■ 序盤の首位攻防戦J1は3月15日(土)に全9試合が行われた。非常に気の早い話であるが、ベアスタで行われたサガン鳥栖と鹿島アントラーズの試合は首位攻防戦だった。ともに2連勝スタートを切ったが、鳥栖は1節はホームで徳島に5対0で勝利して、2節はアウェーで浦和に1対0で勝利した。一方、鹿島は1節はアウェー(扱いとなる国立競技場)で甲府に4対0で勝利して、2節はホームで仙台に2対0で勝利している。
したがって、両チームは2試合を終えて勝ち点「6」という部分だけでなく、2試合の合計で6得点0失点というのも同じである。1位タイで並んでいるが、ちなみに、Jリーグの順位決定方式というのは、勝ち点が同じ場合は、まず得失点差の勝負になって、その次は総得点で比較して、その次が当該チーム間の対戦成績で、その次が反則ポイントで、ここでも同じだったときは抽選で決まることになっている。
ということで、厳密に言うと反則ポイントの差で、現段階で1位がどちらなのかを決めることもできるが、シーズン中はそこまでは考えない。シーズン途中に順位表を出すときは、考慮するのは総得点までである。勝ち点が同じで、得失点差も同じで、総得点も同じ場合は、同順位で表記するのが常識になっている。当該チーム間の対戦成績もシーズン中は考慮していない。
■ 本当にオフサイドだったか?注目の首位攻防戦はアウェーの鹿島が3対0で勝利した。前半40分にMF小笠原のFKからDF青木剛がシュートを決めて鹿島が先制すると、後半14分にはMF土居のゴールで2点目を挙げる。後半24分に鳥栖がPKのチャンスを得るが、日本代表のFW豊田のシュートをキーパーのGK曽ヶ端が防いで追撃弾を許さない。その後、後半27分にもMF豊川のプロゴールが生まれて、鹿島が開幕3連勝で、鳥栖は2勝1敗となった。
チャンスの数自体は鹿島もそこまで多くなった。スコアほどの差があったとは思わないが、ターニングポイントは2つあった。1つは後半24分のFW豊田のPK失敗であり、もう1つは後半9分に鳥栖のMF谷口がヘディングでネットを揺らしたシーンがオフサイドの判定でゴールが認められなかったところである。MF谷口のゴールが認められていたら、試合は1対1の振り出しに戻ったので、勝負の分かれ目となった。
この場面は、鳥栖がCKを獲得して中央でFW豊田が競り勝って頭に当てて、ゴール方向に流れたボールに反応したMF谷口が相手2人に競り勝って驚異的な打点からヘディングシュートを放ってネットを揺らした。同点ゴールかと思われたが、オフサイドの判定でゴールは認められなかったが、結論から言うとオフサイドの判定で正しかった。微妙なシーンかと思われたが、微妙なシーンでもなかった。
■ 正しかった副審の判断ただ、スカパーで試合を観ていたとき、最初は本当にオフサイドだったのか、判断できなかった。その後、リプレー(横からの映像)が流れたが、当初は、「MF谷口は微妙な位置にいるが、鹿島のMF小笠原の方がゴール寄りにいる。したがって、MF谷口はオンサイドだ。」と思った。ということで、「難易度の高い場面だったが、誤審の可能性が高くて、鳥栖のゴールは認められるべき。」だと思った。
2度目にリプレーを観たときも同じ感想を持ったが、3回目にリプレーを観たとき、その考えが間違っていることに気が付いた。FW豊田がゴール前で競り勝った瞬間、微妙なポジションにいた鹿島の選手はDF山本脩とMF小笠原の2人である。通常は、フィールドプレーヤーの誰か1人でも後ろに残っていれば、オフサイドにならない。ここではMF小笠原がいるので、MF谷口のポジションはセーフだと思った。
ただ、よくよく観察してみると、鹿島のキーパーのGK曽ヶ端が大きく飛び出しており、守備側のキーパーが最後尾にいないレアケースである。そうなると、MF小笠原が後ろに残っていても、1人だけであればオフサイドが成立する。DF山本脩とMF谷口の位置関係が重要になってくるが、これはMF谷口の方がちょっと前に出ているので、オフサイドと判定した副審の判断が正しいことは明らかである。
■ プロフェッショナルな仕事Jリーグで副審を任されている人は日本でトップクラスの技術を持っているので、このくらいは当たり前なのかもしれないが、リプレーを何度か観て、ようやく何が正しかったのか、理解することができた立場から話をすると、副審の大ファインプレーのように思える。バックスタンド側の副審(原田昌彦さんか?)は、自信を持って旗を上げているが、プロフェッショナルを感じる見事な判断だった。
この場面は、(セットプレーなので当たり前であるが、)ゴール前は混戦状態である。しかも、MF谷口やDF山本脩やMF小笠原はバックスタンド側の副審から遠いサイドでプレーに関わっている。副審にとっては非常に不利な状況と言えるが、キーパーの位置を把握して、鹿島のMF小笠原のポジションは関係ないことを理解した上で、DF山本脩とMF谷口の位置関係を見極めて、オフサイドと確信して旗を上げている。
残念ながら、スタジアムで試合を観ていた人の中には、「誤審で鳥栖のゴールが取り消された。」と思っている人もいると思う。しかしながら、仮にオフサイドライン付近のスタンドから試合を観ていたとしても、このシーンで必要とされる情報をキャッチして、かつ、瞬時に「オフサイドだ。」と結論付けるのは、一般人ではほとんど不可能だと思う。数秒でここまで判断できるのは超人としか言いようがない。
主審や副審の方は、試合中はあらゆることを想定して、いろいろなところに目を配りながら試合を観ているという。そうなると注意力が散漫になって、肝心なところを見逃してしまうケースも出てくるので、誰がどう考えてもおかしいと感じる大誤審が発生する原因にもなっているが、キーパーが飛び出してくることも前もって想定していたからこそできたファインジャッジと言える。
サッカーの試合で主審や副審が注目されるのは、そのほとんどが誤審をしてしまったり、誤審ではないか?と疑われるような微妙なシーンがあったときである。当サイトで主審や副審をピックアップするのも、誤審騒動が起こったときが大半で、ファインジャッジがあったとしても、スルーしがちである。しかしながら、「冷静に考えるとこれは凄い。」と思ったので、このシーンをクローズアップした。
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