■ ギラヴァンツへ移籍J2で1年目となった2010年は、1勝23敗12分けで勝ち点「15」と断トツの最下位に終わったギラヴァンツ北九州であったが、2年目の2011年は、16勝12敗10分けで勝ち点「58」と大躍進を果たした。前年度と比べると、実に16倍の勝利数を挙げており、これは「ギネス記録なのではないか?」と思うが、見事なパスワークとチーム全員でハードワークする守備を両立し、J2に旋風を巻き起こした。
2012年がJ2で3年目のシーズンとなるが、今オフも、東京Vのキローラン兄弟や、横浜FMのFW端戸ら、能力の高そうな若手を獲得しているので、要注目のチームと言えるが、甲府からは、FW加部未蘭をレンタルで獲得した。ご存じのとおり、サッカーライターの加部究氏の息子で、ACミランが名前の由来になっている。「○○の息子」と形容されて、実力以上に注目を集める2世選手も多い中、FW加部未蘭は187センチの長身で体の幅もあるので、大型ストライカーとして期待されてきた選手で、「七光りの選手」ではない。
今年から北九州でプレーすることになったが、高校を卒業して甲府に入団したのは2011年シーズンなので、わずか1年でレンタル移籍となった。ただ、こういうケースは、最近、Jリーグでも増えてきており、FC東京のDF阿部巧は、ユースからトップチームに昇格して1年目の途中(2010年)で横浜FCにレンタル移籍しているし、今オフも、プロ1年目のシーズンを終えたばかりのC大阪のDF夛田とMF野口の二人が大分トリニータにレンタル移籍することが決定している。
レンタル移籍というと、日本ではネガティブなイメージも強いが、「期待されていないからレンタルで出される。」というよりは、「数年先のレギュラーとして期待しているからレンタルで出される。」という感じで、ポジティブなレンタル移籍の使われ方も増えてきている。「18歳でプロになると、数年間、出場機会に恵まれないケースが多い。」という点が、ずっと、日本サッカーの問題点の1つとされてきたが、Jリーグのチーム数が増えてきたことも影響して、以前と比べると、はるかに改善されてきているように感じる。
■ レンタル移籍となった経緯したがって、FW加部未蘭のケースも、それほど珍しいものではない。高卒1年目だった2011年はJ1で出場機会がなくて、まだ、必要不可欠な選手とはいえないので、甲府よりも規模の小さいクラブに移籍して、経験を積ませるという判断は、悪くない選択である。ただ、レンタル移籍となった経緯に、違和感を感じてしまう。
父親の加部究氏の最新のメルマガによると、
未蘭を甲府に置いてはいけないと考えるようになったのは、夏ごろからである。もちろんJ1を三浦俊也体制で臨むことが決まった時から、なかなか出番が回ってこないことはそれなりに予想が出来た。だが5月にトレーニングマッチで5試合連続ゴールを記録しても、ベンチに入らないどころか、紅白戦からも外され続ける年功序列の徹底ぶりを伝え聞き、さすがにこれではいけないと思うようになった。
http://mediavague.co.jp/kabe/2012/01/11/116/
という話がされている。父親の加部究氏が、いろいろと動いていたことが容易に想像できるが、「なんだがね・・。」という話である。
■ ポジション争いのライバル(1)2011年の甲府は、J1で16位となってJ2に降格することになったが、佐久間GMが選手をかき集めたこともあって、選手層の厚いチームだった。1トップと2トップを併用していたが、17ゴールを挙げて日本代表入りも果たしたFWハーフナー・マイクが絶対的なエースとして君臨し、10ゴールを挙げたFWパウリーニョも在籍していた。さらに、快足のFW松橋、ストライカーのFW阿部、ゲームを作ることのできるテクニシャンのFW片桐、(期待外れに終わったが)実績のあるFWダヴィ(※ 途中加入)と、タイプの異なるフォワード(あるいはサイドハーフ)が揃っており、高卒ルーキーが割って入る隙はなかったように思う。
当然、FW加部未蘭の場合、高さが持ち味の選手なので、最大のライバルはFWハーフナー・マイクとなるが、これは、どう考えても、分が悪い。187センチくらいの長身選手になると、パワープレー要因としてベンチに入るチャンスも出てくるが、甲府の場合、すでに194センチのFWハーフナー・マイクがいるので、もう1枚高さのある選手をベンチに入れる必要性もなくて、サイドハーフではプレーできないFW加部未蘭にチャンスが回ってこないのは、必然に思える。
しかしながら、父親の加部究氏は違った考えを持っていたようである。実際にトレーニングマッチを見ていないので、何とも言えないところもあるが、中でも、
「5月にトレーニングマッチで5試合連続ゴールを記録しても、ベンチに入らないどころか、紅白戦からも外され続ける年功序列の徹底ぶりを伝え聞き、さすがにこれではいけないと思うようになった。」という部分には、大きな違和感を感じてしまう。こう書いているということは、「ベンチ枠を争うライバル(松橋、阿部、片桐)よりも、FW加部未蘭の方が実力は上である。」という意見を持っているのだと想像できるが、身びいきし過ぎのようにも思える。「誰々よりもうちの子の方が上手いのに、なんで使わないの・・・。」という声は、小学生の大会では、よく聞こえてくるのかもしれないが、サッカーを観ることを職業としていう人が、こういう感じになってしまうのは、どうか?と思ってしまう。
■ ポジション争いのライバル(2)紆余曲折あって、レンタルという形で北九州に移籍することになったが、北九州は2011年に就任した三浦監督が、MF安田やMF木村といった埋もれていた才能を発掘して、中心選手まで育て上げた実績があるので、FW加部未蘭の才能も開花することが期待されるが、(甲府ほどではないとはいえ、)北九州にも強力なライバルが待っているので、そんなに簡単に出場機会を得ることはできないだろう。
2011年に2トップの一角でレギュラーをつかんだのはFW長野で、本職はフォワードではないが、ポストプレーや献身的なプレーに定評のある。さらに、控えにも、長身ストライカーのFW林がいる。2011年は、途中出場がほとんどだったが、9ゴールを挙げて得点ランキングでも12位タイとなっている。とりあえず、ベンチ入りを果たすには、同じ187センチのFW林が最大のライバルとなるだろうが、2011年に実績を残した選手なので、FW加部未蘭も大変だろう。
また、セカンドストライカーにも、エースのFW池元がいて、水戸で活躍したFW常盤と、横浜FMのFW端戸も加入してきた。三浦監督が、どういう選手起用をするかは分からないが、「ベンチ入りもできない。」という状況が続く可能性も低くはないだろう。
■ ガンバレ!!! 加部未蘭ということで、北九州の地で新しいチャレンジをすることになった。こういうタイプのフォワードは少ないので、本当に期待したい選手の一人であるが、これまでの流れを見ていると、周囲の人に足を引っ張られているようにも感じてしまう。父親がサッカー界にコネクションのある人なので、代理人のような感じになっているのかもしれないが、今の感じでは、FW加部未蘭のことを気の毒に思うし、本人のためになっていないと思う。
そもそもとして、FW加部未蘭は、即戦力として、1年目や2年目から出場機会を得て活躍するというタイプではない。早い時期に出場機会を得ることも大事だが、それ以上に、このタイプの大型フォワードは、じっくりと、大きく育てられて、有り余るポテンシャルを少しずつ試合で発揮できるようになっていくことが最善の道である。よって、今の段階で、焦り過ぎる必要は全くない。
確かに、「出場機会無い。」という状況は、プレーヤーにとって好ましくないことであるが、FW加部未蘭に出場機会が巡ってこなかった理由は、甲府の年功序列が原因でもないし、日本の育成に問題があるというわけでもない。むしろ、中途半端に起用して潰してしまったり、こじんまりした選手になってしまうことの方がまずいことであり、息子に対する父親の言動は、FW加部未蘭という選手を大きく育てようとすることと、逆行するように感じてならない。
今回は、レンタル移籍となるので、北九州のサポーターからは、ストレートに結果を求められることになるので、厳しい立場になるが、甲府から離れて九州に渡るというのは、干渉されにくくなるので、悪いことではないのかもしれない。本人に大きな落ち度はないが、気の毒な状況になってしまっているので、「ガンバレ!!! 加部未蘭」とエールを送りたいところである。
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