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世界規模での農業改革:インド・モディ政権「農耕改革」の背後にあるWEF(世界経済フォーラム)の目論み


<記事原文 寺島先生推薦>

The Reshaping of Global Agriculture: The WEF Agenda Behind India’s Modi Government’s “Farm Reform”


F・ウィリアム・エングダール

2021年2月16日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2021年3月13日

 2021年9月、国連は食料システム・サミットを開催する。その目的は、マルサス主義的な国連アジェンダ2030「持続可能な農業」で掲げられた諸目標の文脈に沿って、世界の農業と食料生産を改革することにある。インドのナレンダ・モディ政府が最近制定した大規模な変化を伴う農業法案は、この世界的改革と同じ流れの中にあり、いい点はひとつもない。

 モディ政権のインドでは、昨年9月に3つの新しい農業法案が急遽議会を通過して以来、農民たちは大規模な抗議行動を行っている。このモディ改革は、世界経済フォーラム(WEF)とそれが打ち出した「農業のための新しいビジョン」が組織的に入念に取り組んだことが動因となっている。これはクラウス・シュワブの「グレート・リセット」の流れの中にあり、国連アジェンダ2030の企業版ということになる。

モディ・ショック療法


 2020年9月には、正式な投票ではなく、慌ただしい発声投票で、そして報道によれば、インドの農民組合や関連組織との事前協議もなく、ナレンダ・モディ首相の政府は、インドの農業を根本から規制緩和する3つの新しい法律を可決した。それが発火点となって、何ヶ月にも及ぶ全国的な農民の抗議と全国的なストライキとなった。インド全土に広まったこの抗議運動は3つの法案の撤回を要求している。

 事実上、この3つ法律は、大企業による土地購入を可能にし、商品の備蓄に関する諸規制を撤廃することで、政府が農民に支払う費用を抑制するための法律である。また、大規模な多国籍企業は、農家の農産物が通常保証価格で売られている地方市場や地域の州市場を通さず、企業が農家と直接取引を行うことができるようになる。こういったことの結果はただ、インドの基盤の弱い食物(供給)連鎖の中で、推定数千万人の末端の、つまり小規模農家や小規模中間業者を破滅させることになるだけだ。

 モディ政権が成立させたこの法律は、IMFと世界銀行が、1990年代初頭から要求してきたことの具体化だ。つまり、インドの農業と農耕をロックフェラー財団が数十年前アメリカで開拓した企業型アグリビジネスモデルに変えようとするものだ。歴代インド政府は、インド最大の人口を占める農民層をわざわざ攻撃するようなことはこれまで一度もしなかった。農民たちの多くは今後の筋書きをはっきり持っているわけではないし、(外部からの)支援もほとんどない。モディの主張は、現在のシステムを変えることで、インドの農家は2022年までに所得を「倍増」できるというもので、それは何の証明もない怪しげな主張である。企業は初めてインド国内の農地を購入することが許され、それによって大企業、食品加工会社、輸出業者は農業部門に投資できるようになる。それに対して小規模農家は手の打ちようがない。この急進的な動きの背後にいるのは誰か?ここで私たちの視野に入ってくるのが、WEFとゲイツ財団がやろうとしている急激な農業のグローバル化だ。

WEFと企業優先主義者たち


 (モディ政権が成立させた)3つの法律は、世界経済フォーラム(WEF)とその一部門である「農業のための新しいビジョン(NVA)」がこの数年間率先してやってきたことの直接の結果である。WEFとNVAは12年以上にわたり、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアで企業型モデルを推進してきた。インドは、1960年代、ロックフェラー財団の「緑の革命」が失敗に終わって以来、企業による農業の乗っ取りに対する抵抗が激しい国だ。WEFのグレート・リセット――というよりは「持続可能な農業」のための国連アジェンダ2030として知られる――のためには、インドの伝統的な農耕と食料(供給)システムは破壊される必要がある。インドの零細家族型農家は、大規模なアグリビジネス・コングロマリット企業への身売りを余儀なくされ、零細農家のための地域レベルまたは州レベルの保護施策も当然撤廃ということになる。「持続可能」とは言いながら、それは小規模農家のためではなく、巨大なアグリビジネスグループにとって「持続可能」ということだ。

 この目論みを推進するために、WEF は「NVA インド・ビジネス・カウンセル」と呼ばれる企業と政府の利害関係者による強力なグループを設立した。WEF のホームページには、「NVA インド・ビジネス・カウンセルは、インドにおける持続可能な農業成長を推進するための民間セクターの協力と投資を推進する非公式のハイレベルなリーダーシップ・グループとしての役割を果たしています」と書かれている。「持続可能な」という言い方で彼らが何を言っているかは、その会員名簿を見れば分かる。

 2017年のWEF傘下NVAインド・ビジネス・カウンセルの構成メンバーは次の通り。

①農業用農薬の世界最大の供給元であり、現在はモンサント社のGMO種子を扱うバイエル・クロップサイエンス、
②米国穀物会社のカーギル・インド、
③GMO種子・農薬メーカーのダウ・アグロサイエンス、
④GMO・農薬メーカーのデュポン、
⑤穀物カルテル大手のルイ・ドレフュス・カンパニー、
⑥ウォルマート・インド、
⑦インド・マハヒンドラ&マヒンドラ(世界最大のトラクター製造企業)、
⑧ネスレ・インド、
⑨ペプシコ・インド、
⑩ラボバンク・インターナショナル、
⑪インド銀行
⑫世界最大の再保険会社スイス・リー・サービス、
⑬化学メーカーのインディア・プライベート・リミテッド、
⑭そしてインド第二の富豪であり、モディのBJP党の主要な出資者でもあるゴータム・アダニのアダニ・グループ

 インドの農民組織はひとつもこのリストには載っていないことに注目してほしい。

 モディの一番の支援者であるゴータム・アダニがWEF NVAインド・ビジネス・カウンセルに参加しているほか、ムケシュ・アンバーニはクラウス・シュワブの世界経済フォーラムの理事会にも参加している。アンバーニはインド最大のコングロマリットであるリライアンス・インダストリーズの会長兼社長であり、約740億ドルの資産を持つアジアで2番目の富豪である。アンバーニは、リライアンス社が巨額の利益を得ることになることから、この過激な農業改革を強力に支持している。

 12月にパンジャブ州の農民は、モディ首相の胸像を燃やした。同時にリライアンス・インダストリーズのムケシュ・アンバーニ会長、アダニ・グループのゴータム・アダニ会長の胸像も燃やした。それはこの二人がモディ新法の背後にいることを非難してのことだった

 これらの巨大企業のことを少しでも知っている人にとっては、インドの推定6億5千万人の農民の利益や福祉が優先されていないことは明らかである。注目すべきは、現在アメリカ在住インド人であるIMFのチーフエコノミスト、ギータ・ゴピナートがこの法律を支持し、最近制定されたこのインドの農業法が農家の所得を増加させる「可能性」を持っていると述べていることだ。

 11月26日、農民を支援する約2億5千万人の全国ゼネストが始まった。1,400万人以上のトラック運転手を代表する運輸労組が農民組合の支援に乗り出した。これはBJPモディ政権にたいしてはこれまでで最大の挑戦である。政府が引き下がろうとしないという状況があるので、闘いは厳しいものになるだろう。

 「アジェンダ 2030」――クラウス・シュワブが好む言い方を使えば、世界の食料・農業産業を変革するための「グレート・リセット」――を成功させるためには、世界最大の人口を持つインドを、グローバル・アグリビジネス企業の管理する網の中に引き入れることが最優先事項である。モディの規制緩和のタイミングは、明らかに、国連2021年食料システム・サミットが念頭にある。

AGRAと国連食料システム・サミット


(アグリビジネスの)この目論みがインドの農民に語られるのは、来る9月の国連食料システムサミットにおいてだ。2019年に国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、国連2030年の持続可能な開発目標と整合性のある「食料システムアプローチ」の利益を最大化することを目的に、2021年に国連が食糧食料サミットを開催すると発表した。同氏は、2021年の食料システム・サミットの特使にルワンダのアグネス・カリバタを指名した。サミットの基調声明では、GPS、ビッグデータとロボット工学、さらにはGMOなどの「精密農業」を解決策として前面に押し出している。

 戦争で荒廃したルワンダで農相を務めたカリバタは、アフリカにおける緑の革命のための同盟(AGRA)の会長でもある。AGRAは、ゲイツ財団とロックフェラー財団によって、遺伝子組み換え特許を取得した種子と関連する化学農薬をアフリカの農業に導入するために設立された。ゲイツがAGRAの責任者に据えたキーパーソンであるロバート・ホルシュは、モンサント社の幹部として25年間働いていた。

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、WEFの「献金パートナー」でもある。

 15年近く、ゲイツやロックフェラーなどの大口寄付者から約10億ドルの資金援助を受けてきたAGRAは、農民たちの暮らしを引き上げることなどしてきていない。農民たちは政府の強制力で、営利目的の企業から種子を買わされている。こういった企業はモンサントや他の遺伝子組み換え企業と結びついていることが多い。肥料についても同様だ。

 その結果は借金であり、破産してしまうことも多い。農家はそれらの企業から買った種子の再利用は禁じられ、再利用できた伝統的な種子は放棄しなければならなくなっている。AGRAが重視している「市場志向」とは、カーギルをはじめとする穀物カルテルの巨大企業が支配する世界的な輸出市場のことである。1990年代には、ワシントンとアグリビジネスからの圧力の下で、世界銀行はアフリカをはじめとする発展途上国の政府に農業補助金の廃止を要求した。それも、アメリカやEUの農業は多額の補助金を受けている間のことである。補助金を受けたお陰で値段の安いEUやOECDの輸入品は、地元の農家を倒産に追い込む。それが狙いなのだ。

  AGRAに関する2020年の報告書「False Promises(うその約束)」の結論は、「鍵となる主要生産物の収量増加率はAGRA以前も、AGRA設立後の期間も全く同じように低かった」となっている。飢餓を半減させるどころか、AGRAが立ち上げられて以来、焦点となっている13カ国の状況は悪化している。飢餓に陥る人々の数は、AGRA設立後の期間に30%増加した・・・AGRA重点13カ国の1億3千万人に影響を与えている。」 ゲイツが主導するAGRAは、アフリカの食料生産をこれまで以上にグローバル化し、資金投入をケチることを目的とするグローバルな多国籍企業の意思への依存度を高めた。農民たちは借金に追いやられ、遺伝子組み換えトウモロコシや大豆のような特定の「換金作物」を輸出用に栽培するよう迫られる。

 ゲイツ財団「農業発展戦略2008-2011」にその戦略の概要が描かれている:

 「剰余作物を生産する力のある小規模農家は、市場志向の農業システムを作り出すことができる。・・・貧困からの脱出のため・・・成功の見通しとしては、市場志向の農家が儲かる農業をすること・・・そのためには、ある程度の土地の流動性と、直接農業生産のために雇用する人間の総数を今より少なくすることが必要になるだろう。」 (太字強調は筆者)

 2008年、ラジーヴ・シャーはゲイツ財団の農業開発担当ディレクターに就任し、ロックフェラー財団と共にAGRAの設立を主導した。現在のシャーは、ロックフェラー財団会長であり、AGRAにおいてはゲイツの共同運営者となっている。同財団は、1970年代に特許を取得した遺伝子組み換え(GMO)種子の作成に資金提供、世界銀行と共同で*CGIAR種子銀行に資金提供、1960年代に失敗したインドの緑の革命にも資金を提供していた。ラジーヴ・シャーはまたWEFの課題提供者の役職にも就いている。世界は小さい。

*CGIAR
国際農業研究協議グループ(CGIAR (Consultative Group on International Agricultural Research)とは、開発途上国の農林水産業の生産性向上、技術発展、貧困削減、環境保全を目的に1971年に設立された国際組織。

 
 AGRAの会長が2021年9月に開催される国連食料システム・サミット(「食料システム」という言い方に注意)を指揮するという事実は、国連、ゲイツ財団とロックフェラー財団、世界経済フォーラム(WEF)、そしてそれらがグローバル巨大企業と隔たりなくつながっていることを暴きだしている。

 14億の人口(恐らく半数は農民)を持つインドは、グローバルなアグリビジネスがその食料生産を支配することができていない最後の砦だ。

 OECDでは数十年前からアグリビジネス産業によるグローバル化が進んでおり、食の質と栄養の悪化がそれを裏付けている。中国は門戸を開き、こめ*シンジェンタ社を買収し、世界で遺伝子組み換え作物を積極的に押し進める役割を果たしている。また、中国は(農薬)グリホサートを世界で一番多く生産する国になっている。
*Syngenta
シンジェンタは、スイスに本拠地を置く多国籍企業。農薬や種子を主力商品とするアグリビジネスを展開している。農薬業界で世界最大手。種苗業界では、モンサント、デュポンに次ぐ世界第3位。2012年度の売上は約142.02億ドルであり、世界90ヵ国以上に27000人を越える従業員を抱えている。2016年に中国のケムチャイナにより買収された(ウィキペディア)


 最近起きたアフリカ豚熱の発生源とされるスミスフィールド農場のような工業型豚肉農場の存在で、中国国内の小規模農家は消滅の道を辿っている。

 国連2021年食糧システム・サミットにおけるゲイツ・ロックフェラーAGRAの中心的役割、世界の「食料システム」リセットにおけるWEFの大きな役割、そしてここ数ヶ月間のモディ政権への圧力は、アフリカで行われたのと同じように、企業の目論みをインドでも実行しようとするものであり、それは偶然なんかでは全くない。それは、世界を壊滅的な凶作とそれ以上の災厄に向かわせるものである。

*

F. William Engdahl is strategic risk consultant and lecturer, he holds a degree in politics from Princeton University and is a best-selling author on oil and geopolitics, exclusively for the online magazine “New Eastern Outlook” where this article was originally published. 

He is a Research Associate of the Centre for Research on Globalization.

Featured image is from New Eastern Outlook

 

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