
京都府の40代男性は、高校3年の長男が志望する私大のパンフレットを見ながら、学費の工面に思いを巡らせた。「4年間で440万円か…」。長男がその大学を選んだのは、打ち込んできた部活動の強豪だから。親として応援する気持ちは強いが、こつこつ積み立ててきた学資保険は200万円。残りの支払いの目処は立っていない。
男性は製造業の正社員で、団体職員の妻、長男、中学2年の長女と4人暮らし。共働きで、毎月の手取りは計40万円台あるものの、支出も多い。子供達は食べ盛りで、物価上昇も重なり、食費は優に10万円を超える。塾代や部活の遠征費等教育費が10万円、住宅ローン8万円。光熱費、通信費、保険料等も差し引くと、手元に殆ど残らない。
低所得世帯だと、子が2人でも年収380万円未満等一定の条件を満たせば、授業料が減免される制度はある。更に、岸田文雄前政権が掲げた“異次元の少子化対策”で、来年度から、扶養する子が3人以上いる多子世帯を対象に、大学の授業料が無償化される。
だが、男性はどちらも当てはまらず、恩恵を受けられない。一方で、長女の教育費はこれから増えていく。思案の末、長男に有利子の奨学金を借りてもらうことにした。「子供が2人でも相当なお金がかかる。全ての子が支援を受けられるようにしてほしい」。大学進学率は年々上昇し、今や6割。短大や専門学校を含めた高等教育の進学率は8割に達する。
大学4年間にかかる学費の平均は、国立で約240万円、私立で約400万円。日本では、その費用を家庭に負わせる傾向が強い。『経済協力開発機構(OECD)』が2022年に公表した報告書では、加盟国30ヵ国以上への調査で、高等教育に関する私費負担の割合は、日本が67%。平均31%の2倍超だった。
自身の将来に関わる為、子供達も不安視する。『日本財団』が昨年、10~18歳1万人に実施した調査で、国や社会が優先的に取り組むべき施策を尋ねたところ、「高校・大学までの教育を無料で受けられる」が40.3%で最多となった。国は今年度、大学授業料等の減免に、約5440億円の予算を計上。多子世帯の無償化が始まる来年度は、8000億円前後を見込んでおり、更なる対象拡大には財源が問題となる。
日本大学の末冨芳教授(※教育行政学)は、「現状は、親の負担が大きい割にメリットが少ない“子育て罰”とも言える」と指摘。EU加盟国を中心に大学の費用が無償の国は多いといい、「子供への手厚い支援は、後の経済成長に繋がる“公共投資”だ」と強調する。子育ての経済的負担は、少子化を加速させる。子育て世帯が第二子以降も産もうと思える環境づくりが急務だ。
文部科学省の調査によると、子供1人を大学まで通わせるのに必要な教育費は800万~2200万円。『国立社会保障・人口問題研究所』が2021年に実施した夫婦への調査で、理想の数の子供を持たない理由のトップは、「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」(※52.6%)だった。
保育園児の長女(1)を育てる青森市の男性会社員(30)は、「子供は本当に可愛い。2人目も欲しいけど、1人育てるだけでも経済的な負担は大きい」と打ち明ける。保育料だけでなく、おむつ等育児にかかる消耗品の出費の多さに驚いた。夫婦共働きとはいえ、少しでも安いものを探してドラッグストアや子供用品店をハシゴして纏め買いするようにしている。
国は5年前、3~5歳児の幼児教育・保育を無償化したが、0~2歳児で無償となり得るのは第三子以降と低所得世帯だ。自治体の中には、独自の予算で0~2歳児の保育料を無償化しているところもあるが、男性は「国が一律で無償化することはできないのか。早く“異次元の少子化対策”を有言実行してほしい」と願っている。 (取材・文/大阪本社 佐々木伶/東京本社社会部 塚本康平)

2024年10月24日付掲載
テーマ : 教育問題
ジャンル : ニュース