(2) 採点方法をどう変更すべきか先に述べた問題点を解決するために、必要なことがあります。
それは、採点を少なくとも4つに分類することです。
具体的には、まず、
(2-1)「攻撃面」と「守備面」の2つに分ける
ことです。
これにより、
・攻撃面で活躍したが、守備面で問題があった選手
・守備面で活躍したが、攻撃面で問題があった選手
の区別がつくことになり、主に(1-2)で挙げた問題が解決されます。
次に、「攻撃面」と「守備面」のそれぞれについて、さらに
(2-2)「プラス点」と「マイナス点」の2つに分ける
ことです。
これにより、例えば攻撃面について
・沢山のチャンスを作ったが、一方で沢山のチャンスを外した選手
・あまりチャンスに絡まなかったがミスも少なかった選手
の区別がつくことになり、主に(1-3)で挙げた問題が解決されます。
最後に、数字の基準を変えることです。
どのように変えるべきかというと、(1-1)と(1-4)、(1-5)の問題を解決しようと考えると、
・より広い範囲の数字を用いること
・どの選手にも共通の数字を用いること
が必要です。
私は、「ゴールの確率」の変動を基準として用いることを提案します。
つまり、その選手のプレーによって得点の可能性と失点の可能性がどう変わったか、です。
(2-1)および(2-2)に照らし合わせて言えば、
・得点の可能性を何パーセント増やしたか(=「攻撃面」の「プラス点」)
・得点の可能性を何パーセント減らしたか(=「攻撃面」の「マイナス点」)
・失点の可能性を何パーセント減らしたか(=「守備面」の「プラス点」)
・失点の可能性を何パーセント増やしたか(=「守備面」の「マイナス点」)
の4つの数字で選手を評価しようということです。
(3) 実際に採点し直した結果新しい採点方法を用いて、(1)と同じ試合の採点をし直すと、以下の表のようになりました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
画像割愛。興味がある方は
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/k/katoken0602/20130904/20130904201352.jpg をご覧ください。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「プラス点」と「マイナス点」があるということは、「合計点」も出すことができます。
よって、ある選手の「攻撃面」の「合計点」を見れば、
・チームの得点のうち何点分がその選手の活躍によるものか
が分かります。
例えば、この試合の遠藤保仁選手は得点の可能性を 63.0% 増やしています。
つまり 0.63点 分のチャンスを作っていたということが言えるのです。
また、「攻撃面」の「合計点」の全選手合計にも注目してください。
得点の可能性の増減を合計したものなので、差し引きがゴール数(×100)に等しくなります。
この試合の日本代表は1得点でしたので、ちゃんと +100.0 になっています。
同様の理由で、「守備面」の「合計点」の全選手合計は 0 です。
この試合の日本代表は無失点だったためです。
「総合評価点」は、得失点差に対する貢献度を示します。
この試合の日本代表は1点差で勝利したので、+100.0 になっています。
最も「総合評価点」が高いのは、川島永嗣選手の +67.0 です。
1点差勝利のうち、0.67点 分の貢献をしていたということになります。
よって私は、川島永嗣選手をこの試合のMVPに推します。
(4) 選手間の比較「攻撃面」の「プラス点」を高い順に5人並べると、
+100.5 岡崎慎司選手
+ 63.0 遠藤保仁選手
+ 46.5 酒井宏樹選手
+ 45.0 長友佑都選手
+ 33.0 清武弘嗣選手
となります。
「攻撃面」の「マイナス点」を高い順に5人並べると、
- 63.5 ハーフナー・マイク選手
- 37.5 清武弘嗣選手
- 36.5 遠藤保仁選手
- 34.5 岡崎慎司選手
- 32.5 今野泰幸選手
となります。
「守備面」の「プラス点」を高い順に5人並べると、
+ 81.0 伊野波雅彦選手
+ 74.0 川島永嗣選手
+ 52.0 今野泰幸選手
+ 36.0 長友佑都選手
+ 27.0 酒井宏樹選手
となります。
「守備面」の「マイナス点」を高い順に5人並べると、
- 61.5 酒井宏樹選手
- 59.5 今野泰幸選手
- 51.5 細貝萌選手
- 42.0 長友佑都選手
- 41.0 岡崎慎司選手
となります。
このように、得点と失点それぞれの貢献度および責任度が一目瞭然になります。
また、例えば左右のサイドバックである長友佑都選手と酒井宏樹選手を比較して、
・攻撃面では同じくらいの貢献度
・守備面では「プラス点」と「マイナス点」合わせて 0.3点 分ほど長友佑都選手が良い
ということが分かります。
攻撃面で活躍した岡崎慎司選手と守備面で活躍した伊野波雅彦選手が、
最終的なチームに対する貢献度では同程度だったということも分かります。
出場時間70秒しかない高橋秀人選手についても、採点をすることが可能です。
(5) この採点を行うための要件と課題一方で、この採点を行うためには必要なことがあります。
(5-1) プレーバイプレーで採点すること
(5-2) 採点テーブルを作って用意すること
の2つです。
(5-1) については、採点基準からお分かりかと思いますが、
「得点または失点の可能性が変化したプレーは全て」
採点しなければなりません。
例えば、
・ドリブルで1人抜いてチャンスを広げた → 「攻撃面のプラス」
・スルーパスを通してシュートチャンスを作った → 「攻撃面のプラス」
・センタリングを上げて味方に届いた → 「攻撃面のプラス」
・シュートを外してゴールキックになった → 「攻撃面のマイナス」「守備面のマイナス」
・ファールしてフリーキックを与えた → 「守備面のマイナス」
・競り負けてボールを奪われた → 「攻撃面のマイナス」「守備面のマイナス」
・中盤でパスをカットされた → 「攻撃面のマイナス」「守備面のマイナス」
・相手のシュートをキャッチした → 「攻撃面のプラス」「守備面のプラス」
といったように、全てです。
よって、採点機会は非常に多くなります。
また、上記例のそれぞれについても、変化の程度によって評価の数字は変わります。
例えば
・ドリブルで1人抜いてチャンスを広げた
についても、
・中盤で1人抜いた
・センターバックを抜いてキーパーと1vs1になった
のどちらかによって「プラス点」は変わってくるのです。(当然、後者が大幅に高いです)
その数値の基準となるのが、(5-2)で述べた採点テーブルです。
これは、あるプレーによってどういう状況からどういう状況に変わったときに、
得点(または失点)の可能性がどれだけ変わるかを整理したものです。
例えば、一番分かりやすい例を挙げると、
・A選手がボールを奪ってドリブルでPKを獲得
・B選手がPKを決める
というプレーがあった場合に、
採点テーブルの「PKからのゴール確率=80%」から計算して、
A選手:ゴールの確率を 0% から 80% に向上(+80)
B選手:ゴールの確率を 80% から 100% に向上(+20)
という採点になるわけです。
(A選手には「守備面のプラス点」も付きますが、割愛)
正直なところ、(5-1)も(5-2)も最大の課題は時間です。
私は個人的に川崎フロンターレの選手の採点をやっています。
川崎フロンターレ採点簿
1試合の採点をすると、採点機会は約1000回で、大体10~12時間くらいかかります。
また、採点テーブルも1度作れば終わりというわけではありません。
随時見直して数字を改善するのにも時間がかかっています。
(6) さらなる可能性実はこの採点方法に変えるメリットは、代表チームではなくクラブチームのほうが大きいです。
なぜなら、シーズンを通じて数字を積み重ねられるからです。
例えば、川崎フロンターレは第2節から第23節までで47得点しています。
そして、大久保嘉人選手が18得点しています。
(※第1節を抜いているのは映像が無く採点できていないためです。)
では得点のうち 18÷48=37.5% が大久保嘉人選手のおかげなのか?と言うと、そうではありません。
なぜならアシストをしている選手もいるし、他の選手が獲得したPKも蹴っているからです。
私の採点では、大久保嘉人選手は第2節から第23節までで、
・「攻撃面」の「プラス点」の累計が +2075.5
・「攻撃面」の「マイナス点」が累計が -1162.0
ということで、約20.7点分のチャンスを作り、約11.6点分のチャンスを潰しているということです。
つまり、47得点に対する実質的な貢献は約9.1点分となります。
一方、例えば今季まだゴールのない稲本潤一選手ですが、
・「攻撃面」の「プラス点」の累計が +373.5
・「攻撃面」の「マイナス点」が累計が -214.0
ということで、実質的には47得点のうち約1.6点分の貢献をしていると言えるのです。
さて、こうして見ると、得点に対する各選手の実質的な貢献度が分かります。
もちろん「守備面」を見れば、失点に対する各選手の実質的な責任度も分かります。
これまで、シーズン通じての選手の評価は非常に難しいものでした。
攻撃的な選手であれば得点数やアシスト数で評価されてきましたが、ボランチより後ろの選手にとって厳しい指標です。
また、決定的なスルーパスを出したのにシュートを外してしまった場合、記録にはゴールもアシストも付きませんでした。(いわゆる「アシスト未遂」)
しかし、この採点方法であれば、パスを出した選手には大幅なプラスが付き、シュートを外してしまった場合には大幅なマイナスが付くので、公平な評価ができるのです。
(7) 最後にこのような新しい採点方法を用いようと思った最初のきっかけは、
「90分間必死にプレーした選手たちを、印象点だけで評価するのはどうなのか?」
とずっと感じていたことです。
また、専門誌などでシーズンを通じての平均評価が
「各試合の評価の合計÷出場試合数」
という簡単過ぎる数字で出されているのにも疑問がありました。
(90分出場して 5.0 の試合と10分だけ出場して 7.0 の試合があれば、平均が 6.0 に!)
評価というのは非常に重要で、正確な評価ができなければ物事は正しい方向には向かいません。
サッカーの場合は、
「どのようなプレーをすればチームがどれだけ勝利に近づくか」
を把握し、そういったプレーが本当に出来ているかをチェックすることが大切です。
それを継続的に行うことで、選手が正しいプレーを選択する能力が上がると考えられるからです。
例えば、「攻撃面」の「プラス点」が大きい選手はもてはやされる傾向にあります。
ただ、それ以上に「マイナス点」が大きかったらどうでしょうか。
より大事なことは、差し引きの「合計点」を大きくするためのプレーをすることです。
また、大ピンチを防いだ守備の選手は大喝采を受けますが、それも一概に良いとは言えません。
ピンチを招く前の段階でボールを奪い、敵のゴールの確率を0にして味方のゴールの確率を上げるプレーが賞賛されるべきです。
さらに言えば、同じクリアでも敵に渡ったか味方に渡ったかで状況は全く違います。
そういったプレーの集計、評価をしっかりやっていくことが大切です。
継続的にこれをやることができれば、
・選手の成長を数字で出す
・選手間で優劣を付ける
・チームに足りない要素や課題を明示する
(「攻撃面/守備面」「プラス点/マイナス点」のどれを増やす/減らすべきか)
ことができますし、もし全チーム・全選手でできれば、
・ある選手を獲得することによる得点/失点の増減の期待値を出す
といったことすら可能になるのではないでしょうか。
ただ、先ほども述べたように、これを続けるのはとにかく時間がかかります。
転職活動中で時間のある身ですが、個人では1チーム分をやるのが精一杯ですね。
…というわけで、D社様やO社様などがやってくれたら嬉しいなぁなどと思っております。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
(ライター紹介)【 ハンドル名 】:カトケン
【 年 代 】:30〜39歳
【 性 別 】:男性
【 地 域 】:関東
【 自己紹介文を150文字程度で記述してください。(省略可) 】:
サッカー未経験者ですが、素人なりにサッカー分析をしてブログを書いています。『
蹴球分析帳』、『
川崎フロンターレ採点簿』など。「Yahoo!スポーツ ファンサカ(旧ファンタジーサッカー)」で全国1位になったのを機に、サッカーのデータ分析にも力を注いでいます。
【 管理人にメッセージがあればお書きください。 (省略可) 】:
大変お世話になります。
いつもサイトの更新を楽しみにしております。
読みにくい文章で恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。
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