【崩壊する地方テレビ局】(上) 総務省と政治が画策する“統廃合”
地上波放送のデジタル化設備投資やリーマンショックの影響で、地方テレビ局の赤字経営が4~5年続いた時代があったが、ここ数年はやや持ち直したとされていた。しかし最近、再び地方局の経営危機が囁かれている。『フジテレビ』系列9社、『テレビ朝日』系列6社、『TBSテレビ』系列4社、『日本テレビ』系列と『テレビ東京』系列0社――。これは、2014年度決算で減収減益となった地方局の系列別の数だ。視聴率不振の影響を受け、フジテレビ系列は最多である。大阪の同系準キー局である『関西テレビ』は、経常利益が前年比85.4%。名古屋の『東海テレビ』も同84.1%と厳しい決算となった。大都市は未だ持ち堪えたほうで、山形県の『さくらんぼテレビ』と『テレビ新広島』の両局は経常利益が前年比約57%と急落した。TBSテレビ系列でも、宮城県の『東北放送』が経常利益前年比86.1%、『熊本放送』が同72.3%等、苦しい経営が続く局を抱えている。東北地方を担当する総務省関係者によれば、『秋田放送』で耐用年数が迫った社屋を新しく建て替えようと検討を始めたが、地元の銀行も経営の先行きに不安があり、融資話が難航しているという。東北地方の中でも、東日本大震災の被災地である岩手県の民放を取り巻く環境は厳しい。岩手県には、小沢一郎氏が主導して、1991年に民放3局目の『岩手めんこいテレビ』が誕生し、その後に4局目となる『岩手朝日テレビ』ができた為、飽和状態にある。岩手県の人口は、隣接する青森県と大差なく、約130万人だ。しかし、青森県の民放は3社で、1局あたりの人口では劣勢に立つ。
老舗の『IBC岩手放送』(※TBSテレビ系列局)のOBが語る。「地デジの設備投資は一段落したが、この借り入れの返済に追われて、岩手の各社は厳しい状態だ」。全国的にテレビ業界の広告の伸び悩みは深刻だ。『日本民放連研究所』の調査によると、地上波テレビの広告費は、2015年が1兆8384億円となる見通しで、前年比0.2%増加だ。これに対し、インターネット広告費は今年8690億円で、5.4%増の見通しとなっている。地上波テレビ広告費は、東京オリンピック開催以降の2021年からはマイナスに転じるという。人口減に伴い、ローカルスポンサーの経営は苦しく、地方局の営業収入は益々東京支社偏重になっている。ある地方局幹部は、「東京支社で営業収入の7割を稼いでいるのが現状だ」と語る。車・化粧品・飲料水といった、所謂ナショナルスポンサーを相手に、東京支社で営業してCM枠を埋めているのだ。愛媛県の民放関係者は、「地元企業のスポットはパチンコ店が多い」と苦しい台所事情を語る。パチンコ店のCMは地方局を席巻し、前述した岩手県でも同様だと地元民放社員が語る。「深夜は殆どがパチンコのCMで占められる。県内に他のスポンサーが見当たらない」。『かもめの玉子』というお菓子を作る『さいとう製菓』等、限られた地元企業しかCMを出稿しない為、各局は奪い合いだ。その場合、歴史の古いIBCが有利だという。ある地方局の役員は、「今の配分電波料より利益率の良いビジネスモデルはない」と言い切る。2000年代初頭、民放BS放送がスタートした際、放送業界に“地方局炭焼き小屋論”が広がった。衛星を通じて全国に一斉に放送が届くことで、地方局の存在感は薄れ、早晩“炭焼き小屋”のようになってしまうというショッキングな話だった。しかし、それから十余年、地方局はゾンビのように生き残っている。テレビのCMには“タイム”と“スポット”の2種類がある。タイムとは、特定の番組を提供し、その放送時間中に流れるCMだ。この内、全国に流れるものが“ネットタイムCM”と言われる。キー局が多額の番組制作費をかけるドラマやバラエティーは、殆どが全国ネットで放送される。その番組を提供するスポンサーは、全国に一斉に流れることを期待してCM料を拠出している。平日のゴールデンタイム(※19~22時)番組なら数千万円単位のCM料が支払われ、その中からキー局が其々の系列地方局に配分する。これが“配分電波料”である。系列局への配分法はキー局によって異なり、フジ型は固定制で、CMの売り上げに関係なく配分額が決まっている。日テレ型は歩合制で、CMの売り上げに応じて配分額が変動する。一方、スポットは番組と番組の間に流すCMで、放送範囲はキー局であれば関東地区、各地方局は自らの県域とエリアが特定されている。現状、各キー局のタイムとスポットの収入比率は半々だ。しかしここにきて、スポンサー企業の志向はスポットに傾きつつある。「人口減や高齢化の進行する地方には、CMを流す価値は減ってきている」と分析しているのだ。これは、配分電波料に依存する地方局の経営を直撃する。
テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
ジャンル : ニュース