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【劇場漫才師の流儀】(318) 祇園花月でスベる

何度、経験しても落ち込むものですね…。先日、祇園花月でスベりました。今回のケースは原因がわからんかったな…。何度もやっているネタだったんですけど、5~6分して「このネタじゃないほうがよかったな」と漫才中に考えてしまって、その迷いがお客さんに伝わってしまったのかな。最後まで諦めずに一生懸命やったんですけどね。

僕らの後の出番だった吉本新喜劇の出演者にLINEで聞いたんですよ。〈2回目のお客さん、難しなかった?〉って。そうしたら、〈いつもと違うところで笑ったりしているというのはあったかもしれません〉という返事でした。後日、座長のアキちゃんも「あの日のお客さんはいつもと違いましたね」と話していて、ちょっとホッとしました。

祇園花月はとても古い建物で、普通の劇場とは造りがちょっと違うんです。というのも、楽屋から10歩くらいで舞台に上がれるくらい、楽屋とステージが近い。出囃子が鳴ってから楽屋を出ても十分に間に合います。そんな環境なので、前の演者のネタを舞台袖で見ないんです。

『なんばグランド花月(NGK)』なんかだと、前の演者のネタが始まったら楽屋を出て、長い階段を下りていって、袖で待機します。そこで5分ほど、前の芸人さんのネタを見て、そこでお客さんの様子も何となく把握するわけです。お客さんというのは、自分が面白いと感じても周りが笑っていなければ、「自分だけ笑ったらおかしいかな」みたいな空気になるもんなんです。

当然、逆もあります。周りが笑っていると、つられて笑うことがある。空気が温まっているというのかな。そういう時は、めちゃめちゃやり易いんです。お客さんが重くなってしまう要因として、トップバッターや前半組の出来不出来も大きい。この前もNGKで、そこそこ名前の売れているコンビが前半組だったんですけど、楽屋でのモニターで一生懸命さが感じられなくてね。

前半組でお客さんが冷めてしまうと、その後の演者が頑張っても中々お客さんが乗ってこなくなってしまうんです。がっかりしちゃうんでしょうね。トップというのは謂わばその回の“つかみ”なので、下手でもええから大きな声を出して、一生懸命やってお客さんの意識を集めてくれんと。

トップがドカンといくと、後は非常にやり易いんです。お客さんがわくわくしているのも伝わってきますしね。この前も何とかリカバリーしようとはしたんですけど、無理でしたね。相方の阪神君はメニエール病を患っていて、大きな拍手とかはわかるらしいんですが、お客さんの笑い声は殆ど聞こえないそうなので、スベっていても気づいていなかったと思います。

だから、僕だけで何とかしようとしても、中々難しいというところがあるんです。元々、阪神君はあんまり出来不出来を気にしないほうですが…(苦笑)。でもまあ、毎回、お客さんの反応が違うというのが劇場の醍醐味でもあるんですけどね。 (聞き手・構成/ノンフィクションライター 中村計)


オール巨人(おーる・きょじん) 漫才コンビ『オール阪神・巨人』のボケ担当。1951年、大阪府生まれ。大阪商業高校卒業後、1974年7月に『吉本新喜劇』の岡八朗に弟子入り。翌1975年4月に素人演芸番組の常連だったオール阪神とコンビを結成。正統派漫才師として不動の地位を保つ。著書に『師弟 吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年』・『さいなら!C型肝炎 漫才師として舞台に立ちながら、治療に挑んだ500日の記録』(ワニブックス)。近著に『漫才論 僕が出会った素晴らしき芸人たち』(ヨシモトブックス)。


キャプチャ  2024年10月7日号掲載

テーマ : お笑い芸人
ジャンル : お笑い

【安田理央の「アダルトカルチャーの今と未来」】(89) “モザイク破壊”を誰でもできる時代に!?

同人AVの世界では、一般のAVのように審査団体の審査を受けるわけではありませんが、流通させるプラットフォーム(※販売サイト)の審査がある為、やはり“修正が薄過ぎて”登録できないということはあるようです。その場合は勿論、修正をやり直すことになります。

同人AVでは制作者自身がモザイク修正を行なうケースが多かったのですが、最近はモザイク編集を代行してくれる業者も増えてきていて、外注に出すことが普通になってきているようです。『FC2』等海外にサーバーがあるという名目で無修正動画を販売しているプラットフォームもありますが、日本で制作している以上、無修正はわいせつ電磁的記録等送信頒布等の罪に問われることになります。

どういう形であれ、日本のAVではモザイク修正が必須というのが現状です。ところが、2019年頃から登場して、急速に拡大した“モザイク破壊”という技術が、その存在意義を揺るがしています。これは粗い映像を高解像度化するアップコンバートの技術を利用したもので、モザイクがかけられている部分をAIが予測して補完することによって、修正前のような映像を作り出すのです。

言ってみれば、モザイクの下の映像をAIが「こんな感じかな?」と勝手に描いているようなものなのですが、その精度はかなり高く、性器の形状を把握できてしまうほどです。つまり、販売されている全ての正規AV作品がモザイク破壊を使えば、無修正作品になってしまうわけです。

まあ、今のところはモザイクの濃さや映像の明るさ等にその効果は左右され、ぼんやりと性器のようなものが見える、というレベルにとどまっているものが多いのですが。希望の作品のモザイク破壊を行なう業者もいますし、違法アップロードサイトにはモザイク破壊された既存のAVが数多くアップロードされています。

2021年にはモザイク破壊業者が著作権法違反とわいせつ電磁的記録媒体陳列の疑いで逮捕されていますが、モザイク破壊の行為自体を個人で行なう分には罪に問われることはありません。モザイク破壊にはかなりのスペックのPCが必要で、一般ユーザーが手を出すのは難しい状況です。ただ、これも今後、PCの高性能化・低価格化が進めば、どうなるかはわかりません。誰もが自分のPCでモザイク破壊ができる時代が来るかもしれないのです。

そうなると、単に性器が見えるというだけでなく、“生挿入”している筈なのにコンドームが見える(※実際、モザイク破壊ではかなりの率でコンドームが確認できます)とか、素人の筈が実は有名女優だったとか、これまでモザイクによって隠されていた“AVの嘘”も通用しなくなってしまいます。モザイク前提で作られてきた日本のAVの在り方を見直さなければならない時代がやって来るのかもしれません。


安田理央(やすだ・りお) フリーライター。1967年、埼玉県生まれ。雑誌編集者やコピーライターを経て、1994年からフリーに。著書に『AV女優、のち』(角川新書)・『ヘアヌードの誕生 芸術と猥褻のはざまで陰毛は揺れる』(イーストプレス)・『日本AV全史』(ケンエレブックス)等。


キャプチャ  2024年10月7日号掲載

テーマ : アダルト
ジャンル : その他

【Test drive impression】(346) マイチェンで待望の電動4WDを追加! 日産ノートオーラニスモの走りが超気持ちいい!

https://wpb.shueisha.co.jp/news/car/2024/10/02/124650/


キャプチャ  2024年10月7日号掲載

テーマ : 新車・ニューモデル
ジャンル : 車・バイク

【Global Economy】(365) アメリカの無人タクシー、普及間近…安全性向上やルール整備必須

アメリカで自動運転タクシーの運行地域が広がってきた。人手不足の解消や交通事故の減少といった社会課題の解決に繋がると期待される一方、事故によってサービス停止に追い込まれた事例もある。アメリカで実際に最新の自動運転タクシーに乗車し、その現在地を探った。 (ニューヨーク支局 小林泰裕)



20240930 10
先月中旬、カリフォルニア州サンフランシスコ。自動運転タクシーを運行する『ウェイモ』のスマートフォンアプリで乗車位置と目的地を指定すると、ものの数分で自動運転タクシーが走ってきた(※①)。ウィンカーが点滅してから路肩に寄り、停車した。アプリで解錠してドアを開けると、運転席には誰も乗っていない。後部座席に座ってアプリのスタートライド(※発進)をタップすると、タイヤがキュッと音を立てて曲がり、滑らかに走り出した。

サンフランシスコは急坂が多く、交通量も多いが、前方の車との距離を一定に保ち、時速20~40㎞程度で走行した。路上の自転車や歩行者に接触しないよう進行方向を細かく調整し、前方に歩行者がいれば速度を落として止まり、歩行者が通り過ぎたタイミングで改めて発進した。加速・減速は非常にスムーズだ。

GPSが不調だったのか、予定ルートから逸れる場面もあったが、総じて安全運転で、車の流れを乱したり、危険だと感じたりする場面はなかった。料金は10~20分の乗車で10~20ドル(※1400~2800円)。アメリカの配車サービス大手『ウーバーテクノロジーズ』よりも2~5割高かった。

自動運転タクシーは制限速度を順守して走る為、ウーバーやタクシーより移動時間がかかることもあるかもしれないが、運転手不足の緩和や事故減に繋がる可能性もありそうだ。

ウェイモの自動運転技術は世界の最先端とみられており、運転制御に関するデータは基本的に車両内のコンピューターで処理され、外部との通信がなくても自律走行が可能という。ウェイモを利用した『SOMPOインスティチュートプラス』の新添麻衣上級研究員は、「日本の技術なら立ち往生するような場面でもウェイモはスイスイ走る」と技術力の高さを評価する。

ウェイモは昨年8月、自動運転のレベルのうち、特定の条件下でシステムが全ての運転操作を行なうレベル4での商業運行の認可をサンフランシスコで取得した(※②)。当初は利用者を一部に限定していたが、今年6月からは誰でも利用できるようになった。現在、商業運行中の全米3都市での利用回数は毎週10万回という。

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【全解剖!日本の魚ビジネス】(04) 男女比、所得、働き方…日本の漁師12万人の素顔



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漁師というと、どんな姿を思い浮かべるだろう。朝は早くから漁船に乗り、海に繰り出し、魚を水揚げしたり、漁具を運んだりの力仕事。大漁の時もあれば、予期せぬ荒天で不漁の時もある。先輩の言うことは絶対で、男社会でもある──。だが、そんな漁師の世界も、少しずつだが変わりつつある。

実際に漁師の現状はどうなっているのか。全国の漁業就業者(※1年間の海上作業日数が30日以上の者)の数は12万3100人(※2022年度末)。20年前(※2003年度末)の23万9000人から半減した。日本全体が人口減社会だが、減り方はずっと速い。年齢構成を見ると、39歳以下の比率は19.2%(※2022年)。定年がないせいもあるが、最大のボリュームゾーンは65~74歳と高齢化が進む。女性比率も10.9%と低い。女性の場合、魚の仕分けやカキの殻剥き等の陸上作業で、役割を果たしている。

1日の平均的な仕事ぶりも特徴的だ。例えば朝6時集合等、始まりは早いが、終わるのも午後の早い時間が普通。魚種にもよるが、年間の延べ出漁日数は121日と、稼ぐ時はしっかり稼ぐ。気になる収入は個人経営体の場合、平均漁労収入が900万円で、漁労支出を引いた漁労所得が284万円(※2022年)。これも魚種や漁法、船の大きさ等で異なる為、実際にはかなり幅が広い。

漁師は歩合給が中心の為、魚の獲れ具合によって年1000万円以上稼ぐ者もいる。他に水産加工や遊漁など漁労外の収入もある。因みに、漁師が加入する漁業協同組合の数は864組合(※2022年度末)と、20年前の1510組合から合併が進み、4割以上減った。それでも全国では毎年約1700人が、この世界に入ってくる。

少しでも人手を確保すべく、業界も手を拱いてはいない。現実的に漁師の子が漁師になるケースは多い。他にあるのは、水産高校を経て漁師になるパターン。国内には現在46校の水産高校があり、8000人以上が水産の専門教育を受けている。著名なのは焼津水産高校(※静岡県)等だ。

「水産高校に行けば、海技士や船舶操縦士等、国家資格を取れるメリットもある」と説明するのは、『全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp)』の馬上敦子事務局長。同センターでは漁業就業支援フェアを定期的に催し、水産会社や漁協、漁師と学生とを引き合わせている。7月には東京・大阪・福岡で開催。体験乗船やインターンシップの相談等もできる。就活生だけでなく、転職者や移住希望者も対象になる。

親が漁師でなく、地元も漁業と関係ない等、どうしたら漁師になれるかわからない人は少なくない。同センターは“船と漁業を知る授業”の名の下、水産高校や中学校、学童保育所まで、自ら出かけていき講義している。漁業の新たな担い手を生み出そうと余念がない。

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テーマ : 食に関するニュース
ジャンル : ニュース

【満韓あちらこちら】(06) 溥儀が乗った鮮鉄の特別車…“世界一”水豊ダム視察



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「明治の日本人は偉かった」と言うと、「世代で一括りにするなよ」なんて批判が聞こえてきそうだ。その通りかもしれない。ひとつだけ言いたいと思う。夏目漱石の紀行文『満韓ところどころ』(※明治42年)に出てくる人達がそうであったように、草創期の“外地”の近代化の為に身を投じたのは、明治前後の時代に生まれた日本人であった。

それ以降、海を渡った先人の業績を語ることが、何故未だにタブー視されているのか。スケールが大きい発想力や、無鉄砲と紙一重のチャレンジ精神で懸命に西洋列強を追いかけ、肩を並べようとした人達の物語を伝えたいのだ。えっ、誰にだって? 周辺諸国の“やりたい放題”に手を拱いているだけの政権や、兎角“内向き”・“安定志向”の今時の若者達に決まっているだろう。まあ、還暦を過ぎたオジン記者の戯言だと思って読んでもらえればいい。

きっかけがあった。インターネット上で公開されているNHKアーカイブスの中に、昭和18(1943)年5月、当時の満洲国皇帝だった溥儀が『水豊ダム』を視察したニュース映像を見つけたことだ。同国と朝鮮を隔てる鴨緑江を堰き止めて建造されたダムは桁外れに大きい。同ニュースによれば、工事に関わった人員は延べ3000万人、総工費2億4000万円(※現価で5000億円くらいか)を投じ、貯水池は“琵琶湖の約半分”の規模を誇る。

その容量では“敵米国”の巨大ダム(※ボルダーダム)でさえ、遥かに及ばない――と伝えている。満洲国と朝鮮に電力を供給する水豊ダムの水力発電所(※昭和16年から配電)の発電機は、1基あたりの出力が世界最高(※当時)の10万㎾で、最終的に7基(※最大出力計70万㎾)も備えられた。

思い出してほしい。明治42年の漱石は、未だ鉄橋もなかったこの鴨緑江を蒸気船で渡っているのである(※本連載5月17日付等)。それから30年余り。朝鮮北部のこの地域周辺は、日本統治下で見違えるような“水力発電所銀座”になっていた。大正末期以降、日本人はこの地域の赴戦江、長津江、虚川江等の川に次々と巨大な水力発電所を建設してゆく。

朝鮮北部の山岳地帯といえば、急峻な山と渓谷が続き、冬は酷寒、人間よりも虎が出そうな土地である。そんなところに水力発電所を造るという壮大且つ挑戦的(※無謀?)なアイデアを出し、実行してみせたのが、『日本窒素肥料グループ』の総帥だった野口遵(※1873-1944)と日本人技術者達であった。戦後、北朝鮮はこの水力発電群にずっと依存してきた。日本人がつくったものは、やっぱりサステナブルだったのである。

ちょっと前に戻ろう。私が溥儀の水豊ダム視察の映像を探していたのは、溥儀が乗った特別列車のことを調べていたからである。前述のニュース映像には、水豊ダムを訪れた溥儀が乗った特別列車が映っている。先頭のパシシ型蒸気機関車に飾られているのは満洲国の国旗と日章旗か(※映像ではよく見えない)。列車の中ほどにVIP用と思われる特別車らしい客車が見える。

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テーマ : 歴史
ジャンル : 政治・経済

【損害保険の闇】(10) 相変わらずの契約者軽視体質…誰が損保を殺すのか?



20240930 05
今から19年前の2005年、保険業界は“不払い問題”で大きく揺れていた。当時、『明治安田生命保険』で死亡保険金を巡る支払い漏れが大量に発覚。同時期に、損害保険業界でも『富士火災海上保険』(※現在の『AIG損害保険』)で自動車保険等の支払い漏れが発覚した。それらを発端に、保険業界全体で不払いが発生していることが明るみに出た。

自動車保険の特約等における不払いは、最終的に約49万件、金額にして約381億円にも上り、金融庁が損保各社に対して一部業務停止命令といった厳しい行政処分を下す結果となった。不払い問題の背景にあったのが、保険の自由化だ。それまで同一だった商品内容と保険料を、自由に設計できるようになり、自動車運転者の属性等事故のリスクに応じて保険料を設定する“リスク細分型”の自動車保険が新たに登場する等、商品が一段と複雑化していった。

各社が「目の色を変えて商品ラインナップの拡充を競い合っていた」(大手損保の元役員)一方で、適正な保険金を支払う為の管理体制の強化は後回しにされた。契約者を軽視し、新商品投入による新規契約の獲得や保険料の増収ばかりに目を向けたことで、大きな代償を払うことになったわけだ。

それ以来、損保業界は契約者への支払いや請求勧奨といった手続きの在り方を見直し、“顧客本位”の視点で再発防止の取り組みを進めてきた筈だった。ところが、不払い問題から20年近く経った今も、業界の契約者軽視の体質は変わっていない。中古車販売大手『ビッグモーター(BM)』や、完成車メーカー系列の自動車ディーラーによる保険金の不正請求問題に正面から向き合わず、被害を受けた契約者はそっちのけで、時に不正の隠蔽に加担するような行為に手を染めていたのだ。

金融庁のある幹部は、「保険金の不払いを防ぐモニタリングは、これまで徹底して強めてきた。ただ逆に、損保が不正請求を黙認し、保険金を余計に支払うことで将来の増収に繋げようとするといった、歪んだ取引関係への監視という視点が、監督当局として決定的に欠けていた」と唇を噛む。

カルテル問題においても、競争を排除していた自由化以前の業界の古い体質を変えることなく、そのまま引きずってきたことが白日の下にさらされてしまった。しかも、カルテルが発覚した後の損保の対応を見ていると、危機感が残念なほどに薄く、抜本的な見直しをしようという気がさらさらないことがよくわかる。

損保業界の雄『東京海上日動火災保険』は昨年6月、カルテルの再発防止策として独占禁止法に関する研修を始めた。だが、当初は『東急』の事案にまったく触れず、何故今、独禁法の研修を始めたのか、不思議がる社員が少なくなかった。幅広い社員を研修対象にすることで、東急を巡る事案が明るみに出るのを避けようとしたとみられるが、再発防止の実効性を高めなければという強い覚悟があるならば、身内にも隠すというのは本来あり得ない判断だ。

東京海上の危機感の薄さは、人事からも透けて見える。トップ交代を発表した昨年末の記者会見で東京海上の広瀬伸一社長は、カルテル等の不祥事による引責辞任との見方を幾度となく否定。2022年末から交代に向けた協議を進めていたと強調した。人事を正式発表するまでの間には、BMとカルテルという二大不正事案が顕在化する“非常事態”に陥ったが、それにも拘わらず、恰も平時であるかのように当初のシナリオ通りに人事を進めたわけだ。

そうしていつまで経っても正常な危機感を持てないのは、右上画像にあるように、不祥事が起きても株価が上がり続けているからかもしれない。株高の主な要因は金融緩和によるものだが、不祥事の影響が株価に大きく及ばないことで、経営陣が市場から評価を得ていると勘違いし、危機意識が弛緩しているのだろう。

大手損保の現場からは、「綺麗事だけでビジネスはできない。修理費の水増し請求もカルテルも、謂わば必要悪みたいなものだ」という声が時折聞こえてくる。そうして“損保ムラ”の常識に染まり、事ここに至っても変わろうとしないその意識は、損保としての存在価値を必ずや殺すことになる。 (取材・文/本誌 中村正毅) =おわり

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テーマ : 経済ニュース
ジャンル : ニュース

【企業人必読!キャリアアップの為の組織防衛術】第4部・回顧録編(14) この道はいつか来た道



緒方貞江(元広報部長、清廉潔白な人柄で正義感が強い)「日経平均株価がかなり乱高下したわね。田中さん、かなり儲かっているでしょ?」
田中角蔵(元総務部長、清濁併せ吞む豪快な人柄だが頑固者)「ぐぁっはっは! それほどでもないよ。それよりも緒方さん、あんたの広尾のマンションこそ倍くらいになっとるだろう?」
緒方「なっているわよ。でも、住んでいる家は売れないから、値上がりしても“絵に描いた餅”よ」
後藤正晴(元法務部長、高い見識を持つ冷静な参謀役)「家を売って住み続けるリースバックという手もありますな」
田村正道(元秘書室長、遊び好きで軽率に見えるが事務能力が高い)「しかし、それは相続という観点では損かも知れません。残った財産が現金かマンションかでは、相続税が全く違いますから」
緒方「でも、そろそろ株も不動産も危ないかもしれないわね。どうなの田中さん?」
田中「危ない危ない。だから、わしは不動産も株も殆ど売っ払ったんじゃ」
田村「えっ! じゃあ軽井沢の…あの別荘も売ったんですか!?」
田中「ああ、売ったよ。だから、今年は夏の間だけの期間貸し賃貸マンションじゃよ」
後藤「賃料が高いでしょうな」
田中「いや、賃料はあまり上がっていない。80㎡で、夏の間の3ヵ月間で170万円。10年前は150万円ほどだったがな」
田村「へぇー! 軽井沢の分譲マンションは、新築も中古も2倍くらいに値上がりしていると聞いたんですが…。賃貸は然程上がらないんですね」
田中「定住の賃借人の賃料は簡単には上げられない。だから、相場そのものが安定しとるんじゃ」
緒方「確かにそうね。私の広尾のマンションの賃貸も、賃料は10年前と大差ないわね」
後藤「なるほど。その代わりに、分譲が値下がりしても、賃料は安くならないわけですな」
田中「そういうこと」
田村「だから今は賃貸で過ごして、分譲が値下がりしたら購入するってわけですか?」
田中「今回は、どこまで値下がりするかわからん。バブル崩壊の時には“半値・8掛け・2割引”と言われたけどな」
田村「何ですか、それ?」
田中「値下がり率の目安だ。実際に、うちの会社が持っていた土地。銀座の並木通りで100億円していた土地が、30億円ほどになってしまったんじゃよ」
後藤「確かに、あの頃と似ていますな。昭和63年にリクルート事件が勃発して、その2~3年後にバブルが崩壊しましたから」
緒方「そうね。今は裏金問題で政治不信が高まっている」

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テーマ : 危機管理
ジャンル : ビジネス

【記者発365】(126) 日台の新しい旅“微住”

台湾と日本でユニークな交流活動を手がける仕掛け人がいる。田中佑典さん(38)だ。田中さんは、アジアと日本が混じり合うような台湾に惹かれ、2010年から台湾に通い始めた。日台の新たな旅のスタイルとして提唱しているのが“微住”だ。1~2週間ほど特定地域で過ごして住民と交流し、地域の生活を体験する。“観光以上・移住未満”の交流で地域と繋がることにより、その地が“緩やかな故郷”、田中さん考案の造語では“ゆるさと”になることを期待する。

日台間のイベント企画等、文化交流プロデューサーとして活動してきた。昨年は、台湾で使う中国語の学習書『カルチャーゴガク』(※LLCインセクツ)を出版。堅苦しい語学学習ではなく、旅を楽しむコミュニケーション術として学ぶことを主眼にした。マルチな才能を次々に繰り出す田中さん。コロナ禍で海外渡航が規制されて、渡台はストップ。東京都から故郷の福井県福井市に戻った後、2020年には福井の潜在的な魅力を探ろうと、県内全市町を歩いた。その旅を“微遍路”と名付けた。

昨年7月に始めたのが台湾微遍路だ。高雄市塩埕を出発し、徒歩で反時計回りに台湾を一周する。「ローカルにこそ奥深い魅力がある」と感じていたからだ。自らに課したルールは、「絶対に歩く。寝袋は持たない。誰かに頼るか、自分で宿を探す」。1回につき約2ヵ月間のペースで3回に及んだ。

台湾は九州程度の面積なので、最短で歩けば2ヵ月もあれば回れるが、できる限り寄り道した。「人と絡んで地域を知る。歩くことで、普通なら通り過ぎてしまうような場所を訪れることができる」。実は歩くより大変だったというのが、出会った人に頼って、その日の宿泊先を探すこと。精神的なしんどさはあったが、その“負荷”が新たな繋がりを生み出していった。

今年3月6日夕、田中さんが出発地点の塩埕に戻ってきた。台湾一周に費やした日数は計174日、総距離は3856㎞。両手を突き上げて喜び、台湾の友人達が爆竹を鳴らして達成を祝った。微遍路のゴールから3日後の3月9日、田中さんは美沙希さん(31)と高雄で結婚披露宴を開いた。

台湾でも珍しくなった伝統様式で行ない、寺廟の敷地に円テーブルが24卓並んだ。微遍路で知り合った台湾人達も各地から駆けつけ、数百人が祝福した。舞台では伝統歌劇『歌仔戯』の有名劇団『明華園日団歌仔戯』が圧巻の公演を披露。歌劇団や祝宴料理は、微遍路等で知り合った台湾人が繋いでくれた縁で実現した。

その前日の8日、塩埕では6泊7日の塩埕微住が始まった。福井や東京等から地方体験に興味を抱いた男女5人が参加した。微住の共催でタッグを組んだのは、台湾で日本文化を紹介する雑誌『秋刀魚』と、塩埕の文化を発信するクリエイティブチーム『参捌旅居』だ。

秋刀魚のエバ・チェン編集長らは福井で微住を体験し、特集雑誌を刊行したこともある。参捌は代表者の邱承漢さんが塩埕の歴史を本に纏めたり、スタッフと共に街おこし活動を展開したりする。拠点の建物は、邱さんの祖母が経営したウェディングドレスの仕立店を改装した。微住では参捌が宿泊場所を提供し、参加者の訪問先をアレンジして住民との橋渡しに尽力した。

参加者達は、近くの市場にある『山壹旗魚』で特産カジキの練り物作りを体験。商店街の『高鈺ボタン店』では薛喬月さんから、布で包むボタンの作り方を教わった。チャイナドレスの仕立店では、80代の陶才法さんから昔ながらの採寸方法について話を聞いた。日程終盤には参加者達が高雄の食材で手料理を作って、住民やスタッフにふるまった。

東京から参加した吉住真二さん(58)は、「高雄の人たちと交流できて嬉しかった。もっと地域の歴史を学ぶ必要があると感じた」と話した。今月中旬には、山形県金山町で微住を実施。台湾人6人が参加した。日台双方で微住が広がりを見せ始めている。

田中さんは、「ローカルにこそ魅力がある。ただ、台湾も日本も各地でチェーン店化が進み、街の魅力が損なわれつつある」と憂える。微住について、「街を歩き、人と出会う。そうした負荷をかけることで、その街が自分の“ゆるさと”になり、財産になる。これからの旅は、こうした付加価値が大切」と熱く語る。 (外信部 鈴木玲子) =おわり


キャプチャ  2024年9月26日付掲載

テーマ : 台湾
ジャンル : 海外情報

【WORLD VIEW】(129) 日本人男児刺殺、不信を招く“隠蔽”



罪のない子供の命が奪われても、頑なに情報統制を優先する。そうした“隠蔽体質”が不安や不信を煽っているように思えてならない。広東省深圳市で今月18日、日本人学校に登校中の小学生男児(10)が刺されて死亡した事件で、日中関係は新たな試練に直面している。相次ぐ襲撃事件に、10万人といわれる在留邦人社会に深刻な不安が広がっている。

44歳の男性容疑者が現場で取り押さえられたが、1週間以上が過ぎても、地元当局は「男に定職はなく、複数の前科があった」等断片的な情報しか明かしていない。国内の報道も制限されているようだ。日本人を狙ったのか、それとも社会や自らの境遇への不満なのか――。核心の部分は闇に包まれている。

再発防止を求める日本側に、中国の王毅外務大臣は「政治問題化や拡大化を避けるべきだ」との言葉で応じた。噛み合わない議論から透けるのは、中国側の最大の関心事が、自らの政治体制に批判の矛先が向かうかどうかだということだ。これまでも習近平指導部は一党支配体制の安定を守る“国家の安全”を最優先し、反スパイ法等を通じて社会統制を強化してきた。

今回の事件についても、治安悪化や排外主義の印象が広がることで共産党の信頼性が揺らぎ、“西側”に攻撃の糸口を与えると考えている節がある。その為、“個別の事案”として沈静化を図ろうとしているのではないか。本来、悲劇を繰り返さない為には事実を広く社会で共有し、具体策に繋げなければならない。だが、中国政府の透明性を欠く対応が、それを難しくしている。

「外で日本語を使うのは控えよう」「日本人とわかるからランドセルは止める」――。在留邦人は手探りで自衛策を講じざるを得ない状況だ。凄惨な事件にショックを受けているのが邦人だけではない点も忘れてはならない。男児が通っていた深圳日本人学校には、地元住民らが次々と献花に訪れた。40代の中国人女性は、「同じ年頃の子供がいる。他人事ではない」と悲痛な表情を浮かべた。

こうした切実な思いを、習近平指導部は真剣に受け止め、積極的に情報を公表すべきだ。「どこの国でも起き得る事件だ」と開き直るような態度が、余程自国のイメージを深く傷つけている。私は今回の事件が起きた時、「恐れていた事態が遂に起きてしまった」と感じた。

6月にも江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子らが刃物で切りつけられ、襲撃を防ごうとしたバスの案内係の中国人女性が亡くなった。中国国内のSNS上では反日言論が過激化していた。「日本人学校はスパイ養成校だ」と中傷する投稿が野放し状態になり、現実に学校に石や卵が投げつけられることがあった。

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テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

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George Clooney

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