【第二次トランプ政権に備えよ!】(09) 「国益を譲らない勝負が必要だ」――今井尚哉氏(『キヤノングローバル戦略研究所』研究主幹)
安倍晋三元首相とドナルド・トランプ氏のやり取りの最中を見てきた。一期目の当選直後に安倍氏がしたことは、トランプ氏の自宅(※トランプタワー)の訪問だった。
当時は軍事化を進める中国、北朝鮮のミサイル等アジアの安全保障を巡る環境が非常に厳しかった。安倍氏は、北朝鮮のミサイルが届くようになればアメリカ自身の脅威であることや、アジアの安全保障にアメリカの関与が欠かせないこと等を逸早く伝えたかった。結果的に、この日の説明がトランプ氏にも理解され、その後の自身の訪朝等の動きにも繋がったと思う。
安倍氏がトランプ氏をゴルフや相撲観戦でもてなして「おべっかばかり使っている」とも言われたが、ビジネスマンであるトランプ氏にディール(※取引)ができる相手だと思ってもらう為にも、互いの趣味も通じた人間同士のケミストリー(※化学反応)を大事にする必要があった。
トランプ氏の経済戦略は、基本的にはアメリカ国内で雇用を作り、製品の輸出を増やしたいのが狙いだろう。先ずは海外から国内に工場を呼び込み、それに応じない国に高い関税をかけていくのではないか。
これから自動車や農産品の貿易や安全保障等を巡るトランプ氏とのディールが始まることが予想される。交渉に当たっては、互いが“ウィンウィン”なら協力するが、“ゼロサム”になるなら日本も自国の国益を譲らない、という勝負に持ち込んでいくことが必要だ。
ただアメリカ側に従うだけの外交になれば、足元を見られてしまう恐れがある。例えば、トランプ氏が「我が国の液化天然ガス(※LNG)をもっと買え」と迫ってくる可能性がある。政府内や産業界等が連携を深めながら、様々な損得を計算したプランを作り上げて交渉に臨んでほしい。
二国間での交渉が基本のトランプ氏は、一期目と同様、G7等の場を重視していないと思われる。これまで引っ張ってきたG7は、世界勢力の中で相対化が段々進んでいくだろう。
日本の外交は、各国の価値観や意見の対立も踏まえ、各国と同心円の関係を意識して向き合っていくべきだ。米中関係の冷え込みで対中貿易がし難くなれば、日本にとって不利益を被る。その場合はG20の場で欧州や中国と組んで歩調を合わせて防がないといけない。時にはアジアの一員として利益の代弁者になる等し、国際協調の場をよりよい方向に導くことも必要だ。 (聞き手/東京本社経済部 竹地広憲・浅川大樹) (撮影/幾島健太郎)
2024年11月14日付掲載