【第二次トランプ政権に備えよ!】(04) 中国、対中強硬派を警戒

アメリカ大統領選で共和党のドナルド・トランプ前大統領が勝利し、中国では対中政策を左右するトランプ次期政権の陣容に関心が寄せられている。ここである問題が持ち上がっている。中国政府が嘗て“反中政治屋”と非難し、国内への立ち入りを禁じる制裁を科した人物が要職に起用された場合は、どう対応するのか――。
中国メディアや識者によるトランプ次期政権での国務長官や国防長官らの人選予測をみると、中国政府の制裁リストに名を連ねる対中強硬派が少なくない。先ず、トランプ前政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏(※右画像、『AP通信』提供)と、大統領補佐官(※国家安全保障問題担当)を務めたロバート・オブライエン氏だ。
この2氏を含む28人について、中国外務省はバイデン政権発足直後の2021年1月、中国本土や香港・マカオへの立ち入りを禁じる制裁措置を発表した。その際、同省は「反中政治屋は中米両国民の利益を顧みず、常識外れの一連の行動で中国の内政に干渉し、中国国民の感情を傷つけた」と非難。中国政府としては、トランプ氏の大統領退任を機に絶縁状を叩きつけた筈だった。
その他にも、トランプ氏に近いとされる共和党のマルコ・ルビオ、トム・コットン両上院議員が要職に付く可能性が取り沙汰されている。中国政府は、この2人にも香港や新疆ウイグル自治区の人権問題に絡んで制裁を科している。中国のSNS上には「要職候補は我々に馴染みのある名前ばかりだ」等、皮肉交じりに対中強硬派の台頭を危惧する声が見られた。「制裁対象者とどうやって接触を図るのか」「話し合っても無意味だ」等、様々な意見が出ていた。
米中両国は、既に制裁の応酬が対話の足枷となる事態を経験済みだ。昨年3~10月に中国の国防大臣を務めた李尚福氏は、トランプ前政権下でロシアからの武器購入に絡み、制裁対象になっていた。この時は、汚職疑惑によって李氏が僅か7ヵ月で解任された為、対話の途絶が長期化することは免れた。
一方で、米中間ではないが、制裁より二国間関係の構築が優先されたケースも存在する。例えば、インドネシアの現大統領、プラボウォ・スビアント氏へのアメリカの対応だ。エリート軍人だったプラボウォ氏は、スハルト独裁政権下で民主化運動を弾圧したとして、2000年以降、アメリカへの立ち入りが拒否されてきた。しかし、トランプ前政権は2020年、当時国防大臣だったプラボウォ氏をアメリカに迎え入れ、人権団体から批判を浴びた。中国をにらんで、アメリカがインドネシアとの連携強化をより重んじたとみられている。
アメリカ大統領選の結果判明から一夜明けた7日、習近平国家主席はトランプ氏に“祝意”を伝えた際、米中関係の安定の為に対話を重視する姿勢を強調した。若しそうであれば、制裁対象者であってもトランプ政権の要職に就けば訪中を容認するのか、それとも国内で“弱腰”批判を招かぬよう制裁を貫くのか――。その判断は、習指導部の“トランプ2.0”への向き合い方を占う試金石となる。 (取材・文/中国総局長 河津啓介)
