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カーター・ディクスン『赤い鎧戸のかげで』(ハヤカワ文庫)
久しぶりのカー読破計画一歩前進。カーター・ディクスンのH・M卿ものから『赤い鎧戸のかげで』。
まずはストーリー。静かに休暇を過ごそうと、モロッコのタンジール空港に降り立ったH・Mことヘンリー・メリヴェール卿。ところが彼の名はこのモロッコの地においても広く知れ渡っているようで、地元の警察に盛大に迎え入れられる。
ただし、その盛大な歓迎にはある事情があった。ヨーロッパ各地を騒がせている有名な宝石泥棒“アイアン・チェスト”逮捕に、ぜひ協力してほしいというのだ。

好きなカーの作品などという話題が上がると、ごく少数ながら一部で強いプッシュがあるのが本作『赤い鎧戸のかげで』。いわゆるベスト本ではないが、ハマる人にはハマる作品ということだろうから、かなりクセはあるだろうと予想して読んだのだが、ようやく一部で絶賛される理由が理解できた(笑)。
まあ、いろいろな意味でポイントの多い作品である。
本格ミステリとしては正直、弱い。いわゆるオーソドックスな殺人劇ではなく、その中心にあるのが怪盗との戦いという点も影響しているのだろうが、長編を引っ張るだけの謎も弱く、それどころか腰砕けもののトリックもある始末。伏線などもそれなりに張ってはあるけれど、カーの作品でなければ単なるバカミスレベルであろう。
しかし、そういった弱さを補っているのが、読み物としての破天荒さだ。お得意のファースを前面に押し出しているのは珍しくないとして、それがモロッコというエキゾチックな雰囲気(常識や習慣、捜査なども含め)、怪盗ものという冒険小説やスパイ小説の香りが強いこともあって、いつも以上に弾けたストーリー展開を見せる。
ただ、好き嫌いが分かれるのは仕方ないとして、弾けすぎのせいであちらこちらに無理が来ているのがいただけない。したがって上で「そういった弱さを補っているのが」とは書いたが、それはマイナス部分を何割か補っているだけであって、「補ってあまりある」わけではないので念のため(苦笑)。
ほかにも気になるところは少なくない。例えば探偵は犯人を見つけ出すことは許されても、自ら裁くことは通常許されない。それを時に踏みはずす探偵や作品があって、H・Mもそんな傾向があるのだが、それも本作では少々行き過ぎの嫌いがある。
終盤のボクシング・シーンなどもその例だが、なんというか、こういう点は同じ時期に書かれた歴史ミステリでは違和感がないけれども、現代ミステリでは非常に消化に良くないところだ。もしかするとカーの意識のなかで、歴史ものと現代ものが感覚が少々混同してしまっていたのかもしれない。
ひとつ言えるのは、そういった作りや雰囲気が相まったことで、本作は間違いなく通常のカー作品とは一線を画した作品になったことだ。だから好きな作品に挙げる人がいる理由はわからないでもないが、ううむ、残念だが個人的にはそれはないかな(苦笑)。
まずはストーリー。静かに休暇を過ごそうと、モロッコのタンジール空港に降り立ったH・Mことヘンリー・メリヴェール卿。ところが彼の名はこのモロッコの地においても広く知れ渡っているようで、地元の警察に盛大に迎え入れられる。
ただし、その盛大な歓迎にはある事情があった。ヨーロッパ各地を騒がせている有名な宝石泥棒“アイアン・チェスト”逮捕に、ぜひ協力してほしいというのだ。

好きなカーの作品などという話題が上がると、ごく少数ながら一部で強いプッシュがあるのが本作『赤い鎧戸のかげで』。いわゆるベスト本ではないが、ハマる人にはハマる作品ということだろうから、かなりクセはあるだろうと予想して読んだのだが、ようやく一部で絶賛される理由が理解できた(笑)。
まあ、いろいろな意味でポイントの多い作品である。
本格ミステリとしては正直、弱い。いわゆるオーソドックスな殺人劇ではなく、その中心にあるのが怪盗との戦いという点も影響しているのだろうが、長編を引っ張るだけの謎も弱く、それどころか腰砕けもののトリックもある始末。伏線などもそれなりに張ってはあるけれど、カーの作品でなければ単なるバカミスレベルであろう。
しかし、そういった弱さを補っているのが、読み物としての破天荒さだ。お得意のファースを前面に押し出しているのは珍しくないとして、それがモロッコというエキゾチックな雰囲気(常識や習慣、捜査なども含め)、怪盗ものという冒険小説やスパイ小説の香りが強いこともあって、いつも以上に弾けたストーリー展開を見せる。
ただ、好き嫌いが分かれるのは仕方ないとして、弾けすぎのせいであちらこちらに無理が来ているのがいただけない。したがって上で「そういった弱さを補っているのが」とは書いたが、それはマイナス部分を何割か補っているだけであって、「補ってあまりある」わけではないので念のため(苦笑)。
ほかにも気になるところは少なくない。例えば探偵は犯人を見つけ出すことは許されても、自ら裁くことは通常許されない。それを時に踏みはずす探偵や作品があって、H・Mもそんな傾向があるのだが、それも本作では少々行き過ぎの嫌いがある。
終盤のボクシング・シーンなどもその例だが、なんというか、こういう点は同じ時期に書かれた歴史ミステリでは違和感がないけれども、現代ミステリでは非常に消化に良くないところだ。もしかするとカーの意識のなかで、歴史ものと現代ものが感覚が少々混同してしまっていたのかもしれない。
ひとつ言えるのは、そういった作りや雰囲気が相まったことで、本作は間違いなく通常のカー作品とは一線を画した作品になったことだ。だから好きな作品に挙げる人がいる理由はわからないでもないが、ううむ、残念だが個人的にはそれはないかな(苦笑)。
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fontankaさん
恋愛要素はかなり多いですよね。で、大体がファースとセットというか、味付けとはいえ、味付けだけでは済まないものも確かに感じます。ぜひ、まとめてください!
Posted at 22:18 on 05 16, 2021 by sugata