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ジョン・ディクスン・カー『眠れるスフィンクス』(ハヤカワ文庫)
ジョン・ディクスン・カーの『眠れるスフィンクス』を読む。
ドナルド・ホールデンは戦死を装って行動していた元政府諜報機関の一員である。任務を終え、晴れてイギリスに帰国した彼の胸中を占めていたのは、かつて愛していながら結ばれることの無かった女性、シーリアのことだった。ホールデンはシーリアの姉マーゴットと結婚した友人ソーリイのもとを訪れたが、再会の喜びに浸るまもなく、そこでマーゴットの死、そしてシーリアが発狂しているという事実をソーリイから知らされる。だが、そこへ現れたシーリアは、マーゴットの死の原因こそソーリイにあると告げた。シーリアの話を信じたホールデンは彼女の助けようと躍起になるが……。
どちらかというとかなり地味な作品であり、派手なトリックなどはほとんんどない。かつて親密であったはずの関係者たちが、事件を契機に心が離れてゆき、そしていがみ合う。マーゴットの死に対しても認識はまったく食い違う。果たして誰の言うことが正しいのか、いったい真相はどこにあるのか。カーにしては珍しく、人間関係のもつれや心といった部分にスポットを当てており、このような興味で読ませるカー作品はあまり記憶にない。事件の真相もまた他のカー作品とはひと味異なっており、それらの意味では興味深い作品ということができるだろう。
ただ、読んで素直に満足かと聞かれれば、やはりいまひとつ。上でも書いたように、人間の心の部分にスポットを当てたものの、カーの場合それはあくまでミステリを成立させるための方便であり、薄っぺらさばかりが目立つ。
また、個人的に事件が回想や伝聞で語られるパターンが好きじゃないこともある。それが事件を語る上で非常に効果的に使われていたり、あるいは物語に深みを与えるというのであれば、それはもちろんOK。しかしながらカーがたまに使うこの手法はあくまでミステリとしての演出であり、正直これもまた成功しているとは思えない。
ちなみに本書は長らく絶版だったハヤカワミステリ版が、文庫版として復刻されたものである。カーにしては珍しいタイプの作品ではあるが、やはりカーらしさが前面に押し出されていない分、人気も低かったのだろう。長期間の絶版もむべなるかな。
ドナルド・ホールデンは戦死を装って行動していた元政府諜報機関の一員である。任務を終え、晴れてイギリスに帰国した彼の胸中を占めていたのは、かつて愛していながら結ばれることの無かった女性、シーリアのことだった。ホールデンはシーリアの姉マーゴットと結婚した友人ソーリイのもとを訪れたが、再会の喜びに浸るまもなく、そこでマーゴットの死、そしてシーリアが発狂しているという事実をソーリイから知らされる。だが、そこへ現れたシーリアは、マーゴットの死の原因こそソーリイにあると告げた。シーリアの話を信じたホールデンは彼女の助けようと躍起になるが……。
どちらかというとかなり地味な作品であり、派手なトリックなどはほとんんどない。かつて親密であったはずの関係者たちが、事件を契機に心が離れてゆき、そしていがみ合う。マーゴットの死に対しても認識はまったく食い違う。果たして誰の言うことが正しいのか、いったい真相はどこにあるのか。カーにしては珍しく、人間関係のもつれや心といった部分にスポットを当てており、このような興味で読ませるカー作品はあまり記憶にない。事件の真相もまた他のカー作品とはひと味異なっており、それらの意味では興味深い作品ということができるだろう。
ただ、読んで素直に満足かと聞かれれば、やはりいまひとつ。上でも書いたように、人間の心の部分にスポットを当てたものの、カーの場合それはあくまでミステリを成立させるための方便であり、薄っぺらさばかりが目立つ。
また、個人的に事件が回想や伝聞で語られるパターンが好きじゃないこともある。それが事件を語る上で非常に効果的に使われていたり、あるいは物語に深みを与えるというのであれば、それはもちろんOK。しかしながらカーがたまに使うこの手法はあくまでミステリとしての演出であり、正直これもまた成功しているとは思えない。
ちなみに本書は長らく絶版だったハヤカワミステリ版が、文庫版として復刻されたものである。カーにしては珍しいタイプの作品ではあるが、やはりカーらしさが前面に押し出されていない分、人気も低かったのだろう。長期間の絶版もむべなるかな。
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