■ 有利なのは先攻なのか?後攻なのか?まず、インターハイに出場できるチームは55チームで、冬の選手権は48チームである。3位決定戦は行われないので、1つの大会の試合数はインターハイは54試合で、冬の選手権は47試合となる。インターハイは4年分、冬の選手権は6年分の記録があるので、54*4+47*6=498試合の記録がしっかりと残っているが、その中でPK戦に突入したのは111試合。よって、PK戦で決着する確率は22.3%となる。
一番、気になるのは「PK戦のときは先攻が有利なのか?後攻が有利なのか?」という点だと思うが、後攻のチームの方が勝率は高い。下の表1で書かれている勝率は先攻のチームから見たものであるが、109試合(※ 2試合は不明)の中で先攻のチームの勝率は42.2%で、後攻のチームの勝率は57.8%。したがって、PK戦の直前に行われるコイントスで勝利したときは「後攻」を選んだ方がいいのではないか。
表1. 先攻と後攻
| | 勝利数(先攻) | 勝利数(後攻) | 勝率 |
インターハイ | 2011年 | 5 | 6 | 45.5% |
2012年 | 7 | 9 | 43.8% |
2013年 | 4 | 7 | 36.4% |
2014年 | 3 | 6 | 33.3% |
冬の選手権 | 2008年 | 5 | 3 | 62.5% |
2009年 | 4 | 3 | 57.1% |
2010年 | 2 | 6 | 25.0% |
2011年 | 5 | 7 | 41.7% |
2012年 | 7 | 9 | 43.8% |
2013年 | 4 | 7 | 36.4% |
合計 | 46 | 63 | 42.2% |
■ 成功率が極端に低くなる5人目と6人目のキッカー表2はPK戦におけるキッカーの成功率を示している。このとおりで、先攻のチームのキッカーの成功率は73.8%で、後攻のチームのキッカーの成功率は77.2%で、合計すると75.5%となる。「4人に3人は成功するが、1人は失敗する。」という分かりやすい確率になっている。先のとおり、後攻のチームの方が勝率は高かったが、成功率についても後攻のチームの方がやや高かった。
表2. PK戦におけるキッカーの成功率 (その1)
| 成功 | 失敗 | 成功率 |
先攻 | 442 | 157 | 73.8% |
後攻 | 437 | 129 | 77.2% |
合計 | 879 | 286 | 75.5% |
表3は1人目・2人目など○○人目のキッカーの成功率を示しており、表4は先攻・後攻は考慮せずに1つにまとめたものである。表3を見ると、ほとんどのケースで後攻のチームの方が成功率が高くなっている。それなりにサンプル数があるケースで先攻の成功率が上回っているのは6人目だけ。後攻のチームの6人目のキッカーの成功率は58.8%なので、サドンデスに突入すると先攻の方がやや有利となる。
今度は表4を詳しく見ていくと、1人目と2人目と3人目はトータルの成功率(=75.5%)を上回っているが、4人目になるとこの数字をやや下回って、5人目と6人目は大幅に下がって60%台に突入する。やはりというべきか、先攻・後攻に関わらず、5人目と6人目のキッカーには大きなプレッシャーがかかる。当たり前のことではあるが、5人目と6人目には精神的に強い選手を起用する必要がある。
一方で、(サンプル数はそれほど多くないが、)8人目や9人目のキッカーの成功率はトータルの成功率(=75.5%)を上回っている。8人目や9人目に出てくるキッカーというのは「PKは得意ではない。」という選手がほとんどだと思うが、ここまで来るとキッカーも開き直ることができるからなのか、相手のキーパーの動き方の癖などがある程度は分かって来るからなのか、成功率は高くなる。
表3. PK戦におけるキッカーの成功率 (その2)
| | 本数 | 成功 | 失敗 | 成功率 |
1人目 | 先攻 | 109 | 84 | 25 | 77.1% |
後攻 | 109 | 88 | 21 | 80.7% |
2人目 | 先攻 | 109 | 82 | 27 | 75.2% |
後攻 | 109 | 86 | 23 | 78.9% |
3人目 | 先攻 | 109 | 86 | 23 | 78.9% |
後攻 | 109 | 88 | 21 | 80.7% |
4人目 | 先攻 | 106 | 77 | 29 | 72.6% |
後攻 | 100 | 76 | 24 | 76.0% |
5人目 | 先攻 | 88 | 57 | 31 | 64.8% |
後攻 | 61 | 45 | 16 | 73.8% |
6人目 | 先攻 | 34 | 26 | 8 | 76.5% |
後攻 | 34 | 20 | 14 | 58.8% |
7人目 | 先攻 | 22 | 15 | 7 | 68.2% |
後攻 | 22 | 16 | 6 | 72.7% |
8人目 | 先攻 | 11 | 7 | 4 | 63.6% |
後攻 | 11 | 10 | 1 | 90.9% |
9人目 | 先攻 | 6 | 6 | 0 | 100.0% |
後攻 | 6 | 4 | 2 | 66.7% |
10人目 | 先攻 | 4 | 1 | 3 | 25.0% |
後攻 | 4 | 4 | 0 | 100.0% |
11人目 | 先攻 | 1 | 1 | 0 | 100.0% |
後攻 | 1 | 0 | 1 | 0.0% |
| | 1165 | 879 | 286 | 75.5% |
表4. PK戦におけるキッカーの成功率 (その3)
| 成功 | 失敗 | 成功率 | 差 |
1人目 | 172 | 46 | 78.9% | +3.4% |
2人目 | 168 | 50 | 77.1% | +1.6% |
3人目 | 174 | 44 | 79.8% | +4.3% |
4人目 | 153 | 53 | 74.3% | -1.2% |
5人目 | 102 | 47 | 68.5% | -7.0% |
6人目 | 46 | 22 | 67.6% | -7.9% |
7人目 | 31 | 13 | 70.5% | -5.0% |
8人目 | 17 | 5 | 77.3% | +1.8% |
9人目 | 10 | 2 | 83.3% | +7.8% |
10人目 | 5 | 3 | 62.5% | -13.0% |
11人目 | 1 | 1 | 50.0% | -25.5% |
| 879 | 286 | 75.5% | 75.5% |
■ 先攻の5人目で試合で決着するケースが多い。次の表5は○○人目のキッカーの本数を示している。今回のサンプル数は109試合で、最速で決着するのは先攻のチームが3本連続で外して後攻のチームが3本連続で成功したケースと、先攻のチームが3本連続で成功して後攻のチームが3本連続で失敗するケースなので、「3人目の後攻」までは必ず順番が回って来る。当然、ここまでは109本であるが、「4人目の先攻」以降は徐々に本数が減っていく。
5人目に着目すると、先攻は88本で、後攻は61本なので、「先攻の5人目」で勝敗が決まるケースが多いことが分かる。ということは、「後攻の5人目のキッカーは登場しないケースが多い。」ということで、登場する確率は61/109=56.0%となる。5人目に信頼できるキッカーを温存するケースは非常に多いと思うが、温存されたままで試合が終わってしまうことが多い。有益な策とは言えないのかもしれない。
表5. ○○人目のキッカーの本数
| | 本数 | 登場率 |
1人目 | 先攻 | 109 | 100.0% |
後攻 | 109 | 100.0% |
2人目 | 先攻 | 109 | 100.0% |
後攻 | 109 | 100.0% |
3人目 | 先攻 | 109 | 100.0% |
後攻 | 109 | 100.0% |
4人目 | 先攻 | 106 | 97.2% |
後攻 | 100 | 91.7% |
5人目 | 先攻 | 88 | 80.7% |
後攻 | 61 | 56.0% |
6人目 | 先攻 | 34 | 31.2% |
後攻 | 34 | 31.2% |
7人目 | 先攻 | 22 | 20.2% |
後攻 | 22 | 20.2% |
8人目 | 先攻 | 11 | 10.1% |
後攻 | 11 | 10.1% |
9人目 | 先攻 | 6 | 5.5% |
後攻 | 6 | 5.5% |
10人目 | 先攻 | 4 | 3.7% |
後攻 | 4 | 3.7% |
11人目 | 先攻 | 1 | 0.9% |
後攻 | 1 | 0.9% |
■ 連鎖反応は本当に起こるのか?今度は連鎖反応は本当に起こるのか?を調べてみた。前のキッカー(※ 相手チームのキッカーになる。)が成功したときと失敗したときに分けて成功率を調べてまとめたものが下の表6である。前の人が成功したときの成功率は75.8%で、前の人が失敗したときの成功率は73.6%なので、「大きな差はない。」と言える。(※ 上の表3で示しているとおり、先攻の1人目のキッカーの成功率は77.1%である。)
高校サッカーのPK戦を見ていると、誰かが失敗すると連鎖反応が起こって、立て続けに失敗するケースが多いような印象もあるが、こういうことが起こると強く印象に残るだけで、『前のキッカーの結果には成功率はあまり左右されない。』と言える。もちろん、数字的には、若干、「前の人が失敗したとき」に連続して失敗する確率が高くなるが、その差は2.2%なので、本当にわずかな差である。
表6. 前のキッカーが成功したときと前のキッカーが失敗したとき
| | 前の人が成功したとき | 前の人が失敗したとき |
| | 成功 | 失敗 | 成功率 | 成功 | 失敗 | 成功率 |
インターハイ | 2011年 | 81 | 18 | 81.8% | 17 | 11 | 60.7% |
2012年 | 85 | 24 | 78.0% | 21 | 7 | 75.0% |
2013年 | 86 | 20 | 81.1% | 15 | 2 | 88.2% |
2014年 | 48 | 17 | 73.8% | 16 | 3 | 84.2% |
冬の選手権 | 2008年 | 46 | 16 | 74.2% | 13 | 4 | 76.5% |
2009年 | 32 | 12 | 72.7% | 11 | 11 | 50.0% |
2010年 | 36 | 19 | 65.5% | 17 | 9 | 65.4% |
2011年 | 69 | 21 | 76.7% | 21 | 4 | 84.0% |
2012年 | 80 | 29 | 73.4% | 27 | 8 | 77.1% |
2013年 | 56 | 22 | 71.8% | 18 | 4 | 81.8% |
合計 | 619 | 198 | 75.8% | 176 | 63 | 73.6% |
ということで、最後に簡単にまとめてみると、
・コイントスで勝った時は後攻を選んだ方がいい。
・1人目と2人目と3人目にかかるプレッシャーは相対的には小さい。
・5人目と6人目には大きなプレッシャーがかかる。
・後攻の1人目と後攻の3人目の成功率が高い。
・5人目は大事だが、後攻の場合は5人目のキッカーまで回らないケースが多い。
・敢えて言うと、4人目に一番信頼できるキッカーを起用した方がいいのではないか。
・6人目のキッカーは大事なので、軽視してはいけない。
・後攻の6人目のキッカーの成功率は非常に低い。
・サドンデスになると先攻がやや有利。
・「連鎖反応が起きやすい。」というのは単なるイメージに過ぎない。
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