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M・R・ラインハート『レティシア・カーベリーの事件簿』(論創海外ミステリ)
ラインハートといえば言うまでもなくHIBK派の元祖なので、どうしてもサスペンスやロマンスに基調を置いた長篇ばかりを書いていたイメージが強いのだが、実はシリーズものの短篇もけっこう残している。
レティシア・カーベリーを主人公とするシリーズもそのひとつ。本書の刊行が1911年だからホームズと時代がかぶるとはいえ、もちろん"ホームズのライバル"なんてことはない。かといってお得意のHIBKタイプでもなく、あくまでキャラクターのやりとりの面白さだけで読ませる話が多いようだ。
収録作は以下のとおり。
The Amazing Adventures of Letitia Carberry「シャンデリアに吊された遺体」
Three Pirates of Penzance「ペンザンス湖の三人の海賊」
That Awful Night「恐怖の一夜」
正直いって内容的にはかなりきつい。
「シャンデリアに吊された遺体」は中篇で、本書中では一番ミステリらしい作品。霊安室に安置されていたはずの降霊術師の老人男性の遺体が、なぜか別の病室で首を吊った状態で発見されるという物語である。
出だしは期待させるけれども、描写が悪いのか構成が悪いのか(おそらくその両方)、全然状況が把握できない。久々に読むのが苦痛だったが、我慢して待った真相はひどいものである。なお、ポーのモルグ街のネタに言及したりもしているので未読の人は要注意。
「ペンザンス湖の三人の海賊」と「恐怖の一夜」の両短篇は、もはやミステリという感じでもなく、完全にレディたちのドタバタを楽しむことが目的の話。当時のこういう需要は理解できないこともないが、個人的にはほとんど引っかかるところがない。こういうタイプばかりなら、さすがにこのシリーズはもういいわ。
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Comments
仰る通り、本書はグリーンの短編集と同時刊行でした。
sugataさんの感想は、どんな作品でもキチンと「読みどころ」を言及しており、どういった点が惜しく、どういった点が面白いのか、とても参考になります!
横溝正史の『消すな蠟燭』が良い例でした。
〈HIBK派〉は好みが別れそうな分野ですから、好みでないのも仕方ありませんね。
私も「どちらかと言えば」苦手ではあり、横溝正史の「犬神家〜」は広義の〈HIBK派〉タイプになるのでしょうが、珠代のもったいぶった態度にイライラさせられました!
初読時の読了後、思わず「全てを知っていながら情報を隠し、相続人がいなくなるのを狙っているのでは」と邪推してしまったくらいです(苦笑)。
ラインハートは「螺旋階段」以外にも埋もれた傑作があると思っており、いろいろ調べながら「発掘作業」に勤しんでおります。
看護婦探偵シリーズあたり、なかなか面白そうなのですが……。
Posted at 09:08 on 12 02, 2014 by 黒田
黒田さん
確かアンナ・キャサリン・グリーンと同時に出たと思いますが、今回はあちらの方が楽しめましたね。
感想については個人的な好みも大きいので、あまり気になさらないでください。ラインハートが、というかHIBK派が昔から好みではないので、どうしても辛口になってしまいます。そのくせ本が出たら、二度と手に入らないかもという不安に負けて、絶対に買ってしまう作家ではあるんですけどね(苦笑)。
Posted at 22:51 on 12 01, 2014 by sugata
ドタバタ調のユーモア小説としては面白かったですが、確かに「ミステリ」の括りだと物足りないのも事実ですね。
ただ、こうしたノリの作品は増刊の『新青年』に採られたユーモア短編を思わせて、私は好きだったりしますw
ラインハートの実力ならば、「恐怖の一夜」あたり、もう一工夫して、それなりの「サスペンス・ミステリ」へ昇華できていたかも知れません。
レティシア物は基本的に「このノリ」なようなので、ちょっと続編は出せなそうですね。
Posted at 10:27 on 12 01, 2014 by 黒田
黒田さん
うひゃあ、そこまで褒めていただけるとはありがたいかぎりです。そのお言葉を励みに今後もブログを続けてまいります。
看護婦探偵というとミス・ピンカートンことヒルダ・アダムズのシリーズですね。別冊宝石の112号でひとつ読めるはずですが、残念ながら未所持です。ただ、いきなり長篇は怖いので(苦笑)、まずは短篇の方がいくつか読めるとありがたいですね。
Posted at 01:45 on 12 03, 2014 by sugata