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エドワード・D・ホック『コンピューター404の殺人』(ハヤカワ文庫)
まずはストーリー。アメリカ・カナダ合衆国の大統領選挙を間近に控え、選挙用コンピューター404を点検していた技師ロジャーズは異常を発見し、コンピューター検察局に連絡した。さっそく確認に向かった副局長のジャジャーンは、インプットしたはずのない選挙結果をデータから発見する。
誰が何の目的で行ったのか。また、そこに記された二人の立候補者、ブラントとアンブローズとは何物なのか。またもや過激派グループ〈HAND〉が関わっているのか。疑問は尽きず、さっそく捜査を開始するコンピューター検察局。
二人の立候補者のうち、ブラントの線をクレイダーが追い、一方のジャジャーンはアンブローズが追うが、ほどなくして技師が殺害され、ジャジャーンもまた何物かの罠に落ちる……。
最初に書いておくと、邦題の『コンピューター404の殺人』は誤解を招いてよろしくない。これだとコンピューターが自らの意志で殺人を犯すような内容に思えてしまうが、まったくそんなネタではないので念のため。
さて、肝心の出来栄えだが、これはシリーズ一作目『コンピューター検察局』よりもだいぶ落ちるといわざるを得ない。
SFとしてはお粗末だが、ミステリとしてはそれほど捨てたものではないというのがシリーズ第一作の印象だった。それはSFというジャンルへの先入観をうまく利用したところがミソだった。言わば「メタSFミステリ」的趣向だったのである(ちょっと大げさ)。
しかしながら本作は、ミステリとしても特筆すべきところはなく、単に活劇メインのB級SFに留まっている。
詳しくは書かないけれど、まず冒頭のコンピューター404に絡む謎に説得力がない。というかSFとしてどうなんだろうというレベルである。政府の投票用コンピューターを何物かがハッキングするのはいいとしても、終盤で明かされる理由が貧乏くさいというか。政府のセキュリティ万全のはずのコンピューターをハッキングする技術があるなら、こういう目的で使うのはいまひとつ納得がいかない。
おまけにメイントリックも今さら感が強い。検察局の捜査員たちも緊張感が薄く、毎回ほぼ自分のミスでピンチに陥っている。
何というか、やっていることが全般的に古くさいのである。さまざまな物事が科学化、合理化されている未来世界にあって、人間の言動だけはまったく本作が書かれた当時のままという印象。そこが本作の大きな欠点だ。前作にも同様の欠点はあったが、メインのネタが面白かったので許せたのだが。
なお、「コンピューター検察局」シリーズは三作出ているが、ラストの『The Frankenstein Factory』のみ未訳である。けっこう辛めに感想を書いておきながらも、どうせなら全部読みたいということもあるし、以前にある方から、本作がSF版『そして誰もいなくなった』的な話らしいということも教えていただいていたので、出来はともかくちょっと気になる本ではあるのだ。
本来なら同じ版元のハヤカワ文庫にお願いしたいところではあるが、やはりこれは論創社さん案件なのだろうか(苦笑)。
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Comments
早川つながりの三部作だったらSFのジョン・ジェイクス「妖術使の惑星」が読みたいところです。 もうジャンルも何もないな(笑)
Posted at 18:18 on 06 18, 2019 by ポール・ブリッツ
YSさん
三部作補完コレクションとでも名付けたら、それなりに引きがありそうですね(笑)。でも、なかなか他に対象作品が思い浮かばない……
それにしてもニコラス・メイヤーのワトスン博士の手記シリーズが三部作で、なおかつラストの『The Canary Trainer』がオペラの怪人ネタとはまったく知りませんでした。個人的にパスティーシュはあまり好みではないのですが、これはちょっと気になります。
Posted at 22:04 on 06 17, 2019 by sugata
お二方へ
<二作目で翻訳ストップした名探偵ものの
三作目を新訳発掘で補完シリーズ>
という企画はいいですね。
ニコラス・メイヤーの贋作ホームズものの第三作
(オペラの怪人ネタ)も是非♪
Posted at 00:16 on 06 17, 2019 by YS
ポール・ブリッツさん
ああ、そういえばベイネデイッティ教授シリーズも三部作でラストが未訳ですね。版権のハードルさえなければ、これも論創社さんにお願いしたいところですが(苦笑)。
Posted at 19:29 on 06 16, 2019 by sugata
どうせならデアンドリアの「マンクス連続殺人」と同時発売して「鬼才の遺作! 幻の名探偵シリーズ最終巻がここに!」とかやったらセールス効果も……(そうか?)
Posted at 18:09 on 06 16, 2019 by ポール・ブリッツ
YSさん
『The Frankenstein Factory』はかなり気になっています。最初は論創海外ミステリあたりなら…と思ったのですが、あちらは版権があるものについては、よほどの売りがないと難しいかもしれません。
むしろ、ここはやはり一作目、二作目を出しているハヤカワ文庫で、『そして〜』を全面的に押し出しつつ広告展開してやれば、いけなくもない気がします。
Posted at 15:24 on 06 16, 2019 by sugata
こんにちわ。
お二方には不評なようですが当方は本シリーズが
大好きでした。(まあ読んだのが大昔ですから
いま読み直したら、また印象が変るかもしれませんが。)
未訳の第三作『The Frankenstein Factory』が
『そして誰もいなくなった』の未来版というのは
原書刊行当時のミステリマガジン誌上での
木村二郎さんの連載エッセイで紹介されており
世代人なら記憶に残っている人も少なくないと
思います。日本語で今からでもぜひとも
読みたいですね。ホックでSFミステリで
『そして~』ネタと帯にでも謳えば、現行の
新刊翻訳ミステリとして商売もしやすいのでは
ないでしょうか。
Posted at 11:44 on 06 16, 2019 by YS
ポール・ブリッツさん
長編が得意じゃないところもあるのでしょうが、やはりSF的なセンスに欠けているとみた方がしっくりきますね。しかも本作はミステリとしても弱かった(泣)
Posted at 09:38 on 06 16, 2019 by sugata
ホックでガッカリすることはめったにないのですが、この「コンピューター検察局」シリーズの長編はふたつともとてもガッカリしました。「何でおれはこんなもの買っちゃったんだろう」レベル(^^;)
それでも、「ホックと13人の仲間たち」にあった、コンピューター検察局ものの短編は、設定もトリックもけっこうイケてた印象があるので、これは、ホックにSFネタメインの長編を書かせた出版社が悪いんじゃないかと思ってます。
Posted at 01:17 on 06 16, 2019 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
誰だよ、ジョン・ジェイクスって、とか思っていたら戦士ブラク・シリーズの人なんですね。すいません、SFは弱いもんで(苦笑)。
で、第二銀河系シリーズの三作目『The Planet Wizard』が未訳なんですね。こんなところまで守備範囲とは。幅広く読んでますね〜。
Posted at 20:48 on 06 18, 2019 by sugata