Posted in 08 2006
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仁木悦子『猫は知っていた』(講談社文庫)
出版芸術社から続々と出る仁木悦子の作品集に刺激を受けて、この際仁木兄妹ものも全部順に読んでしまおうと思い立つ。ただ、長編全集はまだ買っていないので、ずいぶん昔に買った講談社文庫版を引っ張り出す。でも出版芸術社版には自筆年譜だとか自伝小説などがおまけに収録されているので、結局はそっちも買うんだろうけど。
まあ、そんなわけで、実に久々の『猫は知っていた』再読。
友人の世話で、箱崎医院に間借りすることになった仁木雄太郎と悦子の兄妹。ところが引っ越し早々に、入院患者と院長の義母が立て続けに失踪するという事件が起こる。しかも箱崎家の愛猫までが行方不明になるというおまけつき。謎が謎を呼び、そして遂に、義母が死体となって庭の防空壕から発見された……。
本書が刊行されたのは昭和32年。今呼んでもそれほど古くささを感じさせず、むしろ溌剌とした印象を受けるほどだ。その大きな要因は、著者の文体とキャラクター設定にある。シンプルで読みやすいだけなら、他にも書き手はいただろうが、親しみやすい兄妹キャラクターを主役に据えたことは、当時としては画期的(ちょと大げさ?)ではなかったか。とりわけ語り手を女子大生においたところに著者の上手さがある(ただし、個人的には、あまりに爽やかなキャラクター設定がちょっと苦手でもあるのだが)。
もちろん読みやすさやキャラクターだけが本書の売りではない。ミステリとして必要な謎と論理をしっかり押さえているからこその古典である。とはいえ、本書ではそれほど大仕掛けなトリックが使われているわけではない。しかし伏線の張り方や病院の見取り図、兄妹の推理合戦、連続殺人や謎解きの演出など、ミステリファンをにやりとさせる技法や趣向を山ほど詰め込み、あくまで本格探偵小説たらんとするその姿勢が心地よい。
本格探偵小説としてのしっかりした骨格を備えながら、語り口はあくまで爽やかに。これが仁木悦子の神髄。
まあ、そんなわけで、実に久々の『猫は知っていた』再読。
友人の世話で、箱崎医院に間借りすることになった仁木雄太郎と悦子の兄妹。ところが引っ越し早々に、入院患者と院長の義母が立て続けに失踪するという事件が起こる。しかも箱崎家の愛猫までが行方不明になるというおまけつき。謎が謎を呼び、そして遂に、義母が死体となって庭の防空壕から発見された……。
本書が刊行されたのは昭和32年。今呼んでもそれほど古くささを感じさせず、むしろ溌剌とした印象を受けるほどだ。その大きな要因は、著者の文体とキャラクター設定にある。シンプルで読みやすいだけなら、他にも書き手はいただろうが、親しみやすい兄妹キャラクターを主役に据えたことは、当時としては画期的(ちょと大げさ?)ではなかったか。とりわけ語り手を女子大生においたところに著者の上手さがある(ただし、個人的には、あまりに爽やかなキャラクター設定がちょっと苦手でもあるのだが)。
もちろん読みやすさやキャラクターだけが本書の売りではない。ミステリとして必要な謎と論理をしっかり押さえているからこその古典である。とはいえ、本書ではそれほど大仕掛けなトリックが使われているわけではない。しかし伏線の張り方や病院の見取り図、兄妹の推理合戦、連続殺人や謎解きの演出など、ミステリファンをにやりとさせる技法や趣向を山ほど詰め込み、あくまで本格探偵小説たらんとするその姿勢が心地よい。
本格探偵小説としてのしっかりした骨格を備えながら、語り口はあくまで爽やかに。これが仁木悦子の神髄。