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マイクル・クライトン『パイレーツ ー掠奪海域ー』(早川書房)
マイクル・クライトンの『パイレーツ ー掠奪海域ー』を読む。2008年にクライトンが急死し、新作はこれでアウトと思っていたら、パソコンから未発表の遺作が発見されたということで出版された一冊。
もちろんすぐに買ってはいたのだが、例によって永らく積ん読のまま放置プレイ。先日、とうとう文庫化されてしまったため、そろそろ潮時と思って読み始めた。
舞台は海賊が跋扈する17世紀半ばのカリブ海。スペインの支配が多勢を占めるなか、ジャマイカだけはイングランドが植民地として統治していた。時のジャマイカ総督はスペイン船を襲撃し、財宝を奪いとる私掠行為を推進していたが、そのおかげでポート・ロイヤルの町は繁栄を極め、各国から無法者たちが集う町にもなっていた。
そんなある日、またしてもスペイン財宝戦の話が飛び込んできた。目標の船はスペイン領マタンセロス島に停泊しているという。マタンセロスは難攻不落の要塞島、これに挑戦を挑むのは不可能と思われた。だが総督からこの話を聞かされた腕利きの私掠船船長ハンターは、選りすぐりの猛者を集め、この無謀な闘いに乗り出してゆく。
亡くなるまでの二十年ほど、クライトンの創作的興味はかなりの比率でハイテクや世界レベルのトレンドといったところが中心だったように思う。それはITであったり、バイオテクノロジーだったり、企業のセクハラ問題だったりしたわけで、それを巧みなプロットに乗せて、ハラハラドキドキで一気に読ませてくれたわけだ。一応、科学社会への警鐘的な読み方はできるけれど、やはり単純にエンターテインメントとして優れていたことが一番の魅力だった。
ところが本作は意外や意外、ハイテクなどとはまったく縁のない世界に材をとり、波瀾万丈な冒険譚で勝負してきた。まあ、考えると初期にはいろいろなタイプのスリラーや冒険ものも書いているので、久々に初心に返るつもりだったのだろうか(こういう作品が結果的に遺作になったのも、何やら運命的ではある)。
ただし、材料は異なれど、その味つけはいつものクライトンである。
上でも書いたがまずはプロットの巧みさ。「次はどうなる」という徹底的に読者を引っ張る展開で、しかも半分は意表をつき、半分は予想に歩み寄って、とにかく読者を飽きさせないサービス精神と工夫が素晴らしい。本作でもマタンセロス攻略が最大のヤマ場かと思っていると、実はこれで半分。帰路の旅ではよりハードな、そしてよりトンデモな展開が待っているのである。
また、ハイテクとは縁がない世界とも書いたが、海賊ならではの論理的思考や科学的蘊蓄はたっぷりと披露されており、これもまた魅力のひとつ(主人公も実は知識人だったりする)。何を書いても、舞台がどれだけ変わっても、やっぱりクライトンはこういうのがとことん好きなのねと微笑まずにはいられない(笑)。
ところで未発表だったことからも想像できるように、本作はまだまだ推敲される可能性もあったようだ。
訳者あとがきによると、実際、粗もいろいろあるようだし、正直もっと書き込んでもらいたいパートもあるにはあった。これが完成形とは言えないだろうけれども、それでもトータルの出来は決して悪くない。最近の彼の長い作品より、むしろこちらをこそオススメしておく。
もちろんすぐに買ってはいたのだが、例によって永らく積ん読のまま放置プレイ。先日、とうとう文庫化されてしまったため、そろそろ潮時と思って読み始めた。
舞台は海賊が跋扈する17世紀半ばのカリブ海。スペインの支配が多勢を占めるなか、ジャマイカだけはイングランドが植民地として統治していた。時のジャマイカ総督はスペイン船を襲撃し、財宝を奪いとる私掠行為を推進していたが、そのおかげでポート・ロイヤルの町は繁栄を極め、各国から無法者たちが集う町にもなっていた。
そんなある日、またしてもスペイン財宝戦の話が飛び込んできた。目標の船はスペイン領マタンセロス島に停泊しているという。マタンセロスは難攻不落の要塞島、これに挑戦を挑むのは不可能と思われた。だが総督からこの話を聞かされた腕利きの私掠船船長ハンターは、選りすぐりの猛者を集め、この無謀な闘いに乗り出してゆく。
亡くなるまでの二十年ほど、クライトンの創作的興味はかなりの比率でハイテクや世界レベルのトレンドといったところが中心だったように思う。それはITであったり、バイオテクノロジーだったり、企業のセクハラ問題だったりしたわけで、それを巧みなプロットに乗せて、ハラハラドキドキで一気に読ませてくれたわけだ。一応、科学社会への警鐘的な読み方はできるけれど、やはり単純にエンターテインメントとして優れていたことが一番の魅力だった。
ところが本作は意外や意外、ハイテクなどとはまったく縁のない世界に材をとり、波瀾万丈な冒険譚で勝負してきた。まあ、考えると初期にはいろいろなタイプのスリラーや冒険ものも書いているので、久々に初心に返るつもりだったのだろうか(こういう作品が結果的に遺作になったのも、何やら運命的ではある)。
ただし、材料は異なれど、その味つけはいつものクライトンである。
上でも書いたがまずはプロットの巧みさ。「次はどうなる」という徹底的に読者を引っ張る展開で、しかも半分は意表をつき、半分は予想に歩み寄って、とにかく読者を飽きさせないサービス精神と工夫が素晴らしい。本作でもマタンセロス攻略が最大のヤマ場かと思っていると、実はこれで半分。帰路の旅ではよりハードな、そしてよりトンデモな展開が待っているのである。
また、ハイテクとは縁がない世界とも書いたが、海賊ならではの論理的思考や科学的蘊蓄はたっぷりと披露されており、これもまた魅力のひとつ(主人公も実は知識人だったりする)。何を書いても、舞台がどれだけ変わっても、やっぱりクライトンはこういうのがとことん好きなのねと微笑まずにはいられない(笑)。
ところで未発表だったことからも想像できるように、本作はまだまだ推敲される可能性もあったようだ。
訳者あとがきによると、実際、粗もいろいろあるようだし、正直もっと書き込んでもらいたいパートもあるにはあった。これが完成形とは言えないだろうけれども、それでもトータルの出来は決して悪くない。最近の彼の長い作品より、むしろこちらをこそオススメしておく。
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