■ 内田篤人の後継者と言われているDF伊東幸敏鹿島アントラーズの右SBというと2011年以降はDF西大伍がレギュラーとして君臨している。ザックJAPANのときは日本代表に選出されて国際Aマッチにも出場しているが札幌の下部組織で育ったDF西大伍はもともとは中盤の選手なので組み立ての部分での貢献度が高い。札幌時代はユーティリティー性も高く評価されていたがDF内田篤が2010年の夏にシャルケに移籍した後、ほぼ不動の右SBとして活躍してきた。
Jリーグでも有数の右SBと言えるDF西大伍がいるので2番手の右SBのDF伊東幸にはなかなか出場機会が回ってこない。今シーズンもスタメン出場したのは8試合だけ。DF西大伍の壁は高いが、右SBとしてはかなり有望な選手である。リオ世代で何度か手倉森JAPANに召集されて五輪代表でもプレーしたが「右足のクロスに関してはJ1でもトップクラス」と言えるほど精度と質の高いクロスが武器になっている。
表1はJリーグ・ラボのサイトから数字を拝借して「J1の90分換算のクロスCBPのベスト30」を書き出している。プレイングタイムが360分以上の選手を対象にしているが、「1.169」のDF伊東幸はJ1の全選手の中で1番いい数字となる。2位がMFミキッチ(広島)、3位がMF駒井(浦和)、4位がMF柏(広島)、5位がMF梅崎(浦和)なのでウイングバックでプレーする選手が上位に来る傾向がある中で堂々の数字を残している。
表1. J1の90分換算のクロスCBPのベスト30
ポジション | 名前 | 所属 | 出場試合数 | 出場時間(分) | ドリブルCBP | クロスCBP |
数値 | 90分換算 | 順位 | 数値 | 90分換算 | 順位 |
DF | 伊東 幸敏 | 鹿島 | 11 | 836 | 0.72 | 0.078 | 165 | 10.86 | 1.169 | 1 |
MF | ミキッチ | 広島 | 26 | 2,062 | 18.09 | 0.790 | 8 | 23.96 | 1.046 | 2 |
MF | 駒井 善成 | 浦和 | 20 | 973 | 9.28 | 0.858 | 3 | 8.81 | 0.815 | 3 |
MF | 柏 好文 | 広島 | 31 | 2,713 | 18.89 | 0.627 | 13 | 23.44 | 0.778 | 4 |
MF | 梅崎 司 | 浦和 | 19 | 770 | 3.45 | 0.403 | 30 | 6.50 | 0.760 | 5 |
FW | 伊東 純也 | 柏 | 30 | 2,556 | 16.22 | 0.571 | 16 | 18.75 | 0.660 | 6 |
MF | 水沼 宏太 | FC東京 | 14 | 402 | 0.58 | 0.130 | 128 | 2.78 | 0.622 | 7 |
MF | 太田 吉彰 | 磐田 | 31 | 2,819 | 2.36 | 0.075 | 170 | 18.69 | 0.597 | 8 |
DF | 古林 将太 | 名古屋 | 26 | 1,731 | 1.00 | 0.052 | 188 | 10.18 | 0.529 | 9 |
MF | 関根 貴大 | 浦和 | 29 | 2,301 | 9.80 | 0.383 | 34 | 13.51 | 0.528 | 10 |
FW | 清水 慎太郎 | 大宮 | 10 | 422 | 2.25 | 0.480 | 18 | 2.46 | 0.525 | 11 |
DF | 渡部 大輔 | 大宮 | 7 | 489 | 0.80 | 0.147 | 113 | 2.81 | 0.517 | 12 |
DF | 高橋 諒 | 名古屋 | 11 | 829 | 1.90 | 0.206 | 84 | 4.68 | 0.508 | 13 |
MF | 泉澤 仁 | 大宮 | 27 | 1,861 | 16.68 | 0.807 | 6 | 9.70 | 0.469 | 14 |
MF | 中村 俊輔 | 横浜FM | 19 | 1,642 | 3.99 | 0.219 | 77 | 8.51 | 0.466 | 15 |
FW | 宇佐美 貴史 | G大阪 | 17 | 1,455 | 10.56 | 0.653 | 11 | 7.49 | 0.463 | 16 |
DF | 蜂須賀 孝治 | 仙台 | 9 | 517 | 2.08 | 0.362 | 40 | 2.63 | 0.458 | 17 |
DF | 小川 諒也 | FC東京 | 18 | 1,713 | 1.23 | 0.065 | 176 | 8.62 | 0.453 | 18 |
MF | カイオ | 鹿島 | 16 | 1,204 | 8.46 | 0.632 | 12 | 5.93 | 0.443 | 19 |
FW | 阿部 拓馬 | FC東京 | 11 | 989 | 4.34 | 0.395 | 31 | 4.85 | 0.441 | 20 |
DF | 湯澤 聖人 | 柏 | 10 | 664 | 2.99 | 0.405 | 29 | 3.16 | 0.428 | 21 |
MF | 家長 昭博 | 大宮 | 23 | 2,165 | 6.83 | 0.284 | 57 | 10.05 | 0.418 | 22 |
DF | 橋本 和 | 神戸 | 11 | 958 | 0.84 | 0.079 | 164 | 4.44 | 0.417 | 23 |
MF | 天野 純 | 横浜FM | 8 | 483 | 0.00 | 0.000 | 276 | 2.23 | 0.416 | 24 |
DF | 松原 健 | 新潟 | 14 | 1,109 | 1.30 | 0.106 | 142 | 5.03 | 0.408 | 25 |
DF | 西 大伍 | 鹿島 | 24 | 2,260 | 2.09 | 0.083 | 159 | 10.20 | 0.406 | 26 |
DF | 車屋 紳太郎 | 川崎F | 27 | 2,440 | 6.47 | 0.239 | 74 | 11.01 | 0.406 | 27 |
FW | クリスティアーノ | 柏 | 14 | 1,329 | 6.85 | 0.464 | 22 | 5.95 | 0.403 | 28 |
DF | 藤田 優人 | 鳥栖 | 31 | 2,978 | 2.50 | 0.076 | 168 | 13.27 | 0.401 | 29 |
MF | 松井 大輔 | 磐田 | 15 | 585 | 1.41 | 0.217 | 78 | 2.59 | 0.398 | 30 |
■ ここに来て劇的に向上したクロスの精度と質同じ静岡県内の高校から鹿島に入団した右SBということで「内田篤人の後継者」と言われる機会が多かったが、DF内田篤というとクロスやアシストでチームに貢献するタイプというよりは後方からのビルドアップやスピードを生かした守備力への評価が高い選手なのでタイプとしてはやや異なる。また、「長友系のSB」と言われたこともあるがDF伊東幸はフィジカルの強さやスピードを前面に押し出すタイプではない。
先のとおりで今ではすっかり「クロスの精度と質が高い右SB」というイメージが出来上がったが、彼のクロスの精度と質が向上したのはかなり最近の話である。ちょっと前までは『クロスの精度や質の高い選手』という印象はあまりなかったが、最近の試合では高確率でいいボールをゴール前に供給してくる。「クロスからどれだけチャンスを作ったか?」を示すクロスCBPがJ1のトップになるのも納得である。
表1を見ると分かる通りで自らドリブルで仕掛けてクロスを上げるタイプではない。90分換算のクロスCBPが1位であるのに対してドリブルCBPは165位と普通以下の数字である。サイドでボールを受けてドリブルで仕掛けてからクロスを上げるというのではなくて味方選手との連携からサイドを駆け上がってクロスを上げる場面が多い。攻撃参加のタイミングがいいのでフリーでクロスを上げるシーンは多い。
■ ノーチャンスのクロスを上げることは許されない。「触ることが出来れば即ゴール」というスピードのあるクロスを蹴ることが出来る選手であるが「強くて速いクロスを蹴ること」をずっと意識してトレーニングしてきた成果が実を結びつつあるのではないかと思う。「ボールを蹴る」という作業は1人でいくらでも練習することが出来るが質や精度を上げるのはかなり難しい。「プロ入り後にキックが抜群に上手になった。」という例はほとんど聞いたことがない。
「クロスの精度」あるいは「クロスの質」というのは日本サッカー界全体の課題と言えるがその原因ははっきりしている。サイドからクロスを上げたときにゴールラインを割ってしまうようなノーチャンスのクロスを上げてしまったらチームメイトからも観客からも批判されてしまう。これはプロの世界に限った話ではなくて、小学生や中学生の段階から同じだと思う。ノーチャンスのクロスを上げることは許されない。
日本サッカー界にはそういう土壌が出来上がっているので「クロスを上げるときは絶対にミスをしないような安全なキック」を選択せざる得なくなる。日本代表でも活躍したDF加地(岡山)はジーコJAPANでプレーしていた頃からゴール前にふんわりとしたクロスを上げることがほとんどだったが、こういうキックだとキックミスをする心配はほとんどないが、ゴールに直結するクロスになることもほとんどない。
昨今はミドルシュートを放ったときに枠に飛ばなかったとしても足を振り抜いた末のシュートミスであったならばスタンドから拍手が送られる。プロ選手であっても強くボールを蹴ろうとするとキックミスになる確率は上がる。クロスを上げるときにゴールに直結する可能性がある強いキックを選択してミスになった場合、チャレンジした勇気に対して一定の評価が与えられてもいいと思うが残念ながらそういう土壌はない。
もちろん、ケース・バイ・ケースで中央にDF闘莉王とFWシモビッチとFW川又が待っているのであればそこそこのクロスでもゴールにつながる可能性があるので難しいキックを選択する必要性は全くないが、大半のチームはそこそこのクロスではほとんどゴールにつながらない。DF伊東幸の成長から考えると鹿島には「チャレンジした末のミスは積極的に評価する。」というポジティブな空気があるのかもしれない。
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