信賞必罰・スッポン営業、『大和ハウス』売上3兆円の秘密――10年で売上高・利益とも約2倍、雰囲気は“軍隊”・“中小企業”
JRの最寄り駅から車で約10分。千葉県内の住宅街の一角に、“ダイワハウス”と書かれたシートで囲った建設現場があった。広さは約2300㎡。「ここは賃貸アパートが建つ予定。向こうにオフィスビルが見えるでしょ。あれも大和ハウスが建てた」。嘗て、地元で農業を営んでいた為、広大な土地を所有する須藤覚氏・作一氏親子(右画像)はそう語る。須藤親子と『大和ハウス』の付き合いは、約40年にも上る。1970年代後半。所有する別の土地をどう活用するかに悩んでいた覚氏の元を、「倉庫を作りませんか?」と大和ハウスの営業マンが訪ねてきた。「大通りに近く、倉庫にすれば『借りたい』という企業は多い筈。安定した賃料が入りますよ」。何度も足を運んでは熱心に説明する営業マンに心を動かされ、1982年に倉庫を建設したのが最初だ。この倉庫は今、店舗に姿を変え、ドラッグストアが営業している。県内にある別の土地は、先ず中華料理店の店舗にしたが、その後はオフィスビルに建て替えた。賃貸アパート経営には乗り気ではなかったが、「相続税対策に有効」という提案を受け入れ、今や保有物件数は建設中のものを含めて14棟にも上る。合計2万㎡はある土地の約7割で、大和ハウスが物件を建てた。大和ハウスの今年3月期の連結売上高は3兆4600億円、営業利益は2800億円の見通し。この6年間で売上高は9割増、営業利益は2.4倍に増える。売上高の伸び率は、1兆円を超える内需企業の中でトップ。外需企業と比べても、『富士重工業』・『村田製作所』に次ぐ大きさだ。人口減少等、国内住宅市場を取り巻く環境が厳しさを増す中でのこの成長は、異様と言ってもいいだろう。
住宅業界で比較すると、大和ハウスの飛躍ぶりはより鮮明だ。同じ6年間で、『積水ハウス』と『住友林業』の売上高は共に3割増に止まる。千葉の須藤親子に対するように、商業施設やオフィスビル等、住宅以外の用途を幅広く提案できるのが成長率の差となっている。「祖業の住宅以外の分野に注力し、今や同じ土俵で勝負していない」(大手住宅メーカー幹部)。不動産・住宅企業の多くは、物件を一度建てたら、顧客との付き合いはそれで終わりにしがち。しかし、大和ハウスはとことん付き合う。この深い付き合いを可能にしているのが、顧客の地主向けに定期的に開く“オーナー会”だ。今月17日。オーナー会の初詣イベントが東京都内で開かれた。集まった土地オーナーは、永田町の日枝神社にお参りし、近くのホテルで食事。その後、皇居東御苑を散策した。オーナー会は初詣以外にも、税理士や司法書士を呼んでの相続税対策セミナーや、食事・観劇等、様々な催しを開く。2015年には土地オーナーの夫人等、女性限定のハワイ旅行を企画。夫人らは、浴衣姿で街を練り歩いた。他の住宅メーカーにも土地オーナー向けの親睦会はあるが、大和ハウスの徹底ぶりは抜きん出ている。大和ハウスは、オーナーとの密な意見交換を通じて、保有・運営する物件の最近の悩みや、地域の経済情勢を把握できる。周辺の地主が持つ土地の活用の話も入り易い。こうして一度、物件を建てた土地でも、より有効な活用策が見つかれば別の物件への建て替えを勧める。顧客に対して広く、深く──。食いついたら離さない“スッポン営業”が、大和ハウスの急成長を支える。相手は土地オーナーばかりではない。保有する土地の有効活用に悩む企業にもあの手この手の提案をし、ビジネスに繋げている。神奈川県の工場跡地の活用に頭を悩ませていたメーカーに対しては、車を使ったアクセスの良さや、近くに競合する施設が少ないことを考えて、ショッピングセンターを提案し、開発。テナントのパチンコ店が抜けた後のビルの活用を考えていた大阪府の会社に対しては、ビルを増築。前面をガラス張りにして明るい雰囲気に変え、食品スーパーを新たなテナントとして誘致した。街の雰囲気や人の流れをも変えかねないような提案営業。何故、これほど猛烈な攻勢をかけるのか。JR大阪駅近くにある大阪本社15階の役員フロア。この一角に、喫煙スペースとして活用する会議室(通称“たばこ部屋”)がある。足を踏み入れると、そこには驚くべき光景が広がる。