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【木曜ニュースX】(387) カンボジア、新首相も“親中”踏襲…経済投資に依存、語学教育も

カンボジアで中国企業が関わるインフラ整備が加速し、中国語メディアの存在感も増している。長く独裁体制を築いたフン・セン氏は今月22日、長男のフン・マネット氏に首相の座を引き継いだが、今後も院政を敷く構えで、カンボジアの親中路線は続きそうだ。 (取材・文・撮影/ハノイ支局 安田信介)

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首都のプノンペンから車で約5時間。タイ国境に近いコッコン州の荒野に、ぽつんと赤茶色の建物が立つ。2017年から中国企業が整備を進める『ダラサコール国際空港』(※左画像)だ。大型旅客機が発着できる3000m以上の滑走路を備えるが、今年半ばとされた開港予定は遅れが見込まれている。空港を含む広大な土地は、2008年から99年間、中国企業に貸与されている。リゾートや港湾等の街全体の建設計画は、中国の巨大経済圏構想『一帯一路』の中核で、アメリカは港湾や空港の軍事利用を懸念している。空港近くにはホテルや娯楽施設が並ぶ区画があり、昼からカジノが営業していた。コロナ禍で激減した中国人観光客は、未だ戻っていない。住民の女性(36)は「地域が豊かになるのは良いこと」としながらも、「カジノ目当ての中国人が増えれば、犯罪の増加や治安悪化が心配だ」と話す。カンボジア国内のインフラ整備には近年、中国企業が多く関わっている。北西部のシエムレアプ州やプノンペン近郊に整備中の空港の他、プノンペンと南部のシアヌークビルを結ぶ初の高速道路も中国企業が建設した。昨年、海外からの直接投資は中国が52%を占め、2位の韓国(※11%)を引き離してトップだ。中国語のメディアも増えている。政府寄りのニュースサイト『フレッシュニュース』は、2018年に中国語版を開設した。英字紙の『クメールタイムズ』等も中国語版を設けた。カンボジア情報省によると、中国系メディアはニュースサイトや雑誌、新聞等計約30の媒体がある。中国語メディアが増える理由について、『カンボジアジャーナリスト連盟』のノップ・ビー代表は「中国企業がビジネスを展開する為には、中国語メディアが助けになる」と説明する。中国語教育も広がりつつある。カンボジアと中国は昨年、中等教育の公立校で中国語のカリキュラムを進めることで合意した。20ヵ所の高校で中国語の授業を試験的に導入する。中国の巨額支援を背景に経済成長を達成したフン・セン氏は、今月22日に退任し、長男のフン・マネット氏が首相を引き継いだ。陸軍司令官等を務めたフン・マネット氏は、アメリカの陸軍士官学校を卒業した後にアメリカやイギリスで学位を取得したエリートで、「欧米寄りの姿勢を取るのではないか」との見方もあった。だが、父のフン・セン氏は22日の記者会見で「政界を引退しない」と繰り返し強調した。与党『人民党』党首として影響力を保持する見込みで、対中関係が見直される可能性は低い。カンボジアの政治に詳しいアリゾナ州立大学のソパル・イア准教授は、中国にインフラ整備等で多額の債務を抱えるスリランカやラオスの状況と似ていると分析し、「カンボジアは経済的に中国に依存しきっている。新政権でも中国との緊密な関係は続くだろう」と指摘している。


キャプチャ  2023年8月28日付掲載

テーマ : 中朝韓ニュース
ジャンル : ニュース

【木曜ニュースX】(386) 金門島民「中国と交流を」…台湾の“最前線”砲撃から65年

中国と台湾が激しい攻防を繰り広げた1958年の金門島砲撃の勃発から65年が過ぎた。蔡英文総統(※右下画像)は島を訪れ、歴史を踏まえて防衛力強化を訴えたが、中国本土と目と鼻の先で暮らす島民らは経済交流を重視し、冷ややかな声も多い。中国と如何に向き合うかという、来年1月の総統選で最大の焦点となる対中姿勢論議を象徴している。 (取材・文・撮影/台北支局 園田将嗣)

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蔡氏は65年の節目となる今月23日、金門島砲撃に参加した兵士や遺族らと懇談した。「平和を守るには、絶えず防衛力を高めなければならない」と強調した。2016年の就任以来、三度目の金門島訪問で、蔡氏は島内世論を強く意識してきた。一方、国民党から総統選に立候補する新北市の侯友宜市長は、22日に島を訪れ、「両岸(※中台)が平和なら永遠に戦争はない」と主張。島を貨物集積地にする等の経済振興策も提唱した。民衆党から出馬する柯文哲氏(※前台北市長)も節目に合わせ、「金門は平和的な実験に適した場所だ」と表明した。やはり、民進党政権と一線を画す交流重視論だ。中国の福建省アモイから僅か数㎞の金門島は、2001年に本島より早く中国との行き来が始まり、2019年は中国から40万人の観光客が訪れた。2018年からは福建省から海底パイプラインを通じて水の供給を受け、生活用水の75%を賄っている。2020年の総統選で、金門島を管轄する金門県の得票率は、民進党が21%だったのに対し、国民党は74%を占めた。侯、柯両氏の主張は、中国への親近感を強めてきた島民感情を見越したものだ。タクシー運転手の蔡顕盛さん(68)は、「民進党政権は島に何もしてくれないが、金門と家族のような関係の中国に頼めば、電力だって融通してくれる」と語った。本島の若者が“台湾人”意識を強める中、飲食店経営の許予仲さん(20)は「緊張関係なんて感じていない。砲撃戦を知らない世代だが、もっと中国と交流してほしい」と言い切った。中国との間で続く緊張状態に加え、コロナ禍の影響で、今年に入って島内の先月までの中国人観光客は1万2000人にとどまっている。観光施設も閑散とし、閉店や一時休業に追い込まれる免税店等もある。島内に限らず、経済交流の停滞に不満も根強い。それでも蔡政権は中国人観光客の受け入れに慎重だ。中国も、日本等約140ヵ国・地域への団体旅行を解禁しながら、台湾は除外している。総統選を控え、政権に不満を抱く観光業界等を見越した揺さぶりのカードとする可能性がある。


キャプチャ  2023年8月27日付掲載

テーマ : 中朝韓ニュース
ジャンル : ニュース

【誰の味方でもありません】(311) “諦め”という救い

https://www.dailyshincho.jp/article/2023/08310555/?all=1


キャプチャ  2023年8月31日号掲載

テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
ジャンル : 政治・経済

【今月のニュースフラッシュ】(20) 金融庁が関心を寄せる半グレの人材派遣会社が、公共企業の集金業務や自治体のプレミアム金券に関与していた

●東証スタンダード上場で赤字続きの食品メーカーについて、逮捕歴のある金融ブローカーが「近いうちに自分が増資を引き受けて株価が上がるから」という名目でカネ集めしているとの噂。
●東京都内の中堅機械メーカーで粉飾決算の疑惑が浮上。大正時代創業の名門で、表面上は黒字だが、取引先の間で警戒感が広がっている。
●連続赤字やリストラ、決算開示の遅れ等、業界内で動向が注目されている大手商社グループの製紙会社が売却されると噂に。売却先は国内大手製紙会社とも。
●大手電機系の空調機器メーカーで、支払いジャンプ要請の情報が流れている。赤字続きながら、親会社の信用を背景に倒産リスクはそこまで高くないと見られるだけに、要請を受けた取引先は困惑の表情。
●話題の格安スポーツジム等を運営する会社で広報体制が一新。社長が広報チーフとして引っ張ってきた、大手芸能事務所で某女優のマネージャーをしていた人物が退職。次の広報責任者は別部署と兼務する上、広報担当者も半数に。
●金融庁が関心を寄せる半グレの人材派遣会社が、公共企業の集金業務や自治体のプレミアム金券に関与していたことが発覚。
●やり手社長の下で急拡大中の建設会社の資金事情が悪化している。無理な安値で受注した物件が軒並み赤字で、協力業者への未払いが嵩み、銀行以外にあちこちからカネを借りている模様。
●東証プライム上場の店舗設計大手は、原価の付け替え等不適切な会計処理の疑いが浮上し、2023年1~3月期の決算発表を二度に亘って延期しているが、一部下請け業者への支払いについても延期要請しているとの話が聞かれる。
●ある一般社団法人の理事長が、協会を通じて得た情報を独占。資金流用等私物化疑惑も浮上。
●新型コロナウイルス融資の返済が始まり、“現代版闇金”のファクタリング業界が再び勃興。金利は実質月13%の会社も。
本誌7月号で詳報した『読売新聞』販売局幹部の壮絶パワハラについて、販売店の皆様から続々と反響の声が。現在、北海道方面からの詳細な情報をお待ちしています。
●政治、経済、芸能から話題のYouTuberにまで関心を寄せる大手紙女性記者が、某報道系チャンネルをバッサリ。曰く、「あのサムネイルで見たいと思いますか?」とのこと。
●某社役員には地方勤務の愛人がいる。遠距離恋愛(?)なので中々会う機会がないのだが、仕事に託けてせっせと通っているんですと。ご苦労様です!


キャプチャ  2023年8月号掲載

テーマ : 気になるニュース
ジャンル : ニュース

【死と生を見つめて】第2部・死生学(04) スピリチュアルな痛みを癒やす傾聴

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死生学のキーワードの一つが“スピリチュアル”だ。“霊性”や“魂”等と訳されることがある。人が生きる意味や苦しみに直面する際に関わる言葉として、医療や看護等の現場で浸透しつつある。「動くこと、好きやってん」。兵庫県川西市の協立記念病院緩和ケア病棟。寝たきりとなった入院患者の女性(79)が話し始めた。同院に週に1回訪れる中井珠恵さん(50、左画像、撮影/里見研)は、ベッド脇に座り、耳を傾けた。スピリチュアルケア師の資格を持つ。一般社団法人『日本スピリチュアルケア学会』が認定する資格で、終末期の患者らが人生の意味を問い直すプロセスに寄り添う。女性は若い頃、バドミントンに夢中になり、定年後はジョギングを楽しんだという。中井さんの顔を見ながら、朗らかな表情で話したかと思うと、「もう動かんようになったわ」。天井に視線を移して、呟いた。中井さんが慰めたり、アドバイスをしたりすることはない。自身の仕事を「何か特別なことではなく、語る人の思い、命を大切に思うこと」と表現する。そして、「話を聴き、折り重なった思いを一つひとつ拾うことで、その人が今、生きていることを支える。それがスピリチュアルケア師に求められていると思います」。

1998年、『世界保健機関(WHO)』の健康の定義にスピリチュアルを加えようという提案があった。これは見送られたが、WHOは2002年、緩和ケアでは身体的、心理社会的な苦痛に加え、スピリチュアルな問題へも対応するとした。厚生労働省はスピリチュアルペインとして、“人生の意味への問い”・“死生観に対する悩み”・“死への恐怖”等を例示している。スピリチュアルケアとはどういったことなのだろうか。同学会の副理事長で東北大学教授の谷山洋三さんは、「どうしたらいいのかわからない、自分の存在を脅かされた等、人生の危機に必要とされるもの。自分の支えとなるものを再確認・再発見することで、生きる力を取り戻す援助」と説明する。危機に対して、支えを見つける等することで、苦しみや悩みを落ち着かせようとする行為だという。「終末期だけではなく、全世代で必要とされるもの」だと谷山さんは考える。「例えば、失恋した時に自分の存在意義が揺らぐ場合もあるでしょう」。スピリチュアルケア師は傾聴を基本とする。助言することは殆どない。「人間は、スピリチュアルな問いを問わずにはいられない生き物なのだと思います」。放送大学教授の石丸昌彦さん(※臨床死生学)は話す。石丸さんは、答えはないものの、問いに向き合う力は養うことができるという。「例えば、山頂で日の出を見た時、子供の成長や動植物の世話を通じて命を感じた時、人々は何とも言えない高揚感に満たされることがあります。そんな経験がスピリチュアルな力を育む。生涯を通じて育まれる人間の財産ではないでしょうか」。


キャプチャ  2023年3月17日付掲載

テーマ : スピリチュアル
ジャンル : 心と身体

【死と生を見つめて】第2部・死生学(03) 疑似体験で大切なものに気付く

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“人生最後の大仕事”と呼ばれ、誰も避けられないが、日常生活で身近に感じられない――。そんな死の疑似体験授業を20年以上行なっているのは、関西学院大学教授の藤井美和さん(63、右画像)だ。死生学講義の一環。21歳の学生が癌で亡くなるまでの架空の闘病日記を読み上げて、その過程を疑似的に経験する。先ず受講生は、“形のある大切なもの”・“大切な活動”・“大切な人”・“形のない大切なもの”を3つずつ、12枚の紙に書き出す。藤井さんが闘病日記を朗読。病状が悪化する中で、順に破り、手放さなければならない。「死が迫る究極的な状況で、本当に大切なものに気付き、死を含めた生き方を問い直してもらうのが目的です」。家、お金、愛、母――。葛藤し、涙を流す人もいる。最後の1枚は“母”・“愛”・“感謝”等が多いという。藤井さんの「さよなら」の言葉で、最後の1枚を破る。例年、同大や連携する兵庫医科大学の学生、高齢者ら約300人が参加する。受講したある男子学生(23)は、「家族や友人の記憶が最も大切とわかった」と話す。18歳で悪性リンパ腫を発症。治療中、家族らに支えられた。「多くの人の生活を支えたい」と、今春、公務員になる。他にも、参加した学生からは「大切だと思っていたものが一番大切ではなかった」「当たり前の生活に感謝しながら生きていこうと思った」等の感想が寄せられている。

藤井さんは新聞社に勤務していた28歳の時、難病で全身麻痺となり、救急病棟で管に繋がれた。死に直面し、人生を振り返り、死にゆく人の為に何か役に立ちたいと願ったという。「私達は丸裸で生まれて、それだけで喜ばれる存在だった。様々なものを手放し、あるがままの自分に戻っていく遠き、信頼や感謝等、目に見えないものが自分を支えてくれていることがわかります」。上智大学教授を務めたアルフォンス・デーケンさん(※故人)が提唱した“デスエデュケーション(死への準備教育)”は、死を正面から見つめ、命の尊さに気付き、より良く生きることを目指す考えだ。国内では1980年代以降広まり、死生学の領域として大学教育等で取り入れられている。「何故、誰も助けてくれないの?」「生きる意味は何?」。東海地方に住む会社員の女性(38)は、学生時代に死生学を受講した。家庭内暴力に苦悩していたという。学んだのは“全ての命に意味がある”という価値観。それが人生の軸になった。現在、遺族と向き合う仕事に携わり、重度の聴覚障害のある娘を育てる。「今、大切にしたいことは?」「本当にできている?」「選択は間違っていない?」――時折、大学時代の死生学のノートを見返し、自分に問いかけている。大学の外でも、死や生について見つめるイベントに若い世代が足を運んでいる。先月中旬の夜、京都市内のカフェで『死生観光トランプ』の体験会が開かれた。集まった20~30代の会社員や僧侶ら約25人がテーブルでポーカーを始めた。トランプには、世界各国の死生観や葬送の風習がイラストで可愛らしく描かれている。考案者で、観光関連の企画等を手がける陸奥賢さん(45)は、「遊びながら死を語り合うツール」と説明。参加者は、死生観等について語り合いながらゲームを進める。デザイナーの女性(26)は、「カジュアルな雰囲気がいい。ポジティブに生き方を考えられてよかった」と話した。イベントを企画した『真宗教団連合』の一派、浄土真宗本願寺派副総務で住職の弘中貴之さん(52)は言う。「人間関係の希薄化やSNS疲れ等で生き難さを感じ、思い悩む若者も多い。日常生活の中で死生観や生き方について気軽に語り合える場づくりが求められている」。


キャプチャ  2023年3月16日付掲載

テーマ : スピリチュアル
ジャンル : 心と身体

【死と生を見つめて】第2部・死生学(02) 生きる為の学問を大学院で

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死と生を見つめ直す学びの場で、社会人が励んでいる。千葉市に住む理学療法士の高田雅子さん(49、左画像、撮影/西孝高)は、2021年春から東洋英和女学院大学大学院で死生学を学ぶ。生と死に関する哲学や生命倫理等の文献を読み、自身の経験を踏まえ考察する。体の機能を回復、維持させる役割の理学療法士が、患者の死と向き合ってもいいのだろうか――。長らく、この問いを抱えて過ごしてきた。「自分がお墓に入った時の景色が見てみたい」。30年近く前、理学療法士として働き始めたばかりの高田さんに、11歳の少年は話した。脳腫瘍で死が迫っていた。高田さんは戸惑った。だが、歩くのが難しかった少年は、墓に行くという希望を持っていたようだった。一時は拒否したリハビリも懸命にこなし、墓まで歩いて辿り着いた。「先生のしごきに耐えて、よかったよ」。朗らかな表情で話した後、1ヵ月も経たないうちに少年は亡くなった。理学療法士の仕事は、座る、立つ、歩く等の基本動作を回復・維持させること。「だからこそ、墓を見に行くという死に繋がる行動の為のリハビリを、当初は受け入れられなかった」と高田さんは打ち明ける。「医療従事者として、死はタブーだと考えていたからでしょう」。

死が近付いた患者達の考え方は様々だった。「死んでも美しくありたい」とリハビリに励む女性がいた。残される妻の為に、自分の気持ちを高田さんに伝え続けた男性がいた。だが、高田さんは死との向き合い方に十分な知識がなかった。「患者の死への寄り添い方を研究したい」という思いは深まり続けた。そんな時、心身のケアだけでなく、命や人生の意味にも触れるスピリチュアルケアの重要性を説いた医師のインタビュー記事を読んだ。医師に連絡すると、勧められたのが大学院での研究だった。「自分の疑問が学術的に成り立つと知り、嬉しかった」。大学院では、理学療法士も患者の心を受け止めて、リハビリ計画に生かすことで、内面の痛みや苦しみを和らげることができるのではないかと研究した。このほど纏めた修士論文の事例のひとつは、駆け出しの頃に出会った少年のものだ。研究を通じ、「お墓の景色が見たいという希望であっても、生きる力になり得る」と感じている。近い将来、博士課程に進学し、理学療法士が患者の死にどう向き合うのか、研究を続けたいと考えている。「死生学は生きる為の学問。そう思っています」。東洋英和女学院大学は1993年、社会人を対象にした死生学を学べるコースを大学院に設置した。これまでの修了生は200人以上に上る。死生学を学ぶ人の出身職種は、医療や教育、福祉関係等多岐に亘る。両親との死別や自身の病気等の経験を経て、死生学に関心を持ち、生涯学習として学ぶ人もいるという。2003年には大学院に死生学研究所が設立されている。国内では、2000年代になって、大学の講座等で死生学が本格的に取り上げられるようになった。東京大学では2002年に大学院で研究が始まり、2007年に“医療・介護従事者のための死生学”基礎コースが始まった。医療・介護現場のニーズは高く、看護職、医師、介護福祉士、医療ソーシャルワーカー、介護支援専門員等の参加が多いという。上智大学では2010年、家族の悲嘆をケアする人材や専門家を育成するグリーフケア研究所を設置。2016年には死生学に関する人材育成等を目的に、大学院に実践宗教学研究科死生学専攻を設置した。東北大学は、2019年に大学院文学研究科に“死生学・実践宗教学”専攻分野を設置した。東洋英和女学院大学死生学研究所所長の奥山倫明さんは、「多死社会が到来しており、死を直視した生き方が必要となっている。死生学への関心の高まりも感じる」と話す。


キャプチャ  2023年3月15日付掲載

テーマ : スピリチュアル
ジャンル : 心と身体

【死と生を見つめて】第2部・死生学(01) 「死を通し、生き方を考え直す」――島薗進さん(東京大学名誉教授)インタビュー

死生学への関心が高まっている。理系と文系に跨る領域で、死を通して生き方や命を考える新しい学問だ。連載第2部は、この研究や学びについて探る。最初に、第一人者の東京大学名誉教授・島薗進さんに、死生学や日本人の死生観の基本を聞いた。 (聞き手/編集委員 伊藤剛寛)

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――死生学とは?
「死や生命の危機、死別に向き合って、理系・文系に跨る領域の問題を、様々な角度から考察していく新しい学問です。きっかけの一つが、終末期の患者を安らかに見送るホスピス運動。欧米では1960年代に広がり、患者や家族にどう対処するかという研究が進められるようになりました。病院は病気を治すだけでなく、患者がよりよい最期を迎える為の支援も重要だという考えが生まれたのです。日本もその影響を受け、ホスピスが増えていきます。癌で亡くなる人が増え、死期がある程度見通せるようになったという背景もあります。死別の悲しみを抱える人に寄り添うグリーフケアへの関心も高まりました。日本では1970年代から死生学という言葉が広がっていきます。ただ、2004年には既に“死生観”という本が書かれており、欧米より早く研究が始まっていると言えます。学校で死について学ぶ“死の準備教育”、脳死や臓器移植に関わる生命倫理、葬儀や墓の在り方、死後の世界をどう捉えるか等、死生学がカバーしようとしている領域は多岐に亘ります」
――死生学が求められるようになった理由は?
「宗教離れが進んだ結果、現代人は日々の生活の中で、死と向き合う術を失っているのではないかという問いが、早くから投げかけられていました。命の重みが失われつつあるという懸念も関わっている。新たな世界観が求められており、死を通して生き方を考え直す。専門家だけでなく、市民も取り組むべき問題だと言えます」
――どんな人が学んでいるのですか?
「上智大学、東京大学、東北大学等で講座が設けられており、死に関わる経験をした社会人の参加が多い。医師、看護師、宗教者の他、会社員や主婦等様々です。生活経験を持つ人が学び直す。生涯学習的と言えるでしょう。グリーフケア等に携わる臨床傾聴士、スピリチュアルケア師という資格も取得できます。認定臨床宗教師は、宗教者の資格です。寺や教会の中ではなく、災害現場等に赴いて、痛みを分かち合いながら心のケアをする。東日本大震災をきっかけに注目されました。ケアは家庭や施設の中だけで行なうのではなく、地域の中でお互いが支えるという考えに呼応しています」
――近年の日本人の死生観は?
「戦後、団塊の世代は、科学的・合理的な知識こそ重要で、宗教は衰退していくという時代を生きてきました。死後の世界、生まれ変わり等、科学で証明されないものは存在しないという考えが強い。私も“こっくりさん”をしたことがありません。でも、私の母はしているんですよね。1970年代に再び流行します。1970~1980年代は環境破壊が問題になり、科学への疑いが生じます。科学が扱いきれない領域への関心も高まります。死生観も変化していく。例えば、死生学に“継続する絆”という言葉があります。亡くなった後も死者は生者と絆を保ち、交流しているという考え方です。夢に出てくれたという話はよく聞きます。私もこの年齢になり、お世話になった故人と一緒に生きているという感覚です。今の若い世代は、死後の世界や生まれ変わりを肯定的に捉える傾向がある。高齢者に合理主義的な人が多いので、今後は死後の世界が存在すると考える人が増えていくかもしれません。様々な死生観があるのだと、より柔軟に考える時代になったと言えます」


キャプチャ  2023年3月14日付掲載

テーマ : スピリチュアル
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【木曜ニュースX】(385) タリバン復権2年、抵抗勢力の牙城に人の姿なく…「市民は戦争に疲れ果てている」、住民は萎縮し口噤む

険しい山間に位置するアフガニスタン北部のパンジシール州(※左下画像)は、長年に亘ってイスラム主義組織『タリバン』に抵抗する勢力の拠点となってきた。タリバンは1996~2001年の前回政権時代には同州を陥落させることができなかったが、2021年8月に復権して間もなく、「今回は制圧した」と宣言した。現地を訪ね、“抵抗勢力の牙城”の今を探った。 (取材・文・撮影/ニューデリー支局 川上珠実)
 
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首都のカブールから北へ約100㎞。反り立つ岩壁とパンジシール川の急流を横目に、一本道を車で走り続けると、“美しいパンジシール州へようこそ”と書かれた白い岩で造られた門が見えてきた。検問所で銃を携えたタリバン戦闘員に取材許可証とパスポートを見せて、車内で5分ほど待つと、中心市街地へと通された。「パンジシールに抵抗勢力は存在しない。山間部にも市街地にもどこにもいない。彼らは完全に排除された」。州庁舎で取材に応じたハフィズ・ムハンマド・アガ・ハキム知事は、そう胸を張った。タリバンによる制圧宣言後も抵抗勢力とのゲリラ戦が続いてきたと報じられているが、ハキム氏は「この1年間でパンジシールでは治安上の問題は何も発生していない」と語った。パンジシール州は、前回のタリバン政権時代にタリバンに抵抗した『北部同盟』を率いた故アフマド・シャー・マスード司令官の故郷だ。マスード司令官は1979年にアフガニスタンに侵攻した旧ソビエト連邦軍とも戦い、“パンジシールの獅子”の異名で地元住民から慕われた。2001年に国際テロ組織『アルカイダ』に暗殺されたが、北部同盟はその後もアメリカの支援を受けて、タリバン政権の崩壊に寄与した。20年の時を経てタリバンが全国的に攻勢を強めた2021年夏、マスード司令官の息子であるアフマド・マスード氏が率いる反タリバンの武装勢力『国民抵抗戦線(NRF)』は、再び同州を拠点に抵抗した。タリバンが同州の制圧を宣言したのは2021年9月で、全34州の中で最後だった。

国際人権団体『アムネスティーインターナショナル』は今年6月の報告書で、同州でNRFの戦闘員や関係者に対する超法規的な処刑や拷問、不当な拘束が行なわれてきたと指摘した。生存者や目撃者らに対するリモート調査をもとに、昨年9月に14人がタリバンに超法規的に処刑されたとしている。ハキム氏は取材に対して人権侵害を否定した上で、「初めの頃は多少の問題があったが、短期間のうちに州内の全ての地区に武力を投入した。抵抗勢力にはイスラム首長国(=タリバン)に刃向かうだけの能力がなかった」と説明した。タジク系の住民が多い同州で、パシュトゥン人を主体とするタリバンが統治することについて、ハキム氏は「アフガニスタンでは言葉や民族、宗派による差別はない」と強調。「パンジシールの市民もイスラム首長国に抵抗の意思を示さなかった。抵抗することは国の利益を害することになるだけだと気付いたからだ」として、「市場で人々に聞いてみればいい」と自信を見せた。街中では、カブール以外では目にすることが少ない武装したタリバン戦闘員が住民に交じって歩く姿が見られ、タリバンの厳戒ぶりが窺えた。複数の住民は取材に「治安が良くなった」と答えたが、タリバンに対して萎縮している様子も見られた。ある若い男性は「夜間は外出禁止令が出ていて困っている」と口にしたが、外国人記者が取材していることに気付いた他の通行人が集まりだすと、男性は戸惑った表情で口を噤んだ。別の中年男性に話を聞いた際には、バイクに乗った不審な男性が近付いてきた為、取材を中断した。タリバン関係者は、バイクの男性は「GDI(※タリバンの情報機関)の職員だ」と説明した。一方、街角にはアメリカ軍の所有物と記されたコンテナや、旧ソ連軍の侵攻時に放棄されたとみられる錆びた戦車の残骸があちこちに残されていた。アフガニスタン情勢に詳しい記者は、「市民は戦争に疲れ果てている。欧米諸国もウクライナ戦争に手いっぱいで、アフガニスタンへの関心は薄れ、支援は期待できない」と話した。タリバンの統治に打撃を与えるには至っていないものの、NRFは現在もアフガニスタン各地で武装闘争を続けているとしている。アフマド・マスード氏ら反タリバン勢力は昨年9月にウィーンで会合を開き、「政治的な対話に基づいた問題解決が望ましい」とした上で、国連や周辺諸国に協力を求めた。NRFは、アムネスティーの6月の報告書について「タリバンの戦争犯罪に光を当てた」と歓迎する声明を発表している。


キャプチャ  2023年8月11日付掲載

テーマ : 中東問題
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【宇垣美里の漫画党宣言!】(103) 女性達の無念が滲み出る台湾ホラー

一人暮らしの女性は夜のコンビニでアイスを買ってはいけないらしい、危険だから。幸せそうに見えたからと電車で刺され、女性の地位向上に関するG7会合では唯一男性の代表が参加、ジェンダーギャップ指数は146ヵ国中125位であるこの国で女として生きることは、罰ゲームみたいだと時々思うことがある。だから、『守娘』の世界で抑圧され、息を殺すようにして生きる当時の女性達の姿がどうしても他人事に思えなくて、余計に目が離せなかった。杜家の娘・潔娘(※ゲリヨン)は理解ある兄の元、読み書きを習い、自分らしくのびのびと育ったが、男の子を産むことばかりに注心する兄嫁や、周りから結婚の話ばかりされることに嫌気がさしていた。そんなある日、川辺で見つかった女性の遺体に弔いの儀式を行なう女性霊媒師と出会い、弟子になりたいと願うようになる。軈て亡くなった女性について調べるにつれ、潔娘は街で起こっていた女性を巡る事件に巻き込まれていく。清王朝末期より伝わる台湾三大伝説のひとつ『陳守娘(タンシュウリョン)』を下敷きに描かれた、台湾発の怪奇ミステリー。男の子を産む為の方法ばかりが豊富で、女の子は育てる意味がないとすら言われる時代、子を産む道具のように扱われ、天と地ほど違う男女の立場の違いや婚姻に纏わる風習等、当時の女性達のリアルは何から何までまるでホラーだ。そんな女性達の壮絶な生き様が、奥行のあるコマ割りと水墨画のようなコントラストの効いた美麗な絵で迫力を持って描かれ、目を奪って離さない。

物語の背景にある思想や風習、民間信仰や散りばめられた固有名詞等については、話の合間に差し入れられたコラムで丁寧に解説されており、歴史好きにはたまらない。台湾の文化に明るくなくとも、物語にしっかり入り込むことができる。女性達の無念が全てのページから滲み出てくるようで、台湾ホラーの底冷えする怖さも相まって、読み進めるのが苦しくなるくらい。けれど、読後感が意外に爽やかなのは、守娘が次世代の潔娘に見た希望の眩しさ故だろう。「女にはできないことが 悪霊になれば簡単にできる」。そう男達を裁く怨霊として、悲しむ女達に寄り添い続けてきた守娘は、まさにフェミニストの先人。そんな彼女が自分とは違う道を選べるであろう若い女に思いを託すラストに、この物語は、女の女による女の為の救済を描いているのだと感じた。思えば、日本も女ばかりが悪霊となり、死後も弄ばれてきた。たかが1枚の皿を割ったくらいの罪で殺された挙げ句、毎夜皿の枚数を数えていると噂されるなんて、バカにされているにも程がある。でも、かけられた呪いに抗い、無いことにされてきた怒りに向き合って新しい生き方を模索するこの作品のラストは、諦めない強さを教えてくれる。纏足をしていない潔娘は、足が大きいから嫁ぎ先がないと、幸せになれないとバカにされてきた。でも、その大きい足だから街を駆け回り、様々な女達に会い、その苦しみを知ることで巨悪に立ち向かう力を得られたのだ。私だって、この弁えを知らない大きな足で罅割れた大地をしっかり踏みしめ、どこまでも走ってみせる。先人達が切り開いてきた女の人生、後退なんてさせてたまるか。次の世代には、より良い世界を手渡してあげたいから。ね、守娘。


宇垣美里(うがき・みさと) フリーアナウンサー。1991年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部卒業後、『TBS』に入社。『スーパーサッカーJ+』や『あさチャン!』等を担当。2019年4月からフリーに。著書に『風をたべる』(集英社)・『宇垣美里のコスメ愛』(小学館)・『愛しのショコラ』(KADOKAWA)。近著に『風をたべる2』(集英社)。


キャプチャ  2023年8月17・24日号掲載

テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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