【第二次トランプ政権に備えよ!】(11) 「温暖化対策に負の影響の恐れ」――亀山康子氏(東京大学大学院教授)
第二次ドナルド・トランプ政権は先ず、確実に気候変動対策の国際枠組み『パリ協定』から再離脱するだろう。国連は来年2月までに、2035年までの各国の温室効果ガス排出削減目標を提出するよう求めているが、恐らくアメリカからは出てこない。国際交渉の焦点となっている途上国の気候変動対策に対する資金支援についても、トランプ政権は拠出しないだろう。
一次政権の時と同様、アメリカの気候変動に関する研究予算も大幅に削られる筈だ。海洋大気局(※NOAA)は解体の危機すらある。研究機関が担ってきた温暖化予測やモニタリングはダメージを受けるだろう。世界第二の温室効果ガス排出国であるアメリカのこうした態度が、他の国々の排出削減対策のやる気を削ぐ、負のメッセージとして波及することが懸念される。
アメリカ国民の特に若い世代の間では、党派を問わず気候危機に対する不安が増えている。ただ、大統領選では危機そのものへの不安より、気候変動の影響で増えた移民・難民がアメリカ国内に流入することへの不安が勝った。大統領選の最中、フロリダ州でハリケーンによる大きな被害が出たが、気候危機が顕在化しても「運が悪かった」と弱者を切り捨てるような考え方が広がる恐れがある。
一方、変わらないと予想されることもある。トランプ氏は石油・ガスの増産を訴えており、化石燃料の利用はある程度拡大するだろう。だが、同時に再生可能エネルギーへの移行も続く。脱炭素に積極的な企業や州は、誰が大統領になろうと排出削減を進めると宣言している。
ジョー・バイデン政権が2022年に成立させたインフレ抑制法に絡む再エネ補助金の支出先は、約8割が共和党寄りの地区とされる。既に再エネ産業に移行した州は今更、石炭産業に戻れない。核融合や次世代原発の技術開発も進むとみられ、結果的にアメリカのエネルギー部門の排出量は減っていく可能性もある。
日本はアメリカの顔色を窺いながら政策を決める傾向がある。2017年にトランプ政権がパリ協定からの離脱を表明した際、日本でも排出削減に消極的な言説が強まった。その影響で、2020年に漸く菅義偉政権が2050年までのカーボンニュートラル実現を打ち出すまで、他の主要国の脱炭素に向けた決断より時間的ロスがあったとみている。
石破茂政権は年内にも新たなエネルギー基本計画を纏める方針だ。輸入化石燃料に依存しない社会の実現は、日本のエネルギー安全保障上も重要だ。今回、また同じ轍を踏んではならない。 (聞き手/東京本社くらし科学環境部 阿部周一)
2024年11月15日付掲載
テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済