■ 欧州との違い欧州のトップリーグとJリーグの違いの1つとして、Jリーグは大学サッカー出身の選手が非常に多い点が挙げられる。インテルに所属するDF長友が明治大学からFC東京に進んで、チェゼーナ、インテルとステップアップしていったことがよく知られているが、キリンカップに選ばれている日本代表で見ても、新潟のGK東口順昭、鹿島のDF伊野波雅彦、川崎FのMF柴崎晃誠の3人が大学を経由してプロに進んだ選手である。
今回の代表から外れている選手でも、川崎FのMF中村憲剛、鹿島のDF岩政大樹、鹿島のMF本田拓也、名古屋のMF藤本淳吾らが大卒選手であり、一大勢力になっている。
Jリーグが生まれる前は、高校から大学に進むのが一般的だったが、Jリーグが誕生してからは、有力な高校生はほとんど、直接プロに進んむようになった。そのため、大学サッカーが廃れた時期もあったが、ここにきて、完全に復活してきた。流通経済大学などはプロも顔負けの選手層を誇り、毎年、即戦力となる選手をプロに送り込んでいる。
■ 大学からプロへ最新のU-22日本代表にも、流通経済大学から、MF山村和也、DF比嘉祐介、GK増田卓也の3人が選ばれた。プロ選手と比べると、大学生の方が代表合宿等に招集しやすいという事情も絡んできて、U-19日本代表、U-21日本代表などは、毎回、大学生がスタメンに名を連ねているが、プロ選手と比べても、遜色のないプレーを見せている。
この現象については、様々な意見がある。「欧州では考えられない。」として、否定する向きもあるが、欧州の大学と、日本の大学では、かなり事情は異なる。「欧州スタンダードではないからダメ。」というのも、ちょっと違うような気はする。
「クラブのユースからプロに入る」というルートしかないよりも、いろいろなルートがあった方が、多彩な選手が生まれやすい。高校からプロに進めなかった選手が巻き返して、代表まで上り詰めることのできる環境が大学に備わっているということは、日本サッカーの財産であり、誇れる部分でもある。
■ マー君世代今年のJリーグにも、大学から、たくさんの有望選手が入ってきた。今シーズンは、震災の影響で、開幕戦の後、1ヶ月以上の中断期間があったため、新加入選手が監督にアピールする時間も長かったためか、中断期間にポジションを掴んだ選手も多くいて、例年以上に活躍が目立つ。
今年、大学からプロに進んだ選手は、プロ野球で言うと「マー君世代」に当たる。プロ野球でも、この学年は人材で、楽天の田中将大、巨人の坂本勇人、巨人の澤村拓一 広島の前田健太、西武の大石達也らがおり、人材が豊富であるが、サッカー界も負けず劣らずで、将来を嘱望されている選手が多い。
大学に進学せずに、プロに進んだ選手を見ても、カターニャのFW森本貴幸、ドルトムントのMF香川真司、VVVのDF吉田麻也がいて、さらに、名古屋のFW金崎夢生、C大阪のMF乾貴士、FC東京のGK権田修一、ジュビロ磐田のFW山崎亮平らも同学年となる。
■ 期待通りの活躍を見せる選手今年の大卒ルーキーの中で、プロ入り前に、もっとも注目を集めたのは福岡大学のFW永井謙佑である。昨年11月に行われたアジア大会で得点王に輝き、日本の金メダル獲得に貢献。進路も注目されていたが、名古屋グランパスに入団が決定した。ACLで2ゴールを挙げるなど、ロンドン五輪を目指すU-22日本代表のエースストライカーとしても期待されている。ただ、これまでの活躍で判断すると、№1大卒ルーキーは、ジュビロ磐田のMF山田、MF小林、湘南ベルマーレのMF永木の3人のいずれかになるだろう。
明治大学からジュビロ磐田に加入したMF山田大記はすでに2ゴールをマーク。元オランダ代表のMFファネンブルク、元日本代表のMF藤田俊哉らが付けたジュビロの10番を受け継いだが、期待以上の活躍を見せている。第12節のアビスパ福岡戦では、福岡に移籍したMF成岡との「新旧10番対決」が注目されたが、多くのチャンスに絡んで4対1の勝利に貢献。攻撃的MFの選手であるが、近年、量産されているアタッカータイプとは少し違うタイプのようである。
そのMF山田に優るとも劣らないのが、チームメイトのMF小林裕紀。同じく明治大学出身のルーキーであるが、攻守ともに能力が高く、オールラウンドな活躍を見せて、ボランチのポジションをつかんでいる。ここまでの8試合はすべて先発フル出場。チームを支えている。
J2では、湘南ベルマーレのMF永木亮太の活躍が光っている。湘南はここまで4勝1敗3分けとまずまずの成績を残しているが、MF永木はすべて先発出場。ボランチの位置からゲームを作るとともに、積極的にゴール前に飛び出していってゴールにも絡んでいる。特別指定選手として、中央大学4年生だった昨シーズンも湘南でプレーし、11試合に出場しているが、正式にプロになって、一段、レベルアップしたプレーを見せている。
■ 大卒中心のクラブ近年、大学生は、出場機会が得やすいという理由で、J2クラブを選択することが多くなってきているが、大卒選手を積極的に獲得してチームを強化してきた代表といえるのが、水戸ホーリーホックとFC岐阜である。
水戸は、今シーズンも、積極的に大卒ルーキーを獲得しているが、DF塩谷司、MF小幡純平、FW岡本達也の3人がいきなりレギュラーポジションをつかんでいる。注目は、順天堂大学出身のFW岡本達也で、ここまで8試合で2ゴール。フォワードの軸として起用されている。
FC岐阜では、早稲田大学出身のDF野田明弘が右サイドバックでポジションをつかんでいる。この2チームは、大卒出身の選手が多く、年齢の近い選手が多いので、チームとしての経験は不足しているが、大卒ルーキーも溶け込みやすい環境が整っている。下部組織は、まだ充実しておらず、当面は、大卒出身でチームを作っていくと思われるが、これまでのリーグにはあまり見られなかったチームつくりの方法であり、その成果が注目されるところである。
■ 出場機会を得ている選手昨シーズンはわずかに1勝に終わった北九州は、三浦泰年監督を迎えて新しいスタートを切ったが、ここまで、今シーズン4勝3敗1分けで、8位と誰も予想もしなかった快進撃を見せている。その中で、鹿屋体大学出身のDF多田高行の活躍が光っている。
滝川第二高等学校では名古屋のFW金崎夢生と同期で、2006年の高円宮杯全日本ユース選手権決勝戦を制した優勝メンバーの一人であるが、左サイドバックで高い攻撃力を見せていて、1年目ながらキープレーヤーになっている。同じポジションには、DF冨士祐樹という能力の高い選手がいるが、開幕から7試合連続でスタメン出場を果たした。
同じ左サイドバックでは、愛媛FCのDF前野貴徳もポジションを確保している。こちらも攻撃力のある左利きのサイドバックで、ドリブルで突破する力もある。バルバリッチ監督の下で、どれだけ伸びていくだろうか。同じ愛媛FCでは、FW小笠原侑生も出場機会を得ており、チャンスに絡んでいる。早い時期の初ゴールが期待されるところである。
サガン鳥栖に加入したFW野田隆之介も面白い存在で、183㎝の高さとポストプレーが持ち味である。第14節の水戸戦でプロ初ゴールを記録したが、ここまでスタメンで5試合、途中出場で3試合と全試合に出場している。J1では、ガンバ大阪のFW川西翔太、DF金正也、DF藤春廣輝の3人がトップチームデビューを飾っている。ともに、どちらかというと層の薄いポジションの選手で、早い時期に戦力となることが期待される。
■ 将来性のある選手当然、大卒選手となると、即戦力となることを期待されるが、近年は、大卒といえども、ポテンシャルを重視した人材確保も多くなっている。
高卒の時点では「完成」しておらず、大学の4年間で才能が開花した例としては、名古屋のFW永井の名前が挙げられるが、大学の4年間でも、まだ十分に才能を開花させられなかった選手を、プロの世界で経験を積ませながら、チームの戦力となるように育成していくパターンである。
近年、この方針で、もっとも成功してきたのがFC岐阜である。数年前から、FW佐藤洸、FW西川、MF染矢、MF永芳ら荒削りでポテンシャルの高そうな選手を積極的に獲得してきて、彼らを我慢して試合で使い続けることで、一定の成果を得てきた。
そのパターンでいうと、ジュビロ磐田のFW金園英学、セレッソ大阪のMF村田和哉の名前が挙がってくる。もちろん、前述のFC岐阜の4人と比べると、ずっとプレーは洗練されているが、ともに、現時点では、プロのレギュラーとしては不足しているものが多いが、出場機会を得て、優れた身体能力を生かせるようになると、上のステージでも十分に活躍できるようになるだろう。FW金園はすでに途中出場で2ゴールをマーク。MF村田もACLでデビューを果たしている。スピード溢れるサイドアタッカーで、途中出場でも威力を発揮しそうな選手である。
■ 韓国の大学出身のルーキー最後は、韓国出身のプレーヤーである。八百長問題に揺れていて、存亡の危機にあるKリーグを選ばずに、Jリーグを選択する選手が非常に多くなっている。
今シーズンは、アビスパ福岡でプレーする左サイドバックのDFキム・ミンジェの活躍が目立っているが、コンサドーレ札幌のGK李昊乗、京都サンガのMFチャン・ウヨン、ガイナーレ鳥取のMF金善ら光るプレーを見せている。厳密にいうと、GK李昊乗、MFチャン・ウヨン、MF金善といった選手は、大学を卒業する前の在学中に来日しているので、「マー君世代」ではないが、大学経由でJリーグに加入した今シーズンのルーキーである。
新潟のMF曹永哲、C大阪のGKキム・ジンヒョンらが成功したことで、今後、ますまず、韓国の高校や大学からJリーグを目指す選手が増えていくと思われる。かつては、韓国人というプライドが高くて、使いにくくて、コストパフォーマンスのよくない選手が多かったが、若い選手は適応力の高くて、Jリーグでも活躍する選手が増えてきている。
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