Posted in 03 2007
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甲賀三郎『甲賀三郎探偵小説選』(論創ミステリ叢書)
いまひとつ体調優れず早めに会社を出る。が、書店にはしっかり寄って、異色作家短編集の『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』『エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇』(これで無事完結!)、『ハンニバル・ライジング(上・下)』などをゲット。
レクター博士ものは正直もういいやって感じなのだが(個人的には羊で終わりにしてほしかった)、まあこれもお祭りみたいなものだから仕方ない。ただ、トマス・ハリスという才人には、まったく別の路線のものも読ませてもらいたいなあ。
読了本は論創ミステリ叢書の『甲賀三郎探偵小説選』。収録作は以下のとおり。
「電話を掛ける女」
「原稿料の袋」
「鍵なくして開くべし」
「囁く壁」
「真夜中の円タク」
「電話を掛ける女」は中編。通俗的スリラーで、導入部などはなかなか魅力的。主人公の周囲の人間が敵か味方かわからないという状況で引っ張ってゆくのも悪くない。これで重要な部分に偶然要素をもってこなければ、それなりに評価できるのだが……。
残りの四作は探偵作家、土井江南を主人公にした短編。毎回、謎の美女と遭遇して事件に巻き込まれる土井江南が、もちまえの推理力で事件を解決したりしなかったりというユーモア色の強いシリーズである。ただ、確かに土井江南のキャラクターは楽しめるものの、作品の質という観点では少々辛い。「原稿料の袋」はまずまずだが、それ以外はいやはやなんとも。判明している土井江南の作品すべてを集めたという大義名分はあるので、それでよしとすべきか。
あと、上の収録作には書かなかったが、本書にはかなりの数の評論類も収録されている。なんせ探偵小説芸術論争で木々高太郎と烈しくやりあった甲賀三郎である。彼の理論家としての側面をこうしてまとめておくこと自体には大賛成だが、それにしても多すぎないか。甲賀三郎も著作数の割には現役で読めるものがかなり限られている作家だ。評論はおおいにけっこうなのだが、でもその前に、もっと小説を読ませてほしい。収録作がやや低調なだけに余計その思いが強い。
レクター博士ものは正直もういいやって感じなのだが(個人的には羊で終わりにしてほしかった)、まあこれもお祭りみたいなものだから仕方ない。ただ、トマス・ハリスという才人には、まったく別の路線のものも読ませてもらいたいなあ。
読了本は論創ミステリ叢書の『甲賀三郎探偵小説選』。収録作は以下のとおり。
「電話を掛ける女」
「原稿料の袋」
「鍵なくして開くべし」
「囁く壁」
「真夜中の円タク」
「電話を掛ける女」は中編。通俗的スリラーで、導入部などはなかなか魅力的。主人公の周囲の人間が敵か味方かわからないという状況で引っ張ってゆくのも悪くない。これで重要な部分に偶然要素をもってこなければ、それなりに評価できるのだが……。
残りの四作は探偵作家、土井江南を主人公にした短編。毎回、謎の美女と遭遇して事件に巻き込まれる土井江南が、もちまえの推理力で事件を解決したりしなかったりというユーモア色の強いシリーズである。ただ、確かに土井江南のキャラクターは楽しめるものの、作品の質という観点では少々辛い。「原稿料の袋」はまずまずだが、それ以外はいやはやなんとも。判明している土井江南の作品すべてを集めたという大義名分はあるので、それでよしとすべきか。
あと、上の収録作には書かなかったが、本書にはかなりの数の評論類も収録されている。なんせ探偵小説芸術論争で木々高太郎と烈しくやりあった甲賀三郎である。彼の理論家としての側面をこうしてまとめておくこと自体には大賛成だが、それにしても多すぎないか。甲賀三郎も著作数の割には現役で読めるものがかなり限られている作家だ。評論はおおいにけっこうなのだが、でもその前に、もっと小説を読ませてほしい。収録作がやや低調なだけに余計その思いが強い。
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ローレンス・オリオール『やとわれインターン』(ハヤカワミステリ)
ツリーカテゴリーを実装してみる。
作家名を「国内作家」と「海外作家」別にツリー化し、クリックで開閉できるようになったので、カテゴリーが長くてうざいと思った場合は、折りたたんでご覧ください。
久々にフランスミステリに手を出す。ものはローレンス・オリオールの『やとわれインターン』。1966年度のフランス推理小説大賞を受賞した作品である。
と書いてはみたものの、「フランス推理小説大賞」というのが何の引きにもならないところがフランスミステリの悲しさではある。なぜか日本では人気が出ないフランスミステリ。比較的ページ数は短かめで、登場人物も少なく、そのくせ人間関係はもつれ、心理的なサスペンスで味付けし、一発芸で勝負する。こんなところがフランスミステリのイメージかと思うが(まったく個人的なイメージです、すいません)、なぜかこれが日本では受けない。二時間ドラマの原作に使われることも意外と多いし、潜在的な需要はあると思うのだがなぁ。
閑話休題。『やとわれインターン』に戻る。
基本的には上で挙げた要素をほぼ満たした作品である。冒頭で誰かが殺されたらしいことを匂わせ、そこから本編スタートとなる。主な登場人物は四人。大学病院の実力者である医師とその妻、医師の不倫相手の秘書、インターン試験合格をめざす美貌の青年だ。不倫相手との結婚を望む医師だったが、妻は恩師の娘でもあり、離婚をもちかけることは自らの破滅を意味する。そこで考えた計略が、青年と妻との間に不倫関係をもたせて彼女の方から離縁させようというもの。こうして愛憎渦巻く奇妙な共同生活が始まり、ついには悲劇が起こる……。
ほんとに典型的なフランス・ミステリ。
肝は誰が殺されたのかという冒頭の謎かけ。まずはその興味で読者を引き込み、本編は四人の心理をねちっこく描写し、サスペンスを高めてゆく。
医師は妻を愛してはいないが、青年と妻が愛し合うのは面白くなく、しかも愛人との仲も徐々におかしくなっていく。愛人は愛人で、医師の煮え切らない行動が物足りなく、自ら危険な賭に出ようとする。青年と妻はお互いに愛し合うものの、意識のズレがつねにあり、それが不協和音を奏でることにもなる。しかも実は、医師と青年はもとから折り合いが悪く、もう人間関係はすっかりドロドロである。こういうのを書かせると本当にフランス人は上手い。ミステリといえば何となく頭で読むようなイメージがあるが、フランスミステリに限っては肌で読む、という感じだろう。
最近ではポール・アルテやジャン=クリストフ・グランジェなど、フランスっぽくない作家もけっこう紹介されるようになってきたが、こういうフランスのお家芸っぽい作品もやはりいいものです。
作家名を「国内作家」と「海外作家」別にツリー化し、クリックで開閉できるようになったので、カテゴリーが長くてうざいと思った場合は、折りたたんでご覧ください。
久々にフランスミステリに手を出す。ものはローレンス・オリオールの『やとわれインターン』。1966年度のフランス推理小説大賞を受賞した作品である。
と書いてはみたものの、「フランス推理小説大賞」というのが何の引きにもならないところがフランスミステリの悲しさではある。なぜか日本では人気が出ないフランスミステリ。比較的ページ数は短かめで、登場人物も少なく、そのくせ人間関係はもつれ、心理的なサスペンスで味付けし、一発芸で勝負する。こんなところがフランスミステリのイメージかと思うが(まったく個人的なイメージです、すいません)、なぜかこれが日本では受けない。二時間ドラマの原作に使われることも意外と多いし、潜在的な需要はあると思うのだがなぁ。
閑話休題。『やとわれインターン』に戻る。
基本的には上で挙げた要素をほぼ満たした作品である。冒頭で誰かが殺されたらしいことを匂わせ、そこから本編スタートとなる。主な登場人物は四人。大学病院の実力者である医師とその妻、医師の不倫相手の秘書、インターン試験合格をめざす美貌の青年だ。不倫相手との結婚を望む医師だったが、妻は恩師の娘でもあり、離婚をもちかけることは自らの破滅を意味する。そこで考えた計略が、青年と妻との間に不倫関係をもたせて彼女の方から離縁させようというもの。こうして愛憎渦巻く奇妙な共同生活が始まり、ついには悲劇が起こる……。
ほんとに典型的なフランス・ミステリ。
肝は誰が殺されたのかという冒頭の謎かけ。まずはその興味で読者を引き込み、本編は四人の心理をねちっこく描写し、サスペンスを高めてゆく。
医師は妻を愛してはいないが、青年と妻が愛し合うのは面白くなく、しかも愛人との仲も徐々におかしくなっていく。愛人は愛人で、医師の煮え切らない行動が物足りなく、自ら危険な賭に出ようとする。青年と妻はお互いに愛し合うものの、意識のズレがつねにあり、それが不協和音を奏でることにもなる。しかも実は、医師と青年はもとから折り合いが悪く、もう人間関係はすっかりドロドロである。こういうのを書かせると本当にフランス人は上手い。ミステリといえば何となく頭で読むようなイメージがあるが、フランスミステリに限っては肌で読む、という感じだろう。
最近ではポール・アルテやジャン=クリストフ・グランジェなど、フランスっぽくない作家もけっこう紹介されるようになってきたが、こういうフランスのお家芸っぽい作品もやはりいいものです。