■ 決勝トーナメントの1回戦U-17W杯の決勝トーナメントの1回戦。3戦全勝でグループDを首位で通過した「96ジャパン」は欧州代表のスウェーデンと対戦した。スウェーデンはナイジェリア、メキシコ、イラクと同居するグループFで1勝1敗1分けの3位だったが、各組の3位チームの中でもっとも成績が良かったので、決勝トーナメントに進出することができた。イラク戦は4対1で勝利して、ナイジェリア戦は3対3の引き分けで、メキシコ戦は0対1で敗れている。
日本は「4-1-2-3」。GK白岡ティモシィ。DF石田、宮原、茂木、会津。MF斎藤翔、仲村、瓜生。FW三好、杉森、永島。1戦目と2戦目でスタメン起用されたDF石田、DF宮原、DF茂木の3人がスタメンに復帰してきたが、エース格のFW杉本はベンチスタートで、名古屋U-18のFW杉森が「フリーマン」と呼ばれるポジションで起用された。キーパーは1戦目にスタメン起用された広島ユースのGK白岡ティモシィで今大会2試合目のスタメンとなった。
試合はいつもどおりに日本がボールをポゼッションして攻め込むが、前半11分にスウェーデンにカウンターを食らうと、お手本のようなカウンターアタックからスウェーデンが先制する。前半20分あたりを過ぎると日本も決定機につながりそうな鋭い攻撃を見せるようになって、FW三好がネットを揺らすシーンを作ったがオフサイドでゴールは認められず。すると、前半36分にまたしもカウンターからスウェーデンにゴールを許して2点ビハインドとなる。
後半開始からFW杉森とMF仲村を下げて、FW杉本とFW小川を投入。すると、後半11分にMF三好の絶妙のスルーパスを受けたFW小川がシュートを放ってゴール前でクリアしようとしたスウェーデンの選手がクリアしきれずオウンゴール。日本が1点差に迫る。その後はずっと日本ペースで進んで途中出場のFW杉本らが惜しいシュートを放つが、決めることは出来ない。結局、試合は2対1でスウェーデンが勝利して、日本はベスト16で敗退となった。
■ 痛かったファンブルでの失点日本が75%という高いポゼッション率を誇ったが、2失点目が痛かった。日本のリズムになりかけていた時間帯で、0対1であれば十分に追いつくことができるだけの時間が残っていたが、0対2になると苦しくなる。相手のシュートは強烈だったが、GK白岡ティモシィはしっかりとポジションを取っていたので、ファンブルするようなシュートではなかった。GK白岡ティモシィにとっては、悔いの残るプレーになってしまった。
キーパーは1戦目がGK白岡ティモシィ、2戦目がGK阿部、3戦目がGK林だったので、GK白岡ティモシィが2試合でスタメン起用されたが、初戦のロシア戦もミスが多くて、この日もミスが目立った。190センチのサイズがあって、身体能力も高そうな選手なので、これまで日本にはほとんどいなかったスケールの大きなキーパーであることは間違いないが、特に、飛び出しの判断が遅れるケースが多くて、大会を通して安定感はなかった。
ただ、キーパーとしての素材は申し分ない選手なので、吉武監督が本大会で起用したくなる気持ちはよく分かる。CBのポジションも同様だと思うが、上のレベルになればなるほど「サイズ」や「身体能力」が無い選手が活躍するのは難しくなる。したがって、現時点でまとまった選手をピックアップするのか、将来性に賭けるのか、若年層の代表チームの指導者は本当に難しい判断を迫られるが、吉武監督はGK白岡ティモシィの将来性に賭けたと言える。
■ スタメン選びは妥当だったか?支配率やチャンスの数では日本が圧倒したが、スウェーデン戦のスタメン11人に関しては「どうだったのか・・・」という疑問が生じるのは当たり前である。GLの3戦目のチュニジア戦から中3日で、しかも、グループリーグの3試合でフル稼働した選手はいなかった。コンディション的な問題があった選手はいなかったと思うので、全員が「スタンバイOK」の状態であったと想像できるが、「ベスト」とは言い難いスタメン11人だった。
ベスト8やベスト4に入る力のあるチームだということは明らかなので、ラウンド16で敗退となったことを、一番、悔やんでいるのは吉武監督だと思うが、外野から見ていると、「ベストに近い11人で最初から行ってほしかった。」、「それならば、全然、違った展開になっていた。」という思いはある。力を出し切って大会を去るのではなくて、かなり余力を残した状態でUAEを離れることになったのは、非常に残念である。
アジア予選と本大会の3試合を見る限りでは、DF石田、DF宮原、FW杉本の3人は別格で、DF鈴木徳とFW渡辺凌の2人も外せない選手だと思った。また、MF水谷とDF坂井もスタメンで起用した方がいいと思ったが、吉武監督が選んだ11人はそうではなかった。リカバーが利くアジア予選や本大会のグループリーグの試合であれば全く問題はないと思うが、本大会の決勝トーナメントになると相手も強くなるので、追いかける展開になると挽回するのは難しくなる。
■ 大事なのはこれからこのチームはアジア予選の頃から全くメンバーを固定せずに戦ってきて、結局のところ、吉武監督にとって「ベストな11人」というのはどんな組み合わせだったのか、分からないままで「96ジャパン」の活動は終了した。非常に悔いの残るラストゲームとなったが、そうは言っても、こういうやり方が吉武監督のスタイルである。スウェーデン戦の選手起用だけを見て、吉武監督のスタメン選びを批判するのはフェアではないと思う。
マイナスの側面もあったが、プラスの側面もあった。これまでの試合ではあまりいプレーが出来ていなかったアンカーのMF斎藤翔や2列目のMF瓜生はスウェーデン戦で非常にいいプレーを見せたし、フリーマンで起用されたFW杉森も動き自体は悪くなかった。FW杉森は前半だけで交代となったので本当に悔しい大会になってしまったが、スウェーデン戦では才能の片鱗を見せることができた。
メンバーを固定させた方がいいのか、シャッフルさせた方がいいのかというのは、難しい話である。どちらにもメリットとデメリットがあるが、2002年の日韓W杯の決勝トーナメントのトルコ戦を思い出すと分かる通り、メンバーを弄って負けてしまうと悔いが残る。ただ、一方で、もっと上を目指すためには、適度なシャッフルも必要であり、「96ジャパン」に関して言うと、シャッフルすることで高い競争意識が生まれていたのは間違いない。
いずれにしても、非常に残念な結果になってしまったが、大事なのはここからである。本大会で活躍できた選手もいるし、あまり活躍できなかった選手もいるが、この経験をどう生かすかである。これは、U-17に限った話ではなくて、U-20も、U-23も、フル代表も同じだと思うが、世界大会で得た経験を次につなげることは、世界大会でどういう成績を残したかどうかと同じくらい大事なことである。21人の選手のこれからに期待したい。
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