もはや過去の人:なぜゼレンスキーは米国から見放される危険に瀕しているのか?
<記事原文 寺島先生推薦>
Yesterday’s man: Why Ukraine’s Zelensky is in danger of being left behind by the US
キエフとイスラエルのどちら?であればワシントンは瞬時にイスラエルを選ぶ
筆者:チェイ・ボウズ(Chay Bowes)、ジャーナリストおよび地政学アナリスト、戦略的研究修士、RT特派員
出典:RT 2023年10月18日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>2023年10月24日
ファイル写真:ウクライナの大統領、ウォロディミル・ゼレンスキー、2023年7月8日、トルコのイスタンブールにて。 © Cemal Yurttas/ dia images via Getty Images」
今月初め、数百人のハマス戦闘員によるイスラエルへのテロ攻撃が世界を驚かせた。これは、ユダヤ人とパレスチナ人の古い対立の新たな拡大の始まりを示すだけでなく、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーへの政治的および軍事的支援における転換点を示す可能性がある。
残忍なハマスの攻撃と聖書に描かれているようなイスラエルの過酷な反応以前、米国とそのNATOの同盟国は、ほぼウクライナにだけ焦点を当て、時折中国に不安げに目を向けていた。しかし、今、西側のメディアは過熱し、中東を注視、その焦点を中東に固定している。注目がキエフからイスラエル、パレスチナ、およびイランに移るにつれ、キエフの苦悶は増えるばかりだ。
ハマスの攻撃前、ウクライナへの支持の軌道は既に低下の兆候を示していた。数か月前、ポーランドなど、以前の堅固な同盟国が、戦争で引き裂かれた国(ウクライナ)への無条件の支援は果たして賢明なのか、とあからさまに疑問視し、ウクライナを「溺れる人」に例えることなど以前では考えられなかっただろう。これに加えて、広範なヨーロッパの戦争に対する疲労感、ウクライナの失敗した反転攻勢、西側での戦争への支持の崩壊があり、ウクライナは「パートナー」、自国民、そして最も重要なアメリカの政治的エリート層からの支持を維持するために既に厳しい戦いに直面していた。ゼレンスキーが最後に縋ったのは、ワシントンのためにロシアとの代理戦争を戦い、貴重な資源をさらに手元に引き寄せることになる中東での世界的戦火拡大だった。
Read more:How a US ‘peace plan’ brought war to Israel’s doorstep
実際、穿った見方をする人であれば、ハマスの襲撃が、アメリカがウクライナへの約束から撤退するための魅力的で、以前なら利用できなかった道を提供していると指摘するかもしれない。間近に迫ったアメリカの大統領選挙を考えると、ハマスとの「善対悪」の対立は、長年の重要な同盟国でパートナーであるイスラエルに対する存立の脅威として簡単に括ることができる。それに対して、ウクライナでの代理戦争は、政治的にも財政的にもますます問題となっており、アメリカのジョー・バイデン大統領にとってだんだん厄介になってきている。この新たな(中東での)紛争は、野蛮な残虐行為を伴っているとの報道があり、売り込むことは、はるかに容易だ。
一方で、言葉とは裏腹に、ウクライナへの軍事支援の熱は冷めている。そして、言うまでもないことだが、西側には武器製造能力が、ない。ウクライナにおける大規模地上戦にすら武器供給はできない。さらに拡大した紛争などとんでもない。
ゼレンスキーの失敗した反転攻勢の甚大なコストも切実な問題となっている。この長らく予告されてきた作戦は、ロシアを打倒するはずだったが、キエフの人材、装備、そして西側での評判を消耗させ、戦場でのどんな進展ももたらさなかった。代わりに、これは避けられないと西側で静かに感じられるようになっていたことだが、キエフがモスクワとの合意を模索し、その過程で領土を譲歩せざるを得ないという感覚を増幅させるだけになってしまった。
はっきり言えるのは、中東で紛争が起こっているのに、ウクライナの代理戦争に対する物理的および「感情的」支援ははたして継続できるのか、ということだ。これはロシアに関わりがないということではない。関りはある。ただし、これはゼレンスキーにとっては良い兆候ではない。選挙を行う圧力が高まるにつれ、彼はますます脆弱で、絶望感が物語に漏れ出ている感じがある。これは、最近の新しいイギリス国防大臣であるグラント・シャップスが、同時に「2つの戦争」を戦えるか、と尋ねられた時のありきたりの回答に微妙に示されていた。彼はこう言ったのだ。「ゼレンスキーは、私たちすべてに、この戦いを続け、プーチンに勝たせないことが非常に重要であるかを思い出させてくれるでしょう。それだけでなくより広範な問題に気を取られないようにする必要があるかもしれないことも、です」と。彼はさらに、「ヨーロッパでの戦争は、私たちの心の最前線にあります」とも述べた。こういった発言は、もちろん、表舞台では不吉なことが起こりながら、舞台裏ではその正反対のことが次第に正しくなる、という類のものにほかならない。
イスラエルが、ウクライナが必要とするような種類の軍需品を限られた量しか備蓄していないのは、(中東とウクライナでは)紛争の力学が異なるからだ。しかし、(イスラエルが)今後の長期戦のために(武器を)備蓄する前提条件は満たされるだろう。このことは、アメリカにおける広範なイスラエルの国防と政治のロビー活動が、より小さなウクライナのロビーと対立することになり、前者(イスラエル)が常に上手に立つ可能性が非常に高いだろう。イスラエルに関しては、現職または潜在的なアメリカ大統領によって、運命に放置される可能性はまったくない。例として、表面的には「永遠の戦争に反対」とされる候補者のロバート・F・ケネディ・ジュニアを挙げると、最近、彼はハマスに対するイスラエルの報復を強力に支持しながら、ゼレンスキーへの支援を続ける政治的および経済的根拠に疑念を投げかけた。
Read more:The Israel-Palestine war is Washington’s fault
西側メディアでますます問題視されるウクライナのイメージと、アメリカの多くの市民から英雄的な文明と民主主義の島と見なされているイスラエルとを比較してみたらいい。すると、イスラエルをアメリカの軍事的および財政的支援の受け手として位置付けることは、腐敗と機能不全に悩むウクライナと比べはるかに容易だ。最近のBloombergのインタビューで、チャタムハウスのCEOであるブロンウェン・マドックスは、次のように状況を簡潔にまとめた。「イスラエルとウクライナの選択肢が与えられた場合、アメリカは一瞬でイスラエルを選ぶでしょう」と述べ、ワシントンが現時点でこの決定を直面していないとしても、彼女は「ゼレンスキー大統領が、苦慮しながら、アメリカの関心を引き留めるために戦っていた理由を理解できる」と明確に述べた。
したがって、ウクライナが西側メディアで注目されなくなる中、中東の戦火拡大に関連する他のいくつかの問題も、紛争の持続に影響を及ぼす可能性がある。ロシアの軍隊は陣地を守っており、原油価格が上昇する見込みで、これは世界市場を不安定化させ、キエフへの将来の資金供給への議会賛成が難しくなっている。そしてもちろん、ウクライナに懐疑的なロベルト・フィコの党がスロバキアで最近の選挙に勝利し、欧州の政治的状況も不安定だ。これに加えて、近づいている冬や、ますます対立が激しくなっているEUにもたらす諸課題は言うまでもない。
どうやら、ウラジミール・ゼレンスキーが今見据える先には困難が待ち受けているようだ。国民の最善の利益を心に留めた経験豊かな政治家なら、これに気づいて平和を求めることを選ぶかもしれないが、ゼレンスキーはこれらすべてをひたすら無視し、スポットライトの中心に留まろうと必死になるだろう。これがすべて起こる中、キエフはロシアが中東の苦境に責任があるかのように、数少なくなった聴衆を説得しようとしている。さらに馬鹿げているのは、ロシアが西側の武器をハマスに提供することでウクライナを「陥れよう」としているとさえ口にしているのだ。
キエフのロシアに対する代理戦争が刻々と時間切れになる中、今でも明らかになっていそうなのは、2023年10月7日のイスラエルでの悲劇が1つの紛争拡大ばかりでなく、もうひとつの紛争終焉の始まりを意味するかもしれないことだ。
Yesterday’s man: Why Ukraine’s Zelensky is in danger of being left behind by the US
キエフとイスラエルのどちら?であればワシントンは瞬時にイスラエルを選ぶ
筆者:チェイ・ボウズ(Chay Bowes)、ジャーナリストおよび地政学アナリスト、戦略的研究修士、RT特派員
出典:RT 2023年10月18日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>2023年10月24日
ファイル写真:ウクライナの大統領、ウォロディミル・ゼレンスキー、2023年7月8日、トルコのイスタンブールにて。 © Cemal Yurttas/ dia images via Getty Images」
今月初め、数百人のハマス戦闘員によるイスラエルへのテロ攻撃が世界を驚かせた。これは、ユダヤ人とパレスチナ人の古い対立の新たな拡大の始まりを示すだけでなく、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーへの政治的および軍事的支援における転換点を示す可能性がある。
残忍なハマスの攻撃と聖書に描かれているようなイスラエルの過酷な反応以前、米国とそのNATOの同盟国は、ほぼウクライナにだけ焦点を当て、時折中国に不安げに目を向けていた。しかし、今、西側のメディアは過熱し、中東を注視、その焦点を中東に固定している。注目がキエフからイスラエル、パレスチナ、およびイランに移るにつれ、キエフの苦悶は増えるばかりだ。
ハマスの攻撃前、ウクライナへの支持の軌道は既に低下の兆候を示していた。数か月前、ポーランドなど、以前の堅固な同盟国が、戦争で引き裂かれた国(ウクライナ)への無条件の支援は果たして賢明なのか、とあからさまに疑問視し、ウクライナを「溺れる人」に例えることなど以前では考えられなかっただろう。これに加えて、広範なヨーロッパの戦争に対する疲労感、ウクライナの失敗した反転攻勢、西側での戦争への支持の崩壊があり、ウクライナは「パートナー」、自国民、そして最も重要なアメリカの政治的エリート層からの支持を維持するために既に厳しい戦いに直面していた。ゼレンスキーが最後に縋ったのは、ワシントンのためにロシアとの代理戦争を戦い、貴重な資源をさらに手元に引き寄せることになる中東での世界的戦火拡大だった。
Read more:How a US ‘peace plan’ brought war to Israel’s doorstep
実際、穿った見方をする人であれば、ハマスの襲撃が、アメリカがウクライナへの約束から撤退するための魅力的で、以前なら利用できなかった道を提供していると指摘するかもしれない。間近に迫ったアメリカの大統領選挙を考えると、ハマスとの「善対悪」の対立は、長年の重要な同盟国でパートナーであるイスラエルに対する存立の脅威として簡単に括ることができる。それに対して、ウクライナでの代理戦争は、政治的にも財政的にもますます問題となっており、アメリカのジョー・バイデン大統領にとってだんだん厄介になってきている。この新たな(中東での)紛争は、野蛮な残虐行為を伴っているとの報道があり、売り込むことは、はるかに容易だ。
一方で、言葉とは裏腹に、ウクライナへの軍事支援の熱は冷めている。そして、言うまでもないことだが、西側には武器製造能力が、ない。ウクライナにおける大規模地上戦にすら武器供給はできない。さらに拡大した紛争などとんでもない。
ゼレンスキーの失敗した反転攻勢の甚大なコストも切実な問題となっている。この長らく予告されてきた作戦は、ロシアを打倒するはずだったが、キエフの人材、装備、そして西側での評判を消耗させ、戦場でのどんな進展ももたらさなかった。代わりに、これは避けられないと西側で静かに感じられるようになっていたことだが、キエフがモスクワとの合意を模索し、その過程で領土を譲歩せざるを得ないという感覚を増幅させるだけになってしまった。
はっきり言えるのは、中東で紛争が起こっているのに、ウクライナの代理戦争に対する物理的および「感情的」支援ははたして継続できるのか、ということだ。これはロシアに関わりがないということではない。関りはある。ただし、これはゼレンスキーにとっては良い兆候ではない。選挙を行う圧力が高まるにつれ、彼はますます脆弱で、絶望感が物語に漏れ出ている感じがある。これは、最近の新しいイギリス国防大臣であるグラント・シャップスが、同時に「2つの戦争」を戦えるか、と尋ねられた時のありきたりの回答に微妙に示されていた。彼はこう言ったのだ。「ゼレンスキーは、私たちすべてに、この戦いを続け、プーチンに勝たせないことが非常に重要であるかを思い出させてくれるでしょう。それだけでなくより広範な問題に気を取られないようにする必要があるかもしれないことも、です」と。彼はさらに、「ヨーロッパでの戦争は、私たちの心の最前線にあります」とも述べた。こういった発言は、もちろん、表舞台では不吉なことが起こりながら、舞台裏ではその正反対のことが次第に正しくなる、という類のものにほかならない。
イスラエルが、ウクライナが必要とするような種類の軍需品を限られた量しか備蓄していないのは、(中東とウクライナでは)紛争の力学が異なるからだ。しかし、(イスラエルが)今後の長期戦のために(武器を)備蓄する前提条件は満たされるだろう。このことは、アメリカにおける広範なイスラエルの国防と政治のロビー活動が、より小さなウクライナのロビーと対立することになり、前者(イスラエル)が常に上手に立つ可能性が非常に高いだろう。イスラエルに関しては、現職または潜在的なアメリカ大統領によって、運命に放置される可能性はまったくない。例として、表面的には「永遠の戦争に反対」とされる候補者のロバート・F・ケネディ・ジュニアを挙げると、最近、彼はハマスに対するイスラエルの報復を強力に支持しながら、ゼレンスキーへの支援を続ける政治的および経済的根拠に疑念を投げかけた。
Read more:The Israel-Palestine war is Washington’s fault
西側メディアでますます問題視されるウクライナのイメージと、アメリカの多くの市民から英雄的な文明と民主主義の島と見なされているイスラエルとを比較してみたらいい。すると、イスラエルをアメリカの軍事的および財政的支援の受け手として位置付けることは、腐敗と機能不全に悩むウクライナと比べはるかに容易だ。最近のBloombergのインタビューで、チャタムハウスのCEOであるブロンウェン・マドックスは、次のように状況を簡潔にまとめた。「イスラエルとウクライナの選択肢が与えられた場合、アメリカは一瞬でイスラエルを選ぶでしょう」と述べ、ワシントンが現時点でこの決定を直面していないとしても、彼女は「ゼレンスキー大統領が、苦慮しながら、アメリカの関心を引き留めるために戦っていた理由を理解できる」と明確に述べた。
したがって、ウクライナが西側メディアで注目されなくなる中、中東の戦火拡大に関連する他のいくつかの問題も、紛争の持続に影響を及ぼす可能性がある。ロシアの軍隊は陣地を守っており、原油価格が上昇する見込みで、これは世界市場を不安定化させ、キエフへの将来の資金供給への議会賛成が難しくなっている。そしてもちろん、ウクライナに懐疑的なロベルト・フィコの党がスロバキアで最近の選挙に勝利し、欧州の政治的状況も不安定だ。これに加えて、近づいている冬や、ますます対立が激しくなっているEUにもたらす諸課題は言うまでもない。
どうやら、ウラジミール・ゼレンスキーが今見据える先には困難が待ち受けているようだ。国民の最善の利益を心に留めた経験豊かな政治家なら、これに気づいて平和を求めることを選ぶかもしれないが、ゼレンスキーはこれらすべてをひたすら無視し、スポットライトの中心に留まろうと必死になるだろう。これがすべて起こる中、キエフはロシアが中東の苦境に責任があるかのように、数少なくなった聴衆を説得しようとしている。さらに馬鹿げているのは、ロシアが西側の武器をハマスに提供することでウクライナを「陥れよう」としているとさえ口にしているのだ。
キエフのロシアに対する代理戦争が刻々と時間切れになる中、今でも明らかになっていそうなのは、2023年10月7日のイスラエルでの悲劇が1つの紛争拡大ばかりでなく、もうひとつの紛争終焉の始まりを意味するかもしれないことだ。
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