【人が集まる街・逃げる街】(137) 静岡県伊東市…高原の別荘地と温泉・観光の街
戦後の復興期を経て高度経済成長期に入った1950年代後半以降、白黒テレビ・冷蔵庫・洗濯機は“三種の神器”と言われた。中でも子供たちが憧れたのはテレビで、この時期の小学生に人気だったテレビCMの一つに、伊東市の『ハトヤホテル』のCMがある。作曲はいずみたく、作詞は野坂昭如と昭和を代表する作曲家、作家によるもので、当時は関東・東海・近畿地方で頻繁に流れていた。“伊東に行くならハトヤ”・“電話は4126(※ヨイフロ)”等、特徴的なリズムと誰にでもわかる歌詞で一世を風靡し、温泉地としての伊東を全国に知らしめた。温泉の源泉数で大分県の別府、湯布院に次ぎ、国内3位を誇る伊東温泉の他、市内には宇佐美温泉や赤沢温泉等の温泉地がある。勿論、ハトヤホテル以外にもホテルや旅館は多い。伊東市は伊豆半島の東部に位置し、南北に長い。市の中心部にあるのが伊東温泉だ。市街は伊東大川に沿って奥行きがあり、川沿いに展開する温泉街に風情を感じる。傾斜の厳しい伊豆半島の中では比較的緩やかな傾斜地の多いエリアで、伊東の北に位置する熱海が急峻な山や崖に囲まれ、“東洋のモナコ”と称されるのとは対照的だ。市の北部、熱海市網代との境には、漁業と温泉の街、宇佐美がある。海水浴場が整備され、ダイビング等マリンスポーツが盛んだ。市の南部には大室山や小室山等の山地や、別荘地としてよく知られる伊豆高原がある。また、門脇つり橋のかかる城ヶ崎海岸の断崖絶壁には、多くの観光客が訪れる。
関東地方有数の観光地・別荘地として知られる伊東だが、現在は観光と別荘の両面に課題を抱えている。先ず観光についてだが、伊東市の観光客数は1991年の895万人がピークで、近年は改善傾向にあるものの、2019年で662万人とピーク時の74%の水準だ。宿泊客数も1991年の394万人に対し、2019年は281万人と70%程度になっている。レジャーに対する意識変化により、最近は海水浴客の落ち込みも激しい。別荘については、高齢化問題、空き家問題として捉えることもできる。市の空き家数は、総務省の2018年度『住宅・土地統計調査』によれば、1万9750戸。空き家率は39%だが、その内の約6割に当たる1万1730戸が2次的住宅と分類される、所謂別荘だ。伊豆高原の別荘地は1963年から分譲が始まり、主に1960~1970年代にかけて造成・販売された。現在、この別荘所有者の高齢化と建物の老朽化が進んでいる。市は第3次観光基本計画(※2019~2023年度)で、伊豆高原を含む南部地区を“滞在型リフレッシュリゾート”と位置付けるが、この施策にリモートワークをテーマとした別荘街区の再整備を加えてみてはどうだろうか。東京から伊豆高原へは、新幹線の熱海経由なら1時間半以内でアクセス可能だ。富裕層の別荘が多かった伊豆高原付近は、レストランやスーパーマーケット等も充実している。これにコワーキング施設等を追加すれば、テレワーカーの支持を集めそうだ。充実した生活を送ることができる街、新しいスタイルを発信できる街、コロナ禍時代にあって、伊東はそんな期待を抱かせる街である。
牧野知弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。
2020年8月29日号掲載
関東地方有数の観光地・別荘地として知られる伊東だが、現在は観光と別荘の両面に課題を抱えている。先ず観光についてだが、伊東市の観光客数は1991年の895万人がピークで、近年は改善傾向にあるものの、2019年で662万人とピーク時の74%の水準だ。宿泊客数も1991年の394万人に対し、2019年は281万人と70%程度になっている。レジャーに対する意識変化により、最近は海水浴客の落ち込みも激しい。別荘については、高齢化問題、空き家問題として捉えることもできる。市の空き家数は、総務省の2018年度『住宅・土地統計調査』によれば、1万9750戸。空き家率は39%だが、その内の約6割に当たる1万1730戸が2次的住宅と分類される、所謂別荘だ。伊豆高原の別荘地は1963年から分譲が始まり、主に1960~1970年代にかけて造成・販売された。現在、この別荘所有者の高齢化と建物の老朽化が進んでいる。市は第3次観光基本計画(※2019~2023年度)で、伊豆高原を含む南部地区を“滞在型リフレッシュリゾート”と位置付けるが、この施策にリモートワークをテーマとした別荘街区の再整備を加えてみてはどうだろうか。東京から伊豆高原へは、新幹線の熱海経由なら1時間半以内でアクセス可能だ。富裕層の別荘が多かった伊豆高原付近は、レストランやスーパーマーケット等も充実している。これにコワーキング施設等を追加すれば、テレワーカーの支持を集めそうだ。充実した生活を送ることができる街、新しいスタイルを発信できる街、コロナ禍時代にあって、伊東はそんな期待を抱かせる街である。
牧野知弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。
2020年8月29日号掲載