Posted in 03 2007
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マージェリー・アリンガム『陶人形の幻影』(論創海外ミステリ)
本日の読了本はマージェリー・アリンガムの『陶人形の幻影』。
ティモシー・キニットとジュリア・ローレルの婚約が発表されたのも束の間、ジュリアの父、アンソニー卿が婚約の破棄を告げるという出来事が起こる。あわてる二人だが、原因はどうやらティモシーの出自にあるらしい。ティモシーは自分の出生の秘密を求めて調査に乗り出すが、同時にキニット家の隠された秘密までが浮き彫りに……。
英国の女流本格探偵小説作家として知られるアリンガム。その作風は娯楽要素を強く押し出した本格を中心とする前期、より文学的風味に傾倒した(ときにはミステリ要素がかなり薄められた)作品群の後期に分けられるのが一般的だ。そしてここ数年に翻訳されてきた作品のほとんどが、後期の作品である。本作もその例に漏れず、探偵小説としてはそれほど見るべきところはなく、事件などはほとんど起こらないに等しいが、アリンガムは主人公格のティモシーの葛藤や、あるいは戦後顕著になってゆく古い階級意識の崩壊などをまったりと描いていく。
ここを楽しめるかどうかで、本作の評価は大きく分かれるだろう。個人的にはトリックや謎解きにそれほどこだわらない口なので、こういう話も全然アリである。ティモシーとジュリアのカップルはよいとして、その他の登場人物の胡散臭さや強烈さはミステリにありがちな類型的なキャラクターを軽く超越しており、こういった部分にこそ本書の面白みがあるわけなのだが、まあ、本格として読みたい人には辛いだろうとは思う。
ただ、気になるのはアリンガムの作風である。文学的風味の有無はともかく、本格と呼ばれる割には、今まで呼んできたもののほとんどがそれに該当しない気がする。同じ論創社の『検屍官の領分』『殺人者の街角』、ポケミスの『霧の中の虎』『判事への花束』『幽霊の死』などがあるが、そのどれもが本格探偵小説というには「?」である。まだ前期の作品を一つも読んでいないので断言はできないが、著作の全貌が徐々に明らかになるにしたがい、過去のレッテルもそろそろ貼り替えの時期に来ているのかもしれない。
ティモシー・キニットとジュリア・ローレルの婚約が発表されたのも束の間、ジュリアの父、アンソニー卿が婚約の破棄を告げるという出来事が起こる。あわてる二人だが、原因はどうやらティモシーの出自にあるらしい。ティモシーは自分の出生の秘密を求めて調査に乗り出すが、同時にキニット家の隠された秘密までが浮き彫りに……。
英国の女流本格探偵小説作家として知られるアリンガム。その作風は娯楽要素を強く押し出した本格を中心とする前期、より文学的風味に傾倒した(ときにはミステリ要素がかなり薄められた)作品群の後期に分けられるのが一般的だ。そしてここ数年に翻訳されてきた作品のほとんどが、後期の作品である。本作もその例に漏れず、探偵小説としてはそれほど見るべきところはなく、事件などはほとんど起こらないに等しいが、アリンガムは主人公格のティモシーの葛藤や、あるいは戦後顕著になってゆく古い階級意識の崩壊などをまったりと描いていく。
ここを楽しめるかどうかで、本作の評価は大きく分かれるだろう。個人的にはトリックや謎解きにそれほどこだわらない口なので、こういう話も全然アリである。ティモシーとジュリアのカップルはよいとして、その他の登場人物の胡散臭さや強烈さはミステリにありがちな類型的なキャラクターを軽く超越しており、こういった部分にこそ本書の面白みがあるわけなのだが、まあ、本格として読みたい人には辛いだろうとは思う。
ただ、気になるのはアリンガムの作風である。文学的風味の有無はともかく、本格と呼ばれる割には、今まで呼んできたもののほとんどがそれに該当しない気がする。同じ論創社の『検屍官の領分』『殺人者の街角』、ポケミスの『霧の中の虎』『判事への花束』『幽霊の死』などがあるが、そのどれもが本格探偵小説というには「?」である。まだ前期の作品を一つも読んでいないので断言はできないが、著作の全貌が徐々に明らかになるにしたがい、過去のレッテルもそろそろ貼り替えの時期に来ているのかもしれない。