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甲賀三郎『甲賀三郎探偵小説選』(論創ミステリ叢書)
いまひとつ体調優れず早めに会社を出る。が、書店にはしっかり寄って、異色作家短編集の『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』『エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇』(これで無事完結!)、『ハンニバル・ライジング(上・下)』などをゲット。
レクター博士ものは正直もういいやって感じなのだが(個人的には羊で終わりにしてほしかった)、まあこれもお祭りみたいなものだから仕方ない。ただ、トマス・ハリスという才人には、まったく別の路線のものも読ませてもらいたいなあ。
読了本は論創ミステリ叢書の『甲賀三郎探偵小説選』。収録作は以下のとおり。
「電話を掛ける女」
「原稿料の袋」
「鍵なくして開くべし」
「囁く壁」
「真夜中の円タク」
「電話を掛ける女」は中編。通俗的スリラーで、導入部などはなかなか魅力的。主人公の周囲の人間が敵か味方かわからないという状況で引っ張ってゆくのも悪くない。これで重要な部分に偶然要素をもってこなければ、それなりに評価できるのだが……。
残りの四作は探偵作家、土井江南を主人公にした短編。毎回、謎の美女と遭遇して事件に巻き込まれる土井江南が、もちまえの推理力で事件を解決したりしなかったりというユーモア色の強いシリーズである。ただ、確かに土井江南のキャラクターは楽しめるものの、作品の質という観点では少々辛い。「原稿料の袋」はまずまずだが、それ以外はいやはやなんとも。判明している土井江南の作品すべてを集めたという大義名分はあるので、それでよしとすべきか。
あと、上の収録作には書かなかったが、本書にはかなりの数の評論類も収録されている。なんせ探偵小説芸術論争で木々高太郎と烈しくやりあった甲賀三郎である。彼の理論家としての側面をこうしてまとめておくこと自体には大賛成だが、それにしても多すぎないか。甲賀三郎も著作数の割には現役で読めるものがかなり限られている作家だ。評論はおおいにけっこうなのだが、でもその前に、もっと小説を読ませてほしい。収録作がやや低調なだけに余計その思いが強い。
レクター博士ものは正直もういいやって感じなのだが(個人的には羊で終わりにしてほしかった)、まあこれもお祭りみたいなものだから仕方ない。ただ、トマス・ハリスという才人には、まったく別の路線のものも読ませてもらいたいなあ。
読了本は論創ミステリ叢書の『甲賀三郎探偵小説選』。収録作は以下のとおり。
「電話を掛ける女」
「原稿料の袋」
「鍵なくして開くべし」
「囁く壁」
「真夜中の円タク」
「電話を掛ける女」は中編。通俗的スリラーで、導入部などはなかなか魅力的。主人公の周囲の人間が敵か味方かわからないという状況で引っ張ってゆくのも悪くない。これで重要な部分に偶然要素をもってこなければ、それなりに評価できるのだが……。
残りの四作は探偵作家、土井江南を主人公にした短編。毎回、謎の美女と遭遇して事件に巻き込まれる土井江南が、もちまえの推理力で事件を解決したりしなかったりというユーモア色の強いシリーズである。ただ、確かに土井江南のキャラクターは楽しめるものの、作品の質という観点では少々辛い。「原稿料の袋」はまずまずだが、それ以外はいやはやなんとも。判明している土井江南の作品すべてを集めたという大義名分はあるので、それでよしとすべきか。
あと、上の収録作には書かなかったが、本書にはかなりの数の評論類も収録されている。なんせ探偵小説芸術論争で木々高太郎と烈しくやりあった甲賀三郎である。彼の理論家としての側面をこうしてまとめておくこと自体には大賛成だが、それにしても多すぎないか。甲賀三郎も著作数の割には現役で読めるものがかなり限られている作家だ。評論はおおいにけっこうなのだが、でもその前に、もっと小説を読ませてほしい。収録作がやや低調なだけに余計その思いが強い。
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Comments
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電話を掛ける女の強引さ
あたくしも本書、積ん読から解放し、ようやく読み始めました。
「電話を掛ける女」を読み、そのあまりに強引なプロットに(笑)sugataさんはどうだろう、と思って参照しましたら、やはり同じく「偶然」が引っかかると、そうですよねー(笑)
この剛腕ぶりも、最近は「味」として目くじら立てることもなく楽しめるようになってまいりました。
「電話を掛ける女」の該当記事、宣伝になってすいませんです。ちょっとリンクを貼らせていただきます。
探偵小説の読書日記、目標はsugataさんであります!(笑)
https://kureage.hatenablog.com/entry/2018/05/07/091506
Posted at 09:25 on 05 07, 2018 by 呉エイジ
呉エイジさん
>この剛腕ぶりも、最近は「味」として目くじら立てることもなく楽しめるようになってまいりました。
まったくそのとおりです。戦前の探偵小説を楽しむという行為は、ミステリの酸いも甘いも体験したうえで、はじめて味わえる境地ですからね(笑)。
ところで「呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記」ですが、私はちゃんと前半後半同じように楽しんでおりますのでご安心ください。
そもそも我妻と探偵小説のコラボなんて、誰が予想できたでしょう(笑)。
しかも短編ひとつひとつに感想をしっかり書いていくというのはなかなか出来そうで出来ないことですので、ぜひ長く続けられるよう頑張ってほしいと思います。
Posted at 23:33 on 05 07, 2018 by sugata