Posted in 12 2007
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ジェフリー・ディーヴァー『ウォッチメイカー』(文藝春秋)
忙しいところに加えて、本格的忘年会シーズンに突入。後半はもうへろへろ。読書ペースもひどく落ちているが、ようやくジェフリー・ディーヴァーの『ウォッチメイカー』を読了。
惨たらしい手口で次々と犯行を重ねてゆく殺人鬼「ウォッチメイカー」。手がかりは現場に残されたアンティーク時計。やがてその時計が十個買われていたことが判明し、それは犯行がまだまだ続くことを意味していた。リンカーン・ライムは尋問の天才、キャサリン・ダンスらと協力し、次の犯行を阻止しようと奮闘する。一方、刑事アメリアは「ウォッチメイカー」事件だけでなく、自殺を擬装して殺された会計士の事件も同時に進めていた。だが捜査を続けるうち、警察の汚職事件がクロスオーバーする……。
基本的にはハズレなしのリンカーン・ライム・シリーズ。どの作品も高い水準をクリアしているし、キャラクターは魅力的。広く受け入れられる魅力を持っていることは誰もが認めるところだろう。
だが、確かに楽しく読めるものの、個人的には不満もないではない。いつまでも重度の身体障害者という主人公を使う意味には疑問があるし、当初は斬新だった鑑識捜査をベースにした謎解きも、ここまで続くと大した驚きもない。また、あまりにその鑑識捜査がスーパーすぎることから、主人公たちがどんなに危機的状況に陥っても絶対ひっくり返すだろうという安心感は、サスペンス的に大きなマイナスである。そして敵役の設定によって、作品の魅力も大きく左右されるところも気になる。過去では『石の猿』や『12番目のカード』が犯人の弱さでやや失速気味だった例といえるだろう。
さて、本作だが、まずは文句なしの傑作といっていいだろう。上に挙げたような不満もないではないが、それを吹き飛ばすだけの創意工夫に満ちた作品なのである。
ポイントはやはり敵役の設定。そして緻密なプロット。ネタバレになるので詳しくは書かないが、中盤以降のどんでん返しに次ぐどんでん返しは、こちらの予想を完全に裏切るもので、これまでのサイコスリラーとは一線を画すといってよい。ただ、いたずらに読者を驚かせるのではなく、非常に立体的な仕掛けが施されているといえばいいか。ライムとアメリア、ふたつの事件が交錯するのは予想どおりとしても、こういう展開は読めなかった。
また、新キャラクターのキャサリン・ダンスが実にいい。これまでの科学的捜査と対比する形での尋問テクニックは非常に魅力的で、さすがのライムも若干影が薄く見えるほどだ(というか本作のライムはとりわけ印象が薄く、これも特殊な主人公でシリーズを続けることの難しさといえる)。作者自身もこのダンスというキャラクターは気に入ったようで、案の定、彼女を主人公とした単独作品も今年本国で刊行されているらしい。
シリーズが続くことに対しては相変わらず危惧するものの、ひとまず本作には脱帽である。おすすめ。
惨たらしい手口で次々と犯行を重ねてゆく殺人鬼「ウォッチメイカー」。手がかりは現場に残されたアンティーク時計。やがてその時計が十個買われていたことが判明し、それは犯行がまだまだ続くことを意味していた。リンカーン・ライムは尋問の天才、キャサリン・ダンスらと協力し、次の犯行を阻止しようと奮闘する。一方、刑事アメリアは「ウォッチメイカー」事件だけでなく、自殺を擬装して殺された会計士の事件も同時に進めていた。だが捜査を続けるうち、警察の汚職事件がクロスオーバーする……。
基本的にはハズレなしのリンカーン・ライム・シリーズ。どの作品も高い水準をクリアしているし、キャラクターは魅力的。広く受け入れられる魅力を持っていることは誰もが認めるところだろう。
だが、確かに楽しく読めるものの、個人的には不満もないではない。いつまでも重度の身体障害者という主人公を使う意味には疑問があるし、当初は斬新だった鑑識捜査をベースにした謎解きも、ここまで続くと大した驚きもない。また、あまりにその鑑識捜査がスーパーすぎることから、主人公たちがどんなに危機的状況に陥っても絶対ひっくり返すだろうという安心感は、サスペンス的に大きなマイナスである。そして敵役の設定によって、作品の魅力も大きく左右されるところも気になる。過去では『石の猿』や『12番目のカード』が犯人の弱さでやや失速気味だった例といえるだろう。
さて、本作だが、まずは文句なしの傑作といっていいだろう。上に挙げたような不満もないではないが、それを吹き飛ばすだけの創意工夫に満ちた作品なのである。
ポイントはやはり敵役の設定。そして緻密なプロット。ネタバレになるので詳しくは書かないが、中盤以降のどんでん返しに次ぐどんでん返しは、こちらの予想を完全に裏切るもので、これまでのサイコスリラーとは一線を画すといってよい。ただ、いたずらに読者を驚かせるのではなく、非常に立体的な仕掛けが施されているといえばいいか。ライムとアメリア、ふたつの事件が交錯するのは予想どおりとしても、こういう展開は読めなかった。
また、新キャラクターのキャサリン・ダンスが実にいい。これまでの科学的捜査と対比する形での尋問テクニックは非常に魅力的で、さすがのライムも若干影が薄く見えるほどだ(というか本作のライムはとりわけ印象が薄く、これも特殊な主人公でシリーズを続けることの難しさといえる)。作者自身もこのダンスというキャラクターは気に入ったようで、案の定、彼女を主人公とした単独作品も今年本国で刊行されているらしい。
シリーズが続くことに対しては相変わらず危惧するものの、ひとまず本作には脱帽である。おすすめ。