■ 7試合勝ちなしで契約解除に・・・。2012年以来のJ1復帰を目指すコンサドーレ札幌はオフに元日本代表のMF稲本やFC岐阜で17ゴールを挙げたFWナザリトを獲得。「J2では屈指」と言える戦力を揃えることに成功したが、6月21日(日)に行われた19節の北九州戦(H)から7試合勝ちなし。7月22日(水)に行われた25節の北九州戦(A)では終了間際に追いつかれてドローに終わると、2日後の7月24日(金)にバルバリッチ監督との契約を解除することを発表した。
25節終了時点での成績は8勝6敗11分けで勝ち点「35」。プレーオフ圏外となる9位という順位だった。幸か不幸か大宮と磐田の2チームは抜け出しつつあったが、3位以下は大混戦。この時点で3位だったC大阪との差は「6」のみ。十分にプレーオフ出場を狙える状況だったが、この時期の「7試合勝ちなし」というのは印象が良くない。どちらかというと唐突であり、かなり意外なタイミングでのバルバリッチ監督の交代劇となった。
個人的な話になるが「松山光プロジェクト」に参加していることもあって、札幌は気になるチームの1つである。(もちろん、わずかな額ではあるが、)クラブを支えていくことになる若手選手を育成する費用を少しばかり援助しているクラブなので、札幌から年代別代表(将来的にはフル代表)に招集されるような若手がたくさん出てくることならびにJ2で好成績を残すことを期待しているが、思うようなシーズンになっているとは言い難い。
→ 2014/12/11
コンサドーレ札幌の「松山光プロジェクト」に参加してみた。 (前編) → 2014/12/11
コンサドーレ札幌の「松山光プロジェクト」に参加してみた。 (後編)
■ 若手は育ちつつあるが・・・。若手が台頭してきたのは確かである。これをバルバリッチ監督の功績と呼んでいいのか否かは意見が分かれるところだと思うが、C大阪時代は全く試合に出場することができなかったGKク・ソンユンは開幕から正キーパーとしてゴールを守り続けた。3月末には韓国の五輪代表に招集されて、先日行われた東アジアカップ2015では韓国のフル代表に招集されている。195センチの大型キーパーは大飛躍のシーズンになっている。
J3リーグの福島ユナイテッドから戻ってきたMF堀米悠は左WBあるいはボランチのポジションでスタメンの座を確保しており、五輪代表のMF荒野も主に右WBの位置でレギュラーをつかんだ。さらにDF櫛引は盟友のDF奈良が抜けた穴を感じさせないプレーを続けており、7月に行われたU-22コスタリカ戦では五輪代表に選出された。GKク・ソンユンを含めた五輪世代の4人はチームにとって欠かせない戦力になった。
さらには川崎Fからの期限付き移籍ではあるが、DF福森晃は主に左ストッパーの位置でレギュラーを確保。183センチのサイズを生かした空中戦と高精度の左足のキックはチームのストロングポイントの1つになった。バルバリッチ監督は愛媛FCのときから「若手の育成」には定評があったが、「ベテラン」と「中堅」と「若手」という3つの世代ををうまくミックスさせたバランスの取れたチームを作ったのは確かである。
ユースから続々と有望な選手が出てくる札幌にとっては「有望な若手選手をしっかりと一人前に育て上げること」は極めて重要なことである。その点に関しては合格点が与えられるだけの仕事をしていたと思うが、やはり、J1昇格を狙えるだけの戦力を持っているクラブなので、「何人かの若手を成長させた。」というだけでは周囲は満足しない。リーグ戦の結果が芳しくないと「契約解除」という話が出てきてしまう。
■ 生かしきれなかったFWナザリトの個人能力25節を終了した時点で失点数は「24」。1試合平均で1.0に満たない数字である。守備面に関しては大きな問題はなかった。もちろん、リードをした状態で終盤を迎えながら同点ゴールあるいは逆転ゴールを食らう試合がここ最近は多かった。「試合の締めくくり方」という点で問題がなかったとは言えないが、やはり、より問題視されたのは攻撃陣である。25試合で28得点というのはタレント力を考えるとかなり物足りない数字である。
バルバリッチ体制を振り返るとき、攻撃力ならびに得点力をアップさせるための切り札として獲得したFWナザリトを生かしきれなかった点は避けては通れない部分である。11試合で5ゴール。開幕から7試合連続でスタメン出場したが、8節の水戸戦(H)は出場停止で、9節の岡山戦(A)からスタメン落ちが続いた。結局、8節以降でスタメン出場したのは13節の熊本戦(H)のみ。ここ最近は怪我もあってメンバーから外れている。
数字だけを見ると開幕7試合で5ゴール。十分すぎるほどの数字を残している。ハイライトや数字だけを追いかけていた人は「何でこれだけゴールを決めているFWナザリトを使わないのか?」と感じたと思うが、彼を起用する場合はFW都倉が下がり目のポジションでプレーすることになるので、FW都倉の持ち味が出なかった。FW都倉はかなり気を使ってFWナザリトを生かそうと奮闘したが、2人の共存はなかなか成功しなかった。
開幕前から「FWナザリトをどう扱うのか?」が今シーズンの札幌の大きなテーマだと考えていたが、意外なほど諦めるのが早かった。「見限った。」と表現できるほど戦力外に近い扱いにしたわけではなかったが、出場停止明けの9節の岡山戦(A)からベンチスタートが続いた。「2列目はタレントが豊富なので無理をしてFWナザリトとFW都倉を併用するよりも、FW都倉の1トップの方がベター」という考えに早い段階で到達した。
■ あのまま使い続けていたらどうなっていたのか・・・。このバルバリッチ監督の判断は果たしてどうだったのか?個人的には決して間違いではなかったと思うし、極めて賢明な判断だったと思う。(努力はしていたが、)守備のときは穴になっており、ビハインドになるとイライラしてプレーの質が極端に落ちてしまうこともバルバリッチ監督は問題視していただろう。また、彼のマイナス要素に目を背けてスタメンで使い続けることはチームの雰囲気をおかしくする危険性もあった。
ただ、そうはいっても、バルバリッチ体制がこういう結末になった以上、「FWナザリトの扱い方に失敗した。」という人が出てきてもおかしくない。少なくとも開幕から7試合で5ゴールとストライカーとしては十分な結果を出していたので、(FW都倉は犠牲になってしまうが、)あのままFWナザリトをスタメンで使い続けていたら、どこかのタイミングの何かしらのきっかけによって状況が好転したことも考えられる。
結局のところ、『バルバリッチ監督はFWナザリトをどう扱うべきだったのか?』というのは結論を出しにくいデリケートな話であるが、とにもかくにも、後任には長い間、札幌U-18を率いて素晴らしい実績を残している四方田監督が任命された。ユースチームで実績を残した監督がトップチームの監督に就任するパターンというのは昨今、Jリーグでも増えている。柏の吉田監督、東京Vの冨樫監督が典型例と言える。
「クラブのことを一番よく知っている人」とも言えるので、今後、こういうパターンはさらに増えていくと思うが、個人的にはリスキーな選択なのではないかと思う。本人も、周囲も、「いずれはトップチームの監督を・・・。」という考えはあったと思うが、柏の吉田監督と同様で札幌にとっては切り札的な存在である。ピンチヒッターで起用して結果を出すことができずにつぶしてしまうことはクラブにとって大きな損失となる。
■ 2018年のロシアW杯あたりが勝負の時期と言えるが・・・。ユースチームへの悪影響も心配されるが、個人的には今の札幌に限らず、トップチームがどうしようもない状況に陥ったとしても、シーズン途中で下部組織を率いている監督を引っ張ってくるのはできる限り避けるべきだと思う。もちろん、外部から新たに監督やスタッフを招聘するとなると多額のお金が必要となるので、ある意味では経費節減になるが、失敗に終わったときは本人とクラブがボロボロになる危険性がある。
もちろん、結果が出なかったときに「監督を代える。」という道を選ぶことは悪くないが、「GMであったり、強化担当であったり、強化部長であったり、監督を選ぶ立場にある人物が自ら監督になる。」というのが最悪なパターンで、「下部組織を率いている監督をトップチームの監督に据える。」というのがその次に駄目なことである。(※ 「自ら監督になる。」というパターンよりははるかにマシではあるが・・・。)
今更言うまでもないことであるが、札幌はリオ世代がきわめて充実している。MF荒野とDF櫛引とGKク・ソンユンの3人が今年になって五輪代表に招集されているが、FC東京に期限付き移籍しているDF奈良も先日のU-22コスタリカ戦のメンバーに選ばれており、MF堀米悠も五輪代表に選出されてもおかしくないプレーを続けており、MF深井一に関しては「怪我さえなければ確実に五輪代表に入っていただろう。」と言える選手である。
他にもMF中原彰がいて、MF神田がいて、DF内山がいて、前兄弟もいる。同時期に各ポジションにこれだけ優秀な若手タレントを集めるのは育成力に定評のある札幌と言えども相当に難しいことなので、彼らが中堅世代となる2018年のロシアW杯あたりの時期は札幌にとっては勝負のときである。悲願ともいえる「J1定着」に向けて決して失敗は許されない大事な時期を迎えつつあるが、楽観視できない状況になりつつある。
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