でお詫びができなくなる」と2022年9月に認め、その後、長男に託していた謝罪文だった。「暴走は私の勘違いによる結果」「ご遺族の方々のお気持ちには償いきれない」――。運転を続けていたことは「今も後悔し反省しております」と綴られていた。時に乱れた文字からは、震える手で懸命に書いた様子が見て取れた。

公判で無罪主張を貫いた飯塚受刑者。判決確定後、「深くお詫び申し上げます」と謝罪のコメントを発表していたが、松永さんは本心とは受け取れず、憎しみや怒り等複雑な感情を抱き続けてきた。だが、手紙に記された言葉に真摯な謝罪の意思を感じとることができ、「もう彼のことを責めるのは止めよう」と思った。

飯塚受刑者は事故当時も手足の震えで歩くのに2本の杖が必要だった。事故では自らも胸の骨を折る重傷を負って入院。「逃亡や証拠隠滅の恐れはない」として逮捕されなかった。だが、SNS上では旧通産官僚の経歴から“上級国民”と批判された。中傷は過熱し、自宅には「小型爆弾を設置した」「地獄に突き落としてやる」等と書かれた脅迫文が届いた。

家族が事故直後に相談したのが、加害者家族を支援するNPO法人『ワールドオープンハート』理事長の阿部恭子さん(46)だった。飯塚受刑者の収容先には数ヵ月に一度、足を運んできた。飯塚受刑者の症状は進み、刑務所ではトイレへの移動の際等に転倒を繰り返した。「日が昇る度に亡くなった方のご冥福をお祈りしています」。そう語る姿は阿部さんの目にも、弱々しくなっているように映る。

松永さんが被害者の思いを刑務所の職員を通じて加害者に伝える心情等伝達制度の利用を申し込んだのは、謝罪文を受け取った1ヵ月後のことだ。先月22日、初めて飯塚受刑者がいる関東地方の刑務所を訪れた。やはり心が揺れたが、「恨みつらみをぶつける為に来たんじゃない」と自分に言い聞かせ、橋渡し役となる刑務官と約2時間向き合った。

松永さんの自宅に今月6日、刑務官が飯塚受刑者の言葉を書きとめた結果通知書が届いた。真菜さんと莉子ちゃんに「申し訳ないです」と述べ、松永さんが刑務官に託した質問に答えたという。

――どうすれば事故を起こさずに済みましたか?
「運転しないことが大事です」
――高齢者として、どのような社会であれば事故を起こさずに済みましたか?
「運転しないことです」

A4用紙2枚の文書には、松永さんとの面会の意思も示されていた。職員の前で言葉を詰まらせる場面もあったが、一文一文に「はい」と答え、最後に改めて「申し訳ない」と述べたという。

松永さんは文書を何度か読み返し、五度目の命日を前に、初めて彼と心を通わすことができた気がした。被害者と加害者。立場も境遇も違うが、松永さんは加害者側の意見は再発防止の力になると考えている。飯塚受刑者が人前に立つのは難しいかもしれない。直接会えたら伝えたい。「貴男の言葉を聞き、私が社会に伝える。再発防止の為に一緒に発信しませんか。真菜と莉子、そして貴男自身の為に」。


キャプチャ  2024年4月22日付掲載

テーマ : 社会ニュース
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(593) “経済の千里眼”ニトリ社長に退任説…後任は安孫子尋美取締役か

20250307 02
似鳥昭雄氏が事業会社『ニトリ』の社長に10年ぶりに復帰して、先月で1年が経った。社長だった武田政則氏をニトリHD副社長に就け、海外事業に専念させるというのが建前だったが、国内事業の不振が続いたことで居ても立ってもいられなかったというのが真相のようだ。

だが、そんな似鳥氏も今月で81歳。「“生涯現役”とメディアに登場する度に言い張るが、最近は体力も低下し、“経済の千里眼”と言われた為替予測も外すようになってきた」(同社幹部)という。そんな中、社内では「似鳥氏のニトリ社長兼務は短期間」と言われている。後継ぎが見えてきたからだ。

筆頭候補はニトリHDの安孫子尋美取締役(64、左上画像)。商品開発が長く、最近は人材教育を担当。独自の研修制度『ニトリ大学』の学長も務めている。また、社内には「ニトリの商品は、やはり女性目線が必要」と期待の声も大きい。2032年までに年間売上高3兆円、3000店舗を目指すという似鳥氏。今後は部下を育て任せることができるかが課題となってきそうだ。


キャプチャ  2025年3月号掲載

テーマ : 経済ニュース
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(592) 選択的夫婦別姓で混乱を招いた公明党の斉藤代表に創価学会が“NO”

20250307 01
昨年11月に就任した公明党の斉藤鉄夫代表(※右画像)に、早くも退陣論が浮上している。原因は、立憲民主党が求める選択的夫婦別姓を巡る斉藤氏の対応にある。氏は自民党に対し、導入を前提とした与党協議を要求する等、“非自民”色の濃い活動を続けているが、支持母体の『創価学会』から不満の声が上がったのだ。

学会内では「子供の姓の扱いはどうなるのか?」等の不安が女性部から上がっており、旧姓使用の拡大で決着させたいのが本音だ。石破茂首相も保守層との対立を避ける為、別姓導入から旧姓使用拡大へ舵を切っている。

ある学会幹部は「不必要に自民の反発を買った」と政局感の無さを指摘する。昨年の衆院選で石井啓一前代表が落選し、ピンチヒッターで登板した斉藤氏だが、最近は「代表になる為の訓練などしていなかった」と周囲に恨み節を漏らしているとも。都議選も参院選も迫っているというのに頼りないこと夥しい。


キャプチャ  2025年3月号掲載

テーマ : 政治のニュース
ジャンル : ニュース

【木曜ニュースX】(594) カイロス打ち上げ連続失敗で経済産業省“天下りトップ”に辞任圧力

20250306 04
「失敗ではなく、次の挑戦への糧と考えている。一刻も早く原因を究明し、失速することなく、衛星打ち上げサービス(の実現)に邁進する」。昨年12月18日、小型ロケット『カイロス』2号機の打ち上げに失敗した宇宙スタートアップ『スペースワン』社長の豊田正和(75歳、1973年に旧通商産業省入省、左画像)は、記者会見でこう強弁した。

だが、同3月の初号機打ち上げ失敗に続く挫折で、企業としての存続すら危ぶまれるのが実情だ。豊田の“空元気”とは裏腹に、社内では「宇宙開発のスピードについていけない高齢の天下りトップには、お引き取り願ったほうがいい」と、社長辞任を求める圧力が高まっている。

豊田は旧通産省や経済産業省で主に通商畑を歩み、通商行政トップの経済産業審議官に上り詰めた。2008年7月の退官後は『日本エネルギー経済研究所』理事長や『日産自動車』社外取締役等天下りを重ねてきた“わたり官僚”である。経営体制の刷新に伴って日産を追い出された後に宛がわれたのが、“門外漢”とも言えるスペースワン社長のポストだった。

『キヤノン電子』や『IHIエアロスペース』等が出資するとはいえ、実態は小型ロケット打ち上げ市場に日の丸企業を参入させたい経産省がお膳立てした「国策スタートアップ」(霞が関筋)。豊田も「古巣が全面バックアップしてくれる」と高を括っていたかもしれない。

だが、“世界最高の頻度”での衛星打ち上げサービスを目指すミッションの達成は、門外漢のロートル官僚には荷が重かった。今回の失敗に伴い、台湾国家宇宙センターから託された衛星等5機も海の藻屑と消えた。顧客の信用が失墜する中、豊田と経産省は“崖っぷち”に立たされている。 《敬称略》


キャプチャ  2025年3月号掲載

テーマ : テクノロジー・科学ニュース
ジャンル : ニュース

【木曜ニュースX】(593) 中国が日本の医大を標的に…李春光に連なる工作員が暗躍

20250306 03
2012年に発覚した李春光事件。中国軍情報部門の工作員である李春光が政界人脈を構築し、民主党政権下で農林水産大臣秘書から機密情報を入手しようとする等したスパイ事件が、改めて注目されている。2012年5月、警視庁外事課が公正証書原本不実記載容疑等で出頭要請をかけたが、外交官身分を盾に出頭を拒否。中国に帰国してしまった。その李と気脈を通じる中国人工作員を今、日米の情報当局が重点マークしているという。

「問題の工作員は、アメリカ側が『李と面識が確認された』と注意喚起してきた。“面識”という以上、実際に行動確認をしていたわけだが、工作員は現在、日本で医療ビジネスを展開し、最先端医療技術を狙った“医大工作”を行なっている」(外事関係者)。同関係者によると、この工作員は都心の一等地に会社を構え、多数の従業員を率いて中国人富裕層対象の医療ツーリズムを手掛けているという。その主な受け入れ先が医大なのだ。

会社の公式サイトには提携先として東京大学や京都大学の付属病院、慶應義塾大学病院や『国立がん研究センター』等枢要な医大、研究機関が挙げられている。「一等地の会社の運営費は中国の丸抱え。かなりのカネが投入されており、中国も本気だ」(同)。日本の最先端医療技術を守抜く措置が急務である。


キャプチャ  2025年3月号掲載

テーマ : 医療ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接