■ 開幕戦J2の開幕戦。浦和レッズなどでプレーした経験を持つ貴裁監督を迎えた湘南ベルマーレは、ホームで京都サンガと対戦した。両チームとも、1年でのJ1復帰を目指したが、湘南は14位、京都は7位と低迷し、昇格レースにも参加できなかった。ただし、京都は終盤戦に快進撃を見せて天皇杯も準優勝に輝いた。それもあって、今シーズンは、J2の優勝候補の筆頭と言われている。
ホームの湘南は「3-6-1」。GK阿部。DF鎌田、遠藤、大野。MFハン・グギョン、永木、古林、高山、岩上、菊池。FW馬場。東海大卒のルーキーのMF岩上がスタメン出場。3バックシステムで、右アウトサイドはDF古林、左アウトサイドはMF高山が起用された。ベテランのMF坂本はベンチスタートで、リオ世代のDF遠藤がキャプテンマークを巻く。27歳のGK阿部はJリーグ初出場となった。
対するアウェーの京都は「4-2-2-2」。GK水谷。DF安藤、秋本、バヤリッツァ、福村。MFチョン・ウヨン、中村充、工藤、中山。FW久保、宮吉。2008年と2009年に名古屋でプレーしたDFバヤリッツァがスタメンに入ったが、それ以外の10人は、昨シーズンから京都でプレーしている選手となった。2月のアイスランド戦で日本代表に初招集されたFW久保は、昨シーズンは10ゴールを挙げた。
■ ベルマーレが劇的な勝利!!!試合は、序盤からハイスピードの展開となる。貴裁監督が就任した湘南は、攻守の切り替えの早いサッカーを見せて、京都のショートパス主体のサッカーに対抗していく。前半に活躍を見せたのは、ルーキーのMF岩上で、積極的なミドルシュートとロングスローでチャンスに絡んでいく。前半15分には、左足でロングシュートを放つと、ブレ球となってゴールに迫るが、惜しくもクロスバー直撃でゴールならず。
ほぼ互角の立ち上がりだったが、先制したのはアウェーの京都で、前半31分にDF福村がドリブルで持ち運んでから、中央でボールを受けたMF中山が左足で決めて京都が先制に成功する。しかし、湘南も前半37分にカウンターからMF永木の折り返しがこぼれたところを、MF岩上が左足で決めて同点に追いつく。ルーキーのDF岩上は、デビュー戦で初ゴールをマークした。前半は1対1で終了する。
後半も、両チームともペースが落ちず、見ごたえのあるシーンが続いていく。しかし、後半15分あたりを過ぎると、両チームとも疲れが目立つようになって、中盤にスペースが空いてくる。湘南は後半28分にFW古橋、後半36分にMF坂本を投入。対する京都は、FW宮吉に代えてFW長沢を投入。攻撃的な選手を入れ替えてくるが、機能したのは湘南の方のメンバー交代で、FW古橋とMF坂本は持ち味を発揮してチャンスに絡んでいく。
ペースダウンした京都だったが、後半終了間際に相手のクリアミスからFW久保が、GKもかわしてゴールに流し込むだけという決定機を迎えるが、シュートの寸前で同じリオ世代のDF遠藤が見事なタックルを決めてゴールならず。逆に湘南は、後半ロスタイムに、MF中山からボールを奪ったDF大野がドリブルで運んで左サイドのMF菊池にスルーパスを送ると、MF菊池は相手をブロックしながら、左足で蹴りこんで終了間際に2対1と逆転に成功する。結局、2対1で湘南が劇的な勝利を飾った。
■ ドルトムント風のサッカー3年間で、J1昇格とJ2降格を経験するなど、激動だった反町監督の時代が終了し、貴裁監督を迎えた湘南は、大幅な若返りを図った。この試合のスタメン11人の平均年齢は、京都が24.55歳であるのに対して、湘南は22.27歳と、若いチームと言われることの多い京都を大きく下回っている。
DF鎌田、DF大野、MFハン・グギョン、MF古林、MF岩上、MF菊池の6人がロンドン世代で、キャプテンのDF遠藤に至ってリオ世代となる。そのほかの選手も、MF永木とMF高山は1988年生まれで、GK阿部は27歳ながら開幕戦でプロ初出場を飾った選手なので、経験の少ない選手が多くなって、一気にチームは若返った。
この若返りが、吉と出るか、凶と出るか、博打的な試みとなるが、開幕戦を見る限り、吉と出ているようで、攻守の切り替えの早いアグレッシブな試合を見せて、昨シーズン3戦全敗と苦手にしていた京都をホームで撃破し、最高のスタートを切った。セルフジャッジした隙にMF中山に先制ゴールを許したが、新・10番として期待されるMF菊池が終了間際に逆転ゴールを決めるという劇的な展開で勝ち点「3」をもぎ取った。
まだ、1試合だけなので、このサッカーをどこまで続けることができるかは分からないが、オーバーラップしたのは、ドルトムントのスタイルで、守備のときの迫力や、攻守の切り替えの早さや、ゴール前に入って行く人数の多さは、ドルトムントのサッカーを連想させる。こういうスタイルは、若い選手でメンバーが構成されていないと、実現させるのは難しいが、湘南はドルトムント以上に若いメンバーが中心となっていて、エネルギーに満ち溢れたサッカーを見せた。
改善点は、ボランチのMF永木とMFハン・グギョンのところが落ち着かなかったので、慌ただしいサッカーになる時間帯があったことである。ラスト15分は持ち直したが、後半15分から後半30分までの15分程度はペースが落ちてしまった。ボランチのところで、もっと試合をコントロールできるようになれば、急激に質が落ちる時間帯をなくすこともできるはずなので、今後、ダブルボランチの役割は重要になるだろう。
■ MF菊池大介がロスタイム弾ロスタイムに劇的なゴールを決めたのは、MF菊池だった。その前に、2度、ビッグチャンスを逃しており、負けていたら戦犯になりかねない状況だったが、全てを払しょくする値千金のゴールとなった。MF菊池は、高校1年生の頃からトップチームでプレーしているので、20歳ながら、6年目のシーズンとなる。これまでは、MFアジエルがいたこともあって、スタメン定着とはならなかったが、MFアジエルが退団した2012年は、勝負の一年となる。
高校生Jリーガーとしてプレーしていた頃は、ソフトなプレーが多かったが、2010年に草津でガツガツしたプレーを覚えてから、運動量も増えて、守備もこなすようになった。しかし、その一方で、攻撃に関しては、雑なプレーも目立つようになった。もともとは、テクニックに優れた攻撃センスのある選手であるが、近年は、落ち着きの無さが目立つようになって停滞していたが、最高のスタートを切って、今シーズンは、飛躍のチャンスである。
貴裁監督は、前の3人には、相当な運動量と守備力を求めているが、MF菊池は、そういうプレーもできるようになったので、このあたりは大丈夫だろう。あとは、いかにして、ゴールに直結するプレーができるかである。周りの選手も若くなってきたので、チームの中では、中堅クラスになってきた。チームを引っ張っていく覚悟で、今シーズンを戦ってほしいところである。
■ ルーキーのMF岩上がゴール湘南では、ルーキーのMF岩上も、面白い存在である。後半はガス欠した感じで、試合から消える時間が長かったが、前半は攻撃をリードした。武器となるのは、左右両足から繰り出されるシュートで、パンチ力もあって、精度も高い。前半には、利き足ではない左足でロングシュートを放ってクロスバー直撃というシーンを作ったが、得点力のありそうな選手である。
また、身体能力が高くて、ロングスローにも魅力がある。湘南は、背の高い選手が少ないのでチャンスにはつながらなかったが、スピードのあるボールを投げることができるので、今後、新外国人のFWマセナなどがスタメンに入ってくれば、チームの武器となる可能性がある。後半は動きが落ちたが、それでも、最後までプレーしたので、監督にも信頼されているのだろう。MF菊池とMF岩上の2列目は、要求される仕事も多いので、大変なポジションといえるが、やりがいのある仕事を任されている。
ディフェンス陣も、集中力を保った。19歳のDF遠藤が3バックの中央に入ったが、右ストッパーのDF鎌田と、左ストッパーのDF大野も、京都の攻撃陣に食らいついて、自由を与えなかった。パスで翻弄されるシーンもあったが、いい対応を見せるシーンも多くて、3人ともいいパフォーマンスを見せた。京都が相手だったので、3バックが攻撃に参加する回数は少なかったが、今シーズン、3バックの選手には、攻撃的なプレーも要求されるはずなので、決勝ゴールのシーンのように、ディフェンスの選手が得点に絡むプレーも増えていくだろう。
■ FW長沢の高さを生かせず・・・一方の京都は、内容としては悪くなかったが、FW宮吉とFW久保の2トップが決定機に決められず、勝ち点を奪うことはできなかった。パスは回っていたので、チームの目指すサッカーはできていたように感じるが、湘南の勢いに押されたところもあって、最後の15分は劣勢となった。
後半36分にFW宮吉に代えて、FW長沢を投入したが、FW長沢が試合に入りきれなかったことが誤算だった。FW宮吉の運動量も落ちていたので、メンバーチェンジは十分に想定されたことであるが、FW長沢が、ここまで試合に入れないとは、想定外だった。
スタメンで起用されているFW久保やFW宮吉は、ストライカーながら、中盤の選手と比べても遜色ないほどの技術を備えているので、巧みな足技を見せて、MF工藤やMF中村充が中心となるパスワークに参加することもできるが、現状のFW長沢には、そこまでの技術は無いので、絡んでいくのは難しい。
FW久保やFW宮吉には無い高さは大きな武器になるが、このままでは、宝の持ち腐れとなる。割り切って、FW長沢が投入されたらロングボールを増やして、高さが生きる展開に持っていってもいいと思うが、この試合では、チームのコンセプトは変わらず、FW長沢が消えてしまった。
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