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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ミステリベストテン比較2022年度版

 『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」(以下「ミスマガ」)、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」(以下、「文春」)、宝島社の『このミステリがすごい!』(以下、「このミス」)が出揃ったので、今年も三つの平均順位を出してみた。基本ルールはこんなところである。

・各ランキング20位までを対象に平均順位を出したもの
・管理人の好みで海外部門のみ実施
・原書房の『本格ミステリ・ベスト10』はジャンルが本格のみなので対象外としている
・いち媒体のみのランクインはブレが大きくなるため除き、参考として記載した

2022年度ランキング比較

 今年は三年振りに三冠独占はならなかったものの、それでもホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』は強かった。もちろん面白い作品だし、個人的にも昨年の『その裁きは死』よりも良い作品だとは思うのだが、やはり同じ作家の同傾向の作品が四年も続くのはなあ、という気持ちになってしまうのだ。
 他の作品がだらしないというのなら仕方ないけれど、今年も昨年同様、ライバルとなりうり作品がけっこう多かっただけにちょっと予想外だった。凝った仕掛けではあるが、万人に受け入れられやすいサプライズと親しみやすさ、それが多くの投票者からまんべんなく得票を集めているのだろう。

 昨年も少し書いたのだが、ホロヴィッツの作品がそもそも特殊であり、それでいて高い娯楽性を備えているため、単なる超B級作品あたりでは難しいかもしれない。この牙城を崩すとしたら強烈な知的興奮かつヒューマンドラマによる感動を与えてくれる大作が必要かもしれない。例えば『薔薇の名前』のような。
 今年でいえば、まあ自分の読んだ範囲ではあるが、『父を撃った12の銃弾』『悪童たち』『第八の探偵』『狼たちの城』あたりが勝てる可能性を持った作品だと思っていたが(自分の評価や好みではなく、あくまでランキング予想として)、それらを差し置いてトップの一角に食い込んだのが『自由研究には向かない殺人』というのは意外だった。これ、自分も大好きな作品で個人的にもこちらを上位に推したい作品だが、ミステリ部分の弱さがあるので、ランキング争いでは不利かなと予想していたのだ。
 ちなみに『自由研究には向かない殺人』もボリュームは相当ながら、それを気にさせないキャラクターと語り口があり、それが万人に受けた印象がある。もしかすると、ミステリの世界も世の中の流れにのって、傷つきにくい優しい作品が求められているのかもしれない。

 あと、アジア圏の作品が増えてきたのをあらためて実感したランキングでもあった。アジア圏といってもほぼ華文ミステリだし、そもそも優れた作品しか紹介されていないはずなので、レベルが高いのは当然でもある。もちろん全体でみればまだまだだろうが、既成のミステリにないアイデアを備えた作品が多いのが魅力であり、トップクラスの作品は間違いなく欧米に比べても遜色がない。この波がアジア全体に広がると、また違った魅力がミステリに加わるような気がする。

 ところでランキングの上位はいつも似たようなものだが、下位はけっこうランキングによって特徴が出る……と思っていたら、今年は下位も案外似ていて笑ってしまう。
 以前だと警察小説や犯罪小説が有利な「このミス」、話題作や大御所、受賞作品が有利な「文春」、中道の「ミスマガ」みたいなイメージで(まったくの個人的な印象です)、ベストテン作品を見ただけでどのランキングか当てる自信があったけれど、今年のはおそらく無理。
 ただ、そうなると本当に複数のランキングが必要なくなるので、雑誌の特集でやっている「文春」や「ミスマガ」はともかく、「このミス」は真剣に考えるときではないのかな。
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Comments

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ポール・ブリッツさん

>たぶん三社とも「ベストテン企画に参加して雑誌を売りたい。そのためには想定する購買層から異論が噴出するような結果を出してはいけない」ということで〜

それは考えすぎでしょう。雑誌を売ることに関しては今まで通りですし、購買層から異論噴出したって、そのレベルの異論では版元は何も気にしないです。そもそも結果を出したのは投票者ですし。
出版社は当たり障りのない結果を出そうと思ってやっているわけではなく、正直、何も考えずに惰性でやっているから最大公約数的な結果が出ているのだと思います。要は適切なシステム作りが必要ということですね。

あと、初期の「このミス」はやはり面白かったですよ。結果もかなり違っていましたし、文春のベスト10がなぜダメか、普通に載っていましたよね。やりすぎて翌年から内容が大人しくなった、なんてこともありましたね(笑)。
ただ、今となってはどちらのベストがいい悪いではなく、読者がミステリを選ぶ時の参考として、それぞれ違いがあったのが、やはり良かったと。

ただ、各誌でベストテン出して、それで日本シリーズやったら、本当に面白いんだけどなぁ。100人投票すれば確かに『ヨルガオ』有利でしょうけど、10人だとわからない。実際、このミス見ていても、1位の顔ぶれは結構バラバラなんですよね。

長くなりました。私も寝ます。

Posted at 23:58 on 12 07, 2021  by sugata

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どうでしょう。投票者を10人に絞っても、「日本で出版された本」については変更するわけにはいかず、どうしてもそこから選ばなくてはならんわけで。そして最近のネット集合知のせいで、個性的なベストを導出すると「雑誌の常識を疑」われてしまいますからねえ……。

たぶん三社とも「ベストテン企画に参加して雑誌を売りたい。そのためには想定する購買層から異論が噴出するような結果を出してはいけない」ということで、そうした「当たり障りない結果を出すためのツール」が「母数を一定の制限内で可能な限り広く取ることによるアンケート」だから、天地がひっくり返ってもこの方針をやめることはないでしょう。その「一定の制限内」というのも、いってみれば出版社による「アリバイ作り」でしかなくなってますしなあ現在……。

過激に思えた初期の「このミス」も、いまにして考えれば、「当時のベストセラー読者」を想定購買層とするベストテンから「ミステリマニア」を想定購買層とするベストテンへシフトしただけで、想定購買層の求める「当たり障りないベストテン」を求める、ということでは同じ穴の狢というやつだったのではないのかな、「このミス」が出てきたときからすでに現在の事態に陥ることは決定されていたのでは、と、いやいかん、脳味噌が抑鬱状態になっている汗

寝ます。

Posted at 20:45 on 12 07, 2021  by ポール・ブリッツ

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ポール・ブリッツさん

投票者が多いと各誌のランキングが均されてしまうので、思い切って投票者を10人ぐらいにする手があります。
あと、投票者が各ベストテンで重複しているのも似てしまう原因の一つなので、投票媒体は一誌のみ、複数媒体への投票は一切禁止するというルールを作るかですね。
この二つだけで結果は劇的に変わり、ベストテンの個性が間違いなく出せるはずです。早川と文春と宝島の三社ぐらいだったら、簡単に出来そうなんですけどね。
それで、各ランキングが決まったら、それぞれの1位3作品とワイルドカードの一作で、日本シリーズをやれば良いのです(笑)。お祭りというのなら、いっそ、これぐらいやればかなり盛り上がると思うんですが(笑)。

Posted at 22:52 on 12 06, 2021  by sugata

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「日本国内に住んでいる日本語話者で」「ミステリのベスト10を選ぶだけの本を質量ともに読んでいる」「ミステリについてのセンスがあるミステリ評論家」が何人いるか、っていう話ですからねえ……しかも仲間内で「今年のベストはこれ」っていう空気もできてるでしょうから、良心的に点をつけようとすると、どんな出版社でやろうとも似たような結果にしかなるわけがないので……しかしベスト10を統一すると、ランキング決定を「独占」した出版社がやりたい放題になるのは資本主義社会では当然の帰結ですからねえ。独占した出版社様の意に沿うようなベストを組もう、って評論家が考え出すとこれはこれで暗黒時代の到来ですよ。どうしようもないですな……。

Posted at 21:41 on 12 06, 2021  by ポール・ブリッツ

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ハヤシさん

ホロヴィッツの実力は疑うところがありませんし、牽引役としての働きは十分でしょうね。
他にもいい作品があるのに、影に隠れて売れなくなるのが残念だなというところです。1強はミステリにかぎらず、何かと発展を阻害する要因にもなりかねませんし(苦笑)。

『血の葬送曲』は旧ソ連ものですね。こちらも気になっていた作品なので、そういうことであれば読んでみます。ありがとうございます。

Posted at 09:16 on 12 06, 2021  by sugata

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毎年こうして纏めて頂くと非常に助かります。ありがとうございます。ホロヴィッツは資質的にはアヴェレージヒッター的な作家だと思うのですが、ジャンルとして翻訳ミステリが活気が無い中、毎年こうしたお祭り企画を牽引してくれる存在があることはむしろ歓迎すべきことかと。個人的には歴史ミステリの中に見立て殺人の秀逸なバリエーションを盛り込んだ『血の葬送曲』が今年の収穫でした。

Posted at 02:01 on 12 06, 2021  by ハヤシ

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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