COVID対応を誤った左派ーー危機を増幅させても信頼の回復にはつながらない
COVID対応を誤った左派――危機を増幅させても信頼の回復にはつながらない
<記事原文 寺島先生推薦>
The Left’s Covid failure
Amplifying the crisis is no way to rebuild trust
GLOBAL RESEARCH 2021年12月2日
UNHERD 2021年11月23日
トビー・グリーン(TOBY GREEN)及びトーマス・ファジ(THOMAS FAZI)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年12月28日

Toby Green is a professor of history at Kings College London. His latest book is The Covid Consensus: The New Politics of Global Inequality (Hurst).
Thomas Fazi is a writer, journalist and translator. His latest book 'Reclaiming the State' is published by Pluto Press.
世界規模のパンデミックが様々な段階を経て進行する中、COVIDに対する疫学的な対策に関して、「どんな戦略をよしとするか」については、その政治的な風向きと重なる傾向が多分にある。米国のドナルド・トランプ前大統領とブラジルのジャー・ボルソナーロ大統領が、2020年3月に実行されたロックダウン政策というやり方に対して疑念を投げかけていたとき、西側においてリベラルや左派と目されている人々(その中には社会主義者の大多数もふくまれていた)は、パンデミックを抑え込む方策として、ロックダウン政策を人々に推奨していた。さらに昨今のワクチンパスポート政策についても同様の立場を示している。欧州各国がワクチン非接種者たちに対する制限措置を強化している中、普段は差別に苦しむ少数派を守ろうと声をあげてきた左派の論客たちは、なぜかこの件に関しては沈黙を保っている。
常に左派の立場で記事を書いてきた私たちにとっては、左派のこの態度の急変には困惑させられる。健康な人々を隔離することに対して、前向きな批判の声が左派から本当にひとつもあがってこないのだろうか?昨今の研究調査によれば、ワクチン接種者と、ワクチン非接種者の間の感染力の違いはほとんどないとされているのに。左派のCOVIDに対する対応は、左派の政治力や、考え方をより危機に陥れるものだ。これらの左派の政治力や考え方は、少なくともここ30年間ずっと危機に瀕してきている。だからこそ大事になってくるのは、「COVID対策に対するこのような左派の考え方がどう形成されてきたかを究明すること」、なのだ。
このパンデミックの最初の段階(ロックダウン段階と呼んでいいだろう)において、「ロックダウン政策をとれば、経済的にも、社会的にも、心理的にも人々は損害をうけるであろう」と警告を発していたのは、文化や経済において右派にいると思われる人々だった。当時、ドナルド・トランプがロックダウン政策に対して疑念を表明していたため、ロックダウン政策を批判することが文化や経済において左派にいると思われる人々にとって受け入れがたいことになってしまったのだ。SNS上のやりとりが、この二分化にさらなる拍車をかけることになってしまった。従って、西側の左派たちがロックダウン政策を受け入れるのには、全く時間がかからなかった。その際に使用されたのが、「いのちを守るため」や「みんなを守るため」という選択肢だった。このような選択肢は、理論上は公衆衛生の考え方や、健康を守るため個人の権利よりも集団の利益が優先される選択肢だ。その当時、ロックダウン政策を批判することは、人々のいのちを顧みない考え方であり、「右派的である」や、「経済を優先的に考えている」や、「個人を優先的に考えている」考え方だとして排除されていた。
要するに、ここ何十年も続いてきた政治の二極化の時代において、公共医療の問題は政争の道具に使われてきたため、この問題について異議を挟むことが左派においては許されなくなってきたのだ。同時に、左派はこのロックダウン対策について、労働者階級の人々と距離を置くことになった。というのも、ロックダウン政策が継続されれば、社会的、経済的な影響を受け、仕事を失う可能性が一番高いのは低所得者層の人たちだからだ。さらにいえることは、このような低所得者層の人々は、ズーム会議からもっともはみ出されやすい人々なのだ。ラップトップ階級(ノートパソコンを自由に使えるような人々)に属している人々は、ズーム会議で利を得ることができたのだが。左派による政策選択の見誤りが、「ワクチン接種計画段階」においても、今の「COVIDパスポート実施段階」においても発生しているのだ。右派関連団体からの抗議運動が発生しているいっぽうで、左派の主流派に属している勢力は、ロックダウン政策に対しても、ワクチン政策に対しても、概して支持を表明している。そして、これらの政策に反対する人々は悪者扱いされ、科学を否定する非合理主義者や、利己的な自由主義者たちと同列扱いされている。
しかしいったいなぜ、左派の主流派勢力は政府によるCOVID対策をほぼすべてのCOVID対策を丸ごと後押しする結果になってしまったのか。「健康と経済」という単純極まりない観点が、なぜ(今頃)浮上してきたのか?この観点は(左翼系)社会科学が何十年も疎かにしてきたものであり、「富と健康」がもたらす結果については切り離せないつながりがあることをこの社会科学は、今も、一点の曇りもなく明らかにしている。なぜ左派の人々には不平等が拡大していることが見えないのだろうか?この政策が、貧困層や、貧しい国々や、女性たちや、子どもたちを激しく攻撃し、お年寄りの人々に致命的な苦難を与えている一方で、超富裕層や、超巨大企業に、さらなる巨大な富をもたらしていることが見えないのだろうか?ワクチンの開発とその普及に関して、「公共の利益」以外の動機がワクチン製造業者から働いているかもしれない、という考え方そのものをなぜ左派は、結果的に一笑に付してしまったのか?金銭が絡んでいることだったし、バイオンテック社や、モデルナ社や、ファイザー社は、毎秒1千USドル以上のペースでCovidワクチンから利益を得ているのだ。さらにいえば、左派はこれまで国家により抑圧された人々の声を代弁してきたはずなのに、今はCOVIDパスポート導入を利用して、国家権力が倫理的かつ政治的な意図を持っていることになぜ気づかないままでいるのだろうか?
冷戦時代は、脱植民地時代や、世界規模での反人種差別主義の時代と共起する時代だった。そして冷戦時代の終焉は、脱植民地政策が象徴的な勝利を収めたとき(それは南アフリカでのアパルトヘイト政策の終了のことだ)と同時に起こった。そしてこれは左派の存在価値が危機に瀕するさきがけとなった。新自由主義的な経済覇権や、グローバリゼーションや、企業による「トランスナショナリズム(訳注:国境を超えて人々や、文化や、資本が移動している状況のこと)」が台頭したことで、「国家は資本の再分配の機能を果たすべきだ」という左派の伝統的な歴史観は軽んじられるようになった。このことと合わせて念頭においておくべきことは、ブラジルの哲学者ロベルト・マンガベイラ・アンガー(Roberto Mangabeira Unger)が指摘していたように、「左派というのはこれまでずっと、世界に大きな危機が訪れたときに栄えてきた勢力だ」という事実だ。例を挙げれば、第1次世界ロシア革命は第1次世界大戦の恩恵をうけたものだったし、福祉資本主義は、第2次世界大戦を受けて実現したものだった。このような歴史経過が今日の左派が置かれている窮地の説明のひとつになる。危機を拡大し、終わりなき制限をかけてその危機を長続きさせるという手口は、ここ数十年存亡の危機に瀕してきた左派の政治を再建する方法の一つなのかもしれない、という見方をする人々もいる。
左派が新自由主義の本質を見誤っていることにより、左派の危機対応方法にも影響が出ているようだ。左派に属する人々のほとんどは、新自由主義というのは、市場経済に取り込まれて国家が「衰退」し、「空洞化」するものだと考えている。従って、左派の人々の解釈によれば、パンデミック機関における各国政府の取り組みは、「国家権力の復権」として歓迎される取り組みなのだ。左派からすれば国家によるこの動きは、新自由主義によるいわゆる「国家の空洞化」を押し戻せる一つの機会だと捉えている。このような怪しげな論理を受け入れることの問題点は、実際のところは「新自由主義は国家権力を弱体化させることにはなっていない」という事実にある。逆に新自由主義時代に入ってから、GDPの割合から見た国家の規模は拡大し続けているのだから。
このことは驚かされることではない。新自由主義は、国家権力による介入に大きく依存してきたからだ。ケインズ経済学(訳注:企業の活性化に国家権力が介入すべきだとした理論)と同じ主張なのだ。ケインズ経済学と食い違うのは、今の国家は巨大資本の利益だけに特化して介入を行っている、という点だ。具体的には労働者階級の取り締まりを強め、倒産の危機にある巨大銀行や企業には救援の手を差し出す、などという政治的介入だ。実際多くの点において、今日の資本はこれまでのどの時代よりも国家権力に依存している。経済学の教授であるシムション・ビチュラー(Shimshon Bichler:)やジョナソン・ニッツァン(Jonathan Nitzan)が指摘しているように、「資本主義が発展する過程において、政府と巨大企業のつながりは深まる。資本主義体制においては、政治権力と支配的な力をもつ資本家たちが連合することにより体制が統制されるので、このような状況下では、「小さな政府」は必要ではない。実際多くの点において、資本主義体制は、より大きな政府を必要としているのだ」ということだ。今日の新自由主義は、「小さな政府」よりも、「国家独占資本主義体制」や「コープラトクラシー体制(corporatocracy 企業の活動に重きをおいた政治手法)」により似ているものだ。新自由主義は、「小さな政府のもとでの自由市場に基づく資本主義」という説明がよくされるのではあるが、実際はそうなっていない。この状況を押さえておけば、新自由主義のもと国家権力がますます強力で、介入的で、権威的になっている今の状況が腑に落ちる。
そうやって左派が、実際は起こっていない「国家の復権」を歓迎しているのだ。これは恥ずべきほどの世間知らずだといえよう。最悪なのは、左派は以前も同じ間違いを犯しているという事実だ。2008年の金融危機の後でさえ、左派の多くは「大きな政府」という意味を勘違いし、「ケインズ経済学の復権」などと考えていた。実際のところは、当時各国政府がとった対策というのは、ケインズの理論とは何の関係もないものだった。ケインズの考えは、「政府の力を利用して、完全雇用を実現する」ことだったのだ。しかし実際に政府が行った対策は、その金融危機の引き金をひいたいくつかの巨大銀行を支えることを目的としたものだった。さらに各国政府の対策は欧州各国での福祉行政や、労働者の権利への前例なき攻撃につながっていった。
当時と同じようなことが現在進行中なのだ。政府は、COVID検査や、感染対策や、ワクチンや、今行われようとしているワクチンパスポートの技術を有する各グローバル企業と契約を結んでいる。(その契約は、コネのにおいがぷんぷんする怪しげな方法がとられている)。現在、世界の市民たちは「新しい通常」と称する生活様式への転換を余儀なくされている。左派はこのような現状が全く見えていないようであるという事実は、本当に悩まされる問題だ。各国政府は、この危機を利用して、新自由主義の定着をさらに強めようとしているのだが、この動きを左派が出している多くの文献が支えている。ピエール・ダードット(Pierre Dardot)と、クリスチャン・レイバル(Christian Laval)の主張のとおり、新自由主義下においては、危機は「統治手法の一つ」になっているのだ。さらに有名な著書は、2007年にナオミ・クライン(Naomi Klein)が2007年に出した『ショック・ドクトリン』であり、この著書においてナオミ・クラインは、「災害資本主義」という手法を詳述していた。
この著書におけるナオミ・クラインの主眼は、「人々が恐怖や混乱している時には社会を再構築しやすくなる」という論点だった。現行の経済秩序を劇的に変えるという手法だ。つまり、通常時であれば政治的に実行不可能な劇的な変化を、現行の経済秩序に、人々に何が起こっているかを理解させる時間を与えず、矢継ぎ早に起こしてゆくというものだ。
現在も同じような動きが起こっているのだ。一例をあげれば、ハイテクを使った監視態勢や、デジタルIDや、民衆の抗議行動の取り締まりや、政府がコロナウイルス流行対策法を迅速に可決するような動きだ。このような状況がこのまま続いていけば、政府はきっと、このような「緊急事態における法律」の多くを、緊急時だけではなく永久的に効力を持たせる方法を探しはじめるだろう。これは9-11の後で大量に制定された反テロ法に対して行ったことと同じことだ。エドワード・スノーデン(Edward Snowden)はこう書いている。「緊急時の対策法案が承認されれば、これはとくに今の社会でよくあることなのだが、その法律は緊急時以外にも適用されるようになる。“緊急事態とされる状況”が拡大されていくのだ」と。このことについては、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベン(Giorgio Agamben)が提起した「例外状態」という概念でも確認できる。そのアガンベンは、ロックダウン政策に反対しているので、左翼主流派からは軽んじられている。
究極的には、政府が起こす行動のすべては、その行動が何を目的にしているかについて判断されるべきなのだ。政府が、労働者や少数派の権利を尊重しようと介入するのであれば、私たちは支持する。例えば、完全雇用の実現や、重要な公共サービスの提供や、企業の権力の抑え込みや、市場のさまざまな機能不全や、公共の利益にとって絶対欠かせない産業の統制、などだ。しかしここ18ヶ月間で私たちが目にしてきたのは、全く逆の介入なのだ。グローバルに展開する巨大企業や、その取り巻き勢力をこれまでになく強めるような介入なのだ。そのために労働者や地場産業を犠牲にするような介入なのだ。フォーブス誌が調査した数値に基づいた先月出された記事によると、米国の億万長者たちだけでも、このパンデミック期間中に増やした資産は2兆USドルにのぼるということだ。
もう一つ左派が抱いているが、現実はそうなっていない幻想は、このパンデミックが、新しい連帯感を生み出している、という錯覚だ。この連帯感により、新自由主義下で台頭した個人主義の時代を乗り越えられるのでは、という錯覚だ。実際起こっているのはその逆で、このパンデミックのせいで、社会の分断はさらに進んでいる。具体的には、ワクチン接種者と非接種者の間の分断。スマート機器を使った仕事で利を得られる人々と、そうはできない人々との間の分断。さらに人々の間で心に傷を負った人々が増え、愛する人々から隔離され、感染しているのではないかとお互いを怖がらされ、肉体的な接触を怯えさせられ・・・。今の社会は、「新しい連帯感」という素地を熟成できる社会ではとうていない。
しかしおそらく左派の対応を理解するには、集団レベルで捉えるよりも、個人レベルで捉えた方が簡単だろう。古典的精神分析理論は快楽と権威との間に明白なつながりがあることを前提にしている。つまり、大きな快楽の経験(快楽原則を満足させる)の後にしばしば続くのは、自我あるいは「現実原則」 にはっきり現れる新たな権威を求める欲求だ。
(訳注:「快楽原則」や「現実原則」とは心理学者のフロイトによる概念。「快楽原則」とは、赤子がミルクをほしがるようにとにかく快楽を得ようという欲求のまま動いている状態のこと。「現実原則」とは、自己の欲求が満たされずとも現実社会となんとか折り合いをつけて待てる状態のこと)
快楽を得られた後にはこのような揺り戻しが起こることは、実際にあるのだ。ここ20年間のグローバル化時代とは、「快楽体験」が拡大する時代だったのだ。その快楽を享受していたのは世界を自由に行き来するグローバリスト階層の人々だった。そして歴史的に考えれば不思議なことなのだが、この階層に属する人々は左派を自称している。(実際、この階層の人々が本来左派の構成員であった伝統的な労働者階級の人々の立ち位置をどんどんと押しのけているのだ)。これらのリベラル層に属するグローバリスト階層の人々が増えたことにより、快楽体験が増大し、左派が世俗主義に陥り、道徳上の規制や、権威によって統制されている意識が薄れていることを自覚しつつあったのだ。精神分析理論におけるこの観点から見れば、このグローバリスト階層が「COVID対策」を支持している理由の説明が、簡単につく。制限や権威的な措置が課されることにより、これまで享受してきた「快楽原則状態」から抜け出したいと考えている一部の人々がいたということだ。そこには、これらの制限や、権威的な措置により、この20年間不足していた「現実原則状態」に踏み込みたい、ということだ。
左派が「COVID対策」を熱烈に賞賛しているもう一つの要因は、左派は盲目的に「科学」を信頼していることにある。そうなっている根源は左派が伝統的に合理主義を信頼していることにある。ただし科学的手法には、否定できないほど説得力があると考えることと、権力が自身のもくろみを実現するために「科学の力」を利用する手口に目を向けないということは別の話だ。「確固とした科学的な数値」を利用して、とある政策選択を正当化できる力を有しているということは、政府が手にしている非常に強力な武器だ。これこそまさに「テクノクラシー(高い科学的知識を持った人々が政治を牛耳っている状況)の本質」だ。しかしここでいう「科学」とは、自身のもくろみを支持する研究だけを賢明に選択した上での「科学」であり、どれだけ科学的に価値のあるものであったとしても、その「科学」以外のすべての異論は軽んじられるという、「科学」に過ぎない。
このような状況は「経済分野」において何年ものあいだ起こってきたことだ。「今日、医療界においてすら、資本を獲得しようとする企みが実際に起こっている」と考えることはそんなに難しいことだろうか?そんなに難しいことではない、とスタンフォード大学の医学及び疫学教授であるジョン・P・ヨア二ディス(John P. Ioannidis)は語っている。ヨアニディス教授は2021年初期に話題となった。それは研究仲間とともに或る論文を発表したからだ。その論文の主張は疫学的に見て、ロックダウン政策を採った国々と、採らなかった国々の間で事実上差異はみられないというものだった。この論文に対する批判は激しかった。特にヨアニディス教授に対する批判はすさまじかった。そしてその批判の声が特に多くあがったのは、ヨアニディス教授と同じ分野の研究を行っている研究者たちからだった。
だからこそヨアニディス教授は、自分の職業に対して厳しい批判を行ったのだ。「如何にしてパンデミックが科学の常識を変えてしまったか」という記事において、ヨアニディス教授が書いていたのは、大多数の人々(特に左派に属する人々)がおそらく考えているのは、科学は「マートン・ノルム(訳注:1942年に米国のロバート・マートンが記した科学者がもつべき4つの規範意識)」にある(1)公有制(2)普遍性(3)無私性(4)組織的懐疑主義に基づいているという事実だ。しかし悲しいかな、現実の科学界ではそんな規範意識は見受けられない、とヨアニディス教授は語っている。今回のパンデミックにおいて企業との利益相反関係が暴露されているが、そのことについて議論することさえ忌み嫌われている。さらにヨアニディス教授は言葉を続けている。「専門家たちは企業や政府に助言を与えることで何百万ドルもの収入を得、名声や、権力や、一般市民からの賞賛の声を手にした。いっぽう金儲けのことなど考えず活動している、公式説明に疑問の声をあげている科学者たちは、やっかいものとして悪口を言われた。“組織的懐疑主義”は、公衆衛生の敵と見做された。二つの考え方の闘いが行われたのだ。一つは権威的な公衆衛生政策であり、もうひとつは科学だ。そして科学が敗れたのだ」
左派が、人々から上がっている正当な懸念(ロックダウン政策や、ワクチンや、COVIDパスポートに対する懸念)を軽んじ、嘲笑の的にしているという傲慢な態度は本当に恥ずべきことなのだ。市民から上がっているこれらの懸念は、実際の生活に対する脅威に根ざしたものであるだけではなく、市民が政府や当局に対してもっているまっとうな不信感から生み出されているものなのだ。政府や当局は、企業の利益獲得のための組織として取り込まれていることは否定できない事実だからだ。真の社会の進歩につながる政治的介入を望んでいる勢力であろうとする(私たちのように)のであれば、このような市民からの懸念をきちんと受け止める必要があるのだ。その懸念を拒絶するのではなく。
しかし左派の反応で一番欠けているものが世界の舞台にある。それはCovidを巡るさまざまな制限措置とグローバル・サウスにおける貧困の深まりに関連するものだ。ナイジェリアで、児童婚や、学校教育の崩壊や、正規雇用の崩壊が急増していることと、COVID対策の間には何の関連もないと、言ってしまっていいのだろうか?政府の統計によると、ナイジェリアではロックダウン期間中に2割の労働者が失業している。2020年COVID死者数と、致死率において世界最悪だった国ペルーの状況を見てみよう。実はペルーは世界で最も厳格なロックダウン政策を採っていたのだ。これらすべてのことに関してはまったく沈黙が保たれている。このことと、世界規模で国家主義的な勢力が台頭していることを関連づけて考えなければならない。ジェレミー・コービン(Jeremy Corbyn:英国の労働党元党首)のような左翼国際派が選挙で敗北したことからわかることは、イギリス以外の西側諸国の左派勢力のCOVID-19に対する対応を考えれば、選挙の争点を国際的な問題に拡げてもほとんど選挙のけん引力にはならない、ということだ。
伝えておくべきこととして、左派(特に極左)や、社会主義運動家の中にもはみ出し者がでてきているという事実がある。これらの人々は今回のパンデミック対策に対して異論を表明している。具体的にはニューヨークの「黒人の生命も大事だ(Black Lives Matter)」や、「英国ロックダウンに疑問を持つ左派の会(Left Lockdown Sceptics in the UK)や、チリの都市部の左派勢力や、イタリアの「ウー・ミン」などだ。特筆すべきは、スウェーデンで政権を取っている「社会民主党・緑の党連立政権」だ。しかしこれらの意見は無視された。その理由の一つは、左派系メディアが少ないこともあるが、何よりも左派主流派がこれらの異論を取り上げてこなかったことがあげられる。
今回のパンデミックに対する対策の見誤りは、左派にとって歴史的な失態となっている。この失態により壊滅的な結果を招くだろう。市民から上がっている異論を受け止める窓口は、再び(極)右勢力に奪われそうだ。左派は絶好の機会を失うことになるだろう。右派の覇権を打ち砕くのに必要な投票数を獲得することはできないだろう。今のところ、左派は専門家たちで校正されるテクノクラシーに取り込まれ、このパンデミックの対応法が壊滅的であると証明されていることに対して厳しく目を向けることもできていない。これでは社会進歩などとうてい望めないだろう。選挙で票を獲得できるような左派の台頭は過去のものとなった。さらに、真の民主主義的手続きを成立させる根本である論議や、異論の尊重も、それに伴い消え去ろうとしている。
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