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V・L・ホワイトチャーチ『ソープ・ヘイズルの事件簿』(論創海外ミステリ)
今週は仕事で東京国際ブックフェアをのぞいてきた。といっても実はブックフェアはついでで、仕事に関係あるのはむしろ併催されている電子出版EXPOやクリエイターEXPO、キャラクター&ブランド ライセンス展、コンテンツ制作・配信ソリューション展などの方。
これらはこの数年で同時開催されるようになってきた展示会だが、今や本家のブックフェアの方が完全に食われている感じである。業界全体の勢いの差があるのはもちろんだが、出版系は見せ方とか熱意とか、こういう場での努力が足りないのではないか。本を並べてポスター貼って終わりというブースが多くて、ううむ、ああいう出展にどれほどの意味があるのか。
このところ変なミステリが続いたから、オーソドックスそうなものということで、ヴィクター・L・ホワイトチャーチの『ソープ・ヘイズルの事件簿』を手に取る。
著者のホワイトチャーチは二十世紀初頭に活躍したミステリ作家(本業は聖職者)。もちろんその時代のミステリ作家の常として、ホームズを避けて通ることはできず、ホームズのライヴァルの一人となるソープ・ヘイズルという探偵を生み出している。
ソープ・ヘイズルは非常な資産家で働かなくても生活できる優雅な身分。余暇はすべて趣味の書籍収集と鉄道にあてている。とりわけ鉄道に関しては趣味の域を超えており、鉄道会社がダイヤ改正に知恵を借りるほどだという。
本書はそんなヘイズルの活躍するシリーズ短編集であり、同時に鉄道ミステリ集でもある。要はヘイズルがその鉄道知識を活かして難事件を解決するという趣向だ。
これだけ専門性のある探偵というのは当時では珍しく、それだけでも興味深いのだが、これまではなぜか乱歩が紹介した「サー・ギルバート・マレルの絵」が知られる程度。これでようやく全貌がわかるわけで、ほんと論創社はよくがんばっておるなぁ。
なお、本書はシリーズ以外の作品も多く含まれている。下の収録作にある「ピーター・クレーンの葉巻」から「盗まれたネックレース」までがソープ・ヘイズルもの、「臨港列車の謎」以下がノン・シリーズである。
Peter Crane's Cigars「ピーター・クレーンの葉巻」
The Tragedy on the London and Mid-Northern 「ロンドン・アンド・ミッドノーザン鉄道の惨劇」
The Affair of the Corridor Express「側廊列車の事件」
Sir Gilbert Murell’s Picture「サー・ギルバート・マレルの絵」
How the Bank Was Saved「いかにして銀行は救われたか」
The Affair of the German Dispatch-Box「ドイツ公文書箱事件」
How the Bishop Kept His Appointment「主教の約束」
The Adventure of the Pilot Engire「先行機関車の危機」
The Stolen Necklace「盗まれたネックレース」
The Mystery of the Boat Express「臨港列車の謎」
How the Express Was Saved「急行列車を救え」
A Case of Signalling「鉄道員の恋人」
Winning the Race「時間との戦い」
The Strikers「ストの顛末」
The Ruse That Succeeded「策略の成功」
これは悪くない。鉄道ミステリというと真っ先に頭に思い浮かぶのが、時刻表を使ったアリバイ崩しあたりだろうが、本書では手を変え品を変え、意外なほどバラエティに富んだ内容で楽しませてくれる。
トリックの質だけを問うならそれほどのものではないのだが、なんせどれもこれも鉄道を利用するトリックという前提があるため、いま読んでもそれなりに物珍しく、オリジナリティは評価できる。
また、パズルに終始するのではなく、それこそホームズばりに冒険小説風に読ませる作品があるのも高ポイント。おそらくワンパターンに陥らないようにという著者の工夫なのだろうが、こういう読者視点を意識しているのはさすがだ。
全体的な物語としてのまとまり、雰囲気なども非常に好ましく、派手なサプライズさえ期待しなければ、古き良き時代のミステリとしておすすめできる一冊。
これらはこの数年で同時開催されるようになってきた展示会だが、今や本家のブックフェアの方が完全に食われている感じである。業界全体の勢いの差があるのはもちろんだが、出版系は見せ方とか熱意とか、こういう場での努力が足りないのではないか。本を並べてポスター貼って終わりというブースが多くて、ううむ、ああいう出展にどれほどの意味があるのか。
このところ変なミステリが続いたから、オーソドックスそうなものということで、ヴィクター・L・ホワイトチャーチの『ソープ・ヘイズルの事件簿』を手に取る。
著者のホワイトチャーチは二十世紀初頭に活躍したミステリ作家(本業は聖職者)。もちろんその時代のミステリ作家の常として、ホームズを避けて通ることはできず、ホームズのライヴァルの一人となるソープ・ヘイズルという探偵を生み出している。
ソープ・ヘイズルは非常な資産家で働かなくても生活できる優雅な身分。余暇はすべて趣味の書籍収集と鉄道にあてている。とりわけ鉄道に関しては趣味の域を超えており、鉄道会社がダイヤ改正に知恵を借りるほどだという。
本書はそんなヘイズルの活躍するシリーズ短編集であり、同時に鉄道ミステリ集でもある。要はヘイズルがその鉄道知識を活かして難事件を解決するという趣向だ。
これだけ専門性のある探偵というのは当時では珍しく、それだけでも興味深いのだが、これまではなぜか乱歩が紹介した「サー・ギルバート・マレルの絵」が知られる程度。これでようやく全貌がわかるわけで、ほんと論創社はよくがんばっておるなぁ。
なお、本書はシリーズ以外の作品も多く含まれている。下の収録作にある「ピーター・クレーンの葉巻」から「盗まれたネックレース」までがソープ・ヘイズルもの、「臨港列車の謎」以下がノン・シリーズである。
Peter Crane's Cigars「ピーター・クレーンの葉巻」
The Tragedy on the London and Mid-Northern 「ロンドン・アンド・ミッドノーザン鉄道の惨劇」
The Affair of the Corridor Express「側廊列車の事件」
Sir Gilbert Murell’s Picture「サー・ギルバート・マレルの絵」
How the Bank Was Saved「いかにして銀行は救われたか」
The Affair of the German Dispatch-Box「ドイツ公文書箱事件」
How the Bishop Kept His Appointment「主教の約束」
The Adventure of the Pilot Engire「先行機関車の危機」
The Stolen Necklace「盗まれたネックレース」
The Mystery of the Boat Express「臨港列車の謎」
How the Express Was Saved「急行列車を救え」
A Case of Signalling「鉄道員の恋人」
Winning the Race「時間との戦い」
The Strikers「ストの顛末」
The Ruse That Succeeded「策略の成功」
これは悪くない。鉄道ミステリというと真っ先に頭に思い浮かぶのが、時刻表を使ったアリバイ崩しあたりだろうが、本書では手を変え品を変え、意外なほどバラエティに富んだ内容で楽しませてくれる。
トリックの質だけを問うならそれほどのものではないのだが、なんせどれもこれも鉄道を利用するトリックという前提があるため、いま読んでもそれなりに物珍しく、オリジナリティは評価できる。
また、パズルに終始するのではなく、それこそホームズばりに冒険小説風に読ませる作品があるのも高ポイント。おそらくワンパターンに陥らないようにという著者の工夫なのだろうが、こういう読者視点を意識しているのはさすがだ。
全体的な物語としてのまとまり、雰囲気なども非常に好ましく、派手なサプライズさえ期待しなければ、古き良き時代のミステリとしておすすめできる一冊。