【木曜ニュースX】(387) カンボジア、新首相も“親中”踏襲…経済投資に依存、語学教育も
カンボジアで中国企業が関わるインフラ整備が加速し、中国語メディアの存在感も増している。長く独裁体制を築いたフン・セン氏は今月22日、長男のフン・マネット氏に首相の座を引き継いだが、今後も院政を敷く構えで、カンボジアの親中路線は続きそうだ。 (取材・文・撮影/ハノイ支局 安田信介)
首都のプノンペンから車で約5時間。タイ国境に近いコッコン州の荒野に、ぽつんと赤茶色の建物が立つ。2017年から中国企業が整備を進める『ダラサコール国際空港』(※左画像)だ。大型旅客機が発着できる3000m以上の滑走路を備えるが、今年半ばとされた開港予定は遅れが見込まれている。空港を含む広大な土地は、2008年から99年間、中国企業に貸与されている。リゾートや港湾等の街全体の建設計画は、中国の巨大経済圏構想『一帯一路』の中核で、アメリカは港湾や空港の軍事利用を懸念している。空港近くにはホテルや娯楽施設が並ぶ区画があり、昼からカジノが営業していた。コロナ禍で激減した中国人観光客は、未だ戻っていない。住民の女性(36)は「地域が豊かになるのは良いこと」としながらも、「カジノ目当ての中国人が増えれば、犯罪の増加や治安悪化が心配だ」と話す。カンボジア国内のインフラ整備には近年、中国企業が多く関わっている。北西部のシエムレアプ州やプノンペン近郊に整備中の空港の他、プノンペンと南部のシアヌークビルを結ぶ初の高速道路も中国企業が建設した。昨年、海外からの直接投資は中国が52%を占め、2位の韓国(※11%)を引き離してトップだ。中国語のメディアも増えている。政府寄りのニュースサイト『フレッシュニュース』は、2018年に中国語版を開設した。英字紙の『クメールタイムズ』等も中国語版を設けた。カンボジア情報省によると、中国系メディアはニュースサイトや雑誌、新聞等計約30の媒体がある。中国語メディアが増える理由について、『カンボジアジャーナリスト連盟』のノップ・ビー代表は「中国企業がビジネスを展開する為には、中国語メディアが助けになる」と説明する。中国語教育も広がりつつある。カンボジアと中国は昨年、中等教育の公立校で中国語のカリキュラムを進めることで合意した。20ヵ所の高校で中国語の授業を試験的に導入する。中国の巨額支援を背景に経済成長を達成したフン・セン氏は、今月22日に退任し、長男のフン・マネット氏が首相を引き継いだ。陸軍司令官等を務めたフン・マネット氏は、アメリカの陸軍士官学校を卒業した後にアメリカやイギリスで学位を取得したエリートで、「欧米寄りの姿勢を取るのではないか」との見方もあった。だが、父のフン・セン氏は22日の記者会見で「政界を引退しない」と繰り返し強調した。与党『人民党』党首として影響力を保持する見込みで、対中関係が見直される可能性は低い。カンボジアの政治に詳しいアリゾナ州立大学のソパル・イア准教授は、中国にインフラ整備等で多額の債務を抱えるスリランカやラオスの状況と似ていると分析し、「カンボジアは経済的に中国に依存しきっている。新政権でも中国との緊密な関係は続くだろう」と指摘している。
2023年8月28日付掲載
首都のプノンペンから車で約5時間。タイ国境に近いコッコン州の荒野に、ぽつんと赤茶色の建物が立つ。2017年から中国企業が整備を進める『ダラサコール国際空港』(※左画像)だ。大型旅客機が発着できる3000m以上の滑走路を備えるが、今年半ばとされた開港予定は遅れが見込まれている。空港を含む広大な土地は、2008年から99年間、中国企業に貸与されている。リゾートや港湾等の街全体の建設計画は、中国の巨大経済圏構想『一帯一路』の中核で、アメリカは港湾や空港の軍事利用を懸念している。空港近くにはホテルや娯楽施設が並ぶ区画があり、昼からカジノが営業していた。コロナ禍で激減した中国人観光客は、未だ戻っていない。住民の女性(36)は「地域が豊かになるのは良いこと」としながらも、「カジノ目当ての中国人が増えれば、犯罪の増加や治安悪化が心配だ」と話す。カンボジア国内のインフラ整備には近年、中国企業が多く関わっている。北西部のシエムレアプ州やプノンペン近郊に整備中の空港の他、プノンペンと南部のシアヌークビルを結ぶ初の高速道路も中国企業が建設した。昨年、海外からの直接投資は中国が52%を占め、2位の韓国(※11%)を引き離してトップだ。中国語のメディアも増えている。政府寄りのニュースサイト『フレッシュニュース』は、2018年に中国語版を開設した。英字紙の『クメールタイムズ』等も中国語版を設けた。カンボジア情報省によると、中国系メディアはニュースサイトや雑誌、新聞等計約30の媒体がある。中国語メディアが増える理由について、『カンボジアジャーナリスト連盟』のノップ・ビー代表は「中国企業がビジネスを展開する為には、中国語メディアが助けになる」と説明する。中国語教育も広がりつつある。カンボジアと中国は昨年、中等教育の公立校で中国語のカリキュラムを進めることで合意した。20ヵ所の高校で中国語の授業を試験的に導入する。中国の巨額支援を背景に経済成長を達成したフン・セン氏は、今月22日に退任し、長男のフン・マネット氏が首相を引き継いだ。陸軍司令官等を務めたフン・マネット氏は、アメリカの陸軍士官学校を卒業した後にアメリカやイギリスで学位を取得したエリートで、「欧米寄りの姿勢を取るのではないか」との見方もあった。だが、父のフン・セン氏は22日の記者会見で「政界を引退しない」と繰り返し強調した。与党『人民党』党首として影響力を保持する見込みで、対中関係が見直される可能性は低い。カンボジアの政治に詳しいアリゾナ州立大学のソパル・イア准教授は、中国にインフラ整備等で多額の債務を抱えるスリランカやラオスの状況と似ていると分析し、「カンボジアは経済的に中国に依存しきっている。新政権でも中国との緊密な関係は続くだろう」と指摘している。
2023年8月28日付掲載