■ 最終節J1の最終節。17勝10敗6分けで勝ち点「57」の川崎フロンターレ(5位)と、18勝7敗8分けで勝ち点「62」の横浜Fマリノス(1位)が等々力で対戦した。優勝争いは、1位の横浜FMが勝ち点「62」、2位の広島が勝ち点「60」、3位の鹿島が勝ち点「59」となっており、この3チームが優勝の可能性を残しているが、得失点差で不利な鹿島の逆転優勝は現実的ではない。事実上、横浜FMと広島の一騎打ちとなった。
対してACL出場争いは、首位の横浜FMはすでに「3位以内」を確定させており、久々となるACL出場を決めている。残りの2枚の切符を巡って、2位の広島、3位の鹿島、4位の浦和、5位の川崎F、6位のC大阪の5チームの勝負となっているが、最終節は2位の広島と3位の鹿島の直接対決となるので、広島・鹿島・浦和は勝てば自力でACLの出場権を確保できる。川崎FとC大阪の2チームは他会場の動向も関係してくる。
ホームの川崎Fは「4-2-3-1」。GK西部。DF田中裕、ジェシ、井川、登里。MF山本真、稲本、大島、中村憲、レナト。FW大久保。エースのFW大久保は32試合で26ゴールを挙げていて、J1の得点ランキングのトップに立っている。2位のFW川又(新潟)が22ゴールなので、初の得点王は「ほぼ確実」と言える。今シーズン限りで現役を引退することになったDF伊藤はラストマッチとなる。
対するアウェーの横浜FMは「4-2-3-1」。GK榎本哲。DF小林祐、栗原、中澤、ドゥトラ。MF中町、富澤、兵藤、中村俊、齋藤学。FWマルキーニョ。エースのFWマルキーニョスは31試合で16ゴールを挙げているが、24節以降、ゴールが生まれておらず、9試合ノーゴールとやや調子を落としている。「リーグMVPの最有力候補」と言えるMF中村俊は32試合に出場して10ゴールを挙げている。
■ 川崎FがACLの切符を獲得アウェーの横浜FMは勝つと2004年以来のリーグ制覇となる。一方の川崎Fは勝たないと「3位以内」に入ることはできない。したがって、ともに勝ち点「3」の必要な試合だったが、前半は緊張感のある重苦しいムードで試合が進んでいく。先に大きなチャンスを迎えたのは川崎Fで、前半20分に右サイドでFKを獲得すると、MFレナトが左足で狙ったがバー直撃。両チームともあまりチャンスを作れず0対0で終了する。
ハーフタイムには、「2位の広島が1対0でリードしている。」という情報と、「4位の浦和が1対2でリードされている。」という情報がスタジアムに流れた。ロッカールームに下がったとき、「引き分けではダメ。」ということを樋口監督から伝えられたのか、後半になると横浜FMが前に出てくるようになって、前半にはあまり感じられなかった「ゴールの匂い」が漂う展開となる。
そんな中、先制に成功したのは川崎Fで後半9分にカウンターからFW大久保が思い切ってミドルシュートを放つと、これがブレ球気味のシュートとなってGK榎本哲は前にはじいてしまう。こぼれ球にいち早く反応したのは川崎FのMF大島で、うまくボールを処理して中に折り返すと、フリーになっていたMFレナトが落ち着いて決めて川崎Fが先制ゴールを挙げる。MFレナトは今シーズン12ゴール目となった。
広島が勝利した場合、引き分けでは優勝することはできないので、横浜FMは2点が必要となったが、しかも、後半途中には「広島が2点目を挙げた。」という情報が入って来て、広島が勝ち点「3」を取り逃がすことを期待するのは難しい流れとなった。そのため、終盤は横浜FMが猛攻撃を仕掛けて何度か決定機を作ったが、川崎FのGK西部が立て続けにビッグセーブを見せてゴールを許さない。
結局、等々力の試合は1対0で川崎Fが勝利。カシマスタジアムで行われた試合は広島が勝利して、埼玉スタジアムで行われた試合はC大阪が勝利したので、大逆転で広島のリーグ連覇が決定。優勝まであと1勝に迫っていた横浜FMはまさかの連敗で2004年以来のリーグ制覇はならなかった。そして、3位の鹿島、4位の浦和がいずれも敗れたので、勝利した川崎Fが劇的な形で3位に滑り込んでACL出場権を獲得した。
■ まさかの連敗で・・・勝負事なので、望みどおりの結果を得ることが出来たチームと、望んだ結果が得られなかったチームが出てくるのは当たり前のことであるが、試合終了のホイッスルが鳴った後の(ACLの切符を勝ち獲った)川崎F側と喜び具合と、(久々のタイトルまであと1歩に迫りながら優勝を逃した)横浜FM側の落ち込み具合は対照的で、「たくさんの人の記憶に残ることは確実。」と言える最終節となった。
結局、横浜FMは「残り2試合となって、どちらかの試合で勝利すればOK」という圧倒的に有利な立場から、まさかの2連敗を喫して、33節で湘南(H)、34節で鹿島(A)に勝利した広島のリーグ連覇が決まった。横浜FMには35歳以上のベテランが何人もいて、「ラストチャンス」という思いでチームが団結してきたので、若手選手や中堅選手が中心となるチームよりも気持ちを切り替えるのは難しいだろう。
圧倒的に有利な状況になって、「自力で優勝を決めることができる。」というシチュエーションになったことが、横浜FMの選手にはプレッシャーとなった。33節が新潟(H)、34節川崎F(A)との試合だったので、勢いがあって、調子のいいチームとの試合が最後に残っていたことは不運だったが、ちょっと余裕が出てきて、余計なことも考えてしまう展開になった。これがマイナスに作用したと言える。
J1優勝は逃したが、2位という成績は立派なものである。ACLの出場権も獲得しているので、選手や監督やスタッフの頑張りは称えられるべきであり、あまりネガティブな雰囲気にはなって欲しく無いが、終盤戦の樋口監督の交代カードの切り方を批判する人は出てくるだろう。33節の新潟戦も、34節の川崎F戦も、後半に先制ゴールを奪われたが、その後、あまり効果的な手を打つことはできなかった。
「もっと早めに動くべきだったのでは?」という声もあるが、今シーズンの横浜FMは「スタメン組」と「それ以外の選手」の格差が大きくて、途中出場で効果的な働きができそうな選手は、FW藤田祥くらいである。この日は、GK六反、DFファビオ、DF奈良輪、MF小椋、MF端戸、MF佐藤優、FW藤田祥という7人がベンチに入っていたが、ビハインドのときに投入できる駒の手薄さは否めない。
「ジョーカーを用意できなかった。」という観点から批判されるのはある程度は仕方ないと思うが、そうは言っても、そういう選手は簡単に作れるものではない。来シーズンはACLに参戦するが、ジョーカーになれる選手というのは、補強ポイントの1つで、ベンチメンバーの顔触れを考えると、樋口監督のカードの切り方や選手交代のタイミングを批判することはどうかな?と思う。
■ 3位でACLの切符を確保一方の川崎Fは、劇的な形でACLの出場権を確保した。試合前の段階では5位だったので、「3位以内」に入るためには、広島と鹿島と浦和のうちの2チームを追い抜く必要があったが、3位の鹿島と4位の浦和が揃って敗れたので、ACLの出場権が転がって来た。目の前でライバルチームにリーグ優勝を決められる可能性があったが、これも阻止することができたので、川崎Fに携わる人にとっては最高の一日となった。
今シーズンは、序盤はなかなか勝ち点につながらなくて、風間監督の立場が危うくなった時期もあったが、FW大久保、MFレナト、MF中村憲のトライアングルは超・強力で、J1の中では、もっとも魅力的でエキサイティングなサッカーをしたチームの1つと言える。個人的には、こういうチームがいい成績を残して、ACLの切符を勝ち獲ったことは「Jリーグのこれから」を考えても良かったのではないかと思う。
川崎Fは伝統的にカウンターを得意としているが、先制点を奪って、選手の意識が前に傾いているときにチーム全体から発せられるエネルギーは、並外れたものがある。この試合も、後半9分にMFレナトのゴールで先制した後は、攻撃の局面だけでなく、守備の局面でも選手たちがアグレッシブになって、「2点目か!?」というシーンをいくつも作った。こういう展開になったときの川崎Fはなかなか止められない。
結局、4連勝でフィニッシュしたが、DFジェシの存在は大きかった。怪我があったり、家庭の事情でブラジルに帰国したり、欠場する試合も多くて、今シーズンも19試合の出場にとどまった。稼働率は低かったが、潰す能力が高くて、カバーリング能力が高くて、空中戦も強くて、パス出しもできて、CBに必要なあらゆる能力を高いレベルで備えている。32節の浦和戦(A)も凄かったが、この日も凄まじかった。
他には、MF稲本のプレーも輝いていた。元日本代表ボランチも34歳になって、フル出場は難しくなっている。後半15分あたりでベンチに下がる試合もあるが、この日は、最後まで全く動きが落ちなかった。DFジェシ、GK西部、MFレナトのプレーも見事だったが、MF稲本の貢献度も非常に高くて、この試合はMOM級の働きを見せて、「まだまだやれる。」というところを注目度の高い試合で示した。
3位になった川崎Fは2014年はACLに参戦することになるが、言うまでもなく、近年のJリーグ勢はACLの舞台であまりいい成績を残せていない。いろいろな要因が絡んできて、Jリーグのチームにとっては難しいステージになっているが、川崎Fというクラブは、比較的、ACLの経験が豊富なクラブである。魅力的でエキサイティングなサッカーがアジアの舞台でどこまで通用するのか、楽しみである。
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