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メアリー・ロバーツ・ラインハート『ミス・ピンカートン』(ヒラヤマ探偵文庫)
HIBK派の元祖として知られるメアリー・ロバーツ・ラインハートなので、その作品はサスペンスやロマンスを基調とした単発作品と思われがちだが、シリーズ探偵も複数創造している。論創海外ミステリからはすでにその代表格である『レティシア・カーベリーの事件簿』が刊行されているが、本日の読了本はもう一人の代表格、ヒルダ・アダムズ看護婦を主人公とするシリーズの長編『ミス・ピンカートン』である。
シャーロキアンにしてクラシックミステリの翻訳家・平山雄一氏が個人で発行しているヒラヤマ探偵文庫からの一冊。
まずはストーリー。ヒルダ・アダムズは看護婦が本職ながら、その行動力や機転をかわれて警察の手伝いもするうら若き女性だ。本日も本業を終えてやっと眠りにつこうとしたところ、警察の上司であるパットン警視から呼び出しを受ける。
言われるままに目指したのは、かつての富豪ミッチェル屋敷。今ではその財産もかなり失ったと聞いてはいたが、名家としてまだ知られる存在だった。ところがヒルダが到着すると、驚いたことに屋敷は警官だらけ。現在のミッチェル家の主人は老婦人のミス・ジュリエットだが、その甥ハーバートが拳銃で亡くなったのだという。しかもその原因が事故、自殺、殺人すべての可能性がある。ヒルダはミス・ジュリエットの看護婦として務めながら、屋敷内の情報を集めることになるが……。
個人的にはHIBK派は好みではなく、「もっと早く知ってさえいたら、…は避けられたのに」などどいう持って回った語りもそうだし、基本的に受け身のヒロイン、あえて主人公らに失敗させてストーリーを盛り上げたりする手法も引っかかるところである。
だが、意外にも本作はシリーズ探偵が活動的な若い女性ということで、これまでのラインハート作品のイメージをけっこうひっくり返してくれている。「もっと早く知ってさえいたら、…は避けられたのに」というフレーズは相変わらずあるものの、キャラクターはアグレッシブだし、ストーリーも起伏に富み、事件の真相も予想以上に複雑で現代的だ。ラインハートはこれまで五、六作は読んでいるが、これまでのなかでは一番面白いのではないか(ただし『大いなる過失』は未読)。
まあ、警察が看護婦を捜査に仕うという、そもそもの設定は無茶だけれども、この時代の女性の地位を考慮すると、こういう形でなければ女性のシリーズ探偵を成立させにくいという事情はわかる。ただ、看護婦であれば時間や場所を問わず活動しやすいという面もあり、なかなか悪くない手である。
なお、作中のヒルダは活発な女性ということもあって、けっこうボーイッシュな口調になっているが、表紙のイラストを見るかぎりはもう少しお淑やかなイメージ。著者のイメージはどちら寄りだったのか少し気になった。
シャーロキアンにしてクラシックミステリの翻訳家・平山雄一氏が個人で発行しているヒラヤマ探偵文庫からの一冊。
まずはストーリー。ヒルダ・アダムズは看護婦が本職ながら、その行動力や機転をかわれて警察の手伝いもするうら若き女性だ。本日も本業を終えてやっと眠りにつこうとしたところ、警察の上司であるパットン警視から呼び出しを受ける。
言われるままに目指したのは、かつての富豪ミッチェル屋敷。今ではその財産もかなり失ったと聞いてはいたが、名家としてまだ知られる存在だった。ところがヒルダが到着すると、驚いたことに屋敷は警官だらけ。現在のミッチェル家の主人は老婦人のミス・ジュリエットだが、その甥ハーバートが拳銃で亡くなったのだという。しかもその原因が事故、自殺、殺人すべての可能性がある。ヒルダはミス・ジュリエットの看護婦として務めながら、屋敷内の情報を集めることになるが……。
個人的にはHIBK派は好みではなく、「もっと早く知ってさえいたら、…は避けられたのに」などどいう持って回った語りもそうだし、基本的に受け身のヒロイン、あえて主人公らに失敗させてストーリーを盛り上げたりする手法も引っかかるところである。
だが、意外にも本作はシリーズ探偵が活動的な若い女性ということで、これまでのラインハート作品のイメージをけっこうひっくり返してくれている。「もっと早く知ってさえいたら、…は避けられたのに」というフレーズは相変わらずあるものの、キャラクターはアグレッシブだし、ストーリーも起伏に富み、事件の真相も予想以上に複雑で現代的だ。ラインハートはこれまで五、六作は読んでいるが、これまでのなかでは一番面白いのではないか(ただし『大いなる過失』は未読)。
まあ、警察が看護婦を捜査に仕うという、そもそもの設定は無茶だけれども、この時代の女性の地位を考慮すると、こういう形でなければ女性のシリーズ探偵を成立させにくいという事情はわかる。ただ、看護婦であれば時間や場所を問わず活動しやすいという面もあり、なかなか悪くない手である。
なお、作中のヒルダは活発な女性ということもあって、けっこうボーイッシュな口調になっているが、表紙のイラストを見るかぎりはもう少しお淑やかなイメージ。著者のイメージはどちら寄りだったのか少し気になった。
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