農家が作物をつぶす一方で、フードバンクには長蛇の列が。狂った世の中で我々は生きている。
<記事原文 寺島先生推薦>
As farmers destroy their crops, the queues at food banks get longer. We’re living in an insane world
RT Op-ed
2020年4月17日
リサ・マッケンジー博士
Dr Lisa McKenzie is a working-class academic. She grew up in a coal-mining town in Nottinghamshire and became politicized through the 1984 miners’ strike with her family. At 31, she went to the University of Nottingham and did an undergraduate degree in sociology. Dr McKenzie lectures in sociology at the University of Durham and is the author of ‘Getting By: Estates, Class and Culture in Austerity Britain.’ She’s a political activist, writer and thinker. Follow her on Twitter @redrumlisa.
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2020年5月12日
コロナウイルスの封鎖により、フードバンクを利用する飢えた人々の数は4倍になり、迫り来る経済の低迷により事態はさらに悪化するだろう。この状況にどう対処するか、やり方を変える必要がある。
皆さんもそう思っておられるだろう。この前例のない危機の時代に、これも前例のない事だが、コミュニティも企業も政治家も、声を揃えて、「家にいよう」、「安全でいよう」、「お互い気にかけあおう」、「隣人に優しくしよう」「NHS(国民保健センター)を守ろう」と声をかけあっている。私たちは今までなかった、思いやりや公正さやお互いへの真の共感を見出しつつあるといってもいいかもしれない。
もっと大切なことは、皆が気づき始めていることだ。社会のある一部の人たちへの支援や気配りがずっと欠けていたことに。コロナウイルスの危機に直面したおかげで、数週間であることを成し遂げてしまったように思える。我々の多くの仲間が何年もかけてデモ行進やキャンペーン活動や議論や闘争することで求め続けてきたこと。そう、より公正な社会だ。皆が大事にされて、誰一人取り残されず、さらには意図的に世間から除外されることのない社会だ。
そんな時、私はある農民が、売れないという理由で自分が作った農作物をつぶしている動画を見た。 Covid-19によるロックダウンのせいで、フードバンクに頼らざるを得ない貧しい人達の数がどんどん増えている同じ時に。私は、未だに我々が狂った、不合理な世界で生きていることを実感している。お金が1番、そのずっと後ろの2番目に市民、そして労働者階級のコミュニティは一番後ろに回されている世界だ。
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私は、2014年に、セント・アンズという名のノッティンガムにある15000人規模の強固なコミュニティのことを書いた本を著した。セント・アンズとは、広大な公共居住地で、私はそこで25年間過ごし、家族を育て、友人も家族もいた。セント・アンズは、強固な労働者階級のコミュニティのひとつだ。
セント・アンズは、19世紀の中頃に労働者貧困層のための街として設立されたのが始まりだが、何世代にも渡って、安全と住居をノッティンガムで(というよりも国中で)もっとも貧しい人達に提供してきた。セント・アンズは、また、主流メディアからは、危険な地域であるとみなされ、麻薬や麻薬取引やシングルマザーやギャングの暴力に溢れた地域だと悪口を言われてきた。
しかし、イメージとは違い、本当のところ、セント・アンズは、深みや愛や強さや想像力にあふれたコミュニティだ。地元の貧しい人達にとってのホームであるだけではなく、移民の人達にも常に住処を提供してきた。立ち寄っただけの人達もいたが、そのまま最後まで住みつく移民の人達も多かった。私が、自著『やり抜く、不況、階級、そして文化』で、このコミュニティのことを紹介したのは、このコミュニティを愛してきた人. 達のためだけではなく、見下げたり恐れたりしている人達のためでもある。
今週、私はある緊急の電話をとてもふさぎ込んだ青年労働者から受けた。内容は、突然セント・アンズのフードバンクが閉鎖されたことだった。そのフードバンクは、地元の女性たちが、設立し、経営しているものだ。
彼女達は、空腹な人であれば誰にでも食料を与える。ジョブセンターからの切符など必要ない。他所の多くのフードバンクなら見せろと言われるが。それに、ここは宗教団体とも関連はない。コミュニティによって、コミュニティのためだけにつくられた場所だ。
数年前、私は映画監督で活動家、かのケン・ローチ氏にセント・アンズのフードバンクを紹介した。悲哀溢れる彼の映画『僕はダニエル・ブレイク』の考証のためだ。ローチ氏は、この地を訪問しボランティア達やこのフードバンクを利用しているコミュニティの人達と出会った。氏は、このセント・アンズの家族達との出会いを映画にも反映させた。そのことは、カンヌでこの映画が始めて上映された時、世界中にショックを与えた。「本当に英国にあんなレベルの貧困が存在するのか!」と。
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貧困は、英国の生活において常に存在してきた。私は、そう発言することを恥ずかしいとは思わない。貧困は、貧困者たちに恥を与えている訳ではない。貧困を行き渡らせた国の政府と地方議会が恥ずかしく思うべきなのだ。貧困が存在するのは私たちが選挙で選んだ「公僕たち」が、多くの人達を苦しめることによって、少数のものたちが、利を得るシステムを運用しているからだ。彼ら公僕たちの目には、貧しい人達の苦しみなど映らない。
Covid-19によるパンデミックは、このことをよりはっきり衆目にさらすことになっている。セント・アンズのフードバンクは一週間で約 50人の食料を提供している。ロックダウン措置のせいで、この数が4倍になり、一週間で200人になって、保存している食料がなくなり、閉鎖の瀬戸際に立たされている。
彼女たちは、助力を頼めそうなところはすべて頼んだ。地元のノッティンガムの議会やその他の組織など。しかし、お役所仕事、党利党略政治、そして市民からかけ離れたところにいる政治家たちのやってくれたことは旧態依然だった。お金や資源を中央に集めてコントロールし、彼女たちが、資源を求めて飛びついても、手が届かないようなサイクルを作るだけだった。
セント・アンズの女性達にはそんなエネルギーはなく、他のシステムを探そうとすれば、いちいちチェックボックスに「レ点」をいれなければならないような社会的ネットワークにアクセスする方法もなかった。彼女達は必死になって緊急の支援を必要としていた。それは、フードバンクを利用していた人達も同じだった。
だから、彼女達は北に150マイル離れた私の新居に電話してきたのだ。藁にも縋るような思いで、前住人で自分のコミュニティについての著書があり、ひょっとして自分が話しかけられる人間を知っているかもしれないと考えてあなたが自分で電話をする場合を想像してみて欲しい。彼女達は、ネット上でフードバンクのための募金活動をすでに立ち上げていた。しかし、同じような私設の募金活動が国のあちこちで何百件も立ち上がっていることに、途方に暮れていた。同じ状態で、空腹を抱えた家族であふれかえり、必死に募金を募っていた。
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助けを求めるという話になると、持っている人達なら、ウェブサイトを立ち上げて、マーケティングのことも理解して、それにつなげる事もできる。そんな人達は、政党ともつながりがあり、ツイッターのフォロワー数が多く、声が大きく、腕利きの人を知っている。そしてそれが貧しい人々を養うことになるケースであったとしても、最も力を持つ人々は、自分がそうする資格があると感じている。そしてそうするのと同様に、そのような問題について美徳を見せびらかすことは、自己満足に酔いしれることになるのだ。
私は、そんな例なら何百も知っている。今の状況下だけの話ではない。「社会起業家」というものが存在し、彼らが中流階級の人達に、「貧しい人達を養う方法」や「貧しい人達を助ける」募金活動の立ち上げ方を教えたり助言したりしている。「Year Here」という東ロンドンにある団体は、特権階級の青年たちに文字通り1年をロンドンのイーストエンドで過ごさせる中で、彼ら自身が主に貧しい人を助けるための「社会起業」を立ち上げたる方法を助言している。
この団体の近くに同じような「ソーシャル・アーク」という団体がある。この団体は、地元の労働者階級の人達によって運営されており、彼らが、労働者階級の青年たちと共に活動することで、青年たち自身が起業家になることを目的としている。
セント・アンズからの電話を受けて、もちろん、私はやれることは全てやった。知人たち(その多くは労働者階級の人達)に電話をかけ、支援を依頼した。すると、世界中から反応があった。セント・アンズには24時間で7000ポンドの寄付が集まり、当面の間は、閉鎖せずにすむようになった。
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それは始まった。しかし、これが、セント・アンズの人々のすべての問題を解決するわけではない。問題は、構造的で深い。あの人たちのシステムは、セント・アンズの人達を、家族や子供や母親や隣人として見ているわけではない。サービスを受け取る搾取の対象としてしか見ていない。–顔のない問題の一つとしてしか捉えられず、扱われていない。そして、その問題は、中央で、よりよい教育を受けた、より多くの力を持った、政治家または「社会起業家」としてのキャリアアップに野心をもつ人達が解決するのが一番だと思われている。
今回の危機で、そんな人達が思いつくバンド・エイドのような救済策は、間違いなく賞賛の的になり、キャリアアップにつながり、良くやったと背中を叩かれるだろう。彼らがそのような策をスタートさせ、自分の正しさに酔っている中で、セント・アンズのフードバンクやソーシャル・アークは、かけらを拾い集めて、自分たちのコミュニティの壊れた生活を元に戻そうと取り組むだろう。
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