■ 代表フォワードが欧州へ2009年に移籍制度が変更となったことも関係して、ここ最近、「ゼロ円移籍」で海外に渡る選手が増えてきている。今オフも、フィテッセに移籍したFWハーフナー・マイクや、サウサンプトンに移籍するFW李忠成のケースが、「ゼロ円移籍」だと言われている。ともに、2011年に日本代表に定着した選手で、いくつかの国内クラブも獲得に興味を示していたが、結局、欧州でプレーすることを選択した。
デビューの時期も近づいてきて、新天地での活躍が期待されるが、問題視されているのは「ゼロ円移籍である。」という点である。確かに、有望な代表クラスの選手をタダで持っていかれては、クラブとしてはたまったものではない。もちろん、二人とも、クラブ在籍時に年俸分以上の活躍を見せたので、「快く送り出したい。」というサポーターも多いだろうが、彼らが抜けた穴を埋めなくてはならないフロントは、元金なしで新しい選手を探す必要が出てくるので大変である。
■ ゼロ円移籍「ゼロ円移籍」については、『クラブ側の落ち度である。』、『長期契約を結ばない方が悪い。』という意見もあるが、その意見に諸手を挙げて賛成することはできない。資金力のあるクラブ側の目線で言うと、「契約が切れる前になぜ、延長契約をしないのか。」となるだろうが、日本サッカーの実情の踏まえた意見ではないように思う。
ここで、2011年にリーグ戦を制した柏を例に出してみたいと思うが、柏の日本人選手でもっとも海外クラブから注目を集めているのは、DF酒井である。今冬も、「ブラジルのサントスに移籍するのでは?」という話が出てきて、ロンドン五輪直後、あるいは、来年の冬の移籍市場でクラブを離れる可能性もある。したがって、多額の移籍金を得るためにも、今、契約を見直しておきたいところであるが、この段階で、DF酒井側には契約延長するメリットは薄く、契約の見直しに応じる可能性は低い。
もちろん、今の年俸の3倍・4倍といった破格の年俸を提示したら、話は進展するかもしれない。しかしながら、DF酒井が移籍するときの移籍金は、数千万~1.5億程度と思われるので、大型契約を結んで移籍金の額が増えたとしても、クラブとして大きな利益にはならず、クラブにとって、旨みのある話ではない。
※ 残りの契約年数が移籍金の額に大きくかかわってくるので、移籍金が選手の価値を示しているとは言えないが、FW森本貴幸やMF宇佐美貴史のような「数年に一度レベルの極めて優秀なタレント」でも、1億円や2億円の移籍金にしかならないのが現状である。国際試合で活躍したり、クラブ間の争奪戦となったら、移籍金の額も跳ね上がってくるかもしれないが、欧州での実績が無い日本人選手には、厳しい評価をされるのが一般的である。■ ローリスク・ハイリターンしかも、柏にいる有望株はDF酒井だけではない。五輪世代では、FW工藤、MF茨田がいて、FW林、FW田中順、DF橋本らも、ポテンシャルを秘めた選手なので、今後の活躍次第で、海外のクラブから狙われても不思議ではない。よって、理想を言うと、彼らとも長期契約を結んでおきたいところであるが、柏の資金力を考えると、そんなに多くの選手と長期契約を結ぶのは無理であり、大きなリスクも生じてくる。
よって、移籍金が獲れるかどうかだけで、合・否を判断するなら、数年以内に、「ゼロ円移籍」をなくすことも可能と思われるが、トータルで考えると、クラブにおって、「ローリスク・ハイリターン」な作業であり、人件費の高騰は避けられない。
ベテランになると、1年1年が勝負になるので、年俸アップがなくても、複数年契約に応じる選手がいるだろうが、若手の場合、長期契約を結ぶのは、相当に困難であり、クラブ側だけを責めていても話は始まらない。よって、クラブ側もメリットとデメリットを考慮した上で、今のような状況になっていることも容易に想像できる。無限にお金があるわけでもないし、Jリーグが、欧州のトップリーグと比べて、優秀な選手をずっと引き留めておくだけの魅力に乏しいことも事実で、サカつくのようにはいかないだろう。
■ 選手の立場で考えてみると・・・また、一部では、「移籍金を残して行かない選手は恩知らずである。」と選手を批判する意見もある。確かに、そういうところも否定できず、浦和のMF原口などは、「海外移籍するときは移籍金を残したい。」という発言をしている。今後、こういう選手が増えてくることを期待したいが、選手の立場で考えてみると、移籍金なしの方が、移籍先の選択肢も広がっていくので、海外で活躍することを最優先に考えると、フリーな立場になれるのは魅力的である。
一般的には、「移籍金を払ってでも獲得したい。」と考えるクラブの方が、大事に扱ってくれる可能性が高いので、ふさわしい移籍先と言えるが、合う・合わないの問題もあるので、多くのクラブの中から、自分に合ったチームを選ぶことのできる状況に置かれた方が有利である。DF槙野のような、「海外でプレーできるならば、どこでもいい。」という選手は別であるが、『海外リーグでプレーすること』ではなくて、『海外リーグで活躍すること』を考えるならば、クラブとの契約が切れたときに移籍市場に飛び込みたいと思うのも理解できるし、選手たちが「いい条件」を望む気持ちを否定することはできない。「恩」や「義理」に訴えるやり方も、限界はある。
※ ただし、MF家長のケースのように、「契約は残っているが、海外移籍のときはフリーになる。」という取り決めを交わすのは、今後、少なくしていくべきだろう。もちろん、付帯条件を付けることで、選手を獲得しやすくなったり、年俸を抑えることもできるので、必ずしも、クラブ側だけにデメリットがあるわけではないが、あまり好ましいことではない。■ 将来性を見極める目したがって、「ゼロ円移籍」は、本当に難しい問題である。「クラブの怠慢である。」とか、「選手が傲慢だから。」とか、そういった類の話ではなくて、もっと、奥の深い話であり、すぐにどうにかなるレベルの話ではないように感じる。
とにかく、今、できることは、日本人選手(あるいはアジア人選手)が、欧州の舞台で活躍して、価値を高めていくことしかないだろう。欧州でプレーする選手の中には、ゼロ円移籍をした選手も多いが、彼らが活躍していくことで、次に続く選手の条件が良くなって、日本のクラブも恩恵を受けることになるので、欧州でプレーするチャンスを得た選手には、自分のことだけでなく、多くのものを背負ってプレーしているということを忘れずに戦ってほしいところである。
また、各クラブは、選手の将来性を見極める目が、これまで以上に必要となってくる。先に挙げたDF酒井も、ほんの一年前までは全く無名の選手であり、そのときであれば、クラブ主導で長期契約もできたと思われる。難しい状況になってきているが、「これだ!!!」と決めた選手には、少々のリスクを冒してでも、獲得に向かったり、大型契約を結ぶことも必要になってきて、賭けに成功したかどうかで、クラブの財政状況も変わって来るし、成績が残るかどうかも決まってくる。
いずれにしても、今は、移籍制度が変わったばかりなので、優秀な選手を多く生み出して、国際舞台で好成績を残して、日本人ならびにJリーグの価値を高める以外に方法は無い。そうなると、今は、1億円や2億円で至宝クラスを売却しているが、もっと高い値札が付いて、5億円あるいは10億円を超えるケースも出て来るかもしれない。そうなるまで、Jリーグのクラブが辛抱できるかは心配になるが、過渡期に入っているので、フロントも、選手も、観ている側も、踏ん張りが必要である。
関連エントリー 2010/12/20
槙野智章の海外移籍に関して 2011/04/15
内田篤人はドイツでどんな評価をされているのか? 2011/04/28
長友佑都はイタリアでどんな評価をされているのか? 2011/06/03
MF宇佐美貴史 バイエルン移籍?に関して 2011/08/23
Jリーグとブンデスリーガの違いについて 2011/10/12
FWハーフナー・マイクは日本代表のエースストライカーになれるだろうか・・・。 2011/12/20
乾貴士はドイツでどんな評価をされているのか?
- 関連記事
-