■ 1回目世の中にはたくさんの本がある。サッカー関連の本もたくさんある。特に、南アフリカW杯の前後には多くの本が出版された。ただ、本当に面白い本は?本当に読んでおきたい本は?といわれると、なかなか答えるのは難しい。ほとんどの場合、本を売りたいがために、脚色しているからである。その本の+のことしか言わずに、-のことは触れないでいる。世の中には「ためになる本」ばかりではない。人には無限に時間とお金があるわけではないので、「外れ」を引いてしまったときはさびしい気持ちになる。
ということで、実際にあまたある「サッカー本」を実際に読んでみて、率直な感想を書いてみたいと思う。出来るだけ「おべっか」は使わずに、ありのままを書きたいと思う。その方が、はるかに有益な情報と思うからである。
1回目は杉山茂樹氏の最新作である『日本サッカー現場検証 あの0トップを読み解く(じっぴコンパクト新書)』。2010年10月8日に出版された「ほやほや」の作品である。
内容紹介なぜ予想は外れたのか? なぜ4-6-0だったのか?
6月14日、カメルーン戦。ピッチには、岡田ジャパン過去46試合、一度も見たことのない布陣が描かれていた。「4-6-0」。FW登録ではない本田をセンターフォワードにおき、9番兼10番として機能させる形は、著者が1年以上前から提唱してきた布陣だった。「予想はなぜ外れたのか?」「日本は本当に大健闘したのか?」を徹底検証。さらに「メッシはなぜ活躍できなかったのか?」「ブラジルが勝てなかったワケは?」などを独自の視点で分析。サッカーファンが待ち望む、南アフリカワールドカップ後、初の書き下ろし最新作!(「BOOK」データベースより)
この本を要約すると、以下のようになる。
・岡田サン不支持だったのは僕だけではない。
・中村俊輔の弊害。
・本田の1トップは、僕しか言い出さなかった布陣。
・岡田サンには「僕の書いた原稿に感化されてしまったのですか?」と訊ねたくなる。
・日本のSB(駒野、長友)の問題点について。
・今大会のスペインはダメ。ブラジルもダメ。よかったのはチリと韓国。
① 謝罪「まえがき」は、いきなり、杉山氏の謝罪から始まる。「見事なはずしっぷりとはこのことだ。予想は完全に外れた・・・・」と書かれていて、
『お見それしました、岡田様』
『大変申しわけございませんでした、岡田様』
『とんだ失礼を申し上げました、岡田様』
『見込み違いをお許しください、岡田様』
とある。杉山氏は大会前に、「もし日本が決勝トーナメントに進出したとしたら、岡田監督にお詫びのコラムを書く。」と言ったそうだ。最新作で、この言葉を実行したことになるが、どうもすっきりしない。
謝る気がないのであれば、むしろ、突っぱねた方が良かったのではないだろうか?もしくは、「謝罪すること」を前面に押し出して、潔く、全面的に謝罪した方が、本としては面白くなったような気がする。中途半端に謝罪しているところに、何とも言えない「かっこ悪さ」を感じてしまう。
② 本田の0トップ1トップだったのか?3トップだっかのか?0トップだったのか?どういう見方もできるが、いずれにしても本田圭佑を最前線に置く布陣がW杯での成功につながった点は否定できない。
「得点力がある」、「体も強い」、「しかし、MF中村俊とポジションが重なる」という本田圭佑をトップで起用するアイディアというのは、巷でもなかったわけではないが、非常に少数で「失笑されながらも本田0トップを主張した」という杉山氏に対しては、『お見それしました、杉山様』というほかない。大会前、公の場で「本田のフォワード起用」を主張するのは難しい空気だった。
この点は見事だった。しかしながら、文中で、杉山氏は、「どこで岡田サンは本田圭佑のトップ起用を思いついたのか?『僕の書いた原稿に感化されたのですか?』」と書いている。目を疑ったがジョークなのだろう?面白くないジョークで、ちょっと分かりにくいが、単に滑っただけでジョークだと思いたい。
ちなみに、杉山氏が提唱したというフォーメーションは「3-3-3-1」で、GK楢崎。DF闘莉王、松田、中澤。DMF内田、今野、中村俊。OMF森本、遠藤、玉田。FW本田という布陣だったそうだ。失笑されたのは、(本田1トップではなく、)それ以外の部分だったと思うが、これ以上は触れない。
③ サイド重視とサイドバック「4-2-3-1」という著書から考えても、氏が「サイド攻撃」を重視していることは明らかである。したがって、その趣向に合わないオランダやブラジルを低評価していることは、十分に納得できる。
本大会で日本の両サイドからの攻撃がうまく機能しなかったのも事実である。このあたりの主張は、過去から杉山氏が唱えてきたことであり、目新しさはないし、間違いというわけでもない。CLの決勝戦を現地で観戦するなど、欧州サッカーを生で見て伝えるという役割は、杉山氏の得意分野である。このあたりの能力をもっと生かしきれたら・・・と思うが。
■ 終わりに大会後、予想を外した杉山氏や金子氏を批判する声は大きい。この本も、アマゾン等のレビューを見ると、散々な評価を受けているが、「思っていたよりは悪くはない。」というのが第一印象である。ハードルが低かったという点もあるが、氏の主張に共感できる部分もある。アルゼンチンの評価や、本田に関する記述等々。
個人的には、杉山氏については、気の毒に思う部分もある。2010年に入ってからの岡田ジャパンは不出来な試合が続いており、サポーターからの支持も低かった。「不支持だったのはボクだけではない。」という気持ちも理解できなくもない。批判していたのは、当時、杉山氏だけではない。ただ、明らかに、度が過ぎていた。
仮定の話になるが、もし、岡田ジャパンが、事前の予想通りに「3戦全敗」に終わっていたとしたら、ここぞとばかりに日本代表と岡田ジャパンとJリーグを叩いていただろう。(何を隠そう、僕は早い時期から岡田サンではダメだと書いてきた。」(「自慢するわけではないけれども)という感じで・・・。)
したがって、一部からのバッシングは気の毒にも思うが、もし、日本代表が、その「予想通りの結果」に終わっていたら、杉山氏の評価は向上していただろうし、本も売れて、仕事も舞い込んできて、ウハウハだったと想像できる。「リターンを得るために、リスクを冒して批判の急先鋒に立って、あえなく撃沈した。」という風に取れる。
「ハイリスク・ハイリターン」。これは、まさしく、普段から杉山氏が唱えていた「攻撃的サッカー」のマインドである。これまでは、杉山氏に対して、あまりいい感情を持っていなかったが、今回の岡田ジャパンを通して見せた「攻撃的な姿勢=特攻精神」は、そんなに嫌いではない。
リアル・おススメ度 ★★★★☆☆☆☆☆☆ (10段階で4)
こんな人におススメ ・南アフリカ大会を簡単に振り返りたい人。
・どちらかというと韓国が好きな人。
・<4-2-3-1>等、杉山氏の作品を愛読している人。
・日本代表や岡田ジャパンのことがあまり好きではない人。
・「ホントかよ、スギヤマ」、「馬鹿いってんじゃないよ、お前」と、突っ込みたい人。
こんな人にはおススメ出来ない ・パラグアイ戦で日本代表チームに感動した人。
・世界のサッカーを深く追求したい人。
・スペイン代表が好きな人。
・心に余裕のない人。
・お金に余裕のない人。
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