■ 「重要度の高い試合」と「重要度の低い試合」「全ての試合に勝つこと」がプロスポーツでは期待されるが、それはなかなか難しい。そして、全ての試合に全力を尽くして、重要度の低い試合で勝利したとしても、重要度の高い試合で勝てないと価値は下がってしまう。Jクラブで考えると、重要度の高い試合というのはACLやJ1リーグの試合で、(比較的)重要度の低い試合はナビスコカップや天皇杯の試合になるだろう。
日本代表にも「重要度の高い試合」と「重要度の低い試合」がある。重要度の高い試合というと、W杯の本大会やW杯のアジア予選やアジアカップやコンフェデが当てはまって、それ以外の親善試合は重要度の低い試合と言える。「公式戦とそれ以外の試合」という形で分類することもできるが、ただ、そうは言っても、「重要度が低いので、親善試合は軽視しても大丈夫。」というわけではない。
フル代表の試合となると、親善試合であっても、ゴールデンタイムにテレビ中継されて、お客さんもたくさん入って、選手にとっては1つ1つの試合が日本代表での生き残りをかけた真剣勝負の場である。1つのミスによって、以後、全く代表に呼ばれなくなるケースもあるし、1つのミスが命取りになって、サッカー選手としての評価を大きく下げてしまうことも十分にありえる。
さらに言うと、日本代表がここ20年ほどで「アジアの中でも中堅以下の国」と言える立場から、「W杯でGL突破が期待できる国」まで駆け上がることができた理由の1つは、どんな試合でも、選手たちができる限りモチベーションを高めて、無駄にこなすことなく、戦ってきたことと無関係ではない。親善試合を文字通りの親善試合にしてこなかったことが効率的な強化につながった。
今後、「これは親善試合だから」と言ってあからさまに手を抜く選手が多くなると困ったことになるが、バランスは大事である。親善試合で勝利しても、その次に訪れる本番で勝てないと価値は薄れる。あくまでも親善試合というのは公式戦で勝つための準備のための試合であり、親善試合で勝利することにこだわり過ぎて、いろいろなことにチャレンジできなくなるのは馬鹿げた話である。
■ キプロス戦の目的は?そういう意味では、キプロス戦というのは、観る側が試された試合だったと思う。W杯本番まであと3試合で、国内では最後のテストマッチである。「いい内容で勝利してほしい。」という気持ちは誰しもが持っていたと思うが、初戦まで20日弱という微妙な時期である。日本代表の選手たちのコンディションがいいはずもなく、むしろ、悪いコンディションで試合をこなすことが目的の1つだった。
5月12日(月)にW杯メンバー23人が発表されて、海外組が帰国して、合宿もスタートして、W杯モードに突入した。「キプロス戦に向けて最高の準備をしてきた。」と思ってテレビを観ていた人は完全に肩透かしを食らったと思う。なので、そういう人が内容や出来に不満を持っても仕方ないが、「内容や出来は二の次・三の次」という試合で、内容や出来を批判してもあまり意味はない。
当然、観る側が日本代表に高いレベルを要求することは大事である。「もっといい試合ができたのではないか?」と言うのは悪くないが、先のことを全く考慮せず、今、大事なのは何か?どういう意図でキプロスと試合を行ったのか?などなど、事情をきちんと把握することなく無駄に高いレベルを要求することは、日本サッカー界にとってプラスにはならない。むしろ、マイナスである。
■ 伝統国との差「無意識のうちに日本代表の足を引っ張っている人たち」と言えるが、そういう人の割合は確実に低くなっている。フランスW杯の大会直前にピーキングの話が積極的に語られたかというと、そんなことはなかった。多くの人は目の前の試合に全神経を傾けて、テストマッチの結果に一喜一憂した。あれから年月が経過して、間違いなく、日本のサッカーファンの目は肥えてきた。
W杯やユーロでは、結局、イタリアやドイツやスペインといった伝統国が上位を占めるが、それには相応の理由があると思う。選手の質が高いのはもちろんであるが、サポーターの要求レベルが高いだけでなく、総じて目が肥えている。目が肥えているサポーターが多くなるとどうなるかというと、強化はやりやすくなる。「効率的に強化を進めることができるようになる。」と言える。
例えば、「(選手の状態を無視して)キプロス戦で内容と結果を求めること」は要求レベルは高いが、意味のあることかというと、全くそうではない。事情をよく分かった上で高いレベルを求めることは全く問題ないが、事情をよく分かっていないにも関わらず、高いレベルを求めることは問題ありで、「事情をよく分かっていないので、無理な要求をしてしまう。」というパターンは非常に多い。
■ 結果的には成功だったが・・・以前はそこまでコンディションは重要視されておらず、どちらかというと軽視されていたが、昨今は運動量の乏しいチームはどれだけ攻撃的なポジションにタレントがいても無理である。特に日本代表の場合、出来・不出来がコンディションに大きく左右されるので、コンディションに関しては十二分に考慮しないといけないし、コンディションに言及することを「言い訳」と捉えるのは間違いである。
そして、観る側には、「実際にどれくらいコンディションの影響があったのか?」について、いい具合に推測することが求められる。いいプレーができなかった選手がいた場合、見たままに「いいプレーができなかった。」、「この選手は使えない。」と判断するのは危険である。原因がコンディションにあって、それ故にいいプレーができなかったのであれば、その選手の価値を見誤ることになる。
もちろん、「W杯の初戦であるにも関わらずコンディションが悪かった。」というのであれば批判されても仕方がないが、今回は、W杯の初戦を万全の状態で臨むためにわざわざ厳しいトレーニングをした上で試合に臨んでいる。コンディションが底に近いことは最初から分かっていたことで、たまたまでも、運悪くでもなく、意図してコンディションを落としている。全く責められる要素はない。
今回の壮行試合の相手にキプロスを選んだことは、結果的には成功だったと思うが、一方で、「もう少し攻撃力のあるチームでも良かった。」とも感じる。ただ、「壮行試合で負けるわけにはいかない。」、「壮行試合で負けると批判されてしまう。」という意識が働いたことは容易に予想できる。『勝てる確率が高いのでキプロスを選んだ。』という面は間違いなくあるだろう。
当然、もう少し強い相手だったならば、もっといい強化マッチになったと思うが、そのためには、サポーターの目が肥えていないと無理である。「W杯前の親善試合の結果はあまり関係ない。」、「日本代表のコンディションが悪いのは分かっている。」と理解してくれる人が多ければ多いほど対戦相手の選択肢は広がってくるが、目の前のことしか見えない人が多いと無難な道を選ばざる得ない。
もちろん、「キプロス戦がいい試合だった。」とは言えないが、収穫もたくさんあったし、底の状態である割には内容はまずまずだった。ただ、残念ながら、事情を考慮せず、見たまま、感じたまま、安易に批判してしまう人はまだまだ少なくない。多角的な視点から日本代表を評価できる人は非常に多くなってきたが、「そうでない人もまだまだたくさんいる。」という点はちょっと残念なところである。
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