■ 新監督に呂比須氏?10年間チームを率いた西野監督との契約を更新せず、新しい監督を探していたG大阪は、元日本代表フォワードでブラジルのパウリスタで監督を務めている呂比須ワグナー氏を新監督に迎え入れることが濃厚になったと報じられている。呂比須ワグナー氏は2002年に現役を引退した後は、ブラジルで活動していたので、久々の日本復帰となる。
呂比須ワグナー氏というと、日本人になってすぐに代表入りを果たすと、1997年9月28日に行われたフランスW杯予選の3戦目の日韓戦でスタメンデビューした。1勝1分けの日本と、2連勝の韓国の直接対決は国立競技場で行われたが、過去に、この試合ほど、国立競技場が燃えた試合もなかったのでは?と思えるほど、ヒートアップした試合である。南アフリカW杯後、日本代表は人気を回復し、チケットもプラチナ化しているが、フランスW杯予選のときの雰囲気は尋常ではなく、この試合がピークだったように思う。
加茂監督は、エースのFW三浦知とパートナーを組むことができるストライカーを探していたが、FW城彰二やFW西澤明訓は経験不足で、FW中山雅史はしばらく代表から外れていた。したがって、1997年のはじめから「ロペス待望論」が巻き起こって、日本代表の救世主的な扱いを受けていたが、最終予選の初戦には間に合わなかった。しかしながら、予選の真っ只中の9月12日に日本国籍が認められると、わずか16日後の日韓戦でスタメンデビューを飾った。今では、ちょっと考えにくい展開だが、正確なポストプレーを武器に、日本代表の新たな戦力となった。この試合は、MF山口素弘の芸術的なループシュートで先制した後、加茂監督がFW呂比須に代えてDF秋田を投入したことが流れを悪くして、逆転負けにつながったといわれているが、FW呂比須はゴールこそならなかったが、及第点のデビュー戦となった。
■ アジア最終予選の救世主その後、加茂ジャパンは泥沼に入り込んで、引き分け地獄に突入するが、5試合目のウズベキスタン戦、6試合目のUAE戦は、いずれもFW呂比須がゴールを決めて、勝ち点「1」を獲得した。そのときは、韓国が順調に勝ち点「3」を積み上げていたので、「引き分けではダメ」という状況だったので、FW呂比須のゴールのクローズアップされなかったが、その後、2位を争っていたUAEが失速し、この2試合で勝ち点「1」ずつを得ていたことが効いてきた。7試合のアウェーの韓国戦でも、FW呂比須がダメ押しゴールを決めて「2対0」の勝利に貢献。大黒柱のFW三浦知が不調でゴールから遠ざかる中、FW呂比須がアジア最終予選の救世主となった。
「もしも」の話であるが、このとき、日本代表がフランスW杯行きを逃していたら、かなり確率でJリーグは消滅していたのではないか。今では考えにくいが、「Jリーグブーム」の反動もあって、マスコミの間では、「アンチ・サッカー」、「アンチ・Jリーグ」の風が吹いていて、観客動員数はブームの時から半減した。ブームのときに、安易に大物外国人選手の獲得に手を出し過ぎたことも響いて、どのクラブも経営に苦しんでいた。この状況で、W杯にも出場できないとなると、いくら2002年の自国でのW杯を控えているとはいえ、危機的な状況になったのは間違いなく、そういう意味でも、呂比須氏は日本サッカーの救世主といえる。代表でプレーしたのは、1997年、1998年、1999年の3シーズンだけで、20試合で5ゴールという成績であるが、功績は大きい。
■ 難しいチャレンジしたがって、そういう選手が日本に戻ってきて、身近なクラブで監督を務めるのでは?という話を聞くと、フランスW杯予選を体験したサポーターは、何とも言えない感傷的な気持ちになるだろうが、その一方で、複雑な気持ちもあるだろう。功労者なので、失敗してほしくない気持ちはあるが、今のG大阪の状況を考えると、新監督がフロントやサポーターを満足させられる結果を残すのは相当に難しいことで、厳しい挑戦になるだろう。もちろん、まだ、正式決定したわけではないので、全くの誤報である可能性もあるが、正式決定すれば、ずっと西野監督の戦績と比べられるのは確実で、大変なシチュエーションである。
改めて振り返ってみても、G大阪は、リーグ戦でも、ナビスコカップでも、天皇杯でも、何年もの間、コンスタントに上位に進出している。「リーグ戦は3位以内」、「ナビスコと天皇杯はベスト4以上」というのが「ノルマ」のような感じになっているが、西野監督は、毎年のように外国人を引き抜かれながら、なんとか終盤にチームをまとめて、結果を残してきた。主力も高齢化しており、同じような成績を、ほとんど指導者として実績の無い呂比須氏がクリアするのは、相当に難しいだろう。
そもそも、呂比須氏とG大阪は、特につながりはないので、名古屋のストイコビッチ監督、横浜FMの金良監督、浦和のペトロヴィッチ監督とも、状況は違っている。日本サッカーの功労者ではあるが、「呂比須ワグナー」という名前が、今の選手やサポーターに通じるのかも疑問で、もし、この話が本当ならば、何が決め手になったのか?なぜ、呂比須氏なのか?聞いてみたいところである。
■ ギャンブル色の強い人事よって、かなりのギャンブルだと思われるが、OBではないので、「失敗した場合でも、クビを斬りやすい。」というメリットはある。結果的に大成功したので問題にはならなかったが、名古屋のケースでは、もし、ストイコビッチ監督が十分な結果を残せなかったとしても、簡単に解任することはできないので、負のスパイラルに突入した可能性も少なからずあったと思う。したがって、しがらみが少ないのは、数少ない好材料といえるだろう。
その指導力に関しては、正直、全く分からないところである。現役時代のイメージは、紳士的で、言葉使いも丁寧で、穏やかな印象が強いが、果たして、選手に対して非情な決断ができるのか?という心配点はある。西野監督は個性の強い監督なので、選手やフロントと対立することも辞さない雰囲気があったが、呂比須氏には、そういった雰囲気は感じられない。どちらかというと「優しいイメージ」があるので、この点が指導者としてマイナスに働かないのか、懸念されるところである。
したがって、話を聞いたときは、「思い切ったことをするなぁ。」という印象を持ったが、元選手がいい監督になるのか、ならないかは、実際にチームを指揮しているところを観てみないと判断しにくいので、呂比須氏が名監督となる可能性も、それほど低くはないと思う。名選手が名監督になったケースも、名選手がダメ監督になったケースも、同じくらいあるので、一概にどうとは言えず、呂比須氏がどちらに転ぶかは、予想不可能である。「いったい、呂比須氏は、どういうチームを作るのだろう?」と興味は湧いてくるので、面白い人事だと思うが、G大阪にとって、最善の人事かというと、そうとは思えず、しばらく、その動向を見守りたいところである。
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