Posted
on
『DS文学全集』
仕事の関係で電子書籍というものにけっこう興味を持っている。PCでは青空文庫が有名だし、モバイル系ではすでにケータイ小説なんていうものが大流行。海外ではAmazonが専用の端末を発売してなかなかの人気だという。ただ、音楽などの分野とは違って、どうもこの「本」という存在は、単に読めればいいというわけにいかないようで、絶対的なシステム=スタンダードがまだ存在していない分野でもある。要は勝ち組知らず。
そんななかニンテンドーDS用ソフトとして『DS文学全集』なるものが発売された。長短編合わせて100作を収録しており、値段もリーズナブル。通勤時に読むものがなくなったときの保険として良さげである。で、先日買って試してみたわけだが、画面で「本」を読むという行為に対して抵抗さえなければ、やはり便利である。
携帯電話でも青空文庫などを試してはみたのだが、あちらは画面が小さいため、表示される情報量が少ない上に目が疲れやすい。また、市販されているブックリーダー専用機はとにかく高価。収録作の追加ダウンロードができることを考えると、『DS文学全集』のコストパフォーマンスはかなり高いといえる。
だが、本日は、そんなことを書きたかったのではない。実はこのソフト、収録されている作品はすべて青空文庫のデータを提供してもらっている。それはすなわち版権が切れた古い作品ばかりであることを意味しているのだが、まあ、そこまでは別にかまわない。興味をひくのは、その中になぜかマニアックな探偵小説がピックアップされていることだ。
例えばこんな具合である。
海野十三 「蠅男」「東京要塞」
押川春浪 「海底軍艦」
岡本綺堂 「玉藻の前」
夢野久作 「少女地獄」
岡本綺堂あたりはまだ理解できるとしても、『蠅男』や『海底軍艦』を入れる理由がよくわからない。このソフトはマニア向けではなく、あくまで一般の本好きに向けてのもの。その他の収録作品は当然ながら『坊っちゃん』とか『走れメロス』とか『注文の多い料理店』なのである。それらと共に『蠅男』を採った根拠を、ぜひとも選者に聞きたい。そもそも押川春浪など新刊書店では決してお目にかかれない代物だ(あ、今はちくま文庫があるか)。
だが、驚きはこれで終わりではない。実は任天堂以外にも同タイプのソフトが出ており、そちらにもやはり探偵小説が収録されているのである。まずはスパイクの『一度は読んでおきたい日本文学100選』から。
小栗虫太郎「後光殺人事件」
夢野久作 「ルルとミミ」「瓶詰地獄」
数は少ないが、よりによって小栗虫太郎、しかも『後光殺人事件』(笑)。どんな文学全集だよ。言っておくが、こちらもその他の収録作は芥川龍之介や夏目漱石、太宰治などなど極めてまともである。だからよけいに小栗虫太郎が目立つのだ。
そして真打ち。ドラスの『図書館DS 名作&推理&怪談&文学』。
このソフトはタイトルを見ればわかるとおり、はじめから文学とエンターテインメントの折衷路線である。そのものずばり「推理」と謳っているから、心の準備はできていたのだが……。ではその「推理」部門収録作を公開しよう。
コナン・ドイル 「空家の冒険」「黄色な顔」
「グロリア・スコット号」「入院患者」
海野十三 「浮かぶ飛行島」「火星兵団」
「十八時の音楽浴」「太平洋魔城」
「地球要塞」「東京要塞」
エドガー・アラン・ポー「アッシャー家の崩壊」「ウィリアム・ウィルスン」
「黒猫」「黄金虫」「盗まれた手紙」
「モルグ街の殺人事件」「早すぎる埋葬」
大阪圭吉 「カンカン虫殺人事件」「幽霊妻」
小栗虫太郎 「失楽園殺人事件」「白蟻」
「聖アレキセイ寺院の惨劇」「後光殺人事件」
G・K・チェスタートン「金の十字架の呪い」
黒岩涙香 「無惨」「幽霊塔」
甲賀三郎 「蜘蛛」
小酒井不木 「恋愛曲線」
チャールズ・ディケンズ「クリスマス・カロル」
モーリス・ルブラン「探偵小説アルセーヌ・ルパン」
これは凄すぎる。小栗虫太郎の一作ぐらいで騒いだことが恥ずかしくなるほど充実した内容であり、ツッコミどころ満載。
ホームズのセレクトは微妙だし、ルパンものだって版権の絡みとはいえ、よりによって「探偵小説アルセーヌ・ルパン」というタイトルのものを採用しなくてもよかろうに。おまけに「クリスマス・カロル」を推理小説に含めるか。ポーの充実振りもなんだか妙だ。
そして何より。DSというメジャー級のゲーム機のソフトに、黒岩涙香や大阪圭吉らを普通に採用してしまうというこの勇気、というか暴挙。ふだん推理小説など読まない人が、このソフトを買って推理小説とはこういうものなのだという認識をもってしまったら、いったいどう責任をとるのか(笑)。
狙ってやっているのか、あるいは純粋にセレクトした結果なのか、ぜひとも真相を知りたいものだ。そして、このカオス状態のソフトには、ぜひとも第二弾を期待したい。復刻ブームはここまで来た(笑)。
そんななかニンテンドーDS用ソフトとして『DS文学全集』なるものが発売された。長短編合わせて100作を収録しており、値段もリーズナブル。通勤時に読むものがなくなったときの保険として良さげである。で、先日買って試してみたわけだが、画面で「本」を読むという行為に対して抵抗さえなければ、やはり便利である。
携帯電話でも青空文庫などを試してはみたのだが、あちらは画面が小さいため、表示される情報量が少ない上に目が疲れやすい。また、市販されているブックリーダー専用機はとにかく高価。収録作の追加ダウンロードができることを考えると、『DS文学全集』のコストパフォーマンスはかなり高いといえる。
だが、本日は、そんなことを書きたかったのではない。実はこのソフト、収録されている作品はすべて青空文庫のデータを提供してもらっている。それはすなわち版権が切れた古い作品ばかりであることを意味しているのだが、まあ、そこまでは別にかまわない。興味をひくのは、その中になぜかマニアックな探偵小説がピックアップされていることだ。
例えばこんな具合である。
海野十三 「蠅男」「東京要塞」
押川春浪 「海底軍艦」
岡本綺堂 「玉藻の前」
夢野久作 「少女地獄」
岡本綺堂あたりはまだ理解できるとしても、『蠅男』や『海底軍艦』を入れる理由がよくわからない。このソフトはマニア向けではなく、あくまで一般の本好きに向けてのもの。その他の収録作品は当然ながら『坊っちゃん』とか『走れメロス』とか『注文の多い料理店』なのである。それらと共に『蠅男』を採った根拠を、ぜひとも選者に聞きたい。そもそも押川春浪など新刊書店では決してお目にかかれない代物だ(あ、今はちくま文庫があるか)。
だが、驚きはこれで終わりではない。実は任天堂以外にも同タイプのソフトが出ており、そちらにもやはり探偵小説が収録されているのである。まずはスパイクの『一度は読んでおきたい日本文学100選』から。
小栗虫太郎「後光殺人事件」
夢野久作 「ルルとミミ」「瓶詰地獄」
数は少ないが、よりによって小栗虫太郎、しかも『後光殺人事件』(笑)。どんな文学全集だよ。言っておくが、こちらもその他の収録作は芥川龍之介や夏目漱石、太宰治などなど極めてまともである。だからよけいに小栗虫太郎が目立つのだ。
そして真打ち。ドラスの『図書館DS 名作&推理&怪談&文学』。
このソフトはタイトルを見ればわかるとおり、はじめから文学とエンターテインメントの折衷路線である。そのものずばり「推理」と謳っているから、心の準備はできていたのだが……。ではその「推理」部門収録作を公開しよう。
コナン・ドイル 「空家の冒険」「黄色な顔」
「グロリア・スコット号」「入院患者」
海野十三 「浮かぶ飛行島」「火星兵団」
「十八時の音楽浴」「太平洋魔城」
「地球要塞」「東京要塞」
エドガー・アラン・ポー「アッシャー家の崩壊」「ウィリアム・ウィルスン」
「黒猫」「黄金虫」「盗まれた手紙」
「モルグ街の殺人事件」「早すぎる埋葬」
大阪圭吉 「カンカン虫殺人事件」「幽霊妻」
小栗虫太郎 「失楽園殺人事件」「白蟻」
「聖アレキセイ寺院の惨劇」「後光殺人事件」
G・K・チェスタートン「金の十字架の呪い」
黒岩涙香 「無惨」「幽霊塔」
甲賀三郎 「蜘蛛」
小酒井不木 「恋愛曲線」
チャールズ・ディケンズ「クリスマス・カロル」
モーリス・ルブラン「探偵小説アルセーヌ・ルパン」
これは凄すぎる。小栗虫太郎の一作ぐらいで騒いだことが恥ずかしくなるほど充実した内容であり、ツッコミどころ満載。
ホームズのセレクトは微妙だし、ルパンものだって版権の絡みとはいえ、よりによって「探偵小説アルセーヌ・ルパン」というタイトルのものを採用しなくてもよかろうに。おまけに「クリスマス・カロル」を推理小説に含めるか。ポーの充実振りもなんだか妙だ。
そして何より。DSというメジャー級のゲーム機のソフトに、黒岩涙香や大阪圭吉らを普通に採用してしまうというこの勇気、というか暴挙。ふだん推理小説など読まない人が、このソフトを買って推理小説とはこういうものなのだという認識をもってしまったら、いったいどう責任をとるのか(笑)。
狙ってやっているのか、あるいは純粋にセレクトした結果なのか、ぜひとも真相を知りたいものだ。そして、このカオス状態のソフトには、ぜひとも第二弾を期待したい。復刻ブームはここまで来た(笑)。
- 関連記事
-
- 謹賀新年 2025/01/01
- ミステリベストテン比較2025年度版 2024/12/07
- 能登半島地震 2024/01/09
- 謹賀新年 2024/01/01
- ミステリベストテン比較2024年度版 2023/12/10
- 〈タイム〉誌ミステリー&スリラーのオールタイムベスト100 2023/10/10
- 外国人の姓名の表記について調べてみる 2023/08/20
- SFミステリとは? 2023/02/10
- ミステリベストテン比較2023年度版 2022/12/10
- 年末ミステリベストテンを予想してみる 2022/11/21
- 読書&ブログ復活します 2022/06/03
- 近況報告 2022/05/03
- 皆進社の《仮面・男爵・博士》叢書がスタート 2022/02/10
- ミステリベストテン比較2022年度版 2021/12/05
- 『Re-Clam vol.7』、『Re-Clam eX vol.3』&『ミステリマガジン750号』 2021/11/27
Comments
Edit
任天堂以外のも「青空文庫」からだとすれば、
この文庫の入力ボランティア(でしたっけ?)の趣味がすごい、
ってことにでもなるんでしょうか?
Posted at 03:12 on 12 08, 2007 by kenn
Edit
Sphereさん
うわあー、『DS速読術』というソフトの存在は知っておりましたが、題材が海野十三や夢野久作ですか。それも凄すぎですねえ。
いったい、この世界では何が起こっているのでしょうか?(笑)
Posted at 02:34 on 12 06, 2007 by sugata
Edit
私も発売当時『図書館DS~』を見て目が点になりましたよ~。
海外物はわりとスタンダードなのに日本のセレクトは何故にこんなにマニアックなのか。
あと、前に『DS速読術』というのを買ったのですが、速読の題材に使われているのがやっぱり海野十三や夢野久作の文章で、思わずじっくり読んでしまいました。もちろん断片なので話はわからなかったですが(^^;
『図書館DS~』は、DSで読むのは読みづらいかなと思って買ってないんですが、海野十三なんか未読のばっかりだし、大阪圭吉も虫太郎先生も読んでないのが入ってるから買ってみようかな・・
Posted at 20:44 on 12 05, 2007 by Sphere
Kennさん
そうなりますね。青空文庫はボランティアが自分の好きな作品を選んでますから、よほど探偵小説好きの人がいるはずです。
ちなみに任天堂は「青空文庫」から収録したことを謳っていますが、スパイクとドラスは公式サイトを見る限り一切触れていませんね。まあ、「青空文庫」から採っていることは間違いないところですが。
Posted at 13:24 on 12 08, 2007 by sugata